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魔物の襲撃、黒騎士の影

 

 フォルティスの街外れの森、夜の帳が下りた頃、私――アリスは丘の上に陣取り、ライフルを構えていた。気配遮断スキルで、私の存在は完全に消えている。白銀の髪が月光に揺れるが、誰も気づかない。隣では、リリエルが擬態スキルで木の枝に化け、双眼鏡で勇者パーティの野営を監視している。

 

「アリス、勇者さんたち、キャンプファイヤー楽しそう~。カイル、めっちゃ肉食べてるよ!」 

 

 リリエルの声がテレパシー越しに響く。彼女、いつもこんな調子だ。 

 

「…集中しろ。ヴィンスの依頼は、勇者を守ることだ」 

 

 私はスコープ越しに、勇者パーティ――カイル、マレク、エリエを確認。カイルは聖剣を磨きながら笑い、マレクが魔法剣を点検し、エリエがオドオドしながらポーションを整理してる。ルミエール村や中級幹部の要塞を攻略した彼らだけど、正直、まだ頼りない。

 

 突然、森の奥から低いうなり声が響く。リリエルが声を尖らせる。 

 

「アリス、ヤバい! 魔物! ゴブリンと…なんかデカい狼みたいなやつ!」 

 

 スコープを向けると、ゴブリン10体と、漆黒の毛を持つ魔狼3体が野営に近づく。魔狼の目は赤く輝き、牙から瘴気が漏れる。魔王軍の仕業だ。

 

「カイルさん、敵です…!」 

 

 エリエの悲鳴が響き、カイルが聖剣を抜く。 

 

「来やがったな! 正義の力でぶっ潰す!」 

 

 マレクが魔法剣に炎を宿らせ、「カイル、突っ込むなよ!」と叫ぶ。戦闘開始。カイルがゴブリンを切り裂き、マレクが炎で魔狼を牽制。エリエが回復魔法でサポート。だが、魔狼の動きは素早く、カイルの肩を掠め、マレクが押し込まれる。

 

「リリエル、動くぞ」 

 

 私はライフルを構え、魔狼の後ろ足を狙う。「パン!」と一発。魔狼がよろめき、カイルが聖剣でトドメを刺す。

 私の記憶消失スキルで、魔狼も勇者パーティも私の存在を忘れる。リリエルが液化で地面に溶け、ゴブリンの背後に回り、爆薬を投げる。「ドン!」と爆発し、ゴブリンが混乱。

 

 戦闘そのものはすぐに終了し勇者パーティが勝利したが、カイルとマレクは息を切らし、エリエは震えてる。 

 

「アリス、勇者さんたち、なんとか勝ったけど…あの魔狼、普通じゃなかったよね?」 

「…ああ。魔王軍の幹部が送り込んだ。ヴィンスの資料を確認しろ」

 

 ――ー

 

 

 宿に戻り、私とリリエルはヴィンス・カルトレットから渡された羊皮紙の資料を広げる。

 魔王軍の幹部リストだ。

 中級幹部のバルザックが倒された後、動きそうなのは…黒騎士ガルヴァン。魔王の右腕、最強の剣士。闇の剣を使い、どんなバリアも切り裂く。配下に魔獣を従え、戦略に長ける。

 

「アリス、この魔狼、ガルヴァンの部下の『闇狼団』だ! ヴィンスさんの資料、ドンピシャ!」 

 

 リリエルが目を輝かせる。私は頷く。 

 

「…ガルヴァンが勇者の戦力を試してる。魔物を送り込んで、反応を見てきた」 

「え、じゃあ、私たちの存在もバレてる!?」 

「まだバレてない。私の気配遮断スキルで気取られてない筈だが、ガルヴァンは『見えない敵』を疑ってるはず」 

 

 勇者パーティは魔物を倒したが、ガルヴァン本人が動けば勝てない。カイルの聖剣は強いが経験不足、マレクの魔法は雑、エリエの回復魔法は優秀だが戦闘力ゼロ。前の要塞戦も、私たちの介入がなければ全滅だった。 

 

「リリエル、ガルヴァンの調査が必要だ。奴の動きを掴まないと、勇者がやられる」 

「うわ、めっちゃ強そうな敵! でも、アリスと一緒ならイケるよね! 金貨5000枚のためにも、頑張ろ~!」 

 

 リリエルの楽観さに、私は小さく笑う。 

 

「…報酬は後だ。まず、ガルヴァンの拠点を突き止める」

 

 ――ー

 

 

 

 翌夜、私たちはフォルティスを出て、ガルヴァンの拠点とされる廃墟――「黒霧の塔」に向かう。

 資料によると、ガルヴァンは魔王城から離れ、この塔を臨時拠点にしている。塔は森の奥、瘴気に覆われた岩山に立つ。 

 

 私は気配遮断スキルで姿を消し、ライフルを構える。リリエルは液化で地面を滑り、塔の周囲を偵察。 

 

「アリス、塔の周りに魔狼が10体、ゴブリンが15体。門にリザードマンが2体。あ、塔の窓に黒い甲冑の奴! ガルヴァンかも!」 

「…確認。リリエル、内部に潜入しろ。私は外から監視」 

 

 リリエルが液化で塔の壁の隙間から侵入。私はスコープで塔の窓を覗く。黒い甲冑の男――ガルヴァンだ。背が高く、闇の剣を手に持つ。赤い目が燭台の光を反射し、部下に指示を出してる。  

 

「勇者を試した結果はどうだ?」 

 

 リザードマンが答える。 

 

「ガルヴァン様、勇者パーティは魔物を倒しましたが…見えない攻撃での介入が確認されました。爆発も…」 

 

 ガルヴァンが剣を握りしめる。 

 

「やはり、影の存在か。勇者だけではない…その影を炙り出す。次の襲撃を準備しろ」 

 

 私はテレパシーでリリエルに連絡。 

 

「ガルヴァン、勇者の背後の私たちを狙ってる。内部の情報、集めろ」 

「了解~! ちょっとドキドキするね!」 

 

 ――ー

 

 

 

 リリエルは擬態でゴブリンに化け、塔の内部を移動。魔狼の檻、武器庫、ガルヴァンの作戦室を確認。 

 

「アリス、ガルヴァンの作戦、ヤバいよ! 勇者を次の村で待ち伏せするって! 魔狼とリザードマンを50体送り込む計画!」 

「…大規模だな。ガルヴァンの弱点は?」 

「うーん、作戦室に水晶があった! ガルヴァンの剣の魔力を増幅してるみたい。あれ壊せば、弱まるかも!」 

 

 私は塔の外から、ガルヴァンの動きを監視。

 彼が剣を手に、作戦室で地図を広げる。

 次の襲撃は、勇者パーティが向かう村、シルバートだ。ガルヴァンは勇者を潰し、同時に私たちを炙り出す気だ。 

 

 リリエルが戻り、報告。 

 

「アリス、ガルヴァン、めっちゃ怖いよ! あの剣、なんかヤバい気配! 勇者さんたち、今のままじゃ勝てないよね?」 

 

「…ああ。カイルの聖剣も、マレクの魔法も、ガルヴァンには通じない。まず、水晶を壊す必要がある」 

 

 ――ー

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