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0820 ~パラドックス~  作者: 加藤水城
第四章 佐藤 楓という先輩女
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第四章 佐藤 楓という先輩女(1)

 長らくお待たせしました。

 一か月以上の放置、誠に申し訳ありません。

 これからは最低でも一週間に一本のペースで上げますので、よろしくお願いいたします。

  

 

 とても遠い存在と普通なら相容れないモノ同士が歩み出すなんて、そうそうないよな。

 歌だってそうだ。クラシック調の歌詞がデスメタルに合う訳がない。

 それでも、ピアノでロックンロールを奏でなければならないような状況に陥ったなら。

 それは、

 

 

 佐藤 さとうかえでは三学年の先輩だった。

 特に面識はない。というか知り合ってすらいない。顔すら知らない者同士だ。赤の他人。

 何かとんでもない特技でも持っているのか有名人ではあるが、『名前なら知ってる』レベルの存在を知り合いとは呼ばないだろう。

 容姿はとても美人らしく、俺様の野望を叶える為に尽力したまえグヘヘ。

「………って、勝手にモノローグを書き換えるな!」

『悪い悪い。でもよー、やっぱ美人らしいぜ。可愛いじゃなくて美人だ』

 如月竜也は、自室のベッドに寝転びながら携帯で通話していた。

 相手は桜崎だ。

 こう書いて女垂らしと読むのは周知の事実となりつつある。

『……お前もモノローグ使って色々誤認させてる気がするんだが』

「気のせいだ悪代官サクラザキ」

『誰だその特撮モノに登場しそうな悪役的名前は! せめて変身ヒーローの方にしろ!』

「変態ヒーロー」

『字面が似てるだけじゃねえかよ!』

「童貞戦隊ヤリタインジャー」

『ただの性欲丸出しな集団だろそれ!』

「仮面ライター官能」

『どうして正体不明の官能小説化風なんだ! というかこの会話はなんだ!』

「いや、お前が変身ヒーローの方が良いって言うから……」

『それはあくまでも悪代官サクラザキに比べればって話でな!』

「んじゃ、童貞仮面で決定な」

『昭和のパロディ的な臭いがプンプンと!』

「文句多いなー。じゃあなになら良いんだよ?」

『そもそも何でもなくて良いんだよ! 俺は佐藤先輩の話を聞かせてやるつもりなの!』

「はいはい、分かったよ」

『いやそれでよ、容姿はさっき言った通りの美人さんでさ。その上頭脳明晰……って囃し立てる程でもないんだけど、こと音楽はずっと三年トップなんだと』

「………………は、はあ」

『なんだよ引くなよ。こっから本題なんだ。それでよ、佐藤先輩って実は結構テレビ出てる有名人なんだってよ』

 役者でもやってるのかな、と竜也は思ったが、

『役者ってベタな理由じゃないぜ。確か……作詞作曲の天才らしい』

「作詞作曲……ねえ」

『ホラ、よく作詞作曲の欄で「加藤楓」って見るだろ? あれらしい』

「いやまあ、確かによく見かけるけどさ……」

『ん? どうかしたか?』

「普通、バンドのボーカルとかならともかくよ。作詞してるヤツがテレビ出んのかなーって思っただけだ」

『細けぇ事ぁ良いんだよ』

「本末転倒じゃねえか」

『良いじゃねえか、作詞作曲してるヤツがテレビ出たって。大体よ、ボーカルとかって用意してもらった歌詞をそのまま歌う訳じゃん? そう考えると作詞してる方がその歌の生みの親みたいな立場だろ。むしろ生み出したヤツこそがテレビに出るべきだと思うけどな』

