表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/219

第132話 聖なる魔装戦~広がりゆく闇――break image

 

 吸血鬼の意思を……抑えた?

「月音……? 月音、だよ、な……?」

 正直、あの一撃では無理だと思っていたが……。

「そ、そうですけど……――え? く、黒葉くん!? そ、その傷……!」

 俺の脇腹の傷に気付いたようで、慌てて月音が駆け寄ってきた。

 良かった……本当に、戻っている。

「何が……!? ど、どうしよう……!」

 オロオロと周りを見渡す月音に、俺は弱々しく微笑んだ。

「月音は大丈夫、なのか……その肩……」

 そこで月音は一瞬固まり、苦しさと驚きが混じりあった表情で、肩に手を当てて蹲った。

 眠りから突然覚めたような感覚なんだろう……痛みに気付くのが遅かったんだ。

 ほとんどの人間は気絶しているが……全員じゃない。医療員だって、数人は残っているだろう。その内、試合も終わるかして――

 あれ……? おかしい。何かが違う。

 いや、逆だ。違っていない(・・・・・・)

「……月」

 顔を無理やり上げて、空を見る。本当は、上げなくても分かった。

「空間魔法が……解けてない……」

 『吸血鬼の夜(エンドレス・ナイト)』の効力が、なくなっていない。真っ暗な空に、赤みがかった月が、当然のように浮かんでいる。

「なんで……」

 チラッと月音を見るが、辛そうに肩の痛みに耐えているだけで、何をしているでもない。

 てか、そろそろヤバイんだけど……よく、気を保っていられたよ。早くしてくれ、救護。

 そういや、さすがに静かすぎないか?

 無理して首を動かし、観客席に目を向けると……第二の観客席の生徒だけが、気を取り戻し始めていた。

 

 ◆

 

「どうなってやがる!」

「分からないわよ! それより、怪我人にもう少し気を遣ってくれない!?」

 王牙の怒鳴り声に、壱弦が怒鳴り返す。

 王牙、壱弦、蓮碼、栢の四人が通路を走っていた。

「だから、医務室で休んでろって言ったんだろ! 無理して動いて、傷が広がっても知らねえぞ!」

「まあまあ、落ち着いて」

 蓮碼が苦笑いしながら、王牙をなだめる。

 栢はずっと黙り込み、深刻な表情をしていた。

「ところで……鋭間や品沼は、こっちでいいんだろうな?」

「信用ならないなら、輝月本人に言ってよね! 私は、メールの通りに案内してんの!」

 王牙の問いに、壱弦がムスっとして言い返した。

 そんなやり取りに、蓮碼が小さくため息を吐いている。

「でも……真っ直ぐ試合場に向かった方が、おそらく早いですよね? 異常事態は、試合場で起こってるんじゃないんですか?」

 話を切り替えるように、蓮碼が訊く。

 それに対し、王牙が首を振った。

「通達されてんだろ。何が起ころうと(・・・・・・・)無事に進行させろってな。何が起こってても、俺たちは試合に干渉できない」

 四人が向かう先は、鋭間や悠がいる一般観客席である。

 警備員は他を捜索しているが、二人はそこから動いていないというのだ。

「輝月の勘? なんでか、そこから離れてないらしいんだけど……」

 壱弦の問いに、蓮碼が首を傾げた。

「さあ……? でも、確かにそこが怪しいですしね……隠れられる場所なんて、少なかったとは思いますけど」

「それに、試合場が見れるからな。鋭間は、俺たちが警備をしていないと知ってる。試合に、どこからか介入がないよう見張ってんだろ」

 王牙が口を挟んだ。

 それを聞いて、蓮碼はクスッと笑った。

「怒ってるんじゃないですか? 私たちが勝手な行動をとってるから」

鋭間(あいつ)だって、かなり勝手に動いてんだろ。俺は知らねえ」

 再び、蓮碼がクスッと笑う。

 通路の角を曲がった時、四人の目の前に、一般観客席へと出る扉が見え……同時に、その扉が開き、鉄村が姿を現した。

 

 ◆

 

「……嫌だ……違う……そんな……私、何も……だって……」

 虚ろな目で、錯乱したように何かを呟いている。

 当然だ……当たり前だよ……。

「月音……!」

 それ(・・)は、ちょっと前に起きた。

 

 なぜか、第二の生徒達だけが目を覚まし始めた。

 それだけなら何も問題ない……ただ、様子が明らかにおかしかったのだ。

「おい……なんで……」

「どうして、あいつ(・・・)が……?」

「分かんねえよ……何してんだ……」

 そんな声が聞こえてきたのだ。

 誰から、というんじゃない。彼女(・・)を知っている――実際、名前だけなら誰でも知っているだろうが――第二の生徒から、そんな戸惑いの声が流れてきていた。

 

どうして(・・・・)……夜長三なんかが出てる(・・・・・・・・・・)んだよ(・・・)……」

 

 どうして? なんで? 分かんない? 何してる?

