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第131話 聖なる魔装戦~吸血鬼と不死鳥――blood moon night

 

『……いいね……その目、とてもいい……』

 吸血鬼がニヤッと笑った。

 しかし……どうすればいいんだ?

 月音の身体を不容易に攻撃していいものなのかどうか……。

 そこでなぜか、あの夜(・・・)のことを思い出した。

「おい……お前の状態の時、月音の記憶はあるのか?」

 パラの銃口を向けたまま問いかける。

 全く動じない吸血鬼は、微笑を浮かべて頷いた。

『一部だけどね。ある程度は』

「なら……分かっているんだよな? あの夜の、月音を」

 あの夜というのは――雨の日、月音が突然泊まった日の夜のことだ。

 今なら、なんとなく分かる気がする。

 夜に突然、月音が俺に覆い被さってきていた。

 あれは……吸血鬼としての吸血本能が、月音を動かしたんだろう。

「あの時は月音の意思だったが……夜という時間帯や、俺の不死鳥の力に影響されて、お前が少しだけ出たんだな?」

 確認も混ぜて訊くと、満足そうな笑みを浮かべ、吸血鬼は頷いた。

『その通りさ。その時に吸血できれば、簡単に済んだんだけど……君の不死鳥の力が、どうやら影響するらしい』

「……ッ……!?」

 じゃあ……あの時、不死鳥の魔法を感じたのは、月音の吸血鬼の魔法に反応したからか?

 しかも、不死鳥の魔法が、吸血鬼の魔法に影響する?

 確かに、不死鳥の魔法を感じた後、月音は急に眠ってしまった。

「え? それはつまり……不死鳥なら、吸血鬼を浄化できる……?」

 浄化、と言うよりは、打ち消し合うのか?

「あんま言いたくねえけど……俺が初めて月音と逢った時の、不思議な魅力……あれは、お前の惹きつける力だったんだな。他の人にも影響させて」

『ご名答。ただ、魔装力……だったかな? それが強い人間には効かなかったよ。私が表出していなかったしね。それに、君と、君の妹は、不死鳥を抱えているせいで無効化されていた』

 ――全部。

 月音を悩ませてものの全てが、原因が、こいつにある。

『どうしたのかな? どうも、殺気を感じるんだけど?』

「……ああ。やっと、役立たずの俺が、月音を助ける方法が分かったんだからな」

 パラ握る手に力を入れる。

 吸血鬼を消せるかなんて分からない……なんせ、初めての相手だ。

 俺の不死鳥と同じ、交神魔法と言われようと、根本的に違う。

 

 不死鳥は俺自身なんだ。

 でも、吸血鬼は剥がせるハズなんだ。

 キッカケが、違う。

 

「いつ、月音に宿った?」

『それは、私に分かる訳がないだろう? 私を生み出した者たちに、訊くべきだ』

「……そうか――」

 パラの引き金(トリガー)を引き、吸血鬼の、月音の肩を撃つ。

 我ながら、完全な不意打ちだった。視線も向けず、銃口から肩までの距離を、さっきまでの向きに頼った弾道予測のみで狙った。 

『甘いね』

 銃弾は、直撃どころか掠りもせず、避けられた。

 月音の肩から出現した、黒い翼による高速移動で。

「チッ……! またか!」

『ふふっ……今の私は、最高潮なのさ』

 吸血鬼は右手の人差し指を立て、真っ直ぐ空を()した。

 

『包み込め――吸血鬼の夜(エンドレス・ナイト)

 

 曇っていたことなんて、小さな暗さだったと、今なら分かる。

 吸血鬼の使った、『エンドレス・ナイト』は……会場全体を覆い尽くし、暗く、黒く、夜色に染め上げたのだ。

「ぐッ……!」

 思わず、片膝をついてしまう。

 黒い瘴気……黒いオーラ、闇のエネルギーが、会場に満ち、俺を押し潰している……!

『君たちの言うところの……空間魔法、だったかな? 夜しか活動できない私にとって、とてもいいものだよ、これは』

 空を見上げると、さっきまでの空は掻き消えていた。

 それどころか……。

「つ……き……?」

『そうさ。まあ、夜のドームを作ったと考えてくれ』

 真っ黒に光る空、そこに浮かぶ赤みを帯びた月。

 完全に夜だ。

 恐怖の夜……吸血鬼の、ヴァンパイアの時間だ。

「で、でも……どうやって……!」

『あれさ』

 吸血鬼の指差した先には……会場を囲むように、上空に並ぶ、棺があった。

 あの夜、俺に使ったものと同じ……。

『あれが私の魔法武器(デフォルト・ウエポン)さ』

 軽く戦おうとしただけで、こんな力を見せ付けられるとは……。

 そういえば、会場は今、どうなっているんだ?

