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魔女の終焉、影の恐怖

 

 私の名はシルヴィア、魔王ゼファードの忠実な僕、瘴気を操る魔女。だが、今、私は瘴気の谷から這うように逃げ出した、みじめな亡魂だ。紫のローブは血と泥で汚れ、髪は瘴気の残滓を滴らせ、足は重い鎖のように引きずる。勇者パーティ――あの金髪の剣士カイル、赤髪の魔法使いマレク、小さなヒーラーエリエ――彼らに私の魔獣の心臓を破壊され、力を奪われた。だが、私は生き延びた。嘘の涙と命乞いで、彼らの愚かな正義感を操り、命を拾った。

 

 クロスロードの隠れ家へ戻る。そこなら、瘴気を集め、魔獣を再召喚できる。魔王様に失敗を詫び、新たな計画を立てるのだ。だが、森の闇は私を嘲笑う。木々の間から冷たい風が吹き、まるで死神の吐息のように私の首筋を撫でる。瘴気が薄れ、魔力が枯渇した体は、まるで死体のように重い。 

 

「ふふ…まだ終わらないわ…魔王様の夢を…私が…」 

 

 私の声は震え、森の静寂に吸い込まれる。クロスロードまであと数キロ。だが、なぜか背筋に冷たいものが走る。見られている。誰かに、どこかに、何かに。 

 

 突然、木々の影が揺れる。月光が一瞬遮られ、闇が蠢く。私の心臓が跳ねる。 

 

「誰!?」 

 

 瘴気の刃を放つが、力は弱く、木の幹を掠めるだけ。誰もいない。なのに、視線を感じる。気配がない。まるで…幽霊だ。 

 

 ――ー

 

 

 

 森の奥、街道の脇で、私はよろめく。血が足元に滴り、瘴気が薄れる。クロスロードの灯が見える。あと少し…! だが、背後でかすかな音――「サクッ」と葉を踏む音。振り返るが、誰もいない。月光が木々の隙間を照らし、影が揺れる。 

 

「ふふ…幻覚かしら? 私の瘴気が…こんな弱いはず…」 

 

 言葉で自分を励ますが、恐怖が這い上がる。ガルヴァンを倒した「影」。勇者の背後に潜む、爆発と狙撃の使い手。あの銀髪の女、黒髪の女。クロスロードの占いテントで出会った、気配のない幽霊のような女たち。あれが…影?  

 

 突然、闇から声が響く。 

 

「シルヴィア、逃げても無駄だ」 

 

 冷たく、鋭い女の声。私の背後、木の陰から、白銀の髪が月光に浮かぶ。女だ。背に奇妙な長い筒、腰に光る鉄の武器。気配がない。まるで死神。彼女の目は、まるで私の魂を抉るように冷たい。 

 

「あなた…! 勇者の影…!」 

 

 私は瘴気を絞り出し、毒蛇を召喚。だが、魔力はわずか。蛇は弱々しく、地面を這うだけ。もう一つの影――黒髪の女が、地面から滲み出すように現れる。まるで水が形を成すように。彼女の笑顔は無邪気だが、目は殺意に満ちている。 

 

「ねえ、魔女さん、逃げてもダメだよ~! アリス、撃っちゃう?」 

 

 アリス。銀髪の女の名だ。私は瘴気の刃を放つが、銀髪――アリスが横に動く。速い。人間じゃない。幽霊か、悪魔か? 私は叫ぶ。 

 

「私のペットになるには、強すぎる…! だが、魔王様の名にかけて…!」 

 

 ――ー

 

 アリスの手が動く。鉄の武器――マグナムが光る。次の瞬間、「バン! バン! バン! バン!」と雷のような音。私の両肩と両膝に、灼熱の痛みが走る。血が噴き出し、骨が砕ける音が耳に響く。私は悲鳴を上げ、地面に倒れ込む。ローブが血で真っ赤に染まる。 

 

「ぐっ…! なんて…速さ…!」 

 

 痛みが全身を焼き、瘴気が霧散する。私の魔力はほぼゼロ。魔獣を呼べない。逃げられない。アリスが近づく。彼女の目は、まるで死そのもの。黒髪の女――リリエルが笑いながら爆薬を手に持つ。 

 

「魔女さん、終わりだよ~! 話さないと、ドカンだよ!」 

 

 私の心臓が恐怖で縮こまる。あの爆発…ガルヴァンの水晶、魔獣の心臓を破壊した力。あの女たちが…! 私は血を吐き、うめく。 

 

「あなたたち…何者…! 勇者の…犬…?」 

 

 アリスがマグナムを私の額に突きつける。冷たい銃口が、死の予感を刻む。 

 

「質問してるのはこっちだ。魔王ゼファードの居場所、幹部の数、計画。全部話せ」 

 

 ――ー

 

 

 

 血が地面に広がる。私の体は動かない。両肩と膝は砕かれ、瘴気は消え、魔獣は現れない。リリエルが爆薬を手に揺らし、笑う。 

 

「ねえ、魔女さん、早く話さないと、アリスの爆弾、めっちゃ痛いよ~!」 

 

 爆弾…? あの爆発は、彼女たちが作ったもの? 私の目は恐怖で震える。人間じゃない。怪物だ。 

 

 私は生き延びるため、口を開く。 

 

「…魔王様は…エルトリアの北、黒曜石の要塞…魔王城にいる…幹部は…リザードマンのザルゴス、闇騎士ダルゴス…二人だけ…魔王様の計画は…勇者を倒し、瘴気で世界を…覆う…!」 

 

 アリスが目を細める。 

 

「魔王城の防衛は? 瘴気の源は?」 

 

 私の声は震える。 

 

「防衛…魔獣軍団、幻影の騎士団…瘴気の源は…魔王の玉座…黒水晶…それが全て…!」 

 

 リリエルが笑う。 

 

「ほー、黒水晶! アリス、また壊しちゃう?」 

 

 アリスが頷く。 

 

「シルヴィア、最後だ。クロスロードの隠れ家は?」 

 

 私は目を閉じる。もう、抵抗できない。 

 

「市場の地下…私のアジト…だが、無駄よ…あなたたち…魔王には…勝てない…」 

 

 ――ー

 

 

 アリスがマグナムを下ろす。リリエルが私の胸元に小さな爆弾を置く。黒い、冷たい塊。まるで死の種。 

「バイバイ、魔女さん。勇者さんたちの邪魔、させないよ」 

 リリエルの声は無邪気だが、目は冷酷。私は叫ぶ。 

「待って…! 私は…魔王様の命令を…! あなたたちを…めちゃくちゃに…!」 

 

「ドン!」と爆発。私の体が粉々に砕ける。血と肉が森に飛び散り、瘴気が風に消える。意識が闇に沈む瞬間、私は悔恨に焼かれる。勇者を騙した私の嘘…あの愚かな正義感で生かされたのに…結局、影に喰われた。

 

 私の魂は、森の闇に吸い込まれる。 

 

 ――ー

 

 

(シルヴィアの意識の断片) 

 闇の中で、私の声が響く。悔恨と憎しみが、風に散る。あの銀髪の女、アリス。黒髪の女、リリエル。彼女たちの目は、まるで死神のものだった。私の魔獣も、瘴気も、彼女たちの前では無力だった。魔王様…お許しを…私は…あなたの夢を…果たせなかった…!  

 

 あの二人…めちゃくちゃにしたかった…! 私のペットとして、首輪をつけて…屈服させたかった…! だが、彼女たちは…人間じゃない…! 影だ…! 闇そのものだ…!  

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