第25話 紅眼と赤眼の闘い
「初手はこっちが頂くよ。『紅玉弾』」
【軟弱な軌道。脆弱な魔法だな。『血液鞭』】
血の鞭かい。吸血鬼種ならではの技だね。遅いけどさ。
「右目の視界も戻ってウキウキみたいだね。テンション高そうでなによりだよ! 『爆発』」
【遅いわ。クソガキガアァァ!!………身を隠し逃げたか。軟弱な貴族に相応しい戦い方だな。小僧……ディオルの方は静かな様だが。建物を倒壊させて小僧のメイド共を生き埋めにしたのか。やるな。後で小僧の生き血を与えてやるか。フハハハ!!】
『紅玉弾』と赤い鞭が衝突して、『隻眼の魔法使い』の血がミロ広場の至る所に付着してる。汚いね。
それにして上機嫌だね~! 『隻眼の魔法使い』改めて『赤眼の魔法使い』さんはさあ。良い悪役ぶりだよ。
……しかし、流石は吸血鬼種の上位個体。"赤蛇の神眼"に歠まれる事なく。初見でそこそこ扱いきれてるのはスゴいね。
あの眼ってそう簡単に扱える代物じゃない筈なんだけどさ。
「劣化した"目"も使ってたし。をどこかで予習と復習でもしてたのかな? それなら、その場所をゲロってもらう為に。少し苦戦してあげないといけないね」
姿をわざと気付かせてと……
『残像眼』
『残像眼』は使用した対象相手に幻影に似た自分の分身を見せる眼。さて、"赤蛇の神眼"を得て強くなった人が、どんな技を見せてくれるのか楽しみだね。
【む? フハハハ! そこに隠れていたか小僧!! 『血液循環』】
『隻眼の魔法使い』が手に持つ赤色の鞭が『隻眼の魔法使い』の両手に絡みついて、巨大な縄の用な形を形成した。
それを『隻眼の魔法使い』はおもいっきり残像で作り出した僕の頭上へと叩きつける。
ドガンッ!とミロ広場の周辺に凄まじい轟音を響かせてた。そして、僕の残像はそもそも肉体が無いから無傷だね。
「力はまあまあって感じだね。メモメモと……」
【良い! 良いぞ! 凄まじい力だ! 『十四色の神眼球』の眼1つでこれ程の力を持つとは。素晴らしい。素晴らしいぞ!! 確かにこれならば神にもいずれは至れるだろう。欲しい! もっと欲しいものだ。この力は……『十四色の神眼球』の力を!! フハハハ!!】
月に向かって吠えてるよ。ていうか、最初に遭遇した時とキャラ変わり過ぎでしょう。
そんなんじゃあ、"赤蛇の神眼"に直ぐに飽きられて捨てられちゃうよ。あの子達は結構デリケートだからね。
年を取ったおじさんが騒がしいと身体にいきなり悪い変化が起きちゃうよ。
【フハハハ!!】
(うるさい……貴方はうるさい。嫌い……最初の大人しい子が良かったのに)
【……む? 誰の声だ? どこから声が聴こえてくる?】
(うるさいうるさいうるさい……力を暴走させない様にしてあげてるのにうるさい。左手。化物にしてあげる)
【左手だと?……何を言って……】
ボコッ!ボコボコ!!
【ぐおぉぉ!! 素晴らしい! 私の左手手が新たな力を得始めたぞ!】
いや、単純に身体が暴走し始めてるだけなんだけどさ。もしかして『隻眼の魔法使い』さん。ハイってやつになり過ぎて、自分の悪い変化に気づけてないのかい?
