表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
0820 ~パラドックス~  作者: 加藤水城
序章 如月竜也という暴走男
1/37

序章  如月竜也という暴走男

 

 

 

 物事の始まりっていうのは、決まって衝撃的な『何か』が起こる。

 だからと言って、やり過ぎた世界崩壊とかいうのも、あからさま過ぎて好まれない。

 丁度良い配分された『何か』が。例えば、家族が事件に巻き込まれたぐらいが丁度良い。

 だけど。

 

 

 もう少しで太陽が完全に空の向こうに消えそうになる俗に言う夕暮れ時に、如月(きさらぎ)竜也(たつや)は車道を自転車……もといMTBで走り抜けていた。

 酷い雨の中丁度下校ラッシュや早めの退勤とタイミングが合ってしまったのか、妙に焦っている顔つきの人や警官が多い気がするが、とにかく人ごみは多い。

(なんでだ)

 喉を通る外気が凍てついている。とても痛い。あまりに呼吸が乱れ、空気の出し入れの際に乱暴な摩擦が喉の奥で起きている。冷たい外気を吸い込んで、その影響で熱く溶けるような痛みに襲われるというのはいささか不自然に感じられた。

(どうして、)

 如月竜也が道を暴れるが如く走っているのには理由があった。

 

 八月二十日。

竜也は、今まで友達の家に泊まっていた。

 高校の夏休みだし、多少テンションが上がっていてもおかしくはない。

 特に明確な部活にも所属していない身としては、夏休みほど学校という檻や勉強という柵に支配される事なく自堕落な生活が出来る期間はない。

 そんな中、彼は友達と部屋のクーラーで室内をキンキンに冷やしながら団扇を片手に、ソファに二人そろって横たわりながらテレビを眺めていた。

 先ほどまで午後ドラがやっていたが、ぴったり一時間で番組は終了し間のニュースに画面が切り替わった。今日び午後の番組と番組の間のニュースなんて見る男子高校生はそうそういないだろうが、リモコンを取るにはソファから起きてテーブルまで歩かなければならず、そしてそんな事をする気にはなれなかった。

 そんなこんなで、そのままニュースを見ていた彼らだったが、

『―――――――臨時ニュースです。本日、池袋の練馬区で行方不明事件が起こりました』

「ん?」

 竜也が反応を示したのは、自宅が池袋の練馬区……その事件とやらの現場から近い可能性があるかもしれないと思ったからだ。

 すると、部屋をノックする音が響いた。

「はいー」

 竜也の友達は素っ気無く答えると、ドアが開いた。

 ドアの向こうにいたのは、友達の母親だ。なにやら家電の受話器を片手に持ち、竜也に驚いたような視線を向けている。

「竜也、君」

「はい?」

「電話。…………警察の横谷って人から」

「警察?」

 まさかこの間のガラス割りがバレたかと思いながら、竜也は受話器を受け取った。

「………もしもし?」

『あー、もしもし? 警視庁の横谷です』

 向こうの声からして、相手は四十台前後の男だった。

 せめて美人の婦警さんなら良いのに、と思いながら竜也は相手の言葉を待つ。

『あのさ、君、ご家族がどこか出かけるとか言ってなかった?』

「へ? い、いえ。何も聞いてませんけど」

『そうなの? …………あ、今丁度やってるな。あのさ、そっちにテレビってある?』

 竜也は点けっ放しのテレビを横目で見ながら、

「は、はい」

『じゃあTBSのニュース見てくれないかな?』

 それなら、今テレビが映し出しているチャンネルだ。

 そして、その中年の声が、テレビの声と重なった。いや、重なって聞こえた。

 明確に違う言葉が、同じ事を多角的に伝えてくる。

 

『行方不明なのは、如月王我さん四十九歳、如月氷香さん三十九歳、如月水晶さん十四歳、如月水恋さん十四歳の四人です』

『行方不明なのは、君の父親さんと、君のお母さんと、妹さん……ああ、もう一人の妹さんもだね』

 

「は………?」

 その後にテレビに映されたのは、多くの警官や鑑識の人間らしき者達が、自分の家に土足で入って踏み荒らしている映像だった。

 なんでだ。

 どうしてこうなった。

 俺たちが何をしたっていうんだ。

『とにかく、一度自宅へ戻るんだ。そこは秋葉原だね? なら電車を使った方がいい』

 その言葉を聴くまでも無く、竜也は受話器を母親に押し返すと、荷物も何も回収せずにそのまま友達の家を飛び出す。自転車のような物でもあれば駅まで早く着くが、生憎と電車でまたぐ影響でそんな物持ってきてはいなかった。

