表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/21

街の噂

 

 俺、勇者カイル、20歳。聖剣を手に魔王ゼファードを倒す運命を背負った男だ! 正義の炎は燃え盛ってるぜ! 瘴気の谷で魔女シルヴィアを追い詰めた俺たちは、彼女の嘘の命乞いに騙され、命を見逃した。エリエの情報のおかげで魔獣の心臓を破壊し、シルヴィアを弱らせたけど、俺の心はモヤモヤしてる。あの爆発、謎の煙…またしても「何か」が助けてくれた。エリエが言う「謎の助け」だ。

 

 今、俺たちは魔王城へ向かう準備のため、クロスロードに戻ってきた。この街は人間と魔物が混在するカオスの都市。ゴブリンやリザードマンが市場で交易し、人間の商人が魔獣の皮を売る。魔王軍の影響下だが、中立の空気が漂う。俺たちは宿屋で休息し、武器とポーションを補充する。マレクが地図を広げ、渋い顔で言う。 

 

「カイル、魔王城はエルトリアの北、黒曜石の要塞だ。残りの幹部、ザルゴスとダルゴスが待ってる。油断するな」 

「ハハ、どんな敵でも、正義の剣でぶった斬る!」 

 

 エリエが震えながらポーションを握る。 

 

「え、えっと…カイルさん、マレクさん、魔王城、めっちゃ怖そうです…でも、頑張ります…!」 

 

 宿屋の窓から、クロスロードの喧騒が見える。だが、なぜか胸に冷たいものが走る。まるで、誰かに見られているような…。いや、ただの気のせいだ。俺は聖剣を握り、正義の心を奮い立たせる。

 

 ――ー

 

 

 翌朝、市場で補給中、妙な噂が耳に入る。酒場の隅で、ゴブリン商人が囁き合う。 

 

「聞いたか? 街道の森で、女の死体が見つかったってよ」 

 

「紫のローブ、黒髪、血まみれでバラバラだ。魔獣の仕業じゃねえ、もっとヤバい何かにやられたって…」 

 

 俺の背筋がゾクリとする。紫のローブ、黒髪…? シルヴィア? いや、まさか。俺たちが瘴気の谷で生かしたはずだ。マレクが眉をひそめる。 

 

「カイル、気にするな。魔王軍の残党同士の争いだろ」 

 

 エリエが震える。 

 

「え、えっと…でも、シルヴィアさん、紫のローブでしたよね…? もし…」 

 

 俺は首を振る。 

 

「エリエ、考えすぎだ! シルヴィアは生きてる。俺たちが生かしたんだから!」 

 

 だが、心の奥で不安が蠢く。瘴気の谷での爆発、ガルヴァン戦の銃声。あの「謎の助け」は、いつも俺たちを助けてくれた。なのに、なぜか今、恐怖が湧く。もし、シルヴィアが死んだなら…誰がやった?

 

 市場の奥で、老いた人間の商人が俺たちに近づく。目が怯え、声が震える。 

 

「勇者様…街道の死体、見ました。女、紫のローブ…両肩と膝が砕かれ、爆発で…肉が…バラバラに…!」 

 

 俺の心臓が跳ねる。エリエが小さな悲鳴を上げる。マレクが商人を掴む。 

 

「詳細を話せ! どこで見た?」 

 

 商人が震えながら指差す。 

 

「クロスロードの西、森の奥…血と瘴気の匂い…誰も近づかねえ…!」 

 

 ――ー

 

 

 俺たちはクロスロードの西の森へ向かう。魔王城への準備は急ぐが、シルヴィアの死の噂を無視できない。森は暗く、瘴気の残り香が漂う。木々の間を進むと、血の匂いが鼻をつく。エリエが「ひっ…!」と俺の背に隠れる。 

 

「カイル、気をつけろ。魔王の残党かもしれない」 

 

 マレクが魔法剣を構える。俺は聖剣を握り、進む。森の奥、地面に赤黒い染みが広がる。そこに…死体。紫のローブ、黒髪、血に染まった女。両肩と膝に穴、肉は爆発で抉られ、骨が覗く。顔は…シルヴィアだ。 

 

「…シルヴィア!?」 

 

 俺は叫ぶ。エリエが震え、杖を落とす。 

 

「え、えっと…! シルヴィアさん…! 死んでる…!?」 

 

