表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/219

第102話 資料

 

 深夜二時。

 俺はベッドに座り、資料を手にしていた。何枚かは隣に散らばっている。

 被害者の一覧がある。

 俺の名前は欄の四段目……つまり、四人目の被害者だ。

「さて、と……この人は……」

 この捜査資料は最新のものなのだろう……通り魔事件の被害者、合計九人の名前、襲われた時の詳しい状況など載っている。

 

 五月二十三日の夜十時頃に、一人目の被害者。三十四歳の男性会社員で、帰宅中に襲われた。背中からナイフで一突き。重傷だったが、命に別状はなかった。

 

 五月二十五日の夜十時半頃に、二人目の被害者。二十九歳で自営業をしている女性で、コンビニへ行こうとしている最中に襲われた。背中からナイフで一突き。命に別状はなかった。

 

 五月二十九日の夜十時半頃に、三人目の被害者。二十歳の男子大学生で、帰宅中に襲われた。背中からナイフで一突き。命に別状はなかった。

 

 六月一日の夜十時頃に、四人目の被害者。十五歳の男子高校生で、友人宅からの帰宅中に襲われた。背中からナイフで一突き。命に別状はなかった。

 

 六月三日の夜十一時頃に、五人目の被害者。二十五歳の女性フリーターで、散歩中に襲われた。背中からナイフで一突き。噛んだような傷があったが、微量の出血のみ。命に別状はなかった。

 

 六月七日の夜十一時頃に、六人目の被害者。二十歳の女性。バイト先からの帰宅中に襲われた。背中からナイフで一突き。噛んだような傷があったが、微量の出血のみ。命に別状はなかった。

 

 六月十二日の夜十一時半頃に、七人目の被害者。十七歳の女子高校生で、バイト先からの帰宅中に襲われた。背中からナイフで一突き。噛んだような傷があったが、微量の出血のみ。命に別状はなかった。

 

 六月十四日の夜十一時半頃に、八人目の被害者。十七歳の女子高校生で、友人宅からの帰宅中に襲われた。背中からナイフで一突き。噛んだような傷があったが、微量の出血のみ。命に別状はなかった。

 

 六月十七日の夜十一時半頃に、九人目の被害者。十六歳の女子高校生で、コンビニからの帰宅中に襲われた。背中からナイフで一突き。噛んだような傷があったが、微量の出血のみ。命に別状はなかった。

 

 一通り読んで、ふうと息を吐いた。

 最後の事件なんか、昨日じゃねえか。いや、正確には一昨日か。既に日は越えてるから、今はもう十九日だからな。

 こうしてみると……後半は偏ってるな。

 九人中、六人が女性だ。しかも、四人目――つまり俺を境に、全被害者が女性。しかも、比較的若くなっている。

「噛んだような……傷?」

 ベッドの上にある別の資料を手に取った。

 一人一人の詳しい被害情報がある。傷は……腕や肩に一箇所だけらしい。

「なんなんだ……少しずつ、変えていってる……?」

 無差別に見えた連続通り魔事件……何か、目的があるのか?

 それに――さっきの少女。

 彼女は、自由に動ける(リバース)の人間だと言った。その彼女は、今まで何をしていたんだ? 江崎たちを助けるために、俺に協力するというのは分かるが……小鈴ちゃんは……どうなってる?

「はあ……駄目だ、混乱するわ。やめやめ」

 ボヤくようにして、俺は資料をまとめた。それを、机の引き出しに入れる。

 どうしようもない……とにかく今は、聖なる魔装戦セント・フェスティバルに集中しよう。

 

 ◇

 