「はいはい、理想論乙」

『何だよ、やけにネガティブだな。ストレスでも溜まってんのか?』

「…………ま、ストレスは溜まってるかもな」

『ケッ、また女かよ少しは分けろよ』

「やめろ。俺のキャラを崩壊させるな」

『女なのは否定しねえのな。後でぶっ殺してやる』

「お前が想像してるような金平糖の如く甘ったるいモンじゃねえぞ」

『じゃあなんだ。金平糖を塗したソフトクリームぐらい甘く甘いのか?』

「それってもう甘い通り越して気持ち悪くないか?」

『じゃーなんだ、ハバネロチップスで唐辛子をサンドしたぐらいに刺激的なエロか!?』

「そこまでハードなエロは受け付けねえよ!? ……いや、むしろ甲子園の砂利の味だ」

『苦々しいのか。そうだよな、初体験は誰でも強張っちゃうもんな。そりゃあ苦々しいよ』

「納得しないでくれるか! というかなんだ初体験って失礼だな!」

『んなっ、お前童貞じゃないの!? 嘘だろ、お前ってそんな………あーいや、お前って女はそういう目で見ないんだったな』

「お、ようやく分かったか――」

『つまりノロケでも喰っちまうようなヤツだったのか?』

「誰がソッチ系に話を誘導した!」

『とにかくよ、俺は佐藤先輩にモーレツアタックすっからよ! 見物だぜ?』

「普通自分の事自分で言うか……?」

『んじゃ、じゃあな阿部鬼』

「……ってなにマニアックなネタ使ってんだ!」

 ツッコミは間に合わなかったようで、通話は切られた。

「くっそ、今度青鬼のお面被ってビビらせてやろうかな……?」

 竜也も引けを取らないマニアックなネタを呟くが、それに答える者はいない。

「…………………」

 竜也は、自室を出るとリビングのソファに座る。

 辺りを見渡せば、どこの家庭にでもありそうなテレビやテーブルやらキッチンやらが目に付くが、唯一足りない要素がある。

 言うまでも無く、家族だ。

 今でも少し寂しい気持ちはぶり返すが、それでも気丈には振舞えるようになっている。

 リビングの壁際に並んで設置されている襖を開けると、半物置状態の和室。天井には紙に筆で『目先の問題よりも、まずは今日』と書かれている。

 これは如月家を象徴するフレーズとも言える。元来トラブル気質な如月の人間は、長期間のトラブルを背負い込んでいる間に小さなトラブルが舞い込んでくるなんて事も多々あったそうだ。その為、まずは今日のトラブルを解決してからでかい問題に取り組もうぜ的な意味合いが込められている。

「…………目先の問題、か」

 目先には、重大すぎる問題が間違いなく待ち構えている。

言うまでも無く、『水』の『異能』。そして、その所有者である少女のことだ。

 あと二日後には間違いなく進展があるのだが、それをただ待てというのも酷すぎる。

「かといって、別に何か出来る訳でもないしな……。いや、いかんいかん。今からこんな気構えでどうするんだ俺よ」

 頭を軽く振ると、ネガティブな思考を削ぎ落とした。

「これでも『異能』の練習はしてるんだし」

 試しとばかりに、竜也はすぐ脇にあった段ボールの山と床の間に、『異能』の土台を出現させてみた。

「うおっ」

 自分でも驚くぐらいに上手くいくから困ってしまう。結果的に、ものの綺麗に段ボールは空中へと持ち上がった。出現させているのは文庫本サイズの『異能』の塊であるにも拘らず、時間という概念で段ボールが下に落ちるのは有り得ないということになった。

 ただし、

「っと!?」

 あんまり小さいサイズの塊で大きい物を持ち上げようとすると、多少の負担が身体に圧し掛かってくる。これは昨日の午後判明した現象だから、九条には相談していない。

 おおよそで見積もれば、塊より十倍近い大きさの物だと負担が来る。それがラインだ。

「でも、空間ごと止めると大丈夫なんだよなあ………消耗激しいけど」

 しかし、藤木との一戦で何かが変化したようで、空間ごと止めるのが五秒から六秒に変化していた。たった一秒と思うかもしれないが、身体の体表面をコーティングする際の三分は空間ごと止める時の一秒に相当する。つまり、絶対の防御壁を三分長く持てるようになったという訳だ。

「いやまあ、使わないのが一番なんだけどさ……」

 ここ最近、毎日のように『異能』のトラブルに遭っている。

 昨日だって校内中がパニックになった。

(…………って、あれ? 校内中がパニック………………つーことは、どうして俺は桜崎とのん気に電話出来てるんだ? 昨日、アイツもあの惨状を見たに違いないのに―――、)

