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お前が本物の勇者かどうか見極めさせてもらう!  作者: ぱんと少年
【序章】

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[3]序章 / 正義の剣


「はぁっ……! はぁっ……!」


 息が苦しい。胸が張り裂けそうだ。

 俺は今、必死になって森の中を駆けている。体力にはそれなりに自信のある方だが、流石の全力疾走も若い頃のようにはいかない。

 俺の手には一本の剣。それもただの剣ではない。何を隠そう伝説の剣なのである。


「なんでこんなことになっちまったかなぁ……!」


 その一言に尽きる。

 俺はただ静かに、平穏な毎日を過ごしたかっただけだった。それが、俺が勇者だなんて……今更すぎるにも程がある。

 確かに少しぐらいは期待をした。勇者になれば誰もが俺を認めてくれると思った。でも、まさかこんな形でなんて思ってもいなかった。

 もう夢を見る歳じゃない、夢を諦める方が簡単になってしまった。臆病者だと、卑怯者だと言われて当然の人間だ。

 頭の中がゴチャゴチャとしていっぱいになった。そのとき。


「うおっ……!?」


 手に持っていた剣の重みが増した。俺は体勢を崩して転んでしまった。


「痛っ……なんだよ、お前も俺を責めるのか? 俺を情けないって罵るのかよっ……!?」


 地面に転がる剣は綺麗な切っ先を見せる。今はそれが腹立たしくて仕方がない。

 伝説の剣だとか、選ばれし勇者にしか引き抜けないだとか、もはやそんなものは俺に関係ない。

 お前のせいでこんなことになってしまった。その怒りをぶつけたくてたまらない。

 俺は握りしめた拳を振り上げた。そのときだった。


《そうじゃ。じゃが、ここまでヘタレだとは思わなかったぞ……》


 少女の声がした。

 俺は「えっ」となった瞬間、全身をさーっと風が通り抜けていく感覚が襲った。


 不意に周囲がホワイトアウトし、白が無限に広がる空間……上も下もわからない場所に俺はいた。


「おぬしは選ばれたのじゃ。わしによってな」


 再びの声に俺は「ハッ」とした。

 俺の目の前には石造りの玉座がひとつ、ポツンと置かれていた。

 玉座の上に寝転がるようにして、先程まで聞こえていた声の主はいた。

 白いワンピースを着た裸足の少女だった。だが、俺は少女を一目見てその”異質”さを感じ取った。

 少女には色が無かった。癖がついて大きく外にハネた長い髪も、幼さの残る切れ長の目も、艶のある肌も……それらは単なる”白”ではなく、まるで”無色”のようだった。


「お、お前は誰だっ……!? ここはどこなんだっ!? 俺は森の中で……!」

「うるさいのぅっ! いちいち声に出さなくてもわかっておるわ! 一度に聞かれても答えられるわけがないじゃろう!」


 少女はムクッと起き上がって声を荒げた。

 俺は唖然(あぜん)とした。そんなに強く言われる筋合いは無いだろう。ただでさえ訳がわからないというのに、どうして俺が責められなければならないのか。


「おぬしを選んだのが間違いじゃった……まさかこんなことになるとは……」少女はため息を()いた。

「選んだって……まさかお前、あの剣と何か関係がっ……!?」

「関係も何も、わしこそが()()()()()()()()()()()()()()じゃ! もう少しわしを(うやま)(あがめ)めたらどうじゃ?」


 何なんだコイツ……?

 この少女が剣だって? そんなものを信じろとでも言うのか。

 俺があの剣を引き抜けたのも、この少女が俺を勇者に選んだからってことなのか……?


