七 異形
そんな事があってから、俺の身体に異変が生じ始めた。
まず、飯を食わなくても倒れなくなった。
身体が頑丈になったのだと言えば喜ばしいことだが、もう何日飯を食っていないのかわからないくらいに飯を抜いても無事で済んでいるのは恐ろしいことのように思えた。
そして、視力が良くなった。
変身を解除した時から、俺の視界は以前よりはっきりして、見えすぎるような気がしたから、俺はサングラスを掛け始めた。
すると、壗下くんに「容姿が怪しい」と言われた。
俺の身体の変化はどういうことなのだろう。
些か分からない。
「ようし物部。今日は魚屋を閉じて、俺の友人の営むレストランが中華料理フェアを絶賛開催中なのでお前をそこに駆り出すぞ」
「芙蓉蛋とか腸粉が好きですよ」
「このチャイナ服を着てもらう。お前のサイズに合わせた」
「私が縫いました」
娘さんが言う。
「わかりました」
俺が中華的な服を着ると、娘さんは「怪しい中国人」と言った。中国人に失礼なのではないだろうか。俺は訝しんだ。
「とりあえず、いきましょう。そのご友人のレストランとやらは」
車で十分ほどのところにある店にやってくる。
俺はそこで接客をやらされた。やたらと女性客と目が合うのが少しだけ不気味だった。
仕事が終わりそのレストランの店長に夜の誘いを受ける。
俺はおそらく女の子が好きなので、それを断っていると、姫神くんが大きな段ボール箱を持って歩いているのが見えた。
「姫神くん」
「おや、物部くん。その格好は一体?」
「今日はこの店で働いていたんだ。どうかな」
「かっこいいぜ!」
「ありがとう。君のその大きな段ボール箱はなんだい」
「野菜がこんもりとね。今日手伝った店で報酬としてもらったんだ。これでしばらくはお野菜天国だ」
「それは素晴らしい。野菜はおいしい」
今日一日の不快感が彼との会話で一気になくなるのを感じつつ、俺は笑みを浮かべていた。
すると、彼も笑顔を作ってくれた。
「あとでご飯一緒に食べよう」
「とても楽しみだね」
それからみんなと別れてアパートに帰った。
麦茶を飲んでから眠りにつくと深夜二時、いきなり頭に衝撃波のやうなものが走り目を覚ました。
何か起こってはいけないことが起こった──と察した俺はすぐに服を寝間着から着替えて部屋を飛び出す。
何かブヨブヨとしたものが少女を襲っている。
えらく着飾った少女なので夜遊びを繰り返している不良なんだろうと分析しながら、俺は腰を提げていたライターもどきを握り締めると、身体を変身させながら、異形に蹴りを叩き入れた。
「こ、今度はなに……!?」
不良ガールを無視して、ブヨブヨとした異形を向く。
「オオオ、オオ、オオオ」
それは気持ちの悪い声を浮かばせながら、此方にドタドタ走り出した。俺はその太りきったデブのガタイに拳を叩きつける。
弾き飛ばされて逃げられないように肉を掴むと、ビリビリと裂けていき、あたりに血肉が飛び散る。
そして、肥えた異形が塵になって消えていくのを見届けると、俺の変身も解けてしまった。
眠い。帰ろう。
「ねぇ、待って……ねぇ! あんたなに、あ、あんた何者!? マジでなに!?」
変身した俺はどうやら強いらしい。しかし、それに影響されてか体力の消耗も激しいようだ。今はただ眠りたい。
「ねぇまじで……話聞け、人の!」
「…………お嬢さん」
「な、なに」
「声が大きいよ。ご近所迷惑だ。お黙りなさいな」
物部天獄くんは働くのが目的で金などはどうでもよく、家賃や水道光熱費等にしか使わない人間だから、金だけはある