第二章 平崎 夕という妄想女(1)
第二章スタートです。
少し文章量は少なめですので、あしからず。
中途半端っていうモノ程厄介なものはない。それは全てを台無しにする魔法の言葉。
だがしかし、その中途半端を消すなんて事が出来るとしたら?
こちらもまた、中途半端を打ち消す魔法を持ってるとしたら……君はどう使う?
それは。
平崎夕とはあまり面識がなかった。
ただ単に同学年で、たまに合同の体育とかで見かけるぐらい。
見た目は肩までしかないバッサリとした紫の髪と緑の瞳でそれなりなのだが、なにせ言う事成す事全てが『イタい』。痛いのではなく『イタい』のだ。それなりに電波気味である。
だけど、もし。もしの話だ。
いくら自分が精神のどん底にいたって、もし溜息吐きながら登校したら校舎の一階のベランダ付近に人だかりが出来ていたとする。
そこに何気なく立ち寄ってみると、皆が皆上を向いていた。
上を見上げると、そこにはスカートが捲れるのも気にせず棒立ちする女子生徒が一名。
「……………………………っ!!」
それだけだ。
それだけの理由で、人混みに迷わず突っ込んでいくのは、間違っているのだろうか。
しかし、人の波というのは恐ろしい。自分の先ほどまでの無気力感も相まって、なかなか一番前までは辿り着けない。
(くっ、そ……)
そこで、周りの生徒がワァだのきゃあだの声を一斉に上げた。
それの意味するところは一つ。
女子生徒が、身を投げ出した。
その光景が、妙に眼球に焼き付いた。
このままで良い筈がない。
助けるんだ。そう簡単になくなっていいものじゃないんだ。
だから、止まれ。
頼むから、時間よ……、
「止まれェェェェェェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
思わず叫んだ直後、それは起こった。
世界が、灰色に変わる。
うっしゃあとガッツポーズは心の中に留めておき、竜也は停止したおかげで多少は通りやすくなった生徒たちの間を三秒で抜け、一番前に来た。あと二秒。
上を見上げると、灰色の空と自由落下中の女子生徒の姿が目に映った。もう二階部分にまで落ちてきている。上手く落下地点を予測し、場所を合わせる。
残り、一秒。
そして、
「ぅぅぅおおおおおおおおっ!!?」
ドスッ、とした重さが腕に伝わる。
上手くキャッチ出来たようだ。
自分の腕の中の女子生徒を見て、竜也はすっかり気が抜けてしまった。
「ふ、はぁぁぁぁぁぁ~………、………た、助けられたな……」
しかし、時間は動き出したはずなのに、周りにいる生徒達は騒ぐどころか、一言も喋っていない。しかしそれは他ならぬ竜也の突然の登場に、ただ戸惑っているだけだった。
「ん、うぅ……」
「!」
そこで、女子生徒は目を開けた。よく見るとバッサリと肩口で切られた髪が似合うような、高圧的な美人顔だった。
彼女は周りを数秒キョロキョロと見渡すと、竜也に向かってこう言った。
「……ほ、褒めて遣わすぞ、人間」
この場の全員が、その瞬間こう思っただろう。
((((((ハァ?))))))
