第13話 動き出した……凍結したハズの過去
「すみません……悪気はなかったんです」
「……まあ、あそこまでしないと気付いてなかったっていうのには、素直に驚いてるよ」
俺は鷹宮家、もとい陽愛の家の玄関で、陽愛に謝っていた。全身全霊で。
壁に寄り掛かって歩いてきた陽愛は、ご立腹だ。
そりゃ、事故とはいえ、スカートの中見ちゃったしな……。これは終わっている。
「正直、事故というか事件だよね」
「マジですいません……」
うわ……裁判になるのか……。
俺の負け確定だ。
そこで、陽愛はため息をついてから、はにかんだ。
「親切心からの事故だしね。特別に許そう」
正直、友達として大丈夫なのかと不安だったが、その一言で救われた。
「ありがとうございます!」
そんなやり取りの後、俺は自転車で自宅に帰った。
◇
晩飯のエビフライを揚げながら、明日が土曜日で休みだと思い出した。
特にやることもないし……一日寝てるか、とか、若者として末期的なことを思っていた。
晩飯を、青奈と無言で食べながら考える。宿題もある訳ではないし……外出自体めんどくさい。
どうしよう……暇過ぎる。
晩飯を食い終わり、自室に行き、ベッドに横になる。
そう言えば……中学とかは学校が嫌で嫌でしょうがなかったのに、休みは休みで何すればいいかわからなかったな……。
進歩してないな、俺。
そんなことをぼんやりと考えていると……携帯電話が鳴った。メールだ。
メールを送ってくる奴なんて限られている。
さて……誰からだ……?
登録されていないアドレスからだ。迷惑メールかなんかかな。
一応開いて確認。
『三年前の魔装法暴乱事件について、話したいことがあります』
◇
気付けば俺は、メールにあった場所に来ていた。
家の近くの川原である。
どうやって家を出て、ここまで来たのか憶えていない。ただ、感情に流されてここまで来ていた。
「何……やってんだ、俺……」
外の空気で頭を冷やし、家に帰ろうとする。
そりゃそうだ。あんな意味不明なメールに従ってるなんて、馬鹿みたいじゃないか。
そう思った時……暗がりから一人の男が現れた。白衣を着ている。
「やあ、白城くん。メールは見てくれたんだね」
こいつが、メールを送ってきた奴か。
そんな冷静なことを思っていたのはいつのことか……俺はパラを抜きざまに発砲し、撃ち続けながら男に走り寄った。
男は何かをして、俺の銃弾を全て防ぐ。
構わない。
今度はナイフを抜き、振り下ろす。しかし、その左手首を掴まれ、寸前で止められる。
間近で見ると、男は四十歳はいっているだろう。眼鏡をかけている。
「落ち着きたまえ白城くん。どうせ君は僕に勝てない。話を聞いてくれ」
残弾のないパラを、ナイフを掴んでいない方の手で鷲掴みにしている。
それでも俺は、ナイフを持つ左手に力を入れようとする。
「ふざ、けるなッ!! 三年前、俺たちが知ろうとした時に、それを教えなかったのはお前たちだろう!! 今更になって、なんで現れた!!」
こいつは……おそらく研究者だ。
魔装法研究者だ。
「君たちが知るには早すぎたんだ……それでも、既に知ってしまったんだろう?」
そうだ。父さんは俺に、隠せなかった。隠さなかった。
けれど……こいつらは!!
「お前たちは何をした!! 俺だけじゃない……青奈さえ、お前たちは使おうとしたんだ!!」
激昂しながら、俺は無理やり右手を引き抜き、パラの弾倉を片手で入れ替えた。ホルスターにあらかじめ予備弾倉を刺しておいたのだ。
そのまま至近距離で発砲する。
風魔法を使った小台風を、俺と白衣の男との間で発生させる。
またも銃弾は防がれたが、小台風は効力を発揮している。
この距離では俺もただでは済まない。けれど……構わない。相手だって平然としてはいられないだろう。
そんな俺の捨て身の攻撃に反応した白衣の男は、ナイフを握る俺の左腕を離し、後ろに飛び退った。
「危ないな……」
俺も少しは冷静になっていたので、一旦後ろに退く。
「お前……三年前のプロジェクトチームにいた奴か」
新たな予備弾倉をホルスターに刺しながら、俺は問いかけた。
「不死鳥プロジェクトだね。いたよ、確かに」
その名を聞くだけで吐き気がした。
なんで……こいつは俺に接触を図ってきたんだ?
そのプロジェクトは消えた。実験などはできない。既にその件は無駄になり、俺たちは解放されたハズなのだ。
それを……こいつは……なぜ……?
「答えろッ!! なぜだ! 今更俺と接触してきた理由はなんだ!!」
ナイフをしまい、パラの一発一発に集中して魔法をかける。
出し惜しみしているハズの雷魔法も使い、徹底的に白衣の男を追い詰めようとする。
しかし……何をしたのか……。
俺の魔法をもろともしない。雷も風も、白衣の男の周りの地面を抉り、川の水を弾き飛ばす。
「勝てないって言ったろう? ま、僕も負けないだけで、勝てないけどね」
意味ありげなことを言うと、白衣の男は俺に背を向けた。
「ま、待てッ!! 何が目的だった……!? 三年前の事件については、終わったことだろうが!!」
精神力も疲労し、それでも俺は叫ぶと、白衣の男は俺に背を向けたままで答えた。
「確認、さ。やはり、君の不死の魔法は消えないようだ。しかし……それは死なないだけさ。君は使いきれてない」
そう言うと、白衣の男は闇に消えた。
ガックリと膝をついた俺は、その場から数分間、動くことができなかった。
◇
帰宅すると、青奈がソファーで横になったまま、寝てしまっていた。
そっと、眠る青奈の髪を撫でる。俺と同じく、黒と茶が混じったその髪は、手入れをほとんどしてないにしてはサラサラしていた。
青奈は、おしゃれなどにはあまり興味がない。髪の手入れも必要最低限だ。
もうは二十時になるので、風呂を沸かした。そして、青奈を起こして風呂に入らせる。
俺は、自室でベットに仰向けになって考えていた。
こんなことが、つい最近にあった気がする……。
そうだ……生徒会室でだ。輝月先輩に、三年前の魔装法暴乱事件について憶えているかと聞かれた時だ。
あの時は特に派手な争いにはなってないが……俺が銃を抜いてしまったんだ。
嫌だ。
あの時の話は、家族とさえしたくはない。
ずっと胸に閉じ込め、忘れるまで憶えていなければいけない。
そして……俺が忘れることは絶対にないんだ。ある訳がないんだ。
あの日……三年前のあの日、俺は、俺たちは、大きな犠牲を払ったのだ。