「せっかくおぬしを勇者にしてやったというのに、なーにが《俺は勇者にはならない》じゃ。ヘタレのくせに恰好つけとるんじゃないわ!」

「う、うるせぇっ……! 俺にだって選ぶ権利ぐらいあるだろ! そもそも、何で俺なんだよ!?」


 俺からの問いに少女はムスッとした。


「……正直、誰でも良かった。毎日が退屈じゃったからのぅ、何か面白いことでも起きればいいと思ったんじゃが、まさかチンピラに絡まれてオメオメと逃げるだけのヤツだったとはのぅ」


 俺は胸を針で突かれたような気分だ。だが、いちいち一言多いのが癪に障る。

 見た目が少女だろうが伝説の剣だろうが知らんが、流石の俺も我慢の限界だ。


「お前なぁ! 人を馬鹿にするのもいい加減にしろよ!? 大体、伝説の剣だって言うのに口悪すぎだろ! 喋り方もなんかババアみたいだし!」

「なんじゃと!? わしをババア扱いするでないっ! わしは立派な伝説の剣じゃぞっ!」

「どうだかな! 長年一度も引き抜かれてないんだからババアも同然だろ! ああそうか! 俺を選んだとか言っておいて、本当はこんな性格の悪い剣だから()()()()()()()()()()()()の間違いだったんだな!」

「むきーっ! 取り消さぬか今の言葉っ! ヘタレのくせして生意気じゃぞ!」

「ハッ! 図星か! 俺みたいなヤツにしか引き抜かれなくて残念だったな!」

「うるさいわいっ! 黙らんか! ばーかばーか!」


 我ながら大人にもなって少女を相手になんと程度の低い口喧嘩だろう。

 ただ、少女も見た目こそ幼いが俺の言ったことは的を得ているはずだ。長年一度も引き抜かれなかった伝説の剣なのだ、中身はババアで違いない。

 しかし、こうして呑気にケンカをしているヒマがあっただろうか。その疑問が俺の中で膨れ上がってきたとき、少女は何かに気づいて「ムッ」とした。

 

