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0820 ~パラドックス~  作者: 加藤水城
第三章 峰崎鈴香という委員長
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第三章 峰崎鈴香という委員長(1)


 第三章、スタートです。

 二章より遥かに長いので、お付き合い下さいませ。



  

 

 

 人っていうのは、神経回路の集まり……俗に言う所の『心』ってモンで動いてる。

 うら若き青少年でなくても、その神経回路の集まりを掌握したいと願う事が一度はある。

 その願いは叶う。そう言われたら君はどうする? 何を選択する?

 それは。

 

 

 

 

 峰崎鈴香(みねざきすずか)は二年E組の委員長だった。

 如月竜也とは去年と同じクラスで、これと言って特筆するべき友好関係ではないがそれでも『ああ、委員長だなぁ』というオーラが伝わってくるような人物だった。

 しかしいくら特筆するべき友好関係ではないにしても、その誰に対しても良い人当たりと豊満なボディに釣られて話しかけたのが去年の話だ。それから結構ウマが合って、今でも親密とまでは行かないがそれなりのポジションだとは思う。

 …………という感じで久しぶりに去年の事を竜也が思い出していた理由は、自室にある机の上にあった一冊のノートの存在を認知したからである。

(…………あー、懐かしいな、これ)

 竜也はとっくに眠りから覚めていた頭を使ってベッドから身体を起こして、真向かいにある机の目の前に立つと、机の上にあったノートを片手に取る。

 そのノートには緑のマジックで『一年B組の記録~入学から進級まで~』と書いてある。

 まるで入学から進級までのガイドブックのようなタイトルだが、竜也の去年の担任が進級前にクラス全員に渡したノートである。しかし、このノートはただ単に毎日クラスの生徒がノートに日記を書き担任が目を通して感想を書くだけなので、『一年B組の記録』よりはこのノートは『如月竜也の記録』とした方が正しいかもしれない。

 頭をボリボリと掻きながらそのノートを机の上に置くと、竜也は自室の扉を開け放ってリビングに出た。

 と言っても、この家には竜也しか現在は暮らしていない。

 祖父母や従兄妹、それに従兄弟……あと従姉妹や従姉弟からの仕送りによって生活費には困っていないが、それにしても家族失踪は心底ビックリしたと竜也本人も思っている。

『あの日』を境に、竜也の家族は行方を眩ました。とても唐突に、突然に。

「…………………………………………はぁ」

 しかし湿っぽくなってもしょうがないと踏んだのか、竜也はキッチンに立つと今日の弁当は昨日の煮物が残ったからそれでいいかなと考えて、そこでふと気付いた。

 

「眷属よ、朝食はまだか?」

 なんか、リビングのテーブルに平崎 夕が図々しく顎を乗っけてだらけていた。

 

