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お前が本物の勇者かどうか見極めさせてもらう!  作者: ぱんと少年
【一章】

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[5]哀の帝国 / 来訪


 吹き荒れる砂の中、俺を乗せた荷馬車が進んでいる。

 荷台に揺られること数時間……そろそろ足腰に限界が来ている。

 いくら魔剣様の力で強くなっているとはいえ、ただでさえ腰痛持ちな本体の性能は型落ち気味らしい。

 世知辛い現実に嘆いていたそのとき、馬車が動きを止めた。


「着きましたぜ、旦那」運転手が言った。

「……ああ、ご苦労」


 俺は荷台から降りた。ようやくの解放だ。

 張り詰めた背を一気に伸ばす俺に、乾いた風に乗った砂が吹き付けてきた。

 鎧の隙間という隙間に砂が入り込みジャリジャリとして気持ちが悪い。


「しかし、こんなヘンピなトコに来るなんて、物好きな人もいるもんだ……」


 運転手の男は顔を布で覆っていて、俺に向けられる視線は怪訝(けげん)そのものだった。

 無理もないだろう。こんなカチカチの、全身を漆黒で染める鎧男なのだから。

 俺は懐から財布を取り出してそのまま男にくれてやった。


「ちっと多くねぇですかい?」

「構わん、取っておけ」

「へへっ、どうも……」


 俺の来訪を待っていたかのように巻き上がる砂塵が開けた。

 その先には町があった。褐色をした日干しレンガ造りの建物が並ぶ大通りが見える。

 荒野にポツンと築かれた田舎町へと俺はやって来たのだ。

 町の入り口に立てられた看板は(かす)れていて読めそうにない。

 随分と手入れがされていないようで、人が住んでいるのかすら怪しい。


「せっかくなんで気前のいい旦那にゃここだけの話を…..」


 運転手の男は声のトーンを落として語り出した。


「この町には、ある()()()がありやしてねぇ……」


 ◆


──バァンッ!!


 俺は勢いよく建物の扉を開いた。

 中にいた連中が一斉に俺を見た。

 ここは酒場だ。この町で唯一、人が多く集まる場所だと運転手の男から聞いた。

 岩をまるごとくりぬいたような広い空間で、木製のテーブルに男たちが着いていた。

 男たちはそれぞれ娯楽に興じながら、俺を横目に睨みつけてくる。

 ガラの悪い男たちだ。この町の治安が一目でわかる。全員が首元に似たようなスカーフを巻いた恰好をしている。

 俺は集まる視線の中を縫ってバーカウンターを前にした。


「おいテメェ、何者だ?」


 カウンターに立つマスターらしき男がドスのきいた声をして俺を睨んできた。


「ドリンクをくれないか、俺はいま無性にミルクが飲みたい気分なんだ」

生憎(あいにく)だがよそ者に出すもんは何もねぇ、ミルクが欲しいならママのミルクでももらって飲んでな!」

「そうか、ならママのミルクとやらをもらいたい。お前のママでもいいぞ」

「んだとテメェ! やんのか!」


 男はカウンターから乗り出してきた。まるで接客態度がなっていない。

 どうやらよそ者を排除しようとする意識が強いようだ。

 いつの間にか俺は男たちに包囲されてしまっていた。


「コイツ、鎧なんか着やがって……一体何者なんだ?」

「まさか、大国から来たのか……? 何の用で?」


 周囲がザワつきだした。こうも人気者だと流石に照れる。

 しかし、誰一人として俺の正体には気付いていないようだった。周囲の様子に俺が一息をついたとき、


「オマエたち、やめなッ!」


 声がした。

 俺を囲む男たちが横にずれていくと、奥から一人の女が姿を見せた。


「あ、姐さんッ……!」

「まったくオマエたちは……客の一人ももてなせないのかい?」


 男たちから姐さんと呼ばれた女はいかにも気の強そうな強面(こわもて)で、癖毛の強い黒髪をした熟年の女だった。

 ここのリーダー的存在なのだろう。女の耳元から覗く大きめの、目玉のようなイヤリングが特徴的だ。


「しかし姐さん、コイツは見るからに怪しいヤツですぜ……?」

「そんなの見りゃわかるだろう? そんな相手がこうして堂々と入ってきたんだ、アタイらに何か話があるに違いないのさ」


 女はそう言って俺に問いかけるような視線を合わせてきた。


「別に飲みに来たわけでもないんだろう? どうなんだい?」

「ああ……俺はただ、人を探しているだけだ」

「人探し……?」


 俺は丸めた紙を取り出し、カウンターの上に広げた。

 これは指名手配書だ。紙には大きく堂々と男の顔が描かれている。


「この男、エリック・レンフォード。複数人の死傷者を出して、伝説の剣を奪って逃走した。各国に追われるお尋ね者だ」

「伝説の剣? この男が……?」


 そう、手配書に描かれているのは他でもない()()()の顔だ。

 ここにいる全員が俺の顔に釘付けになっている中、俺は言葉を続けた。


「こいつの懸賞金は……()()