「クソッ!」

 とにかく駅まで走った。

 いつもは何てこと無い道が、急に遠のく感覚がする。

 彼はどちらかと言えば体育会系ではあるが、それでも『どちらかと言えば』のレベルだ。一般の学生と大して変わらない。むしろ、一部と比べたら劣るだろう。

 足の筋肉をパンパンに膨らませながら、竜也は駅に辿り着いた。

 しかし、

「何だ………?」

 駅の前に人だかりが出来ていた。それも、切符を買う時の列など比にならないぐらいのレベルで人が集まっていた。

 何事かと駆け寄り人ごみの間を縫って通ると、駅の中は特に異変はなかった。

 何となく、だが。

 嫌な予感がした。

 一旦駅から出ると、竜也は自分の携帯を使ってワンセグ機能を起動させる。

 その時点で、違和感があった。

 いつもならどこかのチャンネルで怪しい通信販売やバラエティが放送されている筈だが、どこのチャンネルでもニュースしかしていない。それも、臨時ニュースばかり。

 一つのチャンネルに目を付けると、しばらくニュースを眺め続けた。時々自分の家族の名前がテレビのニュースキャスターの口から発せられる事に未だに現実感は掴めないが、それでもニュースを見続けた。

『引き続き臨時ニュースです』

 その発言自体おかしかったが、もう突っ込む気力などなかった。

『路線が歪曲し、電車が脱線しました。これによる死者は乗客と運転手合わせて二百人と推定され、今後の電車の開通に影響が出る模様です。現在確認可能なだけでも、ストップがかかっている路線は次の通りです―――――――』

 そのニュースキャスターが読み上げた路線の中に。

 秋葉原と池袋を繋ぐ路線は、含まれていた。

(………何だ? 何なんだ!? 今日は何かがおかしい!)

 思いながら、それを実感する勇気は竜也にはない。

(この街で今、何が起きてる――――――?)

 そして、

「おい! 竜也!」

 突然の声に驚きながら振り向くと、先ほどの友達が自転車――もといMTBに乗って来ていた。ハンドルの片方には竜也の荷物が入ったカバンも提げてある。

「お前………、」

「電車止まってるんだろ、竜也! ならコレ使え!」

 そう言って親指で指したのは、自らの乗るMTBだ。

「なっ、こんな高そうなの、良いのか!?」

「今そんな事言ってるヒマじゃねえんだろ?」

 友達はMTBを降りると、ハンドルを竜也に握らせた。

「使ってくれ」

「………………ありがとう」

 竜也は一言礼を言うと、MTBに飛び乗ってペダルを踏み締めた。

 

 池袋に着いた頃には、もう夕暮れ時で雨がポツポツと降っていた。

 どうやら電車の影響か早く退勤した人も多いらしく、人ごみが凄かった。

 そして、家に着いた頃にはもう夜で、雨も酷くなっていた。

「……………ハァ、ハァ、…………ッ!」

 肩で息をしながら、半ば倒れこむ形でMTBを家の塀に立てかけると、自らの家の目の前に立った。

 周囲に警察はいない。

 しかし、黄色い進入禁止のテープなら玄関に貼られている。

 それこそが、この家で失踪事件があった証。

(…………クソ……ッ! 何でだ、どうして…………)

 この家で、何があったんだ。

 その事を知りたい。

 竜也はうな垂れながら、絶望の眼差しで自宅の玄関を見つめた。

 もしも、神様なんてふざけた存在がいるなら。

 願いたい。

 もしも、一つだけ願いが叶うなら。

「……………………………なぁ、頼むよ」

 竜也は、進入禁止のテープに手を掛けながら、呟く。

 こんな最後、あんまりだろ?

 なあ。せめて、何がどうなって狂ったのか教えてくれよ。

「……………俺を、あの頃に帰らせてくれよ――――――――――――――ッ!!」

 高校ニ年の夏休みは、最悪の事件で幕を下ろした。


 はじめまして、加藤水城です。

 この度人生で初めて小説というものを公開しました。

 プロットは出来ていて、このまま連続で公開していくと思いますので、感想、評価などよろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