 マレクが歯を食いしばる。 

 

「くそっ…! 俺たちが生かしたのに…誰がこんな…!」 

 

 死体の周り、血と瘴気が混ざる。だが、奇妙だ。魔獣の爪痕も、剣の傷もない。肩と膝の穴は、まるで…銃弾? ガルヴァン戦の銃声が脳裏をよぎる。爆発の痕跡も、瘴気の谷と同じだ。俺の背筋が凍る。 

 

「カイル…これ、俺たちの知らない何かだ…」 

 

 マレクの声が低く震える。エリエが泣きそうに言う。 

 

「謎の助け…だったんですよね? でも、なんでシルヴィアさんを…! 怖い…怖いです…!」 

 

 俺は聖剣を握りしめる。 

 

「正義の敵なら、誰がやったって関係ねえ! だが…こいつは…人間じゃねえ…!」 

 

 シルヴィアの死体は、まるで警告だ。俺たちを助けた「何か」が、俺たちの知らないところで動いている。その「何か」は、俺たちが見逃した敵を、こんな残虐に葬った。 

 

 ――ー

 

 

 

 宿屋に戻り、俺たちは沈黙する。シルヴィアの死体が脳裏に焼き付く。エリエが震えながら言う。 

 

「カイルさん…あの爆発、ガルヴァン戦や瘴気の谷と同じ…ですよね? でも、なんでシルヴィアさんを…?」 

 

 マレクが地図を握りつぶす。 

 

「カイル、俺たちが知らない敵がいる。勇者を助けた『謎の助け』…そいつらがシルヴィアを殺した。だが、なぜだ?」 

 

 俺は考える。あの銃声、爆発。ガルヴァン、シルヴィア、いつも俺たちを助けてくれた。なのに、今、恐怖が湧く。シルヴィアを殺したのは、俺たちの味方か? それとも…別の何か? 人間じゃない。気配のない、記憶を奪う、死神のような存在。 

 

「…エリエ、シルヴィアの死体、どんな武器でやられたと思う?」 

 

 エリエが震える。 

 

「え、えっと…穴は…銃、みたいな…? でも、この世界にそんな武器…! 爆発も、魔獣の心臓と同じ…!」 

 

 マレクが呟く。 

 

「影だ。勇者の背後にいる影。俺たちを助けたが、シルヴィアを殺した。奴らは…何者だ?」 

 

 俺の心臓が冷たくなる。影。エリエが話した、アリスとリリエルという名前。だが、誰も彼女たちを覚えていない。まるで、記憶が奪われたように。俺は叫ぶ。 

 

「くそっ! 正義の味方なら、姿を見せろ! こんな残虐な殺し方…! 何だ、こいつらは!?」 

 

 宿屋の部屋が暗い。燭台の炎が揺れ、壁に奇妙な影が映る。まるで、銀髪と黒髪の女が笑っているかのようだ。エリエが悲鳴を上げる。 

 

「カイルさん…! 何か…いる…!」 

 

 マレクが剣を抜く。 

 

「カイル、落ち着け! 誰もいない!」 

 

 だが、俺も感じる。気配がない。なのに、視線がある。まるで、闇が俺たちを見ている。 

 

 ――ー

 

 

 

 俺たちは恐怖を振り払い、魔王城への準備を急ぐ。シルヴィアの死は、俺たちに警告だ。影は俺たちを助けたが、俺たちを監視しているかもしれない。マレクが言う。 

 

「カイル、魔王城では油断するな。ザルゴス、ダルゴス、そして魔王。だが、影が何者か分からない以上、俺たちだけで戦うしかない」 

 

 エリエが震えながら頷く。 

 

「え、えっと…私が回復します…! 影が…怖いけど、魔王を倒さないと…!」 

 

 俺は聖剣を握る。 

 

「正義の剣は、どんな恐怖にも負けねえ! 影が味方でも敵でも、魔王をぶっ倒す!」 

 

 だが、心の奥で恐怖が囁く。シルヴィアを殺した影。気配のない、記憶を奪う、残虐な存在。俺たちが魔王を倒しても、奴らが次に狙うのは…俺たちじゃないのか?  

 

 クロスロードの夜、燭台の炎が揺れる。まるで、影が俺たちを嘲笑うように。

 

 ――ー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