という事で、如月竜也はその自殺ギリギリちゃん(今命名)と共に二年生のフロアに向かった。何を隠そうこの子も二年生で、二年B組の結構有名人だったらしい。
「それで、その…………平崎 夕だっけ?」
「それは真名ではないがな」
「…………………………………邪気眼め」
「何か言ったか人間?」
「うあぁ!? 危ねぇ! お前なんで純銀のナイフなんて持ち歩いてるんだ!」
「淑女の嗜み」
「真名を名乗らないのも淑女の嗜みか?」
「知りたいなら教えてやろう。我が真名はプロシテール・アグレインド・サキュレイト。古代より続く十二使途の、その隠されし十三番目だっ!」
「イタい。イタいよこの子。誰か助けてよっ!」
「な、神聖なる神の使いを冒涜するか!?」
あーはいはい、と適当に流しながら竜也は、
「それで? その神の使いさんとやらがどうして自殺願望なんだ?」
「呼ぶときは真名で呼べ」
「わーったよ。えーっと、プロシテール・アグレインド・サキュレイト。どうしてお前―――じゃなかった、どうしてプロシテール・アグレインド・サキュレイトは自殺なんかしようとした?」
「め、面倒だから真名じゃなくていいや」
「駄々っ子かお前は」
「特別に先程からの暴言は許してやる。だから真名じゃなくていいや」
「あっそうかい。それで、どうして自殺図った? 皆がダンマリ決め込んでくれてるから良いけどさ、一歩間違えれば大惨事だぜ?」
「………………………たかった、から」
「あ?」
「い、いやっ! ただ単に我の力はどの程度か確かめてみたかったのだ」
「…………ホントさ、お前。邪気眼はいいけどよ、自分の命を脅かすような真似はすんな」
すると平崎は頬を膨らませ、
「な、なんだ!? 貴様は我の力を信じていないというのか!?」
「そうじゃねぇよ」
だが竜也は、動じない。
妄想ではなく本物を目撃したのだから、その反応もいささか当然という物だった。
「……………邪気眼じゃない、『本物』を見た俺からのアドバイスだ」
「な、なんだ」
「もうそろそろ電波は卒業しろ。自分の人生、自分で狂わせる事ぁねぇだろ」
「え、」
何か言いたげだったが、竜也は自分の教室へと行ってしまった。
「………………………………………………………『本物』、」
廊下で一人立ち止まり、周囲の視線も気にせず平崎は思い出す。回想する。
あの時、屋上に誰もいなかった。
飛び降りる瞬間まで、ドアが開いた音もしなかった。いや、飛び降りる寸前に音はしたが、その距離を埋めて空中まで飛び降りるなんて真似出来るとは思わなかった。
『本物』を見たという、あの男。
「――――――クックック。このプロシテール・アグレインド・サキュレイト」
長い前髪で、片目を隠しながら一言。
「……………………五百年の時の中、ついに人間に興味が湧いたようだぞ?」
そしてその頃、竜也は。
「………へ、…………へ、……………」
自分の席で盛大にくしゃみをしていた。
「――――ぶぇっくしょんっ!!」
「大丈夫?」
と、横から聞いてきたのは氷室 奏だ。
「……お、おう。奏か。大丈夫だ、くしゃみくらいなんともない」
「朝の足の方」
「足……? ああー……」
竜也は朝の事を思い出す。
常人から見れば、あれは平崎とやらが落ちてきた直後に竜也が途轍もないスピードでどこからか現れ、上手く衝撃を殺して平崎をキャッチしたように見えたのかも……しれない。なら、足の心配をされるのも道理というものだった。
「いや、大丈夫だ」
「ならいいんだー。それだけ心配だったからー」
すると奏は竜也の机からゆるりゆるりと離れていく。
「っと、何だ? どっか用事か?」
「いんやー、今日って日直だからー」
「そっか。ま、影宮の事だから何も言ってこないとは思うけど」
「そだねー。それじゃ」
「ん。また後で」
挨拶を済ませると、奏はテクテクと歩いていってしまった。
「……………………………さて、と。後は………………………」
竜也は周囲を見渡す。
そこには、
『ねぇ如月君、結局あの後どうなったの?』『うるせぇアマ! 如月は俺と話してついでに平崎さんともお近づきにグヘヘ』『キャーケダモノーっ!!』『だ、誰がケダモノだこの!』『新聞部です! 如月竜也さんに直撃インタビューします!』『オイ、誰か新聞部の妨害しろよ! コイツらターゲットにしたヤツは三日間離さねぇぞ!』『そんな事言っても、私達じゃどうにも出来ないし……ってうわっ!?』『如月君! 君のその落下してくるのを視認してからクッションになるべく受け止めるまでの瞬発力、気に入ったよ! 是非とも我がラグビー部に来てその瞬発力で全国へ羽ばたかないか!?』『勧誘来んな呼んでねぇ!』
人の、壁。壁。壁。壁。壁。壁。壁。壁。もといもう波。
(まったく、コイツらは―――――――――――っ!)