 そもそも、今日は学校あるのだろうか。

 とにかく竜也は状況把握をする為に、制服に着替え一応学生鞄を片手に、旧体育館へと向かった。

 …………朝飯の為に途中でコンビニに寄り、そこで妙な男に絡まれた事は伏せておく。

 

 

 竜也は旧体育館に辿り着くと、ドアをガラガラと開けながら愚痴を呟いていた。

「………あ~気持ち悪かった。なんだあの馴れ馴れしい店員、今度絡んできたら痴漢ですって言うかな…………………つーか痴漢って男にも適用されるのか?」

「されなくはないけど、奇異の視線で見られるだろうね。同性愛者的な意味で」

「!」

 その人物に会うために来たのだが、しかしいきなりの返答には少々面食らってしまう節がある。

「よう九条。色々と聞きたい事が出来たから来た」

「随分早いね今朝は。というか、派手な救出劇にしてくれたそうじゃないか」

「ああ。……つーかなんで昨日、お前呼んだのに救出来たのは先生なんだよ」

「俺ぁ動かないって事前に言っただろう? まあ、どっちにしろ助かるとは分か……何となく予想はついてた」

「ん? なに言い淀んでんだよ、珍しいな」

「なんでもないさ。ああそれと、朗報がある」

「んだ?」

「昨日の馬鹿騒ぎは綺麗サッパリなかったことになったよ」

「はあ!? あ、あの大掛かりなお祭り騒ぎみたいなのが……どうして!」

「さてねえ。誰かが……いや、『心』を操る『異能』を持った誰かが、特定の誰か以外には忘れて欲しいとでも望んだんじゃないの?」

「! ………………ねざき……」

「何か言ったかい?」

「あー、いやいや! なんでもない」

「それとね、なんとなく気になったから、昨日の藤木とかいうのの過去を調べてみたよ」

「は、はあ。ま、一応聞くけどよ」

「別になんてことないんだけどね。ただ単に、『あの日』の事故とかで苦しんでいる人達に何も出来なかった自分と、苦しんでいる人達に手を差し伸べた人との差を埋めたかった。そんだけみたいだよ。ま、『あの日』の前に両親はこれまた自分が何も出来なくて自動車事故で他界してるからね、あーいう他人のを真似る『異能』が発現するのも無理ないよ」

「……なんか、それだけ聞くと被害者だよなあ。アイツもさ」

「『異能』の切っ掛けなんて、それだけを聞けばみんな被害者さ。その後の行動が問題だ」

「いやまあ、確かにそうだけど―――――あ、そうだ九条」

「なんだい?」

「俺の『異能』さ、少し持続時間が増したらしいんだ」

「何秒だい?」

「一秒」

「即答するかいその数字で……。まあ、コーティングが一秒増えたからといって何が変化する訳でもないしね――――、」

 そこで竜也は、九条の言葉の違和感に気付いた。

「いや九条。一秒ってのはコーティングの一秒じゃなくて、空間ごと止める一秒だぞ?」

「………………………………………………は?」

 九条は、今まで見せた事のなかったようなポカンとした顔になった。

「は、ははは。冗談よしてくれよ、如月君」

「いや本当だって」

「……いいかい如月君。まず前提からして、空間を司る系統の『異能』は当人の精神力によって決まってくる。大体の基準としては、君の『異能』を十秒使えれば超人だよ。それぐらい一度定まった自分の制限時間を延長ってのは困難なんだ」

「…………そう言われてみると自信はないけど……」

「だろう?」

「あ、じゃあいまこの場で使ってみるのはどうだ?」

「話は早いけど、しかし大丈夫かい? 今日も変な事に巻き込まれないとも限らないよ?」

「物騒な事言うなって。きっとだいじょーぶだ」

「なら止めないけど」

「よっしゃ。じゃあやるぜ?」

 竜也は深呼吸を一つ、旧体育館の入口周辺のみを停止させた。

 

 