「……………………………………………………………………………うぇい?」

 呆けている竜也を見ると、平崎は苛立った様子で声を荒げた。

「朝食はまだか! ちなみに今私はとても玉子のサンドウィッチが食べたい」

「コンビニで買って来いそんなの! というかお前、どうしてここにいるんだ!」

「貴様の所為であの力がぶち壊されて、家事をしてくれる人もいなくなったのだ」

「あー……、じゃあお前、本当の両親の所行ったのかよ?」

「今は病院だった。まあいつも親不幸者だったからな私は。少しの間お見舞いに行かなくても別に大丈夫だろう。―――――――――それで、重箱の弁当はまだか?」

「弁当ってお前……人に昼飯までたかろうとすんじゃねぇ! 購買で買えそんなの!」

「購買のパンは不味い。というか添加物が足りない」

「お前、焼きそばに玉子にさらにベーコンが挟んであるだぞ購買のパンは! それで添加物が足りないって…………」

 すると平崎は得意気な顔……つまるところのどや顔をして、

「フッ、言っておくが私はいくら食べても太らない性質だ」

「よし。朝飯はサラダと野菜スティックな」

「スルーされた挙句肉類も炭水化物も一個もないだと!?」

「だってお前、ちょっとはあの力残ってる筈なんだからよ、自分はもう朝飯食べたって妄想すればいーんじゃね?」

「それが……その、使い方が………もう思い出せないのだ」

「……思い出せない?」

「いや、正確には『分からない』に近いかもしれない。私はあの時は妄想するだけでその力が発動していた。しかし今の妄想はただの妄想で終わる。だから、分からないのだ」

「成程……というかよ、当然の疑問なんだが」

「なんだ?」

「お前、ここにどうやって入ってきた?」

 この家は二階建ての一軒家で、しかも周りは二メートルぐらいの石垣で覆われている。石垣の出入り口は外側からも開けられるが、しかし普通はそこが限界の筈だ。家の玄関を開けられる訳がない。

「私の眷属にしては凡ミスだな。いくら二階とはいえ、トイレの窓は閉めるものだぞ」

「えっ、お前二階から入ってきたの!? どーやって!?」

「どーやってと言われてもな……」

 平崎は窓の外……つまりは隣の家を指差し、

「あの家は私が住んでいるからな」

「――――――――――――――――――それなんてエロゲ?」

「残念だが、私はそう簡単に股を開く女ではないぞ」

「あんまり笑えない訂正をするな! というか、えぇー!? お前、いつのまにご近所さんだったの!?」

「『あの日』から」

「…………………え?」

「こっち側の設定だと、『あの日』電柱が私の家に倒れてきて家を全壊させやがったらしい。それで、何故か貴様の家の隣が空き家だったから入ったという訳だ」

「いや、ちょっと待てよ。俺ん家のお隣さんは……確か、基山さんだったはずじゃ……」

「だーかーら、そいつが出て行ったと言っている」

「いやウチの家族が失踪したのを見つけたの、最初は基山さんだぞ!?」

「失踪!?」

 しかし平崎は失踪というワードの方に敏感に反応した。

「し、しし失踪したのか!? 貴様の家族が!」

(……あ、そういえばコイツには何も説明してなかったな)

 心の中だけで頷くと、竜也はサラリとした軽い感じで言った。

「いや、『あの日』に俺の家族って全員蒸発したっつーか失踪っつーか……まぁとにかく、俺の家族がいなくなってな。それの第一発見者がその基山さんだっていう事だ」

「………………………ふむ。そういう事か」

「ん? どうかしたか?」

「いや、この家に引越し作業をしている時なんだがな。何か前の住人が残した手紙というかもう紙切れというか……とにかく、『片腕が落ちてる』とか不気味な事が記されていた」

「は? え、いやいやいや! そんな昔ながらのサスペンスホラーみたいな事は起きてないから安心しろ!」

「じゃあ、あの紙切れの意味は……?」

「い、いやー基山さんって、結構イタズラ好きだったからなー」

「痛面すぎというのはお前だろう」

「だれがイタヅラだ! そんな残念な顔じゃねぇ!」

「じ、自分で言うか普通…………」

 すると竜也は対抗するように、

「じゃあお前だって、『やーいこの雌豚面ビッチ女!』とか言われたら言うだろ!?」

「フッ、そんな事でこの十七年の時を生きる平崎 夕は怒らないな」

「やーいこの雌豚面ビッチ女」

「貴様ァァァァァァあああああああああ!」

 平崎は眼光を妖しく光らせながら飛び掛ってきて、逆立ちのような格好になると両手で竜也の膝の裏を掴み、両膝で竜也の首を絞めた。

「痛たっ、痛い痛い痛い痛い!? 怒らないって言っただろ嘘つき! あっ、ゴメンね誰も思ってないよ君は雌豚じゃなくて七面鳥だよイタタタタタタ!!」

「七面鳥も豚も結局は食用肉だろォォォォがァァァァァァァああああああっ!!」

「あガァああああああああああああーっ!?」

 ちょっとアブない人みたいな叫び声を発すると、竜也はそのまま倒れて動かなくなってしまった。

「……ふ、フフ。この平崎 夕に暴言を吐くからこういう事になるのだ。思い知ったか?」

「いや、暴言吐いても怒らないっていうから言ったのにぶべっ」

 平崎は竜也の頬を踏みながら、

「なにか言ったか?」

「ずびまべん………」

 取り敢えず竜也は、近くのコンビニにひとっ走り行く必要がありそうだ。

 