 全部、お前らが選んだんだろ?

 夜長三月音という生徒を、全校投票で。

 月音を選ばなかった生徒でも、その台詞はおかしい。ちゃんとした納得でも、成り行き上の納得でも、納得はしたハズだろ? 少なくとも、仕方ない、とは思って割り切ったハズだ。

 

 そして、今に至る。

 本当、もうそろそろ俺の命に関わってくるほどの出血量なんだが……なんとか意識を保って、月音を見た。

「……私は……嫌だって……最初に……なのに、なんで……」

 寒さに打たれたように、月音が身体を震わせている。

 この場合は……恐怖か。いや、もっと複雑な……何か。

「くッ……そッ……!」

 悪態をついて、立ち上がろうとする。

 しかし、それだけの動作で視界が歪み、揺らめいてしまった。

 それでも、気合のみでフラフラと立ち、しゃがみ込む月音に走り寄る。

「し……しっかりしろ……! 月音……! 聞く、んじゃねえ……」

 そこまで言って、大量に血を吐き出した。

 それを見て、月音の目が見開かれ、身体の震えが止まる。

「月……音……?」

 顔を伏せ、動かなくなった月音の肩に、右手を置く。

 

 グザァァァッ――

 

「……え……?」

 俺の左脇腹辺りから右肩まで、斜めに刃が走った。

 月音の左手を見ると、その手には……俺が初めて吸血鬼に遭遇した時にも、刺すのに使われた、あのナイフが握られていた。

 そのナイフで、俺の身体を斜め上に斬り上げていたのだ。

「ハッ……あっ……が、ガハッ……」

 遂に、根性で耐えていたような俺の中の何かが、切れた。いや、斬れた。

 全てが、暗く、赤く、染まっていく。

 

 ◆

 

「ええっと……どなた?」

「鉄村だ」

 壱弦の言葉に、鉄村が馬鹿正直に答える。

 四対一……この状況は、どう見ても魔装生連合が有利だ。

「ああ、はいはい。テツムラサンね。了解だわ」

 王牙が面倒臭そうに言って、ゆっくりと、鉄村へと近付いていく。

「つまり……お前が、実行した奴なんだよな?」

「意味が分からないぞ」

「分かれよ」

 シュンッという、短い、空気を切り裂くような音と共に、王牙が至近距離から鎖牙(さが)で攻撃をする。

 しかし、鉄村はそれを、メタルズハンドをはめた手で防御した。

「井宮」

「もー……皆、人使いが荒いっていうか、俺に対して、それしか言わないじゃ~ん」

 鉄村の呟きに、どこからか、声が響いた。

「……ッ……!?」

 慌てて一歩下がりながら、王牙が構え直した。

 そこに、三人が駆け寄る。

「どうします? ここで取り押さえますか?」

 蓮碼の問いに、王牙が首を振った。

「いや……もう一人いるらしい。井宮、って呼ばれてた奴だな。幻惑系使ってっから、どこにいるか分かんねえ」

「あんたさあ……どうする気? ここじゃ狭いし、鎖牙には不利じゃない?」

 壱弦が口を挟む。

 それに対し、王牙が小馬鹿にしたように笑った。

「おいおい……舐めてんのか」

 鉄村は、扉の前から動かない。

 どうやら、四人を観客席へと出させないことが目的のようだった。

「どけ、デカブツ」

 王牙は、鉄村を睨み、短い鎖牙を放った。真っ直ぐに、二本の鎖が鉄村へと突き刺さる。

「井宮、急げ」

「へいへーい」

 その二本を両手の甲で流しながら、鉄村が更に何かを言った。再び、どこからか声がする。

「おい! 隠れてる奴はお前ら担当だぞ!」

「聞いてないっての!」

 王牙の叫びにツッコミながら、壱弦が目を閉じる。

「瓜屋、詳しく」

「はいはい……なぜかあちら側にも、私と同じ扱いを受けてる人がいますよ……」

 壱弦の言葉に、蓮碼は唇を尖らせた。

「通路幅、約二,三メートル……曲がり角から扉までの距離、つまりこの通路の長さ、約六,四メートル……」

「はい、どうも」

 蓮碼の言葉を受け、壱弦は目を開けると同時に拳銃を抜いた。そして、通路の四隅へと、次々に発砲する。

(ひら)け……『不平等な庭園(ザ・ガーデン)』」

 通路全体が、花々が咲き乱れ、草木が生える、庭園へと変わる。

 しかし……それと同時に、井宮が姿を現した。

「……遅いぞ、井宮」

「分かったってばー」

 井宮は舌を出して鉄村に言い返し、右指を鳴らした。同時に、左手から幾つかのビー玉を撒き散らす。

何もなき世界(ホワイト・スペース)

 ビー玉が落ちる音が、通路に響いた。

「「「「――――ッッ…………!?」」」」

 魔装生連合四人が、全員固まる。

 彼らの周りが……何もない、真っ白な空間に変わってしまったからだ。

 

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