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お前が本物の勇者かどうか見極めさせてもらう!  作者: ぱんと少年
【一章】

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6/7

[6]哀の帝国 / 志願


「よし、やってみろ」

「いくぜっ……! ふぬぬぅ……!」


 少年は近くにあった箱の上に乗って、地面に突き刺さった魔剣を力いっぱいに引き抜こうとした。

 だがまぁ、無理だろう。


「ぐぬぬっ……!!」

「ほら見ろ、全く動いてないじゃないか」

「よ、よく見ろよオッサン……! ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、持ち上がってるだろっ……!?」

「……いや、わからん」


 どれだけ目を凝らしても少年が全身をプルプルと震わせているだけだった。

 何ひとつとして剣が動いているようには見えない。


《かかっ! こやつめホラを吹きおった! 面白いヤツじゃ! 気に入った!》

「勘弁してくれよ……俺はこんなガキの子守(おも)りをするつもりはないぞ……?」

「オレはガキじゃねぇって言ってるだろ! ちゃんと剣を引き抜いたんだからオレを勇者にしろよな!」

《ほれほれ、言われておるぞ? 僅かな可能性に賭けるんじゃろ?》

「うぐっ……」俺は(うめ)いた。


 めんどくさい。

 クソガキどもからの追及がかつてないほどにめんどくさい。

 俺は少しでも落ち着こうとため息を()いた。


「あのな、だいたい俺はお前を勇者にするなんて一言も言ってないぞ?」

「どっちでもいいだろ! オレは剣を引き抜いたんだから間違いなく勇者なんだよ! いいからオレを強くしろ!」

「なんて強引なヤツだ……」


 俺は呆れが止まらない。

 勝手にぶつかってきて慰謝料を請求してくるチンピラ並みの面倒さだ。


《おぬしも頑固じゃのぅ、そんなにこの小僧がキライなのか?》

「別に、そういう訳じゃないが……」


 確かに俺の目的は本物の勇者を探すことだ。

 だが、それも()()()()()()()()()()()()()をだ。

 こんな子供にそんな力があるとは到底思えない。しかし、僅かな可能性を探ると言ってしまった手前、引くにも引けない状況が俺を更に追い詰めてくる。


「だーもう! わかったよ! 俺がこの町にいる間だけな! その間だけは面倒を見てやる!」

「よっし! まずは一歩前進!」


 少年は嬉々としてはしゃぎだした。

 ため息が深くなる。少しだけの辛抱だ、俺も大人としてここは我慢をしようと思う。


「オレはルーク! 最強の勇者だ!」少年が言った。

「勇者になれるかまだ決まってないだろ、調子に乗るな」

「いいだろ! 絶対(ぜって)ぇ勇者になるからな!」


 ルークは自信満々な表情を向けてくる。

 こうも暑苦しい顔をされると体中がムズムズとして仕方がない。


「だが、どうして勇者になりたい? まずはその理由から聞かせろ」


 俺が質問をした直後、ルークは表情を落とした。


「……オッサンも見ただろ、酒場のヤツら」

「ああ、随分とガラの悪いヤツらだったな?」

「アイツらはこの町のヤツらじゃない! 外から来たよそ者なんだ……」

「どういうことだ?」


 ルークは硬い表情のまま続けた。

 それはこの町の、()()()()()()についてだった。


「ある日突然、この町からみんな消えちまったんだ! オレが朝起きたらもう誰もいなかった。隣のおばさんも、商店街のおっちゃんも……! そしてアイツらが住み着いたんだ!」

「ああ、話には聞いた」


 それは馬車の運転手から聞いたものと同様の話だった。

 住人が消えた町。たった一夜にしてゴーストタウンと化したというウワサ。

 だから町には廃墟が多かったのだ。手入れがされず、住人の姿すら無かったのはそのためだ。

 とはいえ、ルークが言うには酒場の集団は元々この町の住人ではないらしい。これは初耳だった。


「アイツらに何もかもめちゃくちゃにされちまった! オレの町も、オレの日常も全部、ヤツらに壊されたんだ……!」

「だがわからんな? どうしてお前は残された? なぜお前だけはこの町にいる?」

「それは……」


 ルークの表情が曇った。

 少し間を置いてからルークは続けた。


「ねーちゃんの、おかげなんだ……」

「ねーちゃん? お前の姉か?」

「うん。アイツらはねーちゃんのことを気に入ってて、毎晩ねーちゃんをどこかに連れていくんだ。オレがここにいられるのもきっと、ねーちゃんのおかげなんだ」

「そうか」

「ねーちゃんがアイツらに何をされてるかはわからない! でも、きっとねーちゃんはヒドイことされてるに違いないんだ! だからオレは勇者になってねーちゃんを守る! アイツらからねーちゃんを助けるんだ!」