「ん~……やっぱり、無理なのか」

 呟いて、俺は拳銃(パラ)をしまった。

 朝早くに登校して、校舎裏の練習場を使い、射撃訓練をしていたのだ。

 しばらく、こういうのはやってなかったからな……たまには大事だろう。

 そのついでに、不死鳥の魔法を使おうとしたのだが、やはり発動しない。

「あの力があれば……」

 ため息をついて、空を見上げる。予報だと雨が降るらしい。

 不死鳥の魔法があれば、俺は――

「早いな」

 突然の声に横を向くと、美ノ内先生が立っていた。

「おはようございます」

 頭を下げると、美ノ内先生はニコリともせずに片手を挙げて応じてきた。

「昨日は、なんか騒がしかったな」

「え……あ……はい」

 どうやら、詳しくは聞いていないらしい。

 てか……教師があれ(・・)を、騒がしかった、程度で済ませるなよ。

 無責任かつ無関心だな。

「お前……射撃の腕、良かったんだな」

 美ノ内先生が俺の射撃的を見て言った。

「え? ……あ、はい……ありがとうございます」

 点数にすると、八十点ぐらいだろう……そこまで、良いというほどでもない。

 時間的にも終わりでいいだろう――パラを、弾倉(マガジン)を抜いて空撃ちする。しまいながら、チラッと美ノ内先生を見る。

「ああ……特に用事ってもんじゃない。ただ、見かけたから世間話でもしにきた」

 俺の視線に気付いてか、軽い調子で言ってきた。

 この人が世間話かよ……なんか恐い。意味もなく恐い。

「どうだ……調子は?」

「えっと……ま、まあまあですよ……はい」

 曖昧に答えるしかない。

 不死鳥の魔法のことを、話す訳にもいかないしな。

「羽雪や鷹宮も、協力してるんだろ?」

「へ? 羽雪さんと……陽毬さん、ですか?」

「ああ、羽雪は第五期卒業生だからな。元、教え子だ」

「あ、そうなんですか……」

 第五期……兄さんの世代の、前の年……つまり羽雪さんは、兄さんや陽毬さんの先輩か。一つ上。

「羽雪は、魔装法を使う才能がなかったな」

 そんな言葉に、俺は驚く。

「え、そうなんですか?」

「ああ。何度も実戦訓練を積んで、あそこまで魔装力を伸ばしたんだ。元々、戦闘センス自体は良かったからな」

 そうか……確かに、戦闘センスは高かった。

 それにしても、あの人は努力の天才でしたか……どうりで、師匠に選ばれる訳だ。

「さて、と……もう戻るか」

 美ノ内先生はくるりと方向転換して、校舎に戻っていった。

 意外な話を聞いたな。

 俺も後片付けをして、教室へと向かった。

 

 ◇

 

 昨日の事を思い出し、教室の扉に手をかけて逡巡した。

 いや……ここで立ち止まってて、どうするんだよ。

 思い切って扉を開け、中に入る。

「おっはよう!」

 意外なことに、背後から声がした。同時に、背中を軽く叩かれる。

 驚いて振り返り、確認する。

「ひ、陽愛?」

「何を驚いてるの?」

 微笑みながら、陽愛は小首を傾げた。

 そのまま、スタスタと自分の席にまで歩いていく。

 そして、未だに動かない俺の方へ、顔だけで振り向いてきた。

「ほら、どうしたの? 不思議そうな顔してさ」

 笑う陽愛の言葉に、俺は教室を見回す。

 桃香、瑠海、品沼が、俺を見て笑っている。

 

 そっか……そう、だったな……。

 

 俺のいる場所って、確かにこんな感じだった。

 

 不死鳥とか、人間とか、小さく霞むぐらい、大きな場所だった気がする。

 

「……ああ……ごめん、おはよう」

 俺も笑って、自分の席に向かう。

 恵まれてるよ……俺は。

 

 ◇

 

 午後に桃香が早退した。

 特に大きな病気や怪我でもない。元の、身体が弱いことなどがあって、少しばかり体調を崩したようだ。

「今日は、気温が一気に上がったからね……」

 陽愛が呟くように言った。

 確かに今日は、六月にしては暑かった。今までそうでもなかったんだが。

「私だって、かなり具合悪いよ~」

 瑠海がぐったりと、机に身体を預けている。

 品沼も無言で頷いている。

 そうだな……七月に入ったら、雨が続くような話もあったが……。

「そういや、聖なる魔装戦セント・フェスティバルって、雨降ったらどうすんの? あれって、屋外試合場じゃん」

 直接見たことはないが、コロッセオのようなフィールドで、完全な屋外だったハズ。

 品沼が遠くを見るようにして答えてきた。

「多分……魔装法の、何らかのサポートとかが入ると思うけど……」

「まあ、降ったら、だしな」

 今は関係ないな。

 そうだ。今日は特訓もないし、桃香の家に行くか。

 

 ◇

 

 タイミング悪く、陽愛も瑠海も用事があり、品沼も生徒会に方で集まりができたらしく、誰も来れなかった。なので、俺一人になってしまった。

 俺だけって……なんか桃香に悪いな。

 そうは思いながらも、折木家到着。

 来るのは二度目……それに、前回も見舞いだった気がする……今度は、普通に遊びに来よう。

 インターホンを鳴らして少し待つと、桃香の母親が出てきた。

「は~い……あら、白城くん? どうしたの?」

「こんにちは……今日、桃香さんが早退したので……」

「あらあら、それで? ありがとうね~。さ、上がって」

 人の良さそうな態度で、折木母は俺を家に入れてくれた。

「ごめんなさいね……あの子、今寝てるから、お茶でも飲んでて?」

 そう言われて、俺はリビングへと通される。

 座っていると、折木母がお茶とお菓子を持ってきた。

 お礼をして頂くと、向かいに座っている折木母が、微笑んで俺を見ていることに気付いた。

「白城くんのこと、よく桃香が話すものでね……気になってたのよ。この前は、話す時間もなかったし……」

「桃香が、俺のこと……?」

「あらあら、桃香(・・)、ですって」

 言われて、自分で自分が赤くなるのを感じた。

 確かに……前まで呼び名は、折木、だったけど。

 それにしても……俺のことを話していた?

「あの子、小学校からあなたのことを話してるわ。実際に会ったのはこの前が初めてだったから、すぐに分からなかったけど」

 え……マジ? 桃香は、俺のことを小学校から知っていたのか。そりゃ、長い間同じ学校なんだしな……。

「すみません……俺、小学生時代はあんま憶えてなくて……クラスとか、どうだったんですかね?」

 正直に言うと、折木母は笑った。

「無理もないわ。あの子、大人しかったから……あ、今もだけど。特に、目立つ子じゃなかったものね」

 否定のしようがない……ううむ。

「それに、小学校は一年生と三年生の時だけ、同じクラスだったの。それじゃ、憶えてないわよ」

「でも……桃香は、憶えていてくれたんですよね?」

「……そうね、あの事があったからかしら?」

「あの事?」

 首を傾げると、折木母は頷いて、俺の憶えていない俺と桃香の話を始めた。

 

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