表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
除外なう  作者: 白城 海
第四話 事件の終わり、そして本当の始まり
13/16

第四話 事件の終わり、そして本当の始まり(3)

■六月五日 午後九時三十分

■天海家 リビング


「…どういうことだよ。説明しろよ」

 責めるように、突き刺すように、俺が問う。

「落ち着いてください。兄さん!」

 今にも掴みかからんばかりの俺を美鳥が引き留める。

 俺は、少しだけ怒っていた。

 彼女(コイツ)の身勝手さに。 

 結論から言おう。


 風間祈衣は、無事だった。



------------------


■五時間前



「俺だ!どうしたっ」

 突然の風間からの電話。

 心配だった。不安だった。

 だからこそ、語気が荒くなる。

 高鳴る心臓、滲み出る手汗。

 だが電話口から聞こえてきたのは、俺の緊張を嘲笑うかのような能天気な声。


『あ、ケージ。どうしたの?すっごい着信来てたけど』


 能天気な、風間の、風間祈衣の声。


「どうしたもこうしたも無ぇよ!何なんだよ。いきなり連絡取れなくなって!こっちは心配してんだよ!」

 安堵、狼狽、怒り、喜び。

 さまざまな感情が渦巻き、制御できない。自然と口調が乱暴になる。

 美鳥たちが電話の声を聞こうと顔を近づけてきているが、恥ずかしさを感じる余裕は無かった。


『ごめんね。ちょっと調べ物してて。ホントはケージにも言いたかったんだけど』

「調べ物?探偵ごっこのことか。クロから聞いてる。とにかく、無事なんだな?」

『無事だけど…もう、黒川(くぅ)ちゃんったら。でね、ケージ』


 風間の声のトーンが変わる。

 明るい能天気な声から、真剣な冗談を許さない声に。


「何だよ。もう無事なら何でもいいよ。むしろ死ねよ。心配させやがって。この馬鹿。16回死ね」

 今までで最大の肩透かしを喰らい、俺はもはや脱力感に襲われていた。

「何だよ」

『話したいことがあるからさ。9時ごろケージの家に行くね。全部話すから。言い訳にしかならないかもだけど』

「話したいことって――」

『あっ、電池が…。あとで――対に――から!ごめ――」

 それきり、電話は切れてしまう。

 かけ返しても留守番電話サービスに接続されるだけ。

 おそらく、風間の言うとおり電池が切れたのだ。

 俺が何十回も電話をかけたからに違いない。


「…何なんだよ。畜生。あの馬鹿。やりたい放題じゃねぇか」

 心配していた俺は何なのだろう。

 神や悪魔にまで祈っていた俺が馬鹿みたいだ。

 穴があったら入りたい。あまりにも恥ずかしすぎる。

 結果的には黒川の言った通り。どうということは無い俺の杞憂だったのだから。

「まあまあ。何にも無かったからいいじゃないですか」

「そう、だけどよ」

 脱力感からようやく立ち直る。

「風間先輩だし。仕方ないよ。さあ、帰ろう」

「あぁっ。ちょっと黒川さん、何してるんですか!」

 ようやく落ち着きを取り戻した黒川が俺の右手を引き、対抗するように美鳥が俺の左手を取る。


 結局、何も無かった。

 俺は黒川の記憶を取り戻し。風間は無事だった。

 ただ気がかりなのは、風間が電話で言っていた《伝えたいこと》。


「…あの馬鹿が何か言う前に、絶対に俺が先に文句言ってやる」 

 そう決意し、俺は家路へとついたのだった。


■九時三十分(現在)