「厄介な性格だね。力に溺れる人達っていうのはさ」
【凄まじい力を感じる!! この力はさえあれば。この王都すら私のものにできるぞ】
いや、それは無い無い。この王都ミーティアスには、スゴい人達がばっかり住んでるんだからさ。
【小僧の半身も吹き飛ばした事だし。試してみるか。王都の殲滅を!】
いやいや、そんな事されたら。『隻眼の魔法使い』さんが張った結界まで消えちゃうじゃん。
「たく。吸血鬼種は結界魔法のプロフェッショナルだったのに。それを自分から破るかい……闘う場所を変えさせてもらうよ。『異空眼』の世界にね」
『異空眼』
【フハハハ! ならば。先ずは王都を陥落させて……】
僕はお馬鹿に笑う『隻眼の魔法使い』を連れて異空眼へと移動したよ。大規模破壊なんてされたら、王都を直すのが大変だからね。
◇
《異空間の世界》
【…やろうではないか!! 『血液円舞』】
「ハイ! 駄目です! 『紅玉爆発』」
【ぐおおぁ?! 私の両腕が紅く爆発した? 何故だあぁ?!】
何故って、僕が妨害したからに決まっているでしょう。
成る程ね。"赤蛇の神眼"に歠まれ始めると感情が昂って思考が低下すると。メモメモ。
「『隻眼の魔法使い』さん。流石に王都の破壊は不味いよ。王政やラグナ魔法学園だって近くにあるんだからさ。戦い方もちゃんと選ばないと直ぐに殺られちゃうよ」
【貴様は? クラウディア家の? 何故、生きている? 貴様の身体は半身を削り殺した筈だぞ】
「それは僕の残像でしょう? 残像と実態の区別もつかないくらいに感覚が麻痺してるのかい? "赤蛇の神眼"に引っ張られ過ぎだと思うよ。本来、"赤蛇の神眼"は制御しやすい良い子なんだからさ」
「【黙れ。黙れ黙れ黙れ……私は、この新しい右手に歠まれてなどいない。私は完璧に扱えているのだ。その為に左腕だけじゃない。右腕、右足、左足と四肢をこの様に自在に制御できているのだからな!! 『血液四肢流動』!!】
『隻眼の魔法使い』が僕へと体当たりしてくる。まさにやけくそみたいな攻撃だ。
「血の螺旋かい? 触れたら感染しないだろうね? 吸血鬼だけにさ! 『紅玉防弾』」
『紅玉防弾』は赤色系統の眼の攻撃を完全に遮断する絶対防御。僕の周辺に紅色の薄い球体を作り、どんな攻撃も通さない。血液の攻撃だってね。
「"赤蛇の神眼"の力を引き出し過ぎて暴走しちゃったね。両腕両足が血の身体で形成されてるよ。『隻眼の魔法使い』さん」
【だからどうした? 私はまだまだ強くなる。新たな『十四色の神眼球』求め得る。そうだ。今度は極東の紫を手に入れる為に、王都に居る極東の貴婦人とやらを拐ってやる!】
「そんな架空な人物居るわけないでしょう。お馬鹿さんだね………もういいや。沢山のデータは取れたし。そろそろ返してもらうね。"赤蛇の神眼"を」
【返してもらうだと?! 何を言っている! これは私の物だ。これを手に入れる為に右目のまで犠牲にした! そして、私の力だけで在りかを探り手に入れた。やっと! やっと手に入れたのだ! 世界に革命をもたらし。救う力をな!】
「……『隻眼の魔法使い』さんが。辛い過去を背負ってるのは分かるけど。君には過ぎたる力だよ。『十四色の神眼球』は……それに君はとっくの昔に亡くなっている人なんだよ」
僕は右目の眼帯の封印を静かに解除した。そして、七色に光る右目を『隻眼の魔法使い』ブラッドへと向ける。右目が赤い眼をしたブラッドに。
【なんだ?……その虹色の眼は? それはもしや?……何故、扱えている? 私はこれだけで手一杯だというのに!】
「おや? 正気に戻ったのかい? 『隻眼の魔法使い』さんがなにに対して驚いているのか分からないけどさ。君をこれ以上放置する事はできなくなっちゃったよ……君はアリアの産まれ故郷の王都ミーティアスを壊滅させようとしたんだからね。危険生物と定めさせてもらうよ。『天道輪廻』」
『天道輪廻』
【ごがぁ?! 何だ? か、身体が……私の身体が……ねじ曲がっていく? ここでないどこかに連れ去られる?! 止めろ!! 私の身体を持って行こうとするなあああ!!……】
次元が歪み始めて、『隻眼の魔法使い』ブラッドの身体は、ここや《ゼロ・スフィア》とは違う世界に旅に出る。
「生前の夢でも見て、安らかに逝きなよ。吸血鬼種の再興を願って朽ちてしまったブラッド卿」
僕は『隻眼の魔法使い』が消えた場所に手を合わせて安らかに眠る事を祈りながら、僕の元へと戻って来た"赤蛇の神眼"を回収して、異空眼を後にした。
▽
……ああ、私は負けたのか? それなのに何故に意識はハッキリとしている?