前日の喪失感も相まって、どことなく苛立ってきた竜也はガタンと立ち上がり、
「何かなぁ? 僕、今すご~いイラついててさぁ。多少ヤってもイイなら用件を聞くよ?」
瞬間的に。
ズザザザザザザザザッ!! と壁を造っていた生徒全員が土下座をした。
『『『『『『『『『『『『『すいませんでしたっ!!』』』』』』』』』』』』』
それを見ると、竜也はすぐさま席にガタンと座り、
「分かってくれたならいい。取りあえず皆、自分のクラスで怯……大人しくしてようか?」
『『『『『『『サー! イエッサー!』』』』』』』
「ここは米軍か」
ツッコミを入れると、その場にいたほとんどの生徒が『あれで体育祭走ればいいのに』というスピードで散っていき、奇しくも竜也と同じクラスだった生徒は廊下へ逃げた。
(………はぁ。このワザが役に立つとはなぁ……………)
実を言うと、竜也の従兄妹、その兄の方が元暴走族というかチンピラで、昔の事だが従兄妹の家に行った時にチンピラの『なに見てんだよあぁん!?』的なガンの効かせ方を頼んでもいないのに教えてくれたのだ。深夜だったため半ば睡眠学習のように覚えてしまったから、何となく実演してみたらこんな事になった。
(……しかし、『ヤっても』はマズかったかなぁ。『殺っても』ならまだしも一部のそれも女子が『犯っても』なんかと勘違いしたら、間違いなく俺の青春大気圏外へ吹っ飛ぶなあ)
そんな事をつらつらと考えていると、自然と視線が斜め前の席に移動した。
しかし、その席にいるべき人物は今日、来ていないようだ。
(………まあ、まだあと十分ぐらいは門限あるし)
壁時計を見ながらそんな事を考えていると、そこでまた面倒なのが来た。
「お~い竜也ぁ! お前、最近有名人だなぁ!」
何故か上機嫌そうなテンションで……いや、万年このテンションだからいつも通りのテンションで、隣のDクラスである桜崎が肩をバシバシと叩いてきた。
「………………何だよ桜崎。どうかしたのか?」
「どうしたもこうしたも、お前が自殺を未遂で終わらせたって話だから見に来てやったんだ。光栄に思え、そして控えよ。貴様の目の前にいるのは桜崎卿であるぞ!」
「へへー。桜崎卿、ゴミ箱とポリバケツを献上いたしますので帰れコノヤロウ」
「うわっ、お前、マジでゴミ箱投げてくるヤツがあるか!」
すると竜也は平然とした顔で、
「いや。何となくイラッときたから。八つ当たりした」
「じゃあ俺は九つ当たりしてやろうか!」
「あんまり上手くねぇな。十三点」
「よし、この前の数学よりマシだ」
「……お前さ、自分の低い点数で自虐ネタすんの、いい加減くどいぞ?」
「え、俺そんなにくどい?」
「ああ。凄くくどい。めっさくどい。面倒臭いを通り越して呆れるぐらいにくどい」
すると桜崎はガクッと崩れ落ちた。
「な、なんてことだ………。ただ親しみを込めるだけじゃ駄目だというのか………?」
「友情にも礼儀があるって事だな。分かったか?」
「く、今回は教わったぜ………」
「よし。なら、自分の教室でもっと勉強してこい」
「おうよ! もっと接しやすい人間になってみせるぜー!」
アハハハハハハ! と奇妙な笑い声を発しながらDクラスへ桜崎は走っていった。
「……………ふぅ。邪魔者は消えたな」
と、一息吐いて竜也は暇だから本でも読もうとした。
した、のだが。
「ほう。人をいなす口先の術が得意なようだな。眼光もなかなかだったぞ?」
気付くと後ろには、さっきの自殺未遂電波女がいた。
「………………………………リターンしろ教室へ」
「ほう。人をいなす口先の術が得意なようだな。眼光もなかなかだったぞ?」
