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第11話 高校最初の実技授業

 

 正式に東京第三魔装高校に入学した次の日の朝、俺は六時に起床して朝飯を作っていた。

 ベーコンを焼きながら、自分の体の調子を確認する。

 一昨日は戦ってからちゃんと休んだ。が、久しぶりに限界まで魔装法を使ったせいで、昨日はまともに魔法行使ができなかった。というか、普通に怠かった。

 今日は……どうやら大丈夫のようだ。

 別にここまで張り切る必要はないのだが、高校で最初の魔装法実技授業なので、万全な状態でいきたい。

「ふああ……眠い……」

 呟くと、俺はベーコンを皿に乗せてテーブルに運ぶ。味噌汁も、後は豆腐を入れればいいだろう。

 携帯を開いてメールを確認すると、あいつ(・・・)からのメールが来ていた。入学式の日からメールが来ていなかったので久しぶりだ。

「まあ、元気そうだしいいか……」

 俺は携帯を閉じ、母さんが起きてくるのと同時に朝飯を食べ始めた。

 今日は二度寝したいな……マジ眠い。こんなに眠い理由が思いつかないんだが。

 それから何分かした後の七時五十分。

 俺は自転車に乗って、魔装高に向かった。

 

 ◇

 

 今日は金曜。

 つまり明日は休みということだが、いつも休みは音楽聞いて本読んでテレビ見て……適当に過ごしているので、別になんとも思わない。

 それより、今日なのだ。

「私は属性魔法使えないからね……中学でも微妙だった」

 登校中に陽愛と会い、自転車を押しながら並んで歩く俺。

 陽愛のその言葉に、俺は苦笑した。

「中学ではまともな実技授業じゃないからな。実力なんて分からないよ。それに、属性魔法なんてすぐに出せるもんじゃない」

 事実、俺の雷魔法に関しては、中学の時に兄から鍛えてもらった結果だ。

 ついでに言うと、兄が失踪したのはつい一ヶ月前、高校卒業と同時だった。何も言わずに、ただ消えた。

「でもさあ~……そうすると、黒葉は優秀だよね。絶対A評価だよ」

 唇を尖らせて陽愛が言ってきたので、俺は首を傾げた。

「どうだろうな。そこは学校側の見方だし」

 そんなこんなで学校に着き、俺達は教室へ向かった。

 

 ◇

 

 午前中の古文などを適当に流し、昼飯も購買のパンでそこそこに済ませ、俺は午後二時間の実技授業に備えた。

「本当、楽しみなんだね」

 そんな俺を見ながら、品沼がのんびりと笑って言ってきた。

「そんじゃあ、お前はどうなんだよ」

 パラの整備を忘れていたことを思い出し、今頃やっている俺は、品沼にムスっとした口調で訊いた。

 この整備は別に授業とは関係なく、この前の戦いから忘れていたのだった。

 駄目だな……武器を大切に扱わないというのは。今度から気を付けよう。

「そりゃ、楽しみだよ? 憧れていた魔法を、中学と違った高設備で思いっきり使えるんだから」

 それならアリーナで思いっきりやれよ、という言葉を飲み込み、俺はパラの整備を終えた。

 

 ◇

 

 ついにやってきた午後の授業……魔装法実技授業。全員が緊張や期待の顔だ。

 担当教師は意外な事に、二十代の若い女教師だった。鋭い目で、細身で長身の美人だった。

 落ち着いた冷淡な声で、授業の説明を始めていた。

「意外……だな。もっとゴツイ感じの男の教師かと思っていた」

 俺が説明を聞きながらも、思ったことをそのまま品沼に囁く。

 すると、品沼は驚いた顔で俺を見てきた。

「え? 知らないの? あの人は、世界魔装法実技大会でのベスト8まで行った人だよ?」

 世界魔装法実技大会とは、その名の通り、世界で使われるようになった魔装法を世界大会として開いたものだ。各国の実力者が集まり、魔装法の実力で戦い合うのだ。

「え……マジか……。俺、そういう話題に疎いからな……そうか、そんな有名人なのか」

 なるほど……でも、なんでそんな人がここで教師やってんだ?

