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【真チート】貰ったチートは天地開闢。なにも残らなかった虚無の世界を、気まぐれに再生することにした

作者: MAOOU
掲載日:2026/05/24

暗闇しかない。


足元も、頭上も、前後左右の概念すら怪しい、文字通りなにもない虚無の世界。


「……なるほど。これが『なにも残らなかった世界』ってわけか」


俺、神代かみしろれんは、誰もいない、音すらない空間で一人ごちた。

記憶にあるのは、突っ込んできたトラックの眩しいヘッドライトと、白い空間で出会った妙に軽いノリの女神の顔だけだ。


『人類の過ちか、あるいは天命か。とにかく完全に滅びちゃった世界があるんだよね。君にはそこを再生するチートスキル【天地開闢てんちかいびゃく】をあげるから、ちょっと頑張って創生し直してきて!』

そう言ってウィンクされ、送り出された先が、この完全なる虚無だった。


「せめてマニュアルくらい置いていってほしかったんだがな……」


溜息をつきながら、俺は念じるようにしてステータス画面を頭の中に思い浮かべる。すると、目の前の空間に半透明のシステムウィンドウが現れた。


【固有スキル:天地開闢】

・あらゆる事象、物質、法則、生命を無から創造する。

・創造対象の規模、質量、複雑さに関わらず、消費魔力および代償は「なし」。


文字通り、俺が頭の中で『あれ』と思えば、何でもその通りに具現化するということらしい。

「まぁ、いつまでも無重力空間みたいに浮いているのは落ち着かないし、まずは足場からだな」

俺はかつて生きていた地球の大地を思い浮かべた。


「【天地開闢】――大地よ、あれ」


カチリ、と頭の中で何かのスイッチが入る。

直後、漆黒の虚無にまばゆい黄金の光が走り、俺の足元から全方位に向かって、凄まじい勢いで強固な岩盤が広がっていった。

「おお、立てた。次は……太陽と、月。それから、これらを巡らせるための『空』と『時間』の概念を作ろう」

頭上にどこまでも高い青い空が広がり、黄金の太陽が昇り、西の境界には銀色の月が腰掛けた。同時に、世界の時間が動き始める。

「いいぞ。次は水だ。水がなきゃ生命は育たない」

ゴゴゴゴゴ……と大地が鳴り、裂け目から清らかな水が溢れ出す。水は川となり、低い土地へと流れ込んで巨大な『海』を形作った。乾いた土からは青々とした芝生が芽吹き、一瞬にして巨木が連なる深い森へと姿を変えていく。

ほんの数分。世界は退屈で恐ろしい暗闇から、息をのむほど美しい、豊かな大自然へと完全に変貌を遂げたのだ。

「環境は整った。次は、やっぱりこれだよな」

俺は大きく深呼吸をして、胸の前に両手を広げた。


「【天地開闢】――この世界を満たす、あまねく命よ、集え」


森の奥からは鳥たちの賑やかなさえずりが聞こえ始め、海や川からは魚が跳ねる音が響く。

そして、俺のすぐ目の前の空間に光の粒子が集まり、二つの、はっきりとした「人の形」を形成していった。

光がゆっくりと収まると、そこには美しい人間の男女が立っていた。衣服の概念も同時に創造したため、彼らは純白の簡素なローブを身にまとっている。

二人は戸惑ったように、まずは自分の両手を見つめ、それから周囲の大自然を見回した。

最後に、視線がまっすぐ、目の前に立っている俺へと向けられた。

彼らは本能的に理解したのだろう。この世界を誰が作ったのかを。

二人は同時にその場に深く跪き、畏敬の念と深い感謝を込めて、声を揃えて言った。


「――我らを創りし、大いなる神よ。あなた様にお仕えいたします」


「あー、いや。神なんて大層なもんじゃないよ」

俺は少し照れくささを感じて苦笑し、頭を掻きながら彼らに近づいた。


「俺の名前は蓮。これからは蓮って呼んでくれ。まずは二人が安心して暮らせる家と、果実のなる木を用意しよう」


それが、この世界における「人類」の最初の一歩だった。

――それから、どれほどの月日が流れただろうか。

最初は俺が作った小さな木造の小屋で暮らしていた二人だったが、彼らの間に子供が生まれ、その子供がまた子供を産むようになると、人口は増えていった。

俺は彼らに火の起こし方、道具の使い方、そして農耕の手順を教えたが、それ以上の手出しはしなかった。一瞬で文明を与えることもできたが、彼ら自身の力で歩む姿が見たかったからだ。

やがて、最初の二人が寿命を迎えた。

彼らが息を引き取る瞬間、俺はその枕元にいた。泣きじゃくる子孫たちに囲まれながら、二人は俺の手を握り、「ありがとうございました、我が神よ」と言って静かに目を閉じた。