 そして、

「――――――――――え、えぇえぇえええええええええええええ!!??」

盛大に叫んだ。



竜也は自分の目の前を、驚きのあまり軽く震えている瞳で見つめながら、

その名を、呼んだ。

「………柊……………?」

 目の前には、いつのまにか柊 優華がいた。

 何日ぶりか、その顔は久しぶりと呼べるレベルの間見ていなかった気がする。実際には昨日と一昨日のみの無接触なのだが、何故かとても懐かしい感じがした。

『み、見えるの、竜也君……?』

 声が反響して聞こえるが、しっかりと鼓膜を叩いていた。しかし、唯一気になるのは、

「……え、と。その身体………どうしたんだ?」

 優華の身体は、衣服から肌から髪の毛の一本に至るまで、全て水のように半透明に……いや、どちらかといえばメタルカラーという方が近しいか。そんな色に切り替わっていた。

 しかしながら、竜也の問いに答えたのは九条だ。

「『異能』の水が溢れ出して、体表面をコーティングしてるんだよ」

「コーティングって、俺の『膜』みたいなやつか?」

「そんな感じ。光学迷彩みたいに、光の反射で風景と同化してるようだね」

「風景と同化って……」

 竜也は優華を改めて見ると、気になった事を質問してみた。

「ひ、柊。お前、昨日一昨日とどこにいた?」

『どこって……見えてたんじゃないの?』

 実際に見えたのは今が始めてなのだが、竜也は答えずに疑問を投げ掛ける。

「………学校に来てたか?」

『…………………………………………行ったわ』

「毎日休まずにか?」

『毎日来てた。ずっと竜也君に喋りかけてたんだけど、気付いてくれなくて……』

「そ、そうか………。……つーかよ、九条。何で今見えたんだ?」

「んー、それよりもさ如月君。もっと気にする事があるんじゃない?」

「な、なんだよ?」

 九条は何もない虚空を指差して、

「もう六秒、とっくに過ぎてるよ」

「あ…………」

 そこまで来て、ようやく竜也は気付いた。

 自分が今、六秒以上時間を止めている事を。

 しかし、

「あ、れ……」

 自覚したその瞬間、辺りの風景が灰色から色彩を取り戻した。

(――――――柊は?)

 風景から優華の方へ視線を戻すと、そこには『水』で包まれた優華が佇んでいた。

「……………………………え、と。どういう事だ?」

『いや、私が聞きたいんだけど………』

 すると九条が、今更得心したように、

「君の『異能』の本質がようやく分かったよ」

「『異能』の……本質?」

「うん。君の『異能』はまあイレギュラー中のイレギュラーなのは分かってたんだけどさ、どーしてもそれが何でなのかが分からなかったんだよね」

「…………? よく分かんねえけど、要するにどういう意味だ?」

「君の『異能』は、『精神力の有無で時間を操る力』じゃない」

 九条は優華を指差して、

「『他人の力と自分の精神力の有無で時空を操る力』、だよ」

『他人って……そのジェスチャーから察するに、私の事のようだけれど。というか「異能」って何?』

「えっと、まあその説明はこの後するから。今は、その他人の力とやらについて聞かせてくれないか?」

「そうだねえ。別に簡単なんだけど、自分と近い座標にいる人物……まあこの場合は、そこの子と僕だね。その力を吸収・変換して時間に干渉する力だよ」

「その力ってのは、『異能』を持ってない人間もあるのか?」

「まー『異能』所有者の百分の一ぐらいならあるかな。というか、昨日の事だって思い出してみなよ。コピーとはいえ同質の『異能』で作った絶対防御の膜ごと壁に押し付けるなんて、普通の人がやったらそれこそ両腕が消えてなくなるよ」

「で、でもその時は、俺の『異能』は封じられてて……」

「だから、君の『異能』をコピーした相手の『異能』の力を吸収して変換したんだよ。ややこしい水掛け輪になるけど、要は強い『異能』を持つ人間が近くにいればいる程君の使える時間停止時間は長くなる。今の場合はその子の溢れた『水』から力を吸い取ったんだ」