「リピートじゃねぇよリターンだよ! 何の用だ!?」
「いやはや、我が真名を知る数少ない人間に興味が湧いての」
「お前が教えたんだろ」
「どれ、試してみるか。………我が真名を言ってみよ」
「プロシテール・アグレインド・サキュレイト」
「…………なかなかどうして、それなりの知能はあるようだな」
「お前はもっと頭を使え。そしたら自分の言動がどれほどイタいか分かるから」
平崎は可愛らしく(と言えば殺されそうだが)上目遣いで睨んでくると、
「………貴様、どこまでも我を愚弄する気のようだな」
「お前さ。黙ってるか普通にしてりゃ可愛いんだから、もちっと言動直せよな」
「か、可愛…………、~~~~~~~っ!? せ、精神攻撃か貴様!?」
「してどうする!」
顔を真っ赤にした平崎は、そこでずいっと顔を寄せてきた。
「うおっ!? ……………………ど、どうした?」
「貴様、さっき『本物』を見たことがあると言ったな?」
「ん? …………あぁ、さっきな。それがどうした?」
平崎は神妙そうな顔で、
「その言葉に、偽りはないか?」
「ねぇよ?」
「………疑問符が気になるが、まぁいい。我の話を聞け」
「………………………………………………そう言われてもなぁ。あと十分でHRだぞ?」
「五分もかからん。聞け」
「んなら、はいどうぞ」
達也が先を促すと、平崎はおずおずといった珍しい萎縮した感じになった。
「…………貴様は、………その…………………超能力というのは、信じるか?」
「ちょーのーりょく?」
明らかに小馬鹿にした返事に、平崎は一瞬だけ眼光を光らせた。が、そのまま続けた。
「確かに存在するが、到底信じてもらえないような………力」
「ああ。ま、この前もそんな事があったしなぁ」
「この前…………?」
「いや、何でもない」
昨日九条に話された話では、超能力は『観測者にとっての事象を騙し』、異能は『観測者にとっても自分にとっても事象を捻じ曲げる』力という事らしい。
そんな事を頭の片隅で思い出しながら、竜也は更に促す。
「続けてくれ」
「わ、私……じゃなかった、我にもその力があるかもしれないのだ」
「…………………………………えぇー」
「あ! 何だその完璧に疑っている目は! 本当だぞ真実だぞ!」
「だから駄々っ子かっての。というか、そこまで言うなら見せてみろよ。超能力」
「いいだろう。……フフフ、聞いて驚け、見て慄け………」
「聞いて驚くのは難しそうだなぁ」
すると平崎は、左手をスッと差し出すと袖を肘の辺りまで捲くって見せた。
「人間よ。ここには何もないな?」
「ん? ああ、肘まで全部ただのキレイでピチピチな肌があるだけだな――って痛っ!?」
「き、キレイだのピチピチだの言うな!」
平崎は思わず右手で竜也の後頭部を激打していた。
竜也は軽く涙目で、
「そ、それで。超能力ってのは?」
「うむ。見ておれ………………………、」
そして、平崎が左手にゆっくりと力を込める。
軽く握るような仕草をしながら、じわじわと。
そして、辺りの空気が静寂に包まれた時、だった。
バヂンッ!! という放電音……いや、破裂音が鳴った。
その左手には、純金のフォークが出現していた。
「え、………っと、………………………マジかよ」
「マジ」
「お前、本当に超能力者だったんだな………」
とはいえ、さほど驚く事でもなかった。
『超能力者』と言えば『手品師』と同義だ。純金のフォークをどこかに隠していたのだろうと検討はついたのだが、
「…………えーと、それで? どんなタネなんだよそれ?」
「…………物分りがこういう所だけ悪いな人間よ。正真正銘何もない。マジシャン風に言うならば『タネも仕掛けもございません』だ」