 

 平穏無(有)事に家から脱出した竜也は、平崎と共に高校へと続く道へと足を進める。

 竜也たちの通う高校である私立有岡高等学校は、池袋では結構有名な新学校だ。決して進学校ではなく、ただ単に新しく去年開校したという話だが。それでも地元の頭の良い学生はそれなりに集まっている。山手線の通じる駅がすぐそばというのも人気の一つなのだろう。あと強いて挙げるならば、制服のデザインが評判らしい。

 人が結構通る大通りの歩道は、昔の歩行者天国を彷彿とさせる賑わいだった。『あの日』からまだそう経っていないのに、随分と町並みは戻ってきている。そんな人混みの中を歩きながら、竜也は平崎にふと疑問を投げ掛けた。

「そういえばさ、平崎」

「なんだ?」

「お前の両親の病院って何処なんだ?」

「何故そんな事を聞く?」

 竜也としては純粋な興味だったため、特に理由はない。

 結果としてノーコメントとなってしまったのだが、しかし平崎は答えてくれた。

「私の両親は、今は御茶ノ水の病院にいる。もっとも、あと数週間で退院だが」

「そっか。良かったな」

「…………………………うむ」

「やっぱり退院したら、あの家に住むのか?」

「いや、どうやら渋谷に新しい家を買ってあるらしいからな。今度はそっちだ」

「そっか。ま、アキバとかには近くていいのかもな」

「………………貴様、まさか私の事をオタクだと勘違いしてないか?」

「オタクだろう。『何かに熱中する』という意味合いに関しては」

「その手の言い訳をする輩が最近いるが、それを言うのは大概自分が美少女とか十八禁のゲームとかに手を出しているのを正当化したい豚どもだ」

「俺にはちんぷんかんぷんだが、とにかくお前はオタクだろ?」

「違うと言っている。私を現実と理想の区別のつかない豚と同列に見るな」

「理想=妄想に近いモンがあると俺は思うけどな」

「貴様……とことん嫌味だな…………」

 すると竜也は慌てたように、

「あ、悪い。別にお前の昔をほっ繰り返そうとかそういう事じゃなくて。ただ、妄想を卒業したんなら、そろそろ偏見で人を見る目も矯正した方が良いかと思って」

「矯正という言い方が気になるが………、まあいい。こちらも言い過ぎたな、詫びよう」

「おっ、何かお前が素直だと気色悪いな」

「ああん!?」

「ゴベァッ!」

 鳩尾を見事に膝で蹴り上げられ、竜也は朝と同じように路面に突っ伏す。

 と、アスファルトの感触の所為ではないが竜也は用事を思い出した。

「…………ヤベ、忘れるトコだった。悪い平崎、先に学校行っててくれないか?」

「それは構わんが……何か幼児化?」

「なんで俺が幼児へ逆戻りしてるんだ! そこは普通『用事か?』って聞くトコだ」

「すまんな。ではもう一度。………洋二か?」

「名前みたいに呼ぶのやめてもらおうか!?」

「すまんな洋二。では、私は先に行っているぞ」

「おう――――ってちゃっかり俺の名前が切り替わっているだとう!?」

 しかしそれには反応してくれず、平崎はさっさと行ってしまった。

 その姿を背後のアングルから見ながら、竜也は一言。

「…………………やっぱ、黙ってれば可愛いんだよな」

 遠くにいる平崎の肩がビグンと震えた気がしたが、多分気のせいだろう。

 という訳で竜也は、いつもの通学路を少しだけ外れた道へと足を進めた。

 