 視線で軽く見回すと……。

「……ほとんどが……気を失っているんだが……?」

『顕現するのが急すぎたね。エンドレス・ナイトも使ってしまったし……』

 まあ、それならそれで構わない。

 むしろ都合がいい。

 交神魔法を使う二人の戦いは……到底、大会向きではないだろう。目撃者は、少なければ少ないほどいい。

『さて、と……私の目的を言っておこう』

「必要ねえよ。ここで消えるんだからな」

『ハハッ……面白い。ただ、消えるのは君かもしれないんだよ? 私は、君を、不死鳥の魔法を、存在ごと(・・・・)(もら)うつもりだからね』

 身体を、冷気が撫でていった。

 予想済みだ。こいつは、月音の存在を、身体を奪い、完全な吸血鬼として降臨するつもりなんだろう。

 そのために……俺の、不死鳥の、存在が、力が、要るんだ。

「――って……ふざけんな!」

 膝を伸ばし、立ち上がる。

 パラを吸血鬼に向け、三点バーストで撃つ。

『その程度かい?』

 強化魔法を施して、かなり威力を高めた三発の銃弾は、突如出現した棺に阻まれた。

『やれやれ……仕方ない――月夜を駆けろ』

 銃弾を止めた棺の蓋が開き、その中から、あの、闇のエネルギー波が飛び出してきた。

「嘘だろ!?」

 慌てて飛び退いたが、左脚を掠められた。

「ぐッ……!」

 刃物のような鋭い痛みに、思わず体勢を崩してしまった。

 地面を滑りながらも、なんとか勢いで立ち上がり、吸血鬼に銃口を向ける。

『……やる気も、気丈さも、意志も、全て尊重しようとは思うけれど……君じゃ、勝てないと思うよ?』

「黙れ! お前を倒さなきゃ、月音は戻れない! 戻ってこれないんだ! だったら、諦めないに決まってんだろ!」

 連射しながらも、狙いは全て急所を外す。あくまでも、月音の身体なんだ。

 相手が吸血鬼というだけで、それは充分な油断なのかもしれないが。

『踊れ――血の月夜を、舞え』

 銃弾が全て、新たに出現した五つの棺に防がれる。

 合計六つの棺が、俺へと突進し始めた。

「この程度……!」

 俺も棺へと向かって走りながら、移動魔法の勢いで跳び、一つの棺へ右脚で一瞬だけ乗る。そのまま跳躍し、素早くパラの弾倉(マガジン)再装填(リロード)をする。

 距離が縮まれば、対応速度だって早くする必要がある。

 銃撃戦では、相手の視線、銃口、距離などから、弾道を予測し、回避する必要がある。

 ただ……魔装法を使った戦闘では、それを惑わし、乱すことができるのだ。

「はああッ!」

 横なぎに腕を払って発砲する。

 その一つひとつに……雷魔法、風魔法を仕込んでいる。

 棺で自動防御ができる吸血鬼に、なんの意味があるかと言えば――

『……!』

 吸血鬼が、僅かに驚くのが分かった。

 横なぎに発砲することで、三発の銃弾は、少しだけ間が開く。しかし、棺一つで守れる幅だ。だから、吸血鬼は棺を一つしか出していない。

 俺が銃弾に使った魔装法は……両端が風魔法で、真ん中が雷魔法だ。それも、左側だけを風で加速させている。

 左側の銃弾の風で、真ん中の銃弾を引き寄せ、棺のギリギリ外へと放る。が、それだと吸血鬼には当たらない。今度は、右側の銃弾の風を強烈に強め、真ん中の銃弾を引き寄せる。

 形だけを見れば、銃弾がカーブして、棺を避けたような感じだ。

 しかも、強烈な風で砂が巻き上がり、煙幕的な役割をしている。

 これは……当たる……!

『少し、侮っていたようだね』

 両端の銃弾は、吸血鬼どころか棺にさえ当たらず、大きく逸れ、流れていった。

 だが、本命は真ん中の銃弾。風魔法での、無理やりな弾道変更のため、狙いはあまり良くないが……それを補うための雷魔法だ。

『だけど――』

 

 強烈な痛みに、身体が痺れた。

 脳内で、白黒の光が何度も点滅する。

 ゆっくりと視線を下げると……俺の左脇腹に、大きな傷ができている。

 ハッ……大きな傷ができているって……自分でしといて、笑っちゃう表現だ。

 縦十五センチぐらい、横五センチぐらいの、何かに貫かれたような、傷。認識するのも怖かったが……これはもう、穴が空いている、と言っても良いだろう。

 いや、良くねえよ。

 

「――ガッ……ぐァッ、あぁァッ……があァァァァァァァァァァッ――!!」

 込み上げてきた血を盛大に吐き出し、左手で傷を押さえる。

 自分で少し触れただけで、その痛みが増したような感覚を覚えた。静電気に触れたように、咄嗟に手を離す。その手には、一瞬しか触っていないにも関わらず、ベッタリと血が付いている。

「うっ……ぐっ……が、ああッ……」

 両膝をついて、倒れそうになる身体を必死に堪えた。

「まさか……さっきの……棺から……?」

『ああ、その通りだよ……まだ、舞っていた(・・・・・)からね』

 クソッ……さっき避けた棺の一つから、あのエネルギー波が放たれたってことか……。

 それでも、あの銃弾が命中していれば……。

 なんとか頭を上げて、吸血鬼を見ると……。

「や、やった……?」

 吸血鬼の、もとい月音の身体の、右肩に命中している。

 本当は……翼に当たれば、一番良かったのかもしれないが……致命傷にならないようで、助かった。

 あんな軽口を叩きながらも、吸血鬼は雷で麻痺したようで、ふらついている。

 とりあえず、気絶でもさせられれば……なんとか……。

 ヤバイ……出血量が、酷いぞ……このままじゃ……。

「黒葉……くん……?」

 ハッとして視線を上げると、そこには……翼も何もない、顔面蒼白で、戸惑い顔の、月音が立っていた。

 月音の意思で、佇んでいる。

 

  

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