八 少女
翌日の夕方、いつものように魚屋で旬の魚を売っていた。
店長はレストランの方に俺を出さなくなった。セクシュアルハラスメントの被害にさらされるから。
すると「あーっ」と声がした。
見れば、複数人の女子高校生がいる。ちゃらちゃらとしていて目に悪い。俺はサングラスを直しながら目を合わせないようにした。
「ほら、言ったでしょ。あの人だよ、あの人、昨日助けてくれた人。私のこと憶えてるっしょ」
「お嬢さん」
俺はなるべく笑顔を崩さないように注意。
「仕事中なのでお静かに」
それから、女子高校生連中は俺が魚屋を出るまでずっと此方を遠巻きに見て何やら話しているようだった。
耳をすませば「怪しい」だの「サングラスが丸い奴は犯罪者」だのと、好き勝手言っている。
そんな事を言ってしまえば、世の中のサーファーは全員犯罪者だ。
「随分と好き勝手に人の事を言う子だね、君たちは」
「こっち来た」
「そりゃあそっち寄るよ。一体全体何の用だい。確かに夜遅く君に出会った気がしないでもないが……いくらなんでも強引だね」
「へへへ、ごめんごめん。でもさぁ、ほら。分かるでしょ」
「なにがだい?」
「昨日のこと、夢じゃなかったんだって」
「夢にしておいてほしかったね。であれば出会うことも無かったろうに」
女子高校生は何かを言いたげであった。
俺はその何かに巻き込まれてはいけないような、そんな気がして早々に話を切って立ち去ろうとした。
「ねぇ、お兄さん名前はっ!? 私村上! 村上愛花!」
「俺は、物部天獄」
少女が言う。
「助けて」
その言葉を言われると、俺は途端に動けなくなった。
少女は俺のあの変身と変身したあとの戦闘能力を見て、俺であれば自分の悩みを解決してくれると思ったらしい。
少女の友人たちを見ても、「助けてあげて」という様な視線を向けてくるばかりだった。
少女の生まれは大船渡市内にある牧場らしい。
だが、経営難に陥って、父が良くないところから金を借りたのをきっかけに、おかしな事に巻き込まれて行った。
あの異形がその一端であると言う。
少女は俺に両親を助けてほしいという。その為なら自分は何でもする、だから助けてほしいと。
店の前でそう言うから、「警察に頼れないのかな?」と一応言ってみてから、店長に「しばらく休む」という事を伝えた。
店長はサムズアップをして奥に入っていった。
「俺はいつでも行けるけれど、えぇっと……む……お嬢さん。君の方はどうする? 学校は休んで大丈夫なのかい。授業は間に合っているのかい。予定なら君に合わせるよ」
「う、うん。いいよ、病欠する。私成績優秀だから少し休んたくらいどうってことない」
「なら、明日の夜にでも行こう」
「今すぐにでも……」
「此方にも準備がある。待っててくれるかい」
あんまり表立って血の繋がりのない女子高校生と歩くというのは、一歩間違えてしまえば警察に何か言われてしまう。
俺のようなのは特に人に信用されない体質なので、人目を忍べるという点から見て車を持っておくのは良いだろう。
なので、車を買いに行こう。俺にはちょうど金も免許もある。免許は、取得できる年齢になってすぐに取ったんだ。いつか車を必要とする仕事をするかもしれないから。
「そうだ、友人も連れていきたいんだけれど、構わないかな」
「旅行じゃないんだけど!」
「大丈夫。俺よりちゃんと戦える人だよ。格闘技と武道が出来て、顔が良くて愛嬌があって声が格好良くて、可愛らしくて、優しくて頼もしい青年だ。彼に隙があれば来てもらいたいが……」
時計を見る。
「この道で少し待ってみようか」
オートバイが俺のすぐ前で止まる。
「物部くん!」
「やあ、姫神くん。ちょうどいいところに来てくれたね。それと……………………壗下くん」
「忘れかけてたろ、俺の名前」
「姫神くん。君にお願いしたい事があるんだ」
俺は彼に事情を話した。