「…………さて、と」

 竜也は平崎と別れてからものの七分程度で目的地には着いてしまった。

 まあ、校舎がすぐ近くなのだから当然と言えば当然か。

 現在竜也が来ているのは、現校舎の真裏に残っている建造物―――旧体育館。その残骸。

竜也や高校の生徒からは『怪談館』の名称で知られる建物だ。

 あの高校の校舎は昔の別の学校の校舎をそのまま増築などしたのだが、昔の体育館とは別に体育館を新しく設置した為、この体育館は来年の春まで取り壊される予定はない。そんな遠い日程にするから生徒たちの間で奇妙な怪談話が流れたりするのだが、学校側としては『んなの知ったこっちゃない』という感じだろう。子供の噂に流されている暇はないという事だ。

 外見は当然のように古びている。あちこちに青かびが生え、白いコンクリートの壁は薄汚れて余計な不気味さを醸し出している。

 竜也は入口の目の前にあった進入禁止の柵を平然とよじ登り侵入すると、誰にも見られないうちにと自然に早足になりながら体育館の錆付いたドアを開ける。

 ドアを開けると、そこには下駄箱のような空間が広がっていた。大方、行事の際などに来賓を持て成したりする時に使っていたのだろうが、それにしても無駄に靴棚が多かった。

「お邪魔しますよっと…………」

 そこをすり抜けると、続いて廊下のような通路に出た。

 中央にはホールへと通じる入口がある。左側には女子トイレや女子更衣室などがあり、右側には男子トイレや男子更衣室が設置されていた。更衣室は共に何故か窓があり、どちらの窓も全開にすればどちらの更衣室からでも中の様子を伺えるのだが、それは見事に靴棚の群れが遮っている。竜也は以前に少しだけ聞いた、栄光の眼福を前に泣き崩れた男達という都市伝説を少しだけ思い出した。

(…………さて。九条のヤツが馬鹿正直にあっちのホールにいるとは考え難いし……いやでも、そういう人の思考の裏を掻きそうなヤツでもあるなぁ………)

 後頭部をボリボリと掻きながら、取り敢えず竜也は遠慮なしに体育館のホールへ足を踏み入れる。

 そこの中央では、白衣の男が仁王立ちしていた。

「すみません部屋間違えました」

「まあ待とうぜ如月君。俺ぁ君の報告を待ってわざわざここで年甲斐もなく仁王立ちしてたっていうのに、その反応は冷たいと思うよ?」

「誰が指定場所のど真ん中で仁王立ちする白衣のオッサンに優しい反応を返す!」

「誰だいその見るからに怪しそうなプロフィールは」

「今俺が言ったのは何から何までお前自身のプロフィールだ!」

「ちなみに気付いたかい? 俺ぁ昨日と違って黒いマントを羽織ってないんだぜ」

「だぜってどや顔で言われても……」

 すると九条は軽く鋭い目つきになると、声の質をガラリと変えて口を開く。

「さて。それじゃあ如月君も時間はあんまり無いだろうし、手短に済ませようか」

「……取り敢えず、『妄想』の一件は一通り解決したよ。後々の影響は計り知れないけどな」

「ま、そこは周囲が次第に慣れていくさ。それで……まあ、異能者自身はどうだった?」

「どうだったって………ま、意外にあっさり受け入れたな。今朝だって馬鹿暴れしてたし」

「なら良いんだ。折角解決したのにまた再発、なんて事は勘弁願いたいしね」

「そうだ九条。ちょっと質問なんだけどさ」

「はーい始まりました。九条さんのQ&Aのお時間がやって参りましたよー」

「自然に毎回恒例のコーナーの如く話を進めるな! まあ質問は本当だけど……」

「それで如月君、質問ってなんだい? 女の子の落とし方なら分からないよ」

「話を捻じ曲げるな! 俺が知りたいのは俺の『異能』の事だ」

「別に、『時間』と認識してればいいんだけどなあ……」

「いや、『異能』が暴走……したのかな。とにかくヤバイ状態の平崎に大立ち回り演じてみたんだけどさ、その時『妄想』の膜みたいな壁が迫ってきて、俺はその時『異能』の使用後から三時間のリミットはまだ過ぎてなかったから使えなかったんだ」

