第105話 恋とか愛とか
青奈と共に帰宅し、俺は一安心出来た。
とりあえず、青奈の足の手当をして、俺も自分の手当をした。
明日の朝には精神力も回復してるだろうからと、青奈は自分で明日、回復魔法を使うらしい。
俺はなんとかなるぐらいなので、物理的な治療だけで済ませた。
そこで……思い出した、気になったことがある。
首筋の傷だ。
鏡を見てみても、やはり痕が残っている。それどころか、血が出ていたことから、突き刺さったらしい。
もしかすると、と思って色々ネットで調べたが……やはり、未知の力なので、確信はない。
結局、懸念は残った。
◇
「私、黒葉のこと好き」
陽愛の言葉に、俺は戸惑う。
「付き合って下さい」
待て、待ってくれ。
なんでこうなったんだ?
「その……俺は――」
と、まあこんな短い夢を見て、寝覚めも悪かった。
「ああ……我ながら頭の悪い夢」
呟いて起き上がる。
なんでこんな夢を見たのだろか……考えてみれば、もっと前にこんなことがあった。
それも結局は幻だった訳だが、同じような感じのことを言われ、俺が何も言えずに終わっていた。
「現実で起きたら……そうはいかねえんだろうな」
そりゃそうだろう。
遅かれ早かれ、返事、決断はするべきであって、それをしないのは失礼だ。
失礼というか、相手に対する想いが、欠落している。気遣い、とでも言うべきか……いや、それは過ぎた言葉だろう。
青奈は軽くフラフラしながらも自分で歩き、いつも通り眠そうに、朝飯を食べていた。
「行って来ます」
「いってらっしゃ~い」
前まで、何の返答もなかった俺の言葉に、今では青奈が返事をしてくれる。
まあ、小さな幸福を噛み締めていると、瑠海がいた。
「おはよう」
「うっす」
一緒に登校しようと、言われるまでもない。
もう無駄な気がするので、今日は自転車は使わない。てか、使ってると言えるのか、俺。普段から微妙じゃない?
「どうしたの? 寝不足? なんか、眠そうだよ?」
確かに、俺は何度も欠伸をしている。
「ああ……変な夢見ちゃって……」
ボヤいて、ちょっと聞きたくなった。
「あのさ、瑠海」
「ん? なになに?」
何も言っていないのに、妙に食らいついてくるな~……。
「恋って、なんだと思う?」
すげえ恥ずい事を聞いてるのかもしれないが、相手が瑠海というのがある。
案の定、真面目に考えてくれている。
「そうだねえ~……私が、黒葉にする事とか?」
「過剰すぎるわ」
「う~ん……だよね~……」
おい待て。
だよね~って、自覚はあるのか? むしろ、自覚しまくりなのか? 直せ、今すぐ直せ。速攻で。
「そうは言っても、私が黒葉に対してるのは、恋じゃないしね」
「ん? え? 恋じゃなかったんだ」
自分で言うと恥ずかしいけれど、こいつが俺へ向けている感情は、恋愛感情だと思っていたのだが……。
「うん。恋っていうか、愛だね」
「……」
カウンターきたぞ。
フェイントかけてからのカウンターだ。こっちが油断してガードが緩い時に、何倍にもしてカウンターだ。
やべえ、マジでビビった。
「だって、私の気持ちは変わらないよ。生ぬるい恋とかじゃない」
「……って言っても、恋が生ぬるい訳じゃないだろ?」
「そりゃそうだろうね。むしろ、愛情って、親愛的な意味でも使われるし。今じゃ、恋って方が分かりやすいよね」
「ん~……まあ、そうなのかな?」
正直、その境界が分からん。
辞書とかで調べてみよう。いや、調べてもあんま変わらんと思うが……。
「でも、愛してるって、好きってよりも、強烈だとは思うよね?」
「ああ、そうかもな」
言葉だけなら、そうかもしれないと頷く。
「黒葉」
「うん?」
「愛してる」
「……」
なんかもう限界。
こいつのフェイントには耐えられない。防御が効かないぞこりゃ。
「……でもさ、それって結局は言葉だよな。要はさ、気持ちとかの問題だろ? 好きって言っても、愛してる、ぐらい好きかもしれねえじゃん?」
なんか頭が痛くなる話だ。俺だけ?
でも、こういう話をやめるのは、出来るだけ納得してからにしてんだよな。
「だから結局、気持ちは言葉じゃ伝わらないんだよ。数値で出る訳でもないもん。心を言葉には置き換わらないって事だよね」
そう言って黙り込む瑠海。
え? もしや、今のでオチ?