人間は死ぬが、意志は引き継がれる。その当たり前の営みが、妙に胸に染みた。

そこからの時間の流れは、驚くほど加速していった。


百年、二百年、三百年――。


世代交代を繰り返すたび、俺が直接言葉を交わした人間は減り、俺の存在はいつしか「直接会えるお調子者の兄ちゃん」から、「時に丘の上に現れる不老の導き手」へと変わっていった。

人間たちの道具は、石から青銅へ、そして鉄へと進化を遂げる。

俺が教えた小さな菜園は、地平線の彼方まで続く広大な麦畑へと拡大し、原始的な集落は頑丈な石造りの壁で囲まれた「街」へと形を変えていった。

彼らは独自の法を定め、王を戴き、あちこちの平原にいくつかの国を形成するまでになっていた。

ある日、俺はかつて最初に大地を創った、すべての始まりである丘の上に立っていた。

数百年ぶりにそこから見下ろした世界は、もう俺が知っている「手取り足取り教えていた箱庭」ではなかった。

かつてただの森と川だった場所には、今や立派な中世ヨーロッパ風の「王都」がそびえ立っている。

レンガや石材を積み上げて作られた、幾重にも重なる堅牢な城壁。その内側には、天を突くような尖塔を持つ美しい石造りの大聖堂や、赤レンガの屋根が数千、数万とひしめき合う賑やかな市場が見える。

行き交う人々は、色鮮やかなリネンやウールの服をまとい、多くの物資を積んだ馬車が石畳の道を音を立てて走っていく。遠くの山を背にして、この地を治める王のものらしき、無骨ながらも美しい城が鎮座していた。

市場からは、商人たちの活気ある売り声や、鍛冶屋が鉄を叩くカンカンという音が風に乗って響いてくる。

そこには、俺の力を借りずに自立した、確かな「人間の文明の息吹」があった。


数百年、彼らの歴史を見守り、彼らの祈りを聞き、ただそこに在り続けた。

その過程で、俺自身の心境も、いつの間にか変わっていた。

最初の頃は「俺はただの人間だ」という気恥ずかしさがあった。しかし、愛おしそうに大地を耕す人々を、彼らが紡いできた何世代もの歴史を愛おしいと感じている自分に気づいたとき、境界線はとうに消え去っていた。

彼らの命の短さを知り、それでも前へ進む強さを知る。その全てを包み込む包容力が、いつの間にか俺の心に宿っていた。神化とは、劇的な変化ではなく、降り積もる雪のように静かに、逆らえない自然なこととして済んでいたのだ。


ふっと、背後から無数の足音が聞こえた。

振り返ると、立派な高級甲冑を身にまとった騎士たちと、豪華な刺繍の施されたローブを着た老司祭、そして華美な王冠を頭に戴いた一人の男が、息を切らせて丘を登ってくるところだった。

彼らは俺の姿を認めると、信じられないものを見たかのように目を見開き、その場に崩れ落ちるように跪いた。


「おぉ……教会の奥深くに眠る『創世の聖画』に描かれし、初代の父祖たちに光を与えたという『始まりの主』……。神話は、絵空事ではなかった……!」


王が、騎士たちが、司祭が、一国の頂点に立つ者たちが、子供のように体を震わせながら頭を地面に擦りつけている。

彼らの瞳にあるのは、絶対的な救済者への、一点の疑いもない純粋な信仰の光だった。

俺はそれを見て、かつてのように困惑して頭を掻くことはしなかった。

ただ、どこか懐かしく、そして慈愛に満ちた眼差しで、ひれ伏す彼らと、その向こうに広がる美しい石造りの街並みを静かに見つめた。

何もない虚無から大地を創り、人間を創り、その歴史の全てを見守ってきた。彼らの築いたこの見事な文明の礎には、間違いなく俺の意志がある。そして今、彼らは俺を心の拠り所として、本当の超越者として崇めている。

自分の手のひらをそっと見つめる。そこには世界を創った、終わりのない力が静かに脈打っていた。

もはや言い訳も、照れ隠しも必要ない。

新しく生まれ変わり、立派に発展した世界の中心で、俺は静かに笑みを浮かべ、心の中でぽつりと呟いた。



「これ……つまり俺、神?」



そう自覚すると、俺の身体は光始め、俺の存在自体が消失し始めた。


自覚した神は神の存在パラドクスによって消されるのだ。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。もし少しでも楽しんでいただけましたら、一言感想をいただけたり、ブックマーク・評価などで応援していただけると励みになります。また次の話でお会いできるのを楽しみにしています。

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