表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/219

第122話 聖なる魔装戦~暴走する敵意――bad atmosphere

 

 空間魔法の難しさというのは、維持するところにある。

 大まかに言ってしまえば、もう一つの世界を創るのだ。それを維持するというのは、高難易度である。

 更に、その空間魔法を認識する人間が多ければ多いほど、その存在は揺らぐ。第三魔装高校で起きた、部活動反乱事件のような場合は異例である。

 魔装法の簡単なところは、イメージで発動出来ることだ。逆に言えば、イメージが崩れれば簡単に魔装法は消える。

 それは、他人のイメージにも少なからず影響されるため、一つの魔装法を長く維持すればするほど、その効果は揺らいでいくのだ。

 

 小園壱弦が初めて空間魔法を使ったのは、なんと中学一年生だった。

 才能のある人間なら、そういうこともあるが……それは、()の話だ。

 約五年前ということは、魔装法は使われ始めたばかりである。そんな時期での、才能の開花だった。

 彼女は、他の魔装法はそこそこに、結界魔法や空間魔法を極めた。

 自分に有利な(フィールド)を創り出し、更に物理的効果を付与できるようになった。

 つまり、一つの空間魔法で、様々な効果を得られるようになったのだ。

 不平等な庭園(ザ・ガーデン)は、それらを全て詰め込んだ空間魔法である。

 

 ◇

 

 壱弦は、自分の腹部に突き刺さるナイフに目を向ける。

 突然すぎる事態に、思考が追い付かず、痛みだけがジワリジワリと()み出してくる。

(どうやって……あの状態から……)

 明らかに勝負は決していた。

 あの状態から、壱弦の不平等な庭園(ザ・ガーデン)を吹き飛ばすほどの一撃……そして、一瞬で詰め寄る高速移動など……。

 驚愕しながらも、幾度となく戦ってきた慣れからか、頭は冷静で、感覚のみが悲鳴を上げていた。

 壱弦は歯を食いしばって、前を見る。

(……!?)

 その直後、彼女の身体は強く後ろに引っ張られた。

 

 ◆

 

「こ……小園……先輩っ……!」

 衝撃的な光景に、身体が硬直する。

 誰かが刺される、傷付くのは見慣れたぐらいだが……まさか、この大会で……!?

 五秒ほど、小園先輩は刺された状態で止まっていた。というより、全てが止まっていた。

 

 バアァァァンッ!

 

 衝撃音が聞こえ、瞬きした瞬間に、小園先輩と麻生選手は引き離されていた。

 小園先輩を抱きかかえて、救護員と話しているのは――

「輝月……先輩……」

 隣から舌打ちが聞こえた。

 見ると、千条先輩がイラついた顔をしていた。実際、怒ってんだろうなぁ……。

 手には鎖牙が握られていて、飛び出そうとしていたことが分かった。

「怪我人が出しゃばってんじゃねえよ……」

 呟く千条先輩を見て、納得する。

 ああ、この怒り方は、心配している時のそれだ。

 輝月先輩は救護員と少し喋ってから、ざわつく試合場を平然と、俺たちの方へと歩いてくる。

「大丈夫なんですか?」

「ん、まあまあ」

 俺が訊くと、輝月先輩は肩を竦めてみせた。千条先輩はため息を吐いている。

 試合場では、何人かの役員が麻生選手を取り囲んでいた。

「あれは、ハプニングとして処理されるだろう。麻生にも、罪はない」

 輝月先輩が素っ気なく言った。

 それにしても……おかしい……なんで、あんなことが……?

「……ッ!? 鋭間ッ!」

 突然、千条先輩が大声を上げて構えた。

 麻生選手が役員の人を飛び越え、輝月先輩に飛び掛かってきたのだ。

 落ち着いた様子で輝月先輩は振り返り、メタルズハンド(いつの間にはめていたのか……)を着けた右手を向けた。

 炎の壁が吹き出し――掻き消えた。

 正確には、麻生選手が発した黒い衝撃波に相殺された。あの時の、小園先輩の空間魔法を破壊したエネルギー波と同じだ。

 さすがに驚いたようで、輝月先輩が目を見開く。

 視界の端で、瓜屋先輩が動こうとしたのが見えた――

 

「ふざけてんじゃねえぞ」

 