「――以上だ。分からなくなった奴は質問してこい。怪我されても困るんでな」

 その女教師――美ノ内(みのうち) 凪佳(なぎか)先生はそう言うと、説明を終えた。

 今日は別に実技テストをする訳でもない。ただ、美ノ内先生が全員に基本魔法の確認をするだけらしい。後は自習とのことだが……途中から少しだけ課題が出されたりする。

「なんだ……意外と簡単なもんだな」

 俺が笑うと、陽愛が寄ってきた。

「そうでもないんじゃない? 途中から出される課題ってのが、随分と怪しいけど」

 その方がいいな、と思ったがそこは言わずに頷いておいた。

 それじゃあ、自習としてウオーミングアップでもしておこうかと考えていると、後ろから気配がした。

 振り返ると、二人の体つきの良い男子生徒がいた。

「……なんか?」

 睨んでくる二人に俺が冷たく言うと、一人が口を開いた。

「お前、入学式の日に、俺達の仲間をやってくれたらしいな」

 ああ……あの時のか。裏方すぎて忘れてた。

 調べると、あいつはD組の奴で、一応退学にはなっていないらしい。もちろん、入学取り消しにも。

「そうだったかな? まあ、どうだっていいじゃないか」

 面倒事はごめんなので、俺は適当に言って話を終わらせようとした。

 すると、その言葉が気に障ったらしい。一人が俺に掴みかかってきた。

 それを俺は移動魔法で躱す。

 しかし、避けた先にもう一人の男子生徒が移動魔法で詰め寄ってきて、攻撃速度を上げた蹴りをしてきた。

 連続で移動魔法はできない……俺も真正面から蹴りを放ち、蹴りと蹴りで相殺する。

 すると、最初に掴みかかってきた男子生徒が、背後から殴りかかってきた。

 なんかもう……先輩相手にした体験が抜けなくて、同年代は相手にならねえわ。

 属性魔法を不容易に使いたくないので、基本魔法だけで応戦する。

 俺はしゃがむことで殴ってきた男子生徒の拳を躱し、相手の足を払う。俺の方に倒れてきた男子生徒を、背負投げの様にして、もう一人の男子生徒に放り投げた。

 強化魔法を服などの上半身にかけて、なんとなくでやった力技だが、充分だ。

 二人揃って、アリーナの床に伸びてしまった。

「す、すごいじゃん! 白城くん!」

 結構一瞬で終わったやり取りを、近くで見ていた品沼が褒めてきた。

 陽愛に関しては、あの時(・・・)を思い出してだろう、少し複雑な顔をしていた。それでも、茶化すように拍手している。

 周りにいた数人の生徒も、それを見ていて、様々な反応をしている。

 驚いていたり、好戦的な目を向けてきたり、怯えるようにしてたり……と。

 まあ、俺が気になるのは……。

「大丈夫……か?」

 恐る恐る美ノ内先生を見ると……見ていなかったのか、見ていて無視したのか、別の生徒に話しかけていた。

「大丈夫そうだな……俺、問題児扱いされてると困るしなあ……」

 さすがにあの先生とリアルファイトで勝つ自信はない。

 何があるということでもなく、腰のパラに手を添える。

 あの先生の実力というのは相当なのだろうが……もしも、対立するようなことがあるならば――戦う覚悟はある。

 

 ◇

 

 その後の授業は、軽く模擬戦をやらされただけだった。

 俺は昨日と同じように品沼を誘い、先生の前で軽く戦っただけで終わった。

 他の生徒ともやってみたかったが、親しい奴はいないし、さっきの戦いを見ていた何人かの生徒が、心なしか俺のことを避けてる気がする……。

 俺に襲いかかって来た二人は、数分後に立ち上がって、ヨロヨロと逃げていった。なんだったんだよ、いったい……。

 模擬戦を見ていた先生の様子といえば、特に反応もなく、仕事だからと、淡々とやっているというにしか見えなかった。

 見た通りだとしても、本当に考えの読めない人だな……。

 

 ◇

 

折木(おりき)……桃香(ももか)……?」

 俺は首を傾げて、陽愛の言葉を繰り返した。

 高校最初の魔装法実技授業も終わり、鞄を背負って帰ろうとした時、陽愛に呼び止められた。そして、いきなりその名前を出されたのだ。

「ごめん……誰?」

 ひとまずカバンを机に置いて訊くと、陽愛は驚愕の顔をした。

「さすがに知っている……いや、憶えていると思ったんだけど……」

 ???

 全く心当たりがないのだが……誰だったっけな?

「同じクラスでしょ!? 桃香は! 入学式の次の日から休んでる……」

 あ……あああ!!

 いた! 確かにいた! クラス名簿を確認するまでもなく、いた!

 と、思う……。

「しかも、黒葉とは同じ中学だよ?」

 ……?

 あれ……そうだっけ? というか、学校は地域で分けられているので、小学校も同じらしい。

 やばいぞ……約九年の近い付き合いであるハズの人間を忘れていただなんて……。

「それで? その折木がどうした? てか、なんで休んでるの?」

 俺がなんとかイメージを湧かせながら言うと、陽愛はため息をついてから教えてくれた。

「病欠でしょ? ただの風邪なんだけど、体が弱いから長引いているんだって」

 そうだった。思い出した。明確ではないが。

 憶えていなくても無理はないんじゃないか? というぐらいに目立たない女子で、物静かだった記憶がある。

 中学の一、三年は別クラスで、二年の時に一回だけ同じクラスになったのだ。さすがに小学校のクラス分けまでは憶えていないが……確か、そんなに同じクラスになってはいなかった気がする。

「それでさ……入学式の日に、私と桃香は仲良くなってさ。忙しくて行けなかったけど、今更ながらお見舞いに行こうと思って」

「本当、今更だな」

 この一言は余計だったらしく、足を蹴られた。

 うわ……魔装法まで使いやがった。ま、俺も防御魔法使っちゃたけど。

「行ってら。んじゃ、俺は先にかえ」

「一緒に行こうよ。少し遠いから、自転車に乗らせてもらうし」 

 ううむ……この頃、放課後に家にいる時間が少ないぞ。

 それでも、文句を飲み込んで、仕方なく一緒に行くことにした。

 どんな顔だったかも、忘れていたしな。もう一回ちゃんと見ておこうか。

 俺はそんなことを思い、鞄を背負い直した。

 

  

白城 白也が失踪したのを、一年前と表記していました。

正しくは一ヶ月前です。

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