「…どういうことだよ。説明しろよ」

 開口一番。責めるように、突き刺すように、俺が問う。

「どういうことって、探偵として――」

「違う!どうして黙って、勝手に、危険かもしれない事に首を突っ込んだか聞いてるんだよ。警察に任せればいいだろ?」

 どうしてコイツは俺の気も知らず勝手な真似ばかりするのだ。

 学校に殺人犯がいるかもしれないのだ。

 人殺しの異常者に関わったせいで、風間自身も殺されてしまうかもしれないのだ。

 俺の心配をよそに、マイペースに振る舞うのだ。

「なぁ。何でこんな馬鹿な真似をするんだよ。正直、俺は頭に来てるんだ」

 突き放すように、言う。


 風間は気の良い奴だ。8か月前、記憶障害の俺の為に家族と同じくらい親身になって接してくれた。

《俺が風間の記憶を失っている》にも関わらず。

《未だに、事故以前の風間の記憶を取り戻していない》にも関わらず。

 マイペースで、変わった所もあるし、常識が無い所もある。

 だけど、それでも、それでも俺の大切な友人なのだ。

 明日には、俺は風間の事を再び忘れてしまうかもしれない。だからこそ、僅かでも危険の可能性がある事に踏み込んでほしくなかった。

 だからこそ、キツい言い方になってしまったのだ。


「…ごめんね」

 風間が、目を伏せ謝罪する。

「でも、不安だったんだもん」

 ちらり、と上目づかいに俺の方を見る。

 他人の表情や感情を読むことが苦手な俺は、彼女の瞳を見ても何を考えているか分からない。

 ただ、強い《意思》が込められている事だけは分かった。

「ケージが事件と関係してることを《忘れ》てたらって。それでまた何かトラブルに巻き込まれたらって。そう思うと居ても立ってももいられなくて」

「そんな訳無いだろう。心配し過――」

「ふぅん。じゃあ、今まで無かったとでも言うの?」

 風間の口調が、謝罪の色から変化する。

 責める口調でも無い。突き刺す口調でも無い。からかうような口調。

「カツアゲしたチンピラをノした事をすっかり《忘れ》ちゃって、30人と鬼ごっこすることになったりー」

「うっ…」

「放火現場を目撃した事を《忘れ》ちゃって、口封じのために殺されかけたりー」

「う、うぐっ」


 今度は俺が黙る番だった。

 風間の言う通り、《障害》を負ってからの俺はトラブルに巻き込まれっ放しだ。

 その数、僅か半年で警察沙汰が4回。あまりにも多すぎた。

「心配するなって言う方が無理よ。だからあたしは調べてたの。ケージが事件に関係してないかどうかって。関係してなければそれでいいし、もし関係があったら、怪しい人をピックアップして知らせようかと思って。そうすれば危険が減るでしょ?」


 しばし呆然。頭の中が申し訳なさと恥ずかしさで真っ白になる。

 風間の奇行は、奇行では無かった。

 事件を調べていたのは、無意識のうちにトラブルに巻き込まれてしまう俺のため。

 黙って捜査していたのは、俺に心配をさせないため。

 風間(あいて)の気持ちを分かっていなかったのは俺の方だった。

 彼女は俺の為に動いてくれていた。俺の事を心配し、彼女なりに動き、調べてくれてたのだ。

 また、俺の知らないうちに周囲に迷惑をかけていた。気を使わせていた。


「負けですよ。兄さん」

 今まで口を閉じていた美鳥が言う。

「祈衣姉さんに言うことがあるんじゃないですか?こんなに大事にしてくれてるんですから」

「わ、分かってる…!あの、アレだ。言いすぎた。悪かった。でも別に、そこまで気ィ使わなくても良いんだからな。マジで」

「そう言う訳にも行かないわよ。ケージはあたしの命の恩人だし、幼馴染なんだから」

 あっけらかんと言い放つ。

 当たり前のように。あまりにも自然体に。俺自身が事故の事を《忘れ》ていることを感じさせない程に。


「それで、何を調べてたんですか?」

 俺の心情を知ってか知らずか、興味津津と言った様子で美鳥が聞く。

「んー。目撃証言かな。梶原君と一緒にいた人とか、その近くにケージがいなかったかとか」

 以前も述べたが、学校収集能力において風間の右に出る者はいない。

 定期テストの点数、浮いた噂、喫煙事件の犯人。どうやっているのかは分からないが、平坂高校内の事で風間に調べられない事はないと言っても良い。


「結論から言えば、ケージは多分無関係よ。しかも、それだけじゃなくてもっとスゴいことも分かっちゃったの」

「…スゴい、事?」

「そ。《犯人候補》」 

 さらりと、衝撃的な発言が飛び出る。

 俺の聞き違いだろうか。フィクションの探偵じゃあるまいし、普通の高校生にそんな事が調べられるわけが無い。

 馬鹿馬鹿しいと一笑にふそうとする俺。

 だが、美鳥は違った。夢見る子供のように目を輝かせていたのだ。

「は、犯人候補ですかっ?」

「そう、犯人候補よ!」


 もしかして、俺の心配は建前で、本当は自分の好奇心の為に捜査してたんじゃないだろうな…?

 やけにテンションの高い二人を目にし、俺は邪推せざるを得なかったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