 声だけで、周りを制圧するかのような雰囲気……濃密な殺気……。

 千条先輩の両手の鎖が、麻生選手の両脚に絡み付き、動きを封じている。

「ハァァア!」

 そのまま、麻生選手を試合場に押し戻す。

 しかし、麻生選手は人並み外れた動きで立ち上がり、鎖を引きちぎった。

「ハアッ!」

 ちぎれた鎖牙を持ったまま両手を振り上げ、斜めから交差させるように振り下ろした。

 麻生選手はX字に打ち付けられた鎖牙を、両腕で防いでいる。

「鎖陣ッ!」

 千条先輩が叫ぶと、麻生選手の足元から鎖が四本、蛇のように飛び出した。それぞれ、相手の両手両足に絡み付く。

罪を縛り悪を伐つイビル・トゥ・バインド、ゼロ」

 俺、輝月先輩、瓜屋先輩も試合場に飛び出し、近付く。

 ……なんだ、この技……完全な、拘束……。

 まるでキリストみたいに、十字にされている。縛っている鎖は計十本。しかし、必要以上に雁字搦めにせず、目の周りを覆うなど、魔装法の発動さえも抑止している。

ゼロ(・・)だから、こんぐらいだ」

 ゼロ……? ワンや、ツーもあるのか?

「千条王牙」

 その声に全員が振り向く。

 大会役員……審判員(ジャッジ)……?

「お前の行為は、他校の選手への妨害などとなる。よって、失格だ」

 俺は口を開けたまま、しばらく動けなかった。

 千条先輩が失格、というショックだけではない。

「ちょ、ちょっと待って下さいよ……千条先輩がこうしたのは、俺たちの安全確保のためですし……」

 俺が穏便に話を進めようとしたが、千条先輩自らが、それを打ち破った。

「いや、俺は構わねえんだけどな? そもそもお前らの対応が、(おせ)えし、不十分だし、こっちで対応するしかなかったんだよ。仕事なんだから、役に立たなくても、精一杯やっとけよ」

 空気が張り詰める。

 駄目だ……これ以上、第三を不利にしてはいけない……。

「とりあえず」

 輝月先輩が両手を打ち鳴らし、爽やかな笑みを浮かべた。

「第三は、仲間を守るために頑張れるとか、そんな奴らばっかりでして。大会のために仲間を見捨てるとか――」

 笑みを浮かべたまま、輝月先輩はスッと一歩だけ前に出た。

「――ふざけたやり方は、そっちだけで勝手にやれってことです」

 瓜屋先輩がクスッと笑うのが聞こえた。

 俺もさすがに、苦笑いを浮かべるしかなかった。

「そうだ! 出場前の失格とか、異例じゃないですか? なので、私から提案があるんですけど――」

 瓜屋先輩が、笑顔でとんでもないことを言い出した。

 

 ◆

 

 思わず、席を立ちそうになってしまった。

 まあ、第三の生徒全員が驚いただろうけれど……。

「ひ、陽愛……あ、あの……先輩……」

「うん……分かってるよ」

 怯えたように言う桃香に頷き、試合場に再び目を向ける。

 小園壱弦先輩……黒葉が言っていた、三年生の代表選手。その人が、相手選手に刺された。

 するといつの間にか、小園先輩と相手選手の人が引き離されていた。

 引き離したのは……生徒会長……?

「品沼くん、あれって……」

 出来るだけ平然としていようとしたけれど、気付けば、手が震えていた。

「うん……珍しいことではないよ。あれなら、まだ……」

 そう言う品沼くんも、少し不安そうだ。

「だ、だって、貫通してるっていうか……その、背中から出ちゃってるよ? 刃の先」

 瑠海が恐る恐るといった調子で言う。

 品沼くんが首を振った。

「優秀な医療医師(メディック)がいるし……十中八九、大丈夫だよ。後で、確認しに行くけど……」

 ひとまず、安心して席に座り直す。

 しかし、すぐに別の、驚きの光景が視界に飛び込んできた。

「なんであの人……生徒会長に襲いかかったの?」

「分からないけれど……これ、勝負は終わっているから……」

 その後の攻防は、私にはよく分からなかったけど……この大会、何かある気がする。

 嫌な予感……何か、不吉なことが起こるような――黒葉……大丈夫、だよね……?

 

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