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第137話 聖なる魔装戦~覚醒と対峙――Arousal of Phoenix

 

『覚醒か……』

「なっ……」

 頭に響く声に、俺は眉をしかめた。

『久しぶり……と言うのもおかしいな。白城黒葉よ』

 その声に……俺はハッとする。

「お前、不死鳥か?」

 俺の身体、と言うよりは、精神に存在するもう一人の俺……とでも、言うべきか。

 それが、不死鳥。

『その通りだ。お前の、第二覚醒がきたようだから、我も出てこられた』

「……後にしろ。見て分かんねえか。お前の後釜だとさ」

 頭の奥から、声だけが響いてくる。

 笑ってるのか? こいつ。ぶん殴るぞ。

『ああ……吸血鬼、というやつか。なるほど……あちらは既に、第二覚醒状態か』

「あのさあ……さっきから覚醒とか言ってるけど、俺は別に何もしてないよ?」

『覚悟を決めたろう?』

 俺は首を傾げる吸血鬼を前に、はあ、とため息を吐いた。

 パラを持つ右手に、僅かに力を込める。

「勝てるのか? 俺は」

『どうだろうな。我らとあちらでは、第一覚醒の方法も違うからな』

 再び、深くため息を吐いて、俺は少し力を脱く。

 数歩下がって、吸血鬼からは距離を取った。これで、対話ぐらいはしてやろう。

「手短に教えろ。その……覚醒って、なんだ?」

 ニヤッとする不死鳥(あいつ)が目に浮かぶ……って、あいつの姿は、俺自身だったな。殴るのも嫌になるじゃねえか。

『どうやら、交神魔法などと呼ばれている我らと、お前たちのような人間との関係だ。今までのお前と我は、第一覚醒状態だった』

 静かに聞きながらも、俺は吸血鬼を睨みつけて牽制する。

『特性のみの共通……それが、第一覚醒。お前の不死身、巡る命の炎が、それだ』

「つまり……俺は今まで、お前の不死身のみを宿した状態ってことか。吸血鬼で言うと……吸血性、治癒性ってとこか?」

 そんなところだ、と不死鳥が応えてきた。

『何をブツブツ喋っているんだい? もしや、怖じ気ずいたか?』

「待ってろ、今ぶっ倒す」

 吸血鬼が呆れ顔で挑発してきたので、短く返して黙らせる。

 とは言え……あまり時間を掛けてはいられない。

 月音の身体が心配だしな……。

『そして、第二覚醒は……特技の共通だ』

「……ハハッ……なんとなく分かったわ――もう、大丈夫だ」

 俺はパラを握り締め、銃口を吸血鬼に向けた。

「再開だ!」

 

 ◆

 

 目の前の光景に、四人は愕然としていた。

「そんな……馬鹿な……」

 悠の呟きは、虚しく風に吹かれ、誰にも届かない。

「ああ、遅かったですね。江崎さん」

「夜長三さん……だね」

 倒れ伏す魔装生連合を見回し、星楽は首を竦めた。

「そうだけども? 今更、何をしに来たの? 既に、妹と白城の戦いは始まった」

 その言葉に、陽愛がハッとして試合場を見る。

 しかし……そこには、闇が広がり、真っ暗になっていた。

「月音が、中途半端だった第二覚醒を、完全とした。さっきまでの闇とは、位が違う」

 驚く三人と星楽の間に、栄生がスッと立った。

「星楽さん……今すぐ、止めて下さい」

「お姉ちゃん、とは呼ばないか……別に構わないけどね。そして、止めることは出来ない」

 冷静だった栄生の表情に、怒りがチラついた。

「なぜ……ここまで多くの人を巻き込んで、何がしたいんですか!?」

 その様子に、星楽はため息を吐いて、手すりに座った。

「なぜ? 私の本当の妹なのに、似たのは魔装力だけか……つまらないな」

「……許しません……小鈴まで、利用して……!」

 栄生が素早く、拳銃を抜く――

 と、同時に、発砲音が鳴り響き、栄生の拳銃が弾き飛ばされた。

 星楽が、手すりに座った状態のまま、拳銃を抜き撃ちしたのだ。右腕以外、少しも動いていない。

「弱いな……栄生。そんなんで、守れるのかね?」

 悔しげに呻いた栄生に、星楽が無表情で問いかける。

「そこの男子生徒は……まあ、そこそこ強いらしいけど、お前はどうなんだ? 小鈴は自分が守ります、って、預かりに来た私に大口叩いて」

「っ……わたしは……!」

「想いだけでじゃ、強くなれないんだ」

 栄生の肩を狙って、引き金が引かれた。

 ピィィィィィィィィン!