「それで?」

「それで、その時とにかく『止まれ』って念じて目を閉じてたらさ………なんか、凄い音が鳴り響いて気付いたら膜は通り過ぎてたんだよな。どう考えても『異能』と関係あると思ったんだけど、何か知らないか?」

 すると、九条は少し考えたり探りを入れるような視線を向けた後にこう言った。

「………………………多分、それは応用編その一だね」

「応用編?」

 竜也が首を傾げていると、九条はそのまま説明を始めた。

「君の『異能』は、指定した範囲の時を一定時間だけ停止する力だ。それは昨日の説明でおおよその察しはついているね?」

「まあ、大体は」

「でも俺は、その指定した範囲の定義は言ってない。そうだね?」

「………あ、確かに」

「まあ言っちゃえば、『如月君の体表面の時間だけを止める』という事をすれば、それだけで君の身体は鉄壁の守りを手に入れる。『時間』が進んでいない膜なんて、この世の万物でも壊せないだろうし。それに、範囲が狭ければ狭い程持続時間は長く継続される。体表面に膜のように『異能』を貼り付けた場合………ざっと十五分ぐらいはその状態を維持出来るだろうね」

「…………いやいやいやいや。だって、そんな事出来るとしても結局は三時間経ってない時の話だぜ? どっちにしろ発動は無理な筈だろ―――」

「俺が言ったのは『完全回復』が三時間後ってだけだよ。身体の体表面のコーティングなんて、能力発動してから三十分でも休憩挟めば一瞬は発動出来るね」

「………………………………………えー」

「まあ、一瞬の内にそれも無意識で体表面のコーティングなんてやってのけるとは凄いと賞賛に値するけどね。そんな真似やってのけたの、君が三番目ぐらいだよ」

「な、なんか微妙な数字だな……」

「いやいや。これはローマ法王と並ぶレベルの快挙だね」

「えっ、マジで!?」

「嘘だよ。どうして君如きとローマ法王が肩を並べるんだい」

「………………………………………………………ちょっと期待してたのに」

「まあまあ落ち込まないで。ここでバッド&グッドニュースだ」

「せめてグッドを先頭にしろ!」

「まずはグッドの方から。………なーんか、最近は君の周囲に『仝』の気配があるね。よかったよ、これでまた一歩君がモテモテ男への階段を上る」

「どこもグッドじゃねぇよ! むしろまた『異能』持ってるヤツいたんだろ! むしろスゲェレベルのバッドだよ!」

「モテモテ男は突っ込まないんだね」

「それはなりたい」

「切実な願いだったんだ………。それはともかく、あとはバッドの方だ」

「グッドでさえあの仕打ち……バッドはどんな話なんだ…………………」

「あの水の子の『仝』が、だんだん強まってきてる」

 その瞬間、ふざけた空気が一瞬で変わる。息が、詰まった。

「―――――――――――どういう、事だ?」

「あの子の暴走へのゲージが溜まってきてるって事さ。ま、三日後には対策が打てるらしいし気にしなくてもいいんだけどね」

「み、三日後と言っても必ず成功する訳じゃ……」

「じゃあどうする? このまま彼女を暴走させて真正のバケモノにするのかい?」

「………………それは、させない」

「なら良い。このまま頑張ってくれよ。…………さて、そろそろ時間は押しているんじゃないかい? 高校へ行く事を推奨するけど」

「なんかその言い方だと、中三の進学希望みたいだな……。まあ俺もそろそろ行く気だったし、それじゃあな。また放課後でも来た方が良いのか?」

「来れたら来て、って感じかな?」

「わーった」

 その言葉を尻目に、竜也はホールを後にした。

 ………これは後々気付いた事実だが、旧体育館と新校舎の裏門は鍵もないドア一枚で繋がっており、意外とスムーズに竜也は登校出来たのであった。

 まあ、遅刻ではあったのだが。

 

 


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