(父さん。また魔人達による差別が始まったよ。吸血鬼種狩りだ! このままじゃあ、僕達。吸血鬼種は滅ぼされてしまうよ)
(……分かっている。ブラッドよ。今、魔王様宛に抗議の書簡を送った。返事を待て)
(返事を待てって……その間にも魔人達の迫害行為は進んでるんだよ! 弟のブライスだってこの間……)
(分かっている! だが、魔人にも力の優劣があり差別もあるんだ! そして、我々。吸血鬼種側は差別を受ける側。幾ら強大な力があろうと多種族とは数が違う。我々は少なすぎるんだぞ! そんな少人数がなにかを叫ぼうとも。大多数に声は消され殺されるのが落ち。何故、分からないんだ?! ブラッドよ!)
(……分かるわけないだろう。弟とは……俺の弟のブライスは、俺達家族の目の前で焼かれたんだぞ。父さん)
この記憶は……私が右目を失う前の前世の記憶か。
何故、今になって思い出す? これ程の悲しい記憶を……
(吸血鬼種族の長。ヴァンス・ノイアート。貴様を魔王様への反逆者罪で火炙りの刑に処す……これに伴い。他の魔人に対しての反逆の疑いは晴らされ。吸血鬼種族は辺境へと居住区を移せとの、魔王様からのお達しだ。良いか?)
(魔王様に……寛大なるご配慮感謝致しますと伝えてくれ。我が友、セフィロよ)
(……ああ、安らかに逝くといい。去らばだ。友よ)
(止めろ!! 貴様等!! 俺の家族が! 父さんが何をしたというんだよ! 止めてくれ!! 父さん! 父さんも逃げろよ! 逃げないと焼き殺されるだぞ! つっ! 離せ! 俺に触れるな! 父さん!父さん!父さん!!)
(貴様! 動くな。これは公正なる裁判取引だ。貴様の父の努力を無駄にする気か?)
(うるさい! 黙れ卑怯者共がぁ! 少数の種族をそんなに迫害したいのか? 種族人口が多いだけでそんなに偉ぶれるのか? この卑怯者共がぁあ!)
(があああ?! こ、こいつ。俺の肩に噛みついて血を吸ってやが……ああぁあ?!
ああぁあ!!)
(あ? なんで魔王兵の血を吸っただけで、魔王兵が変化してんだ?)
(ブラッド……なんという愚かな事を……)
(魔人変異したのか?……ヴァンス・ノイアートの処刑執行は中止し、吸血鬼種族の掃討戦に移行し殲滅しろ)
(((はっ!)))
(……セフィロ。すまん。うちの息子が迷惑をかける)
(あぁ、かつての友よ。悲しい結末だな……去らば)
ドスッ!
(……は? 父さんを刺したのか? お前! 父さんを刺して殺したのか? お前お前お前はあぁ!!)
(正気を失った吸血鬼種め。貴様のせいで親友を手にかけてしまったではないか。貴様がこれ以上被害を出す前に死ね!)