 金属が擦れ合う音と共に、栄生の肩を狙った銃弾が逸れていく。

「……ふざけないでよ……想いがなきゃ、戦えないでしょ」

「それについては、同感ですね」

 壱弦と蓮碼が立ち上がって、銃弾を弾いたのだ。

 それを見て、星楽はゆっくりと手すりから降りた。

「まだ立てたんだ。でも、勇気と意地じゃ、全然違うんだよ」

「分かってんだよ、んなことは!」

 星楽がしゃがんだその上を、鎖牙が通過していく。

「さて、と……更に増えたな。品沼は強いぞ? もう、諦めたらどうだい?」

 鋭間と王牙が、同時に星楽を睨みつける。

 周りを見渡して、星楽は短くため息を吐いた。

「……栄生、どうだった? 今、通路を歩いてきて……何か、見かけなかったか?」

「え……?」

 魔装生連合の四人が、ハッとして扉を見る。

「仲間があれだけだと思ったのかよ、みなさん。とっくに、石垣さんたちは逃げ出しちゃったさ」

 王牙が舌打ちをして、倒れている栢を見た。

「お前、まだ後悔してんのかよ。仲間思いが強すぎだろうが」

 そんな様子に、蓮碼が笑ってしまう。

「それが、不舞ちゃんのいいところですしね――さあ、立ちましょう」

 そっと、栢に手を差し伸べる。

 星楽が静かにため息を吐いて、左手で小型爆弾を取り出した。

「悪いけどさ。友情劇を見てるほど暇じゃなくて」

 栢に向かって投げられた爆弾が……大きな炎を吹き散らし、一帯を包み込む。

 悠が陽愛と栄生の前に立ち、爆風の盾になる。登吾は目を細め、白衣をなびかせて耐えた。

「……!」

 星楽が微妙に眉を上げた。

 栢の前に、ボロボロの四人が立っている。その身体は、今の爆撃で更に傷だらけとなっていた。

「ガッ……――なんか、俺らしくねえなあ……」

「何言ってんの……動けない身体を無理やり動かしたんでしょ……その無茶が、あんたらしいわよ……」

 王牙の言葉に、壱弦が笑って返した。

「すみません……正直、試合で精神力は使ってしまいまして……影魔法、無理でした……」

「いいんだよ、別に……戦えない奴がいたら、守ってやんのが……第三(おれたち)、だろ?」

 蓮碼の落ち込んだ声に、鋭間が元気づけるように言う。

 そんな一同を見て、星楽は呆れたように首を振った。

「はあ……分かんないな……そういうの」

 倒れる四人を見て、悠が前に出た。表情には、不安が見て取れる。

 一人で魔装生連合を圧倒した人物に、勝てると思っていないのだ。

 

「――いや、君は戦わなくていい」

 

 その声に、登吾が目を見開いて振り返る。

 いつの間にか……扉の前に、一人の男が立っていた。

「遅くなりました」

 男は登吾を見て会釈し、それだけ言った。

「……充分だ。ここは任せようか?」

「ええ、それで大丈夫です。ただ……そこの女の子が、試合場に行くのは止めてもらっていいですか?」

 男が視線を示したのは、陽愛だ。試合場と観客席を隔てる、一番低い手すりの場所にいる。

 驚いた顔で、陽愛が男を見た。

 登吾は小さくため息を吐いて、陽愛の腕を掴む。

「今は、白城くんを信じよう。避難するんだ」

 陽愛は戸惑いの表情を浮かべたが……試合場を覆う闇を見て、小さく頷いた。

 次に登吾は、呆然としている栄生の腕を掴んで扉の方へと歩く。

「君は……品沼くん、だったね。あそこで気絶してる、輝月たちを運んでくれ」

 男は、悠を見て指示する。

 悠は躊躇いがちに頷き、鋭間たちの所へ駆け寄った。

「ごめんなさい……私も、手伝うの」

「……!」

 栢が、壱弦と蓮碼に肩を貸し、立ち上がる。 

 少し驚きながらも……悠は安堵の表情で、鋭間と王牙を蔦で自分の身体に結びつけた。

「何もしないんですね。星楽さんは」

 男が、平然と星楽に話しかける。

「……下手に動いたら、あなたにやられるでしょうからね」

 悠と栢は、慎重に四人を運び出す。

 登吾に引っ張られ通路へと戻る前に、陽愛が慌てて男に喋りかけた。

「あ、あの……!」

「ん?」

「あなたは……もしかして……」

 男が、ニヤッと笑った。

「俺は、白城白也。黒葉のお兄ちゃんだよ」

 

  

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