第115話 聖なる魔装戦~開会式――オープニング
『それではこれから、第七回、東京三大魔装高校合同、魔装法試合、聖なる魔装戦の開会式を執り行います』
流暢なアナウンスの後、観客席から、耳を覆いたくなるような拍手が鳴り響く。
俺は入場門の内側、影になっていて外から見えない位置に立ち、開会式が終わるのを待っている。
代表選手は本戦が始まるまで、決して開会式でも明かしてはならない。
そういう決まりらしく、代表選手は全員、隠れて待機している。
しかし、三校の生徒会長は別だ。
「――戦うことを誓います」
前年度の優勝校、第一魔装高校の生徒会長――雲類鷲さんが、トロフィーの返還と共に、選手宣誓もしている。
遂に、始まるんだな……聖なる魔装戦――!
◆
「いよいよだなあ~! なあ! 品沼ぁ!」
上繁徹哉の声に、品沼悠は頷いた。
開会式が終わると同時に、警備等の理由として、品沼は会場内の会議室へ行くこととなっている。
(白城くんの戦いぶり……ゆっくり見たかったんだけどなあ……)
悠は小さくため息をついた。
悠自身、多少なりとも黒葉の特訓相手となっていた。その成長ぶりなどを、ゆっくりと見ていたかったのだ。
開会式は実質、五分強ぐらいで終わった。普通は長くなるであろう来賓挨拶等は、今時ありがちな適当さで終わってしまった。
第一試合までは、少々時間がある。
「な~に暗い顔してんだよ! 始まるぜえ!」
「え、ああ、うん」
なんでそこまでテンションが高いのかと、首を傾げる悠の前で、徹哉はビデオカメラを取り出した。
更に首を傾げる悠に教えるかの如く、アナウンスが鳴り響いた。
『それでは今から、試合前の応援活動を行います』
多くの男子生徒から歓声が巻き起こった。
ああ、と悠は納得した。
そう言えば、今年は初めての試み、チアガールの応援活動があるとかないとか。
「ヒャッホーィッ! ウゥエエェェェィイイッ!!」
徹哉は奇声を発しながら、ビデオカメラを回している。
「…………」
(鷹宮さんや折木さん、姫波さんまでいない……)
ということは――
見れば、第一のチアガールが三分ほど続け、次に第二、そして第三という順番で応援していくらしい。
「そういうことか……それにしても、上繁くん、ビデオカメラまで持ってくるとはね……」
悠が驚いていると、少しばかり徹哉が冷静になったように口を開いた。
「ああ……白城の奴は、試合前で緊張してるだろうし、何より準備で充分に見れねえ……あいつのために、俺は撮っているんだ!」
左手の拳を握り締め、徹哉は力強く宣言した。
(いや……白城くんに対して、それはいい気遣いなのだろうか……」
とは言え、その想いには、悠も少しだけ心が和むのだった。
◆
「あれ……マジでか?」
「ん? どうしたの、白城くん」
全員が控え室に戻ろうとする中、俺が思わず足を止めて呟いていた。
そんな俺を見て、瓜屋先輩が引き返してきた。
「あ、いや……すいません。大したことじゃないんです」
慌てて謝ると、瓜屋先輩は優しく微笑んだ後、競技場を見つめた。
そして、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ああ……チアガールねえ……気になる女の子がいたの?」
俺はオーバーに首を振ってしまい、瓜屋先輩が可笑しそうに笑った。
「ち、違いますよ……! 知り合いがいたんですけど……少なくとも一人は、そういう柄じゃないんで……驚いちゃったんです」
「ふう~ん」
「ほ、本当ですって!」
瓜屋先輩はまた悪戯っぽく笑って頷いた。
事実だ……瑠海はありえるし、陽愛もまあ、ないではない。しかし、引っ込み思案な桃香までというのは、結構驚きだ。
「そうね……折角だし、見ていきましょう。あなたのために、チアに参加したのかもしれないもの」
「それはないと思いますけど……まあ、俺は第一試合じゃないですし――」
そこで、重要すぎることを思い出す。
「ちょ……! 第一回の代表って、誰ですか!?」
何も聞かされてないぞ……。
「ああ、それはね。試合の流れなどを見て、咄嗟に決めるんだよ」
「っ……それって……大丈夫なんですか?」
驚いて訊くと、瓜屋先輩は微笑んだ。
「大丈夫だよ。君は、君のやれることに、一生懸命になって」
俺は頷いて、試合場に目を向ける。
そこでは、第二のチアガールの応援活動が終わり、丁度、第三のチアガールが出てくるところだった。ざっと四十名ぐらいだろう。
「だから、ちゃんと見てあげなよ。私達みたいな、戦いじゃない、あの子達の頑張りを」