ん~どうかなあ……合ってるけど、当初の質問とは違った感じに……。
「そいやさ、なんでもお前は変わらないの?」
「え?」
結構、真面目に疑問だった事を訊いてみる。
「ほら、その……俺……中学で、お前を……ふ、フッたじゃん? それで、高校で会っても、付き合わないって言ったよな?」
「うん」
「じゃあなんで、お前は俺の事を好きだって言えるんだ? 好きで……変わらず、いられるんだ?」
周りを見てみれば、フラレたら別の人。別れたら次の人。
そうやってる奴らばっかりで、どこか悲しかった。
そういう事もあって、俺は恋愛嫌いになったのかもしれない。
「う~ん……そう訊かれてもなぁ……」
苦笑いの表情で、瑠海は照れたように髪を指で弄っている。
「そりゃだって、好きだからじゃない? むしろ、相手に嫌いって言われたりして、変わるのかな? それは恋でも愛でもないと思うんだよね。それじゃあ、お前が好きだったのは、その人というか、自分を好きだと言ってくれる人なのか、って」
さも当然のように、瑠海は語り続ける。
「そりゃ、自分を好きじゃない人を想い続けるなんて、苦しいだろうけどさ。なんか否定的だったけど、さっき言ったような人を、責めるつもりなんてないもん。そんな権利ないし? でも、私は嫌かなぁ
……報われなければ消えちゃうような恋は」
「でも……それって、やっぱりキツくねえか? 好きな相手が、別の人と付き合ったりとかしたら、本当に報われないじゃねえか。それでも、想い続けるなんて、強要出来ないだろ?」
そりゃ強要はしないけど、と瑠海は笑った。
3年間も抱えた想いがある少女には、そういう意見もあるのだろう。
「それでも、片隅にはあって欲しいよね。少なくとも。私を本当に好きな人が告白してきても、私は断るもんね。あ~……でも、なんだかんだ言って、本当に好きだったなら……一時でも、本当に好きでいてくれたなら――」
「まあ、本当に想ってくれていたなら――」
少しだけ止まって、同時に言葉が紡がれた。
「「別の人を好きになってもらっていい」」
それなら幸せになって欲しいかもな。きっと瑠海なら、そう言うと思ったよ。
発現がハモったことで、俺も瑠海も顔を見合わせて笑った。
「だけど、私は心配ないかもね」
「何が?」
少し小走りに、瑠海が先を行く。
その後ろに、俺が声を投げかける。
「だって――黒葉だもんね。もしかすると、私をいつか、好きになってくれるかもしれないしさ。それまで頑張ってても、大丈夫そうだもん」
あー……つまり、俺は誰とも付き合わないと思っている訳か。
まあ、特にはないよな、そういうの。俺だし。てか、どんな信用されてんだよ。
「あ、でもでも」
振り向いたその顔は、なぜか少し寂しそうにも見えて……俺は目を細めた。
「黒葉が、誰かを好きになった時にはちゃんと――報われて、幸せになって欲しいかな」
◇
随分と朝から話してた気がする。
自分から振った話だけど。
「恋、ねえ……」
机にダランとなって呟く。
すると、前に誰かが立った。
「おおっ!? 遂にオメエも、そういう年頃かあ……」
「……何を感慨深そうに話してんだ。アホかよ」
何ヶ月もない付き合いなのに、なぜか成長した子を見るような目を向けてくる上繁に、俺はため息をついた。
でも、こいつなら、結構知ってるか?
「そんで、どうなんだよ、お前は」
「ああ? 俺か?」
上繁はなんとも言えないといった顔で、少しだけ考える仕草をした。
「ああ……このクラスの美少女の半分は、お前が独占してるしな……ううむ……やっぱり、あの子かな」
失礼すぎる事を言う上繁に、俺は再びため息をついた。
てか、こいつの言ってる美少女って、陽愛、桃香、瑠海だろ?
このクラスには、美少女が六人いるの? どこ? あ、この発言も失礼か?
「誰の事だ?」
「他校なんだけどよ。第二の一年生でな。今度の聖なる魔装戦に出るんだよ。スゲエ可愛いって」
「……何? 聖なる魔装戦に?」
そこで俺が頭を上げる。
思わぬ情報が入った。
「なんで知ってるんだ?」
「中学の仲間が、第二にいるんだよ。でも……そんな優秀ってはずじゃないとかなんとか……」
「詳しく話してくれ」
詰め寄ると、上繁は顔をしかめた。
「えぇ~……だってお前、その子のことを知りたいっていうか……偵察っぽい感じで知りたいんだろ?」
「そうだ」
「即答かよ!」
頭を振って、上繁は身体を伸ばした。
「駄目だな。そんな不純な動機で、あの子のことを話せるか」
「どっちが不純なんだよ、この場合って」
まあ、少しずるいかもしれないしな……同じ一年で出るっていうから、気になったけども。俺と戦うとは限らないし、知ってもどうしようもないかもしれん。
同じ一年で出るのか……どういう奴なんだろう?
頑張らないとな、やっぱり。