 ルークは瞳を潤ませながらも力強い表情をした。

 この思いは確かに本物らしい。


「なるほど。だが、俺に助けてとは言わないんだな?」

「だって、オッサンは人殺しなんて出来ないんだろ?」


 俺はウッとなった。


「そ、そこまで聞いていたのか……」

「だからオレがやる。オレがやらなきゃダメなんだ。オレがねーちゃんを、絶対に助けるんだ」


 ルークはそう言って懐から短剣を取り出した。

 それは見るからにボロボロな剣だった。まともな手入れがされているようには見えなかった。


「それは何だ?」

「オレの親父の形見だ。あんな()()()()でも、役に立ちそうな物だけは残していったんだ」


 ルークの言葉には何やら強い感情が込められているように聞こえた。


「クソ親父ねぇ……そんなに酷いヤツだったのか?」

「ヒドイなんてもんじゃない! ねーちゃんに悪口言ったり、殴ったり……思い出しただけでもムカついてくる! でも、あのヤロウも町のみんなと一緒に消えた。それだけはむしろ清々したよ」

「だから形見、というわけか」

「あんなヤツもう知らない。くたばっていてくれた方がオレは嬉しいね! だけどねーちゃんは苦しいままだ! だからオレは強くならなきゃいけないんだ!」


 ルークはボロボロな剣を片手に意気込んだ。

 そんなナマクラで何が出来る……そう口に出しかけたところを俺は何とか飲み込んだ。


「いいだろう、だったら俺が相手になってやる」

「えっ? オッサン何言って……」

「勇者になりたいのだろう? 俺が試してやるよ」

「で、でもっ……!」


 俺は魔剣を引き抜いて構えた。

 対するルークは目を泳がせたまま煮え切らない態度だ。


「……別に本気で殺せと言っているわけじゃない。その剣で俺の鎧に傷をつけられればお前の勝ちだ」

「そんな、急に言われても……」

「ならやめるか? 誰かを守りたいなら、誰かを傷つける覚悟を見せてみろ」

「っ……!」


 ルークは短剣を力強く握り直した。

 その手は震えたままだが、どうやらやる気になったらしい。


《殺してくれるでないぞ、この小僧に興味が湧いてきたのでな》

「はいはい、わかりましたよ……」


 俺はルークと一直線に間合いを作り立った。

 互いに睨みを利かせる。俺は鎧を着ているから顔は見えないがまぁ、雰囲気の問題だ。

 微かに風が流れ、枯れ草が舞った。そのとき、


「……来いッ!」


 俺の合図で対決が始まった。


「うお──っ!!」


 ルークは俺を目掛けて真っすぐに走り込んできた。

 俺はジッとして構え、ルークの攻撃を待った。

 ルークは両手に持った短剣を振り上げ斬りつけてきた。

 避けてやる必要は無い。俺はルークからの攻撃を正面から受けてやった。


──ガギンッ! 大きな金属音が響いた。


「あっ!? 剣がっ……!」


 ルークに握られた剣は根元から刃が折れてしまっていた。


「馬鹿正直に斬りつけてくるヤツがあるか。こういう時は鎧の隙間を狙うんだよ、短剣なら尚更にな」

「そ、そんなん最初から言えよな! だいたいオッサン真っ黒だし、どこに隙間あんだよ!?」

「最初から弱点を言う奴がいるか? 素人め、よくこの程度で勇者になるなんて軽々しく口にできたな……」

「う、うっせぇ……! こっから強くなんだよ! まだまだ成長中なんだよ……!」


 やはりコイツに勇者は向いていない。俺がこの町にいる間に強くなれるとも思えない。

 しかし、今の対決を通してひとつだけ気になったことがあった。


「お前の剣、それではもう使い物にならんだろう」

「……オッサンのせいだろ! オレは悪くねぇし」

「貸してみろ、俺が直してやる」

「は……? オッサンに直せんの……?」

「まぁな」


 俺も一応は剣の管理人をしていたわけで。

 剣に関する技術や知識は人並み以上にあると自覚している。


 俺はルークから短剣を受け取って状態を見た。