「ほぅ、どうやらチンピラが追い付いてきたようじゃぞ?」

「なにっ……?」


 少女の言葉とともに、空間にはモヤが現れた。

 モヤの中には森の様子が見えた。男たちが俺を追ってきていた。


「やばい、逃げないと……! はやくここから出してくれよ!」

「そう慌てるな、おぬしに力を貸してやる。わしをその辺に放り投げられたままでは居心地が悪いからのぅ」

「力を貸すって……俺に戦えって言うのか?」

「そうじゃ。でなければおぬしは()()()()()()()()()()()ぞ?」


 俺は息を飲んだ。

 確かにヤツらは俺を殺すつもりだった。このまま逃げても解決はしないだろう。

 ましてやおやっさんたちにも迷惑が掛かるかもしれない。


「いくらヘタレのおぬしでも、今回ばかりは逃げられんぞ? さぁ、覚悟を決めよ」


 少女はぺたぺたと音を立てて俺に近づいてきた。

 スッと、俺の前に手を伸ばしてきた。


「……わかった、やってやる! 戦ってやるよ……!」


 俺は少女の手を取った。その手は不気味なほどに冷たかった。

 少女はニヤリとした。俺を不安が襲った。

 だが、俺が助かるにはこれしか方法はない。俺は決意を固めた。


「片が付いたらもう一度わしを元の場所に戻せ。それで全部、無かったことにしてやる」

「大層な言い草だな。でも、確かにそうしてもらった方が俺としても助かる」

「ふん、意見があったな。では、ゆくぞ」


 瞬間、視界が光で包まれた。


 ◆


 俺は再び森に戻っていた。

 足元には剣……伝説の剣が転がっている。俺はそれを拾い上げた。


「ようやく追いついたぜ……! オッサン!!」


 俺は背後からの声に振り返った。

 ナイフを構える男たちがゾロゾロと現れた。


「もう逃げねぇのか? ようやくオレたちに殺される気になったってワケか!」

「そうだな、俺はもう逃げないさ……」


 俺は手にした剣を構え、男たちに差し向けた。

 その瞬間、剣は黒いモヤに包まれて形を変えた。光を飲むほどの漆黒に塗れた、黒い大剣となった。


《これこそがわしの本来の姿じゃ。どうじゃ、見惚れてしまったのではないか?》


 それは少女の声だった。俺の頭に直接響いてきた。

 どうやら剣を手にする俺にしか少女の声は聞こえていないらしい。


「どっちでもいい……とにかく、ここを切り抜ける……!」

《ふんっ、威勢だけは一丁前じゃのぅ。じゃが、わしもハナからおぬしに期待などしておらん》


 少女の言葉が聞こえたとき、俺の体が動き出した。

 俺は何が起きたか理解できなかった。俺の体が”勝手”に動いたのだ。


「な、なんだこれっ……!?」

《わしがやる。おぬしは体だけを貸しておればよい》

「んなバカなっ!? そんなのアリかよっ!?」


 困惑する俺を他所に体は言うことを聞いてくれない。

 剣に操られた俺の体は男たちのもとに向けて走り出した。


「くっ……! そっちから来るってのか! 上等じゃねぇか!!」


 俺の体は自分のものとは思えない身のこなしで、男集団の中に飛び込んだ。

 男たちは呆気に取られていた。俺も同じ気持ちだ、まるで自分がサーカス団にでも入ってしまったかのようだった。

 着地して俺の体がグッと沈み込むと、男たちは負けじとナイフを突き立ててきた。


《かかっ! 遅いわ!!》


──ブシャァァァ!!


 瞬間、鮮血が舞った。

 近くにいた男の仲間の体が上下に分かれ、ボトッと地面に転がった。


「ひ、ひぃっ……!」男が腰を抜かして悲鳴を上げた。

《次はそっちじゃ! 逃がさんっ!》


 鋭い斬撃音が響いた。

 俺の目に映る動くもの全てが、次々と赤い飛沫を上げて音を消していく。


《あぁ、これじゃぁ……! 懐かしい感覚じゃぁ……!!》

「な、なにしてんだよッ! やめろッ! ここまでする必要はないはずだッ! おいっ、止まれぇっ……!!」


 俺がいくら声を荒げても目の前で繰り広げられる光景は凄惨さを増すばかりだった。

 戦意を喪失して逃げ惑う者も容赦なく、俺の手に握られた剣はその身を赤く染め上げていく。

 紛れもない地獄そのものだった。

 俺には何も出来なかった。惨状から目を背け、ただ過ぎていくことを待つばかりだ。


 やがて俺は血生臭い地獄にひとり取り残された。

 気が付けば体は自由になっていた。俺は剣をその場に落し崩れ落ちた。

 全身に浴びた血の生暖かさが、俺の手にびっしりと付いた血が……。

 俺は込み上げてきた吐き気に腹のものをぶちまけた。


《情けないのぅ》

「お前は一体何なんだよ……! お前は伝説の剣なんだろ!? 勇者の剣なんだろ!? それなのにどうしてこんな……!」

《そうじゃ。確かにわしは伝説の剣に違いない》

「だったらここまでする必要は無いはずだ! ちょっと痛めつけてわからせてやれば済んだかもしれないだろ!?」

《甘いのぅ。おぬしは命を狙われておったのだぞ? それを救ってやったのは誰じゃ? おぬしは今、誰のおかげで戯言(ざれごと)をほざけていると思っておるんじゃ?》

「それは……!」


 剣の言う通り、命を狙われていたのだから仕方がなかったのかもしれない。

 だが、やったことはこちら側の一方的なものだった。ここに正当性は感じられない。


「だったらお前は何なんだよっ……! こんなこと……まるで()()じゃないか!!」

《かかっ! 悪魔ときたか! そう呼ばれるのも悪くはないのぅ!》


 何が何だかわからない。

 この剣(コイツ)は一体何者なんだ? 本当に伝説の剣なのか?


《わしのことを知りたそうな顔じゃな? ならば聞こう。なぜ長年一度も引き抜かれなかった剣が、伝説の剣などと呼ばれておる? 誰が最初にそう言うた?》

「えっ……? でも、おやっさんは確かに言った! それに伝説だって言い伝えられてる! お前は勇者が遺した剣だって……!」

《それはおぬしたち人間が勝手に言うておることじゃ。勇者だの伝説だのと勝手に盛り上がってこっちは迷惑しとるんじゃ。わしには関係ない》

「なにっ……!? だけどお前は俺を勇者に選んだって言ったじゃないか!」

《そうじゃ。じゃが、それはおぬしたち()()()()()()()ではない……》


 地面に転がっていた剣はふわりと浮き上がって俺の前に立った。



《わしは()()じゃよ。全てを破壊する()()()()じゃ》



閲覧ありがとうございます!

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