「その台詞言う時に限って、タネも仕掛けもあるんだよ」
「むー。信じると言ったから見せてやったのに……」
「一言も言ってないけどな」
「こ、これ以上侮辱するようなら貴様に最大級の恐怖を見せてやるぞ!」
「揚げ足取っただけだろ。大体、最大級の恐怖って?」
「そ、それは………その……………こ、こう、怖いんだぞ! 泣いちゃうんだぞ!」
(ヤダ可愛いこの子)
と、竜也はアブない感じになりかけた思考を振り払い、
「と、とにかく、俺の知り合いに話してはみるから。それで良いんだろ?」
「…………まぁ良い。それでは、失礼するぞ」
「おう。…………あー。あと、早く行かないと死ぬぞお前」
「??? 何がだにんげ―――、」
言いかけた、時だった。
「たっつやせんぱぁぁぁ――――――――――――いっ!!」
とんでもない音を立てて、平崎が踏み潰された。
その上には、藍色の髪を赤いヘアピンで止めた、痩せ型の女の子が立っていた。
「出たよ………、」
「で、出たとは不躾です! これでも先輩の許婚として頑張っているんです!」
「うるせぇストーカー。変な設定加えんな」
この女の子の名前は柏木紫と言って、日夜竜也を尾行する変態。変質者。ストーカー。
しかし頭脳明晰で機械類の大手メーカーのお嬢様という事もあり、今では特待生扱いだ。
「お前さ、折角の特待生なんだから、俺なんかに構ってないで機械の勉強しろよ」
「嫌です! 先輩と身体の勉強ならしたいですけど………」
「こんな後輩を持って俺は不幸だよ」
「その台詞、詩音ちゃんが聞いたら泣きますよ?」
「知らねぇよ」
実は紫と竜也は小学校からのご近所さんで、昔はよく後輩の女子グループに強制参加で入れられ、馬鹿にされた記憶がある。なのであまり思い出したくもないのだが、
「……………そういや詩音のヤツ、もう大丈夫なのか? 精神科行ったって話だけどよ」
「はい。もう大丈夫みたいですよ。ところで竜也先輩」
「何だ?」
「私を犯したいと思いませんか?」
「思わねぇよ! 何でそんな『お腹空きませんか?』みてぇなノリなんだよ!」
「…………………う、うぅ。いい加減降りろ下衆が………」
呻き声を上げたのは、ずっと紫に踏み潰されていた平崎だ。
「あ。ごめんなさい」
「き、貴様、一年の人間だな? 年下の分際で、よくも我を足蹴にしてくれたものだ!」
「ところで竜也先輩」
「人の話を聞けぇーっ!」
という会話に始まり取っ組み合いが起こってしまった。
「お、おい止めろって。もうすぐHRだ、はやく教室戻れ! 紫は特待室!」
「まあ、先輩が言うなら…………」
「我が眷属が言うのなら仕方あるまい」
いつ眷属になったんだ、というツッコミをすると長引きそうだったのでしなかった。
二人が教室から出て行くと、流石にHR前だからか教室にもわらわらと人が入りはじめた。勿論、達也の近くには壁でもあるかのように誰も近寄らなかったが。
竜也は天井を見上げながら、ポツリと呟く
「しっかし、純金のフォークねぇ………」
あんな高級そうなフォーク、たかがマジックの為に持ってくる必要があるのだろうか?
それ以前に、本当にあれは『超能力』……『手品』なのだろうか?
もしかしたら、本当にもしかしたら。億万分の一ぐらいの確率、とも言えないが。
もしもあれが、『超能力』と対を成す『アレ』だったとしたら。
(………しゃあねぇか。今日はアイツも来てないみたいだし……報告がてら聞いてみるか)
斜め前の席は、未だに空席となっていた。
考える時間が必要なのかもしれない、と竜也は思う。
何せ、五日後は唯一の生存者とご対面なのだから。




