一 序話
ある人がいた。
その人は英雄と呼ばれていて、俺はその英雄に憧れた。
でも英雄になるには、強い力と信念が必要らしい。
俺はただ漠然と英雄というのに憧れているだけで、信念なんてないし、力も勿論ない。
つまるところ何者にもなれない一般人のただの身の程知らずの願望というもので、忘れるべきの夢である。
でもそのある人は俺に言ってしまった。
英雄になれる、と。
言われるべきではなかった。
俺は力をつけるべく色々な格闘技に手を出した。
武道にも手を出した。
ただやっぱり、俺に都合の良いように世界ができているわけではなかった。俺には力を持つ才能がなかった。
やっぱり俺は諦めざるを得なかった。
◆
友人が東京に出るというので駅まで見送りに向かった。
そこには俺だけでなく、彼の親友や彼の家族がいた。
俺と彼らは離れた所にいた。
友人の親友はとても凄いやつだった。
サバイバルゲームに付き合わせた所、狙撃の才能があるのが分かって、一度道場に連れて行ってみると、腕力もあることが分かった。
彼は俺とは真逆の人間で、いつも明るく笑う奴だった。
俺も彼のことがほんのりと好きで、彼の友人たちは彼のことがどっぷりと好きらしかった。
彼が東京行きの列車に乗ったのを確認すると、俺は帰ろうとした。すると、その「親友くん」が俺の所にやってきた。
「こんばんは! いきなり話しかけてごめんね。実は、君のこと気になってたんだ。だって君、いつも何処かで見かける顔だから。実はね、話しかけてみたかったんだ」
「どうも、こんにちは。俺は何処にでも現れる事で有名なんだ。君の前でもそれを遺憾無く発揮できたのは、俺の数少ない功績と言えるだろうね」
俺と彼は少しだけ話をした。
その後ろで、友人の家族──主に、弟くんが、とても複雑そうな目でこちらを見ているのがわかった。
「君は色々なことを知っていると聞いたよ」
「広く浅くが俺の生き様でね。俺にあるのは、足元くらいの知恵だけで、君が望むような事を知っているのかは怪しいところだよ」
「それでも構わないさ! ね、色々教えてくれよ。友達になろう」
「いいのかい? ありがとう、実を言うと、俺も君と近づきたかったんだ。君はとても優しい奴だと聞いているからね」
「俺は姫神光哉。君は?」
「物部天獄。『天国』の『天』に、『地獄』の『獄』で、天獄だ」
「かっこいい名前だなぁ〜……いいね!」
俺は彼の言葉に少し微笑んだ。
「なんだい?」
「俺の名前を『かっこいい』なんて言ったのは君が初めてだ」
「みんなはなんて?」
「怖いってさ」
彼もまた微笑んだ。