「チート設定みたいだけど…………いや、そうでもないか。その分疲労が凄そうだ」

「その通りだね。言っておくけど、間違っても二十秒とか時間止めたら駄目だよ? 普通に気絶するかショック死するから」

 マジかよ、と呻く竜也を見ながら、優華は唇と尖らせて、

『まったく私が参加出来ない会話続けてないで、いい加減説明してくれない?』

「そういじけなんなって」

『いじけてない』

「痛っ!」

 いきなり優華の片手がどつくように竜也の肩を叩いた。が、思いの他というか凄く痛い。

「どうなってんだその腕力! 少しは手加減してくれ!」

「いやはや、そこまで『水』になってるのか…………」

「は? どういうことだよ?」

「うーん。簡単に説明すると……水面と弾力ある肉の床、どっちの方が落ちたとき痛い?」

「…………確かに水面だと痛いよなあ。プールの時とか」

「そういうこと。ダメージ的にはほぼない筈だけど、瞬間的な痛みは増してるんだね」

「なんつー厄介な……」

『だから話に入れなさいよっ』

「いやだからいじけんな…………サーセンなんでもないっス」

『結構。…………それで。九条さん、で良いですよね?』

「おや、話した記憶はないんだけれどね」

『ここ三日は見てました。竜也君の様子見てたんで、実は秘密の会合も知ってます』

「その言い方はやめてほしいけどね」

『じゃあ……秘密の………………………思いつかないわね、ホモっぽいの』

「いや無理に考えるなよ柊!? お前がボケ失敗とレアだな!」

『あら。私のことをそれはもう隅々まで知り尽くしたような発言ね。セクハラよ』

「これだけで罪に問われる重罪なの!? というか、もう会った初日で分かるわ!」

『初日というと……如月君が私を教室に呼び出して、「うへへ。この写真をばら撒かれたくなかったら、オレの言う事聞けや」と言って私を下着姿にした挙句、スカートを持って男子トイレの個室に立て篭』

「もうやめてぇぇぇぇぇっ! 後半部分が真実もあって否定出来ないからやめてぇぇ!」

「まあまあ如月君。君の変態アクシデントはもう全部知ってるし、気にしなくていいよ」

「どーして知ってんだ!? アレか、平崎あたりからの流出か!?」

「うーん。まあ……………………………………ふぅ。喋るの疲れた」

「止めるなよ! そこまで言ったなら仮に疲れたとしても最後まで言おうぜ!? どうせあと一行分ぐらいの台詞だったんだろ?」

「いいや。五百ページぐらい必要だね。しかも全て俺の台詞だから、回想しても台詞は一切無い、もう俺の台詞がト書きみたいな本が完成するだろう」

「最悪だー! ただでさえ台詞多いのに、更に最悪な展開になってるー!」

「台詞多いのは自覚してたんだね……」

「現に地の文がもう三十一行前だしな。言いたくもなるわ」

「確かに、いくらなんでも台詞多すぎだよね」

『そんな事言うと、いきなりト書きが増えてやたら説明だけの本になっちゃうわ』

「それは困るな」

 と、竜也は眉間に皺を寄せながら言った。

「あ、地の文だ!」

『言わんこっちゃない。あのまま台詞で終わらせれば良かったのに』

「いつのまにこんなメタ発言ぶちかますキャラになったんだい俺ら……とにかく、だ」

 九条は咳払いを一つ、

「あ、地の文。……まあいいや。それで君は、ここ三日をみていたんだね? それなら、俺と如月君との会話もだいたい聞いていた訳だね。『異能』が何なのかも、もう把握している訳だ。…………なるほど、『水』の仝が強いと思ったら、単に近くにいただけなのか。しかしそうなると、問題が少し出てくるなあ」

「なんだよ?」

「どうして、今の俺達に見えてるのかっていうことさ」

『…………確かに、今まで一回も見えも聞こえもしなかった様子なのに……』

「……俺の、『異能』の影響か?」

「十中八九そうだろう。しかし、問題は君の『異能』の干渉力がどこまでのものなのかということだね。さっきの通り仝を利用して時空停止をしているのなら、それだけで終わる筈だけど……仝を予想外に吸い尽くすみたいだね、その能力は」

「いや、一人で得心してるとこ悪いんだけどさ……結局どういうことだ?」

「だから、君の『異能』が仝を吸い取った別の『異能』は、激しく消耗するってことさ」

『だから、私の「水」が弱まったって訳ね……』

「その通り」

「……えーと、つまりは『水』の膜が薄くなって見えるようになったってことか?」

「そう言ってるじゃないか。まったく、今日は冴えないね」

「いつも冴えてはいないけどな……というか、そろそろ時間マズいな……」

 話しこんでいる間に、何時の間にか時間が経過していた。もうあと二十分ぐらい余裕はあるが、しかし先週から課題だった数学プリントの束の半分しか片付けていない竜也としてはまったく余裕がない。