ああ、この後は泥沼だった。私が魔王兵の血を吸った事で、魔王兵は化物となり……魔王軍と吸血鬼種族の戦争に発展したのだったな。
(両軍。全滅ですか……情けない最後ですね)
(そう告げるな。シスター、死んだ者達が浮かばれんぞ)
(結界を憂いただけです。これでは眼の汚染が叶いませんもの)
(どこにあるとも分からぬ物を汚染ねえ。非効率そのものだな。シスター)
(あら? 貴方だってやってるいるでしょう? 視力狩りを……ペストさん)
(ごがぁ?!……全裸の修道女と鴉の仮面)
(ほう。生き残りがいたのか……どれ? 目を見せてみろ。小僧……両目は見えているのか。良い苗床だな)
(あら? その方にするのですか? 他にも探せば生き残りが居そうですが?)
(いや、コイツに決まりだ。コイツは目が濁っている。良い目をしている……そうだな。右目を頂こうか。そして、息を取り戻したら赤色の眼を探せ。"赤蛇の神眼"をな)
("赤蛇の神眼"? それはいったい何だ?)
ドスッ!
(ギャアアアアア!! 俺の右目が潰れええぇ!!)
(ハハハ。叫べ叫べ……叫びは憎しみを増幅させるスパイスになるからな。じゃあな、吸血鬼小僧。1度死んだ命を……)
(甦る機会を与えたのですから)
(俺達の願いの為に動いてくれよ)
(私達教会の未来の為に)
そうして私は、誰かも知らない者達に右目を奪われ、死ぬ寸前だった身体を蘇生され。第二の人生を強制的に歩まされ続けた。
………そして、ここは白い世界。白い白い。ただただ白い世界だ。
私は白い世界を歩き続けた。昔の事を繰り返し思い出しながら、反省しながら歩き続けた。
そして、辿り着いたのは……白いホーム。王都の西にある駅と言うものに近い場所だった。
そう、ここはたしかホームとか言う場所だ。
白い椅子が並べられていた。3つある白い椅子が。私は真ん中の椅子に腰をかけ座る事にした。
「…………私はこれからどうすれば良いんだ? 私はあれ程の愚かな行いをして今まで生きていたのか」
「なら、もう休みなよ。兄さん」
「ブライス……お前! 生きてたのか?」
私よりも先に死んだ筈の弟が……ブライスが右の椅子に座っていた。
「お前は十分思い出し。罪と向き合ったんだろう? 済まんな。息子のお前1人に我々の罪を背負い込ませて……辛かったろう。ブラッド」
「父さん! 父さんも生きてくれていたのか?」
「……いや、生きてはいないさ。ただ、ブラッド。息子のお前が心配で迎えに来たんだ。今まで1人にして済まんかったな。ブラッド」
「……兄さん。先に逝ってしまって。ごめんよ」
左の椅子には、私の父が申し訳なさそうな顔で、私の肩に手を乗せて泣きながら謝っている。右隣の弟を見ると父さん同様に泣いていた。
「……ああ、そうか。ここはそういう場所で……私は……いや、俺は……死んだのか。そして、自身の罪の《《輪廻》》とずっと向き合っていたんだ」
俺はあの少年に負け……自身が犯して来た罪と向き合わさせ続けていたのか。
俺がちゃんと罪を認め、逝ける様に反省し。罪を悔い改めると信じてこの場所に向かわせてくれたのか。
「あ、ああ……少年……いや、ライト・クラウディア少年。君に永久の感謝を……ありがとう……君のおかげで自身の罪と向き合う事ができたよ。感謝する」
俺は両目から大粒の涙を流し。少年へと感謝の気持ちを伝える。心からの感謝の気持ちを。
「……そろそろ。行こう! 兄さん」
「もう。心配かけさせるなよ。馬鹿息子」
親父と弟が立ち上がり。親父が俺の右手を、弟が俺の左手を握り支えてくれる。
「ああ、今度は選択を間違えないさ……さようなら。少年。ありがとう……」
そして、もう一度感謝の言葉を述べ。俺は家族と共に新しい場所へと旅立って逝った……
◇
《異空眼の世界》
「うん。さようなら。ブラッドさん……貴方の記憶。ちゃんと僕が引き継ぐよ。だから、この安全な場所で安らかに……おやすみなさい」