「じゅ、十億ぅっ!? ……って、いくつだぁ?」周囲の男たちがザワついた。

「バカは黙ってな! で、そんな重大なお尋ね者がこの町にいるとでも?」

「いいや、俺はこの男を殺せるヤツを探している。俺と一緒に戦ってくれるヤツをな」

「どういうことだい?」


 俺は背に携えた大剣を抜いた。

 そのままドスンッと、勢いよく地面へ突き刺した。


「この剣は伝説の剣と対を成す存在……この剣ならば、この男を殺すことができる」

「何を言っているのかサッパリだねぇ? そんな剣を持っているなら、アンタがやりゃあいいじゃないの」

「こう見えて人殺しはシュミじゃない。俺の代わりに仕事をしてくれるヤツを探している、ただそれだけだ」

「自分の手は汚さないつもりかい……? なんて都合のいい……」


 ここまで俺の言ったことのほとんどは嘘だ。

 手配書にあるエリックとは俺のことだし、俺の手にする大剣こそが伝説の剣だ。

 とりあえず今はテキトーな理由でコイツらに説明するしかない。


「へっ! こんな冴えない男が十億とはな! この剣を使えばいいんだろ? 楽勝じゃねぇか!」


 周囲の男たちが続々と剣に群がり始めた。

 男たちは我先にと剣を引き抜こうとした。


「うぉッ……!? ぬ、抜けねぇっ……!?」

「当たり前だ。この剣を抜けるのは()()()()()だけ……俺以外のな」

「本物の、勇者ぁ……?」


 瞬間、ガハハ! と周囲が湧き上がった。

 確かに、俺が夢物語を語っているように聞こえるだろう。だが、それこそが紛れもない事実なのだ。


「この町に本物の勇者がいるかどうか、見極めさせてもらう。お前たちにはその協力をしてもらいたい」

「バカ言ってんじゃないよ! それでアタイらに何の得があるってのさ! タダ働きなんて真っ平だね!」

「ああ、該当者にはここに書かれている額を全部くれてやる」


 俺の言葉に周囲のザワつきがピタリと止まった。


「そ、それって、十億ってことかぁ!?」

「勿論、お前たちで山分けにしてもらって構わん。自由にしていい」

「おぉ──っ!!」


 周囲が一気に騒がしくなった。どうやら上手くやる気を引き出せたようだ。

 流石に都合の良すぎる話だとは思ったが、ここにいる全員がただのバカで助かった。


「姐さん! コイツぁきっといいシノギになりますぜ!」

「バカだねぇ……! そういうことじゃないだろう!」

「でも、十億なんてあったら一生を遊んで暮らせますぜ!? それにもう、この町だって──」

「このドアホッ! 余計なコト言ってんじゃないよ!」

「す、すんませんっ……!」


 女の拳がバーカウンターの男の脳天に直撃していた。

 結構痛そうだ。


「で? どうする? 俺に協力してくれるのか?」俺は女に聞いた。

「本物の勇者なんて言ったって見当がつきゃしないんだよ! せめてどんなヤツを連れてくりゃいいかは教えてもらわないとねぇ!」

「だったらこの町で一番強いヤツを連れてくるといい。その選定もお前たちに任せておく」


 俺の言葉にまたしても周囲が湧いた。

 我こそが一番強いと言いながら、男たちが押し寄せてくる。


「お、オマエたちっ……! いい加減にしないかっ……! 誰が強いかはアタイが決めんだよ!」

「でも姐さんッ! こんなチャンス二度とねぇはずだ! オレたちの中で最強を決めようぜっ!」

「このバカどもっ……! 焦るんじゃないよっ! いくら強くてもこの剣を引き抜けなきゃ意味が無いんだ!」


 女の言葉は的を得ている。

 確かに野郎どもを束ねるリーダーなのも納得だ。


姐さん(そいつ)の言う通りだ。俺はしばらく近くの宿に滞在する。何かあればそこを訪ねろ」

「待ちな! まだアンタの話に乗ったワケじゃないよ!」

「いいや、お前たちなら乗るさ。必ずな」


 俺は剣を背にその場を離れた。


 ◆


《おい、あれで良かったのか?》

「自分で探すよりは効率的だろう? おかげでゆっくりとできるわけだ」

《それはそうじゃが……わしを殺せる本物の勇者なんぞがこんな町にいるとは思えんがのぅ……》

「俺を選んだ魔剣様(アンタ)の言うセリフか? 俺だって期待はしていないさ。だが、僅かな可能性があるなら賭けてみるべきだ」

《ほーん、そういうもんかのぅ》


 俺は酒場を離れ、宿を目指している最中だ。

 町の様子は昼間だというのに閑散としている。誰一人として外を出歩いているヤツはいない。

 付近の建物も壁が崩れていてもはや廃墟だ。

 酒場にはあれだけの人がいたというのに、何とも異様な町だ。