「じゃあ俺は学校行くけど………柊、は………………どうする?」

『勿論、行く――』

「やめたほうがいいね。騒ぎになる」

 そこで声を遮ったのは九条だった。

「騒ぎ……まあ確かに、半透明っつーかメタルカラーな柊がいれば、そりゃ騒ぎになるな」

『……私って今どんな色なのよ…………』

「公園の中心に立てば『あ、何時の間にか銅像ある……あれ? の割りにピカピカだな?』って感じになるぐらいのピカピカ具合だ」

『それアンドロイドみたいな見た目だって言ってるようなものじゃない?』

「まあ近しい印象は受けるな。元の性格もあるしブベラァッ!」

『黙りなさい』

 描写する必要性すらないほどにお決まりパターン(殴り)で、竜也が吹っ飛んだ。

「な、ならもう学校行くから、ここで大人しくしてろよー!」

「責任もって見守ってるよ」

「生暖かい目でか?」

「俺が完全に変質者だねえ」

『身の危険を感じる………』

「そうだよなあ、こんなオッサンと古びた体育館の中で一緒じゃ」

『………………竜也君から』

「俺かよ!!」

「確かに、危険な臭いがするね…………」

「いや九条、お前も乗っかるな―――――――、ん?」

 そこまで言いかけて、竜也が表情を鋭く変えた。九条の態度が急変したためだ。

「どうした、九条? 何か察知的なことでもしたのか? 第六感的な」

「シックスセンスはこの際関係ないけど……………嫌な臭いがする」

「だから何が? あれか、俺には女子の貞操を奪う変態の臭いがあるって言いたいのか?」

「違う。あれからだよ」

 九条が指差した先――――ガラスが割れて吹きさらしになっている窓には、何か紙のようなものが引っ掛かっていた。丁度良くその時に風が吹き、その紙が竜也の方へひらひらと落下してくる。

「なんだ、これ………」

 空中でキャッチすると、その紙をまじまじと見つめた。

 それは、楽譜だ。しかも歌の終盤辺りらしく、後半はほぼ音符がないに等しい。

「仝の臭いがこびり付いている。それは、異能者の所有物だ」

「お前は犬か。つか、ガチで仝の臭いとか分かる訳?」

「普通なら感覚的な直感で察知出来るけど、この仝は少し異質だ。人の頭に直接響くんじゃなく、身体の穴という穴から入り込んでくる感じだよ」

『穴という、穴……』

「おい柊今どんな妄想をしたんだ俺でおいコラ言ってみろや?」

『穴という穴を突かれる…………竜也君………………あぁ、逞しいソレで…………』

「お前、本当に腐ってたんだな…………」

『私は腐ったみかんじゃないわ』

「誰もリアルで腐ってるとは言ってない」

 竜也はそこまで言うと、少しだけ真面目モードになった。

「……………さて、歌詞はどんなんだ……?」

 譜面を見ると、歌詞はその紙の半分までしか書いていなかった。その後も音符は続くが、譜面から察するに余韻を残す程度のものだった。つまり、終盤も終盤の楽譜という訳だ。

 記されていた歌詞を見る。

 

 

 いは レールとなって 静かに地を這い 闇へと還る

 

 

 もし 許されるのなら もう一度あなたの首を 絞めたい

 

 

「………前の歌詞がないと、果てしなく物騒というか、微妙だな」

「それ学校に持って行ったらどうだい? 持ち主特定出来れば越したことはないだろう」

「まあ、確かに。………それじゃ、ガチで行ってくる」

『行ってらっしゃい、あなた』

「ブッ!? い、いいいいいいきなりあなたとか言うんじゃねーよ気色悪い!」

『酷いわね、距離を置きたいから関りの薄そうな二人称で呼んであげたのに』

「あなたって二人称の方のあなたかよっ!」

 ということで、今日も『異能』からは離れられそうにない。

 


 第三章レベルで長くなってしまいそうです…。

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