俺は静かに、応援活動を見守る。
必死に、それでいて楽しそうに、ダンスなどの応援活動をしている。桃香は、ちょっと困り顔っぽい。
そうだな……戦うのは、俺の役目。
頑張ってたのは、俺だけじゃないんだ。
最後まで、俺は瓜屋先輩とチアガールの応援活動を見ていた。
◇
九時丁度。
『それではこれより、聖なる魔装戦第一回戦、第一高校対第二高校を始めます』
開会式同様の拍手、歓声が巻き起こる。
魔装法が使われ始めるようになる少し前、小学一年生ぐらいの頃に見た、プロ野球の試合を思い出す。
今や、開催される事もないだろうが。
それより――
「まさか……だな」
輝月先輩が呟く。
俺達、第三の代表選手は二つある入場門の裏、入場口の陰から、試合の行く末を見守っている。
この会場に設置してある大型モニターに、第一の代表選手と、第二の代表選手が映し出されている。
俺も、絶句するしかない。
大きく響いたホイッスルのような音と共に、モニターに表示される時間が秒削りで短くなり始めた。
「正直、戦う覚悟までしてたんだけどな……」
モニターに表示される、第二魔装高校の下に表されている名前――
不舞栢。
第二の生徒会長が、まさかの第一試合で出てきやがった。
「もし、これが景気づけの作戦なら……やられたな」
背後から声に振り向くと、第一の生徒会長、雲類鷲さんがいた。
「おいおい、気が早いぞ。まだ、お前んとこの代表が負けた訳じゃないだろう」
輝月先輩が言うが、雲類鷲さんは肩を竦めた。
「慰めなんていらねえぞ。不舞を相手にするなんて思ってなかったからな」
そう言って、雲類鷲さんは踵を返して、通路の奥へと消えた。
生徒会長が必ずしも強いという訳ではないが……輝月先輩と雲類鷲さんの反応を見れば分かる。
相当、強いのだろう。
◆
始まりの音と共に、第一の代表選手――野水滝谷は拳銃を抜き放つ。
相手は第二の生徒会長、不舞栢。相当な実力者だ。
油断はしていない。
「ふふふ……私達が、初戦を飾るの。光栄なの」
栢は微笑んでいる。
何も持っていない。
「行くぜ……!」
滝谷は移動魔法で数メートル近付き、グロック17を連射する。
滝谷の魔装法は、典型的だった。
シンプルとはつまり、強化魔法などを極限まで高め、有効活用する戦い方だ。戦う事を目的とする者でなければ、大体はこのタイプだ。防衛術としては充分なので、意外にも多い。
滝谷の銃弾は、速度強化によって、かなりの速さだった。
しかし……栢は微笑んだまま、それを寸前で避ける。無駄のない、最小限の動き。
「……っ……」
「次は、私なの」
栢は流れるような動作で、小さな銀色の、ミサイルのような物を取り出した。ペンよりも、一回り大きいぐらいだろう。
それを五つ、頭上に放り投げる。
滝谷は左手で、少し大型のシースナイフを鞘から抜いた。未知の攻撃に対する、完全防御の構えだ。
「ふふっ」
少しだけ笑って、栢は右手の人差し指を滝谷に向ける。
滝谷は一歩下がり、身構える。
ミサイルは本当にエンジンでも付いているかのような動きで、先端を滝谷へと向けて、勢い良く飛んでいく。
「操作魔法……ッ!」
滝谷はシースナイフを横に構え、防御魔法を張る。
「違うな」
鋭間は、黒葉の言葉を否定した。
「え……操作魔法じゃないんですか?」
黒葉は意外そうな顔で訊き返す。
「きっと、野水くんも操作魔法だと思ってますよ」
蓮碼は微笑んで言った。
鋭間が首を振る。
「系統というか、素はそれだ。だが、不舞の操作魔法は、ただの操作じゃない」
不完全な受身しか取れず、地面に背中を打つ。
それでも、上半身だけは起こし、滝谷は三撃目だけはなんとか防いだ。
「こ、れは……」
操作魔法は、手元を離れてもある程度の距離と時間は動かせ続ける、というもの。速度もほぼ一定で、目で追えるぐらいである。
しかし……これは――
「私の魔装法は、ただの操作魔法じゃないの。私は、自分が触れた物に、操作魔法から伝えて、更に加速魔法と移動魔法を使えるの」
それは、魔装法の限界ギリギリの能力。
一つの物に対し、多重の魔装法を使う。しかも、それを発動するタイミングでさえ、操作出来る。
防御の構えをとっていた滝谷だが、その間をすり抜けて、ミサイルは一瞬の内に滝谷は吹き飛ばした。
まだ、空中に二つが浮いている。
「難しいから、あまり多用はしたくないの……」
「チッ……舐めてくれるぜ」
滝谷は立ち上がり、栢を睨む。
試合場を取り巻く大歓声の中、第一試合開始から五分が経過していた。