「不気味だな。まるで人の住む町とは思えん」

《ここはハズレじゃのぅ、わしにはわかるぞ》

「いいや、これだけ荒廃した町ならばヤツらも俺の話に乗ってくるはずだ」

《じゃから! こんな町に勇者なぞおらんと言っておるのじゃ! いい加減理解せんか!》


 魔剣様は不機嫌だ。

 背負っているのも段々と重くなってきている気がする。


《して、気づいておるか? おぬし、つけられておるぞ?》

「ああ、酒場からずっとな」


 魔剣様の言う通り、俺を付け狙う気配がある。

 物陰からジッとこちらを見てきているようだった。

 姐さんと呼ばれていたあの女の差し金だろうか。だが、手口は明らかに素人だ。


《なんじゃ、気づいておったのか》

魔剣様(アンタ)のおかげで色々と便利になってんだ、少し試してやるか……」


 俺は道を外れて建物の裏に入った。

 追跡者を炙り出す作戦だ。このまま裏道で待ち伏せようと思う。

 案の定、俺をつける気配が動いた。

 俺を追って裏道に入ってきた気配に、俺は背後から近づいた。


「俺に何か用か?」

「っ……!?」


 俺は追跡者の首筋を掴んだ。

 思いの外それは小さく、軽い感触だった。


「こいつ、子供(ガキ)か……?」

「オレはガキじゃねぇっ! 離せよっ……!」


 少年だった。

 短めの黒髪は砂を被り、穴の空いた服を着た清潔感のないガキだ。

 こうしている間にも俺の手の中で暴れていて、見るからにヤンチャそうなヤツだ。


「スリでもしようとしたのか? 残念だが、今の俺は金を持ってないぞ」

「バカにすんなよ! オレはそんなことしねぇ!」

「じゃあ何だ? 目的を言ってみろ」

「いいから離せよっ! 服が伸びちまうだろっ!」


 俺はため息を()いた。

 正直、子供の相手をするのはあまり気が進まない。

 ただでさえ見た目が少女で中身がババアな()()()()()魔剣様(ロリババア)が頭の中にいるのだから尚更だ。


《おい、今わしのことバカにしたじゃろ》

「別に何も言ってないでしょうが……勝手に人の心を読まないでくれ」

《やっぱりバカにしとるではないか! この阿呆(アホウ)! ヘタレ!》


 頭が痛い。

 子供特有の甲高い声がどこからともなく響いてきて憂鬱になる。


「おいオッサン! 独り言かよ! ヘンなヤツ!」

「あ? 誰がオッサンだと? ガキのくせに調子に乗るなよ!」

「だーかーらー! オレはガキじゃねぇっ!」


 またしてもガキが暴れ出した。

 ただでさえボロボロな服を掴んでいるのも相まって今にも破けてしまいそうだった。

 このままではラチが開かない。話ぐらいは聞いてやろうと思い、俺はガキを放してやった。

 ガキは乱れた服装を整えてから俺に話しかけてきた。


「なぁオッサン! 感謝しろよ! オレが勇者になってやる!」

「は? 何言ってんだお前」

「勇者を探してんだろ? だから、オレがその勇者なんだよ!」


 前言撤回。こいつの話を聞く必要はなさそうだ。

 おそらく酒場での話を聞いていたのだろう。それで俺を追いかけてきたというわけだ。


「お前みたいなガキが勇者なわけないだろ……さっさと消えろ」

「ふざけんな! オレは勇者になる男だ! アンタの持ってるその剣を握る資格がある!」

「だとよ」俺は背中の魔剣様を見た。

《わしに振るな! この小僧にわしの声は届かんのじゃからな!》

「また独り言かよオッサン!」


 ガキの一言に俺の中で何かがピキッた。


「あのな、どうして俺のことをオッサンだと決めつける? 俺はこの通り、鎧で身を包んでいるんだぞ?」

「その頭が硬いところがオッサンなんだよ! ああ、ずっと鎧を着てるから頭の中まで硬くなったんだな! この頑固ジジイ!」

「このクソガキ! 俺はオッサンだがジジイじゃねぇぞ!」

「やっぱオッサンじゃねぇか!」

《うひゃひゃっ! この小僧も中々言いよるのぅ! これはおぬしの負けじゃ、ぷぷぷ》

「クッソ、コイツら……」


 相手にするのが疲れる。

 このままじゃ無駄に体力を使って終わりな気がする。


「……わかった。剣を引き抜けるか、一回だけだぞ」

「おお! 話せばわかるじゃん! オッサンのくせに!」

「くせには余計だ! つか、オッサン言うな!」


閲覧ありがとうございます!

ぼちぼち更新する予定ですので、ぜひブックマークをご活用ください!


※無断転載禁止です。

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