 (つか)より先には何も残っていなかったが、この程度ならばすぐにでも直せてしまうだろう。

 俺はすぐに準備を始めた。


 まずは足で地面に大きく円を描いた。そこへ細かい模様を描き加えていく。

 これは魔術式だ。魔術を使う際に必要になる設計図のようなもので、今回は簡素なものでも十分だろう。

 次に、起動するための魔術詠唱を行う。


溶炉鍛造(フォージ)


 俺の詠唱に呼応して、魔術式を描いた地面から砂煙が立ち上った。

 渦を巻く砂煙は形を作っていく。それは坩堝(るつぼ)を備えた炉になった。


点火(イグニス)


 俺はもう一度魔術を唱え、炉に火を点した。

 炎がゴウッと音を立てて激しく(ほとばし)る。これで簡易鍛造炉の完成だ。


「すげぇ……オッサン、魔法使えるのかよ!?」

「これでも元冒険者だ、魔術ぐらいは使える」

「オッサンって意外と凄かったんだな……」

「あのなぁ、俺を何だと思ってたんだ……?」


 俺は近くに落ちていた刃の欠片を拾い上げ、坩堝の中へと放り込んだ。

 炎が勢いを増して坩堝の中身を溶解した。そこへ折れた短剣の先を近づけた。

 うねる炎が剣先を包み、ゆっくりと、元あった剣の形を作った。


「もう直っちまったのか……!?」

「この剣がナマクラで良かったな、一級品だったらこうも簡単には行かんぞ?」

「うぐっ……わ、悪かったな……!」


 ルークはいたたまれない様子で剣を受け取った。だが、何やら不服そうな表情だ。


「何か不満か?」俺は聞いた。

「別に……どうせならもっとカッコよくしてくれれば良かったのにと思って。なんで元のままなんだよ」

「そいつは難しい注文だ。ほとんどの剣には状態を保存する魔術刻印が刻まれていて、その刻印を元にしなければ復元は出来ない。元の状態から変化させるとなると刻印の書き換えが必要になる。それには時間がかかって──」

「もういいよ! 何言ってるかわかんねぇ!」ルークが俺の言葉を(さえぎ)った。

「要するに、お前の要望は叶わないってことだ」


 しかし、俺がこうも簡単にルークの短剣を修復できたのにはもうひとつ理由がある。

 俺はこの剣の構造を良く知っているのだ。

 確かにありふれた剣だが、こんな子供が持つには不相応なものだ。

 柄頭(ポンメル)に掘られたうずまき状の特徴的な魔術刻印、これは()()()()()()をであることを示している。

 ネタニカというのは国の名前だ。

 ネタニライトという鉱物の産地として有名で、加工がしやすく強度も高いネタニライトで作られた剣は多くの国の兵士が愛用する。

 つまりはプロ用。まず一般人が手にする機会はそうそうない。

 そんなものをルークが、そのクソ親父が持っていたと言うのだから興味が湧く。


「剣を直してやったんだ。今度はお前が俺の言うことを聞く番だ」

「はっ!? オッサンが壊したんだろ!?」


 反発してくるルークを他所に俺は続けた。


「対価はひとつ。お前の家に案内しろ」

「え、えぇーっ!? ダメ! それだけはダメ!!」

「何故だ? 別に構わんだろう?」

「ダメなものはダメなの! オッサンのこと、ねーちゃんにだけは会わせたくないし……」


 ルークの声が段々と小さくなっていった。


「なるほど、お前の姉か。だったら丁度いいだろう。お前を勇者にしてやるんだ、挨拶ぐらいさせろ」

「……えっ、ホントかっ!? オレを勇者にしてくれるのかっ!?」

「お前次第だ、どうする?」


 ルークは頭を抱えて悩みだした。くねくねとした気色の悪い動きだ。

 

「なら話は無かったことに……」

「わ、わかったよ……! 連れてきゃいいんだろっ……!?」


閲覧ありがとうございます!

ぼちぼち更新する予定ですので、ぜひブックマークをご活用ください!


※無断転載禁止です。

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