混沌の都市と魔女の仮面
黒霧の塔で黒騎士ガルヴァンを倒した後、私――アリスは、リリエルと共に瘴気の谷へ向かう勇者パーティを追跡していた。気配遮断スキルで存在を消し、白銀の髪が風に揺れても誰も気づかない。ライフルを背負い、ホルスターにはマグナム。
次の標的は魔女シルヴィア、魔獣を操る狡猾な魔王の幹部だ。
フォルティスから瘴気の谷へ向かう途中、勇者パーティが立ち寄ったのは「クロスロード」という都市。人間と魔物が奇妙な均衡で共存する混沌の街だ。ゴブリンやリザードマンが市場で交易し、人間の商人が魔獣の皮を売る。魔王軍の影響下だが、完全には支配されていない中立地帯。勇者パーティは情報収集と補給のため立ち寄ったらしい。
「アリス、勇者さんたち、街の広場にいるよ! カイル、肉串食べてめっちゃ幸せそう!」
リリエルの声がインカム越しに響く。彼女は擬態スキルで街灯の柱に化け、双眼鏡で監視中。いつもの軽いノリだが、鋭い観察力は信頼できる。
「…リリエル、集中しろ。勇者と接触しないよう、タイミングをずらす」
私たちは勇者パーティより数時間遅れてクロスロードに潜入。気配遮断で人混みに紛れ、情報収集を開始。シルヴィアの拠点「瘴気の谷」の情報、魔獣の種類、魔獣の心臓の位置を掴む必要がある。
街は喧騒に満ち、ゴブリンの叫び声や人間の商人の掛け声が響く。私は路地の影に隠れ、ヴィンスの資料をチェック。シルヴィアはバジリスクやアラクネを操り、瘴気を増幅する「魔獣の心臓」を持つ。心臓を破壊すれば、彼女の魔力が弱まる。だが、シルヴィアはガルヴァンより狡猾。油断は禁物だ。
――ー
クロスロードの市場は、カオスそのもの。ゴブリン商人が魔獣の牙を売り、リザードマンが武器を磨く。私は気配遮断で屋台の裏を移動、酒場の看板や冒険者の会話を盗み聞き。リリエルは液化スキルで地面に溶け、市場のゴミ箱や排水溝を移動し、情報を集める。
「アリス、酒場で魔獣の噂聞いたよ! 瘴気の谷に、でっかい蛇がうじゃうじゃだって!」
「…バジリスクだな。心臓の位置は?」
「うーん、まだ分からない。けど、シルヴィアの噂はチラホラ。『紫の魔女が谷を支配してる』って!」
勇者パーティは広場の宿屋に滞在。カイルが肉串を頬張り、マレクが地図を広げ、エリエがオドオドしながらポーションを買い込む姿が見える。私たちは彼らと距離を取り、接触を避ける。エリエはガルヴァン戦で私たちの爆発を「謎の助け」と感じたが、具体的な関与は知らない。その方が安全だ。
路地の奥で、怪しげなテントを見つける。看板には「ミランダの占い」とある。紫の布、燭台の炎、怪しい雰囲気。情報収集に使えそう。
「リリエル、占い師をチェック。シルヴィアの情報があるかも」
「了解~! アリス、私、擬態でテントの中覗くね!」
リリエルが液化でテントの隙間から潜入。私は気配遮断で外から監視。テントの中から、女の声が聞こえる。
「ふふ、お客人、運命を見ましょうか? あなたの未来、教えてあげるわ」
――ー
リリエルがテレパシーで囁く。
「アリス、この占い師、なんか怪しい! 紫のローブ着て、めっちゃ美人! シルヴィアっぽい雰囲気!」
「…観察しろ。質問は私がする」
私はテントに入る。気配遮断で存在は消してるが、視認は防げない。テントの中、紫のローブをまとった女――ミランダと名乗る占い師が、水晶玉の前に座る。長い黒髪、紫の瞳、扇で口元を隠す仕草。シルヴィア本人か、偽装か?
「ふふ、珍しいお客人ね。気配がないなんて、まるで幽霊。占ってほしい?」
彼女の声は甘く、探るような響き。私は冷静に答える。
「…瘴気の谷の噂を教えてくれ。魔獣の情報だ」
ミランダが扇を振る。
「谷? あそこは危ないわよ。巨大な蛇や蜘蛛がうろついてる。あなた、冒険者? それとも…何か別の目的?」
彼女の目は私のライフルをチラリと見る。まずい、気づかれたか? だが、気配遮断で私の正体はバレないはず。
「ただの旅人だ。谷の魔女の情報は?」
ミランダがクスクス笑う。
「ふふ、魔女シルヴィアのこと? 彼女、瘴気を操る怖い女よ。でも、最近、勇者パーティがうろついてるって噂。あなた、関係あるのかしら?」
私は目を細める。こいつ、情報を引き出そうとしてる。逆に利用する。
「勇者パーティ? どんな奴らだ?」
ミランダが水晶玉を撫でる。
「金髪の剣士、赤髪の魔法使い、小さなヒーラー。三人組よ。強いけど、背後に何かいるみたい。爆発や狙撃の影…知ってる?」
私は内心で舌打ち。シルヴィアだ。占い師に扮して、勇者と私たちの情報を集めてる。だが、彼女は私の正体を知らない。私も知らないふりをする。
「…聞いたことない。谷の魔獣の弱点は?」
ミランダが微笑む。
「ふふ、魔獣は瘴気に依存してるわ。谷の祭壇に、赤い結晶――魔獣の心臓がある。それを壊せば、魔獣は弱る。でも、シルヴィアの瘴気は厄介よ。あなた、挑戦する気?」
リリエルがテレパシーで囁く。
「アリス、魔獣の心臓、確定! この女、シルヴィア本人だよね!?」
「……しずかに、情報を引き出せ」
私はミランダに言う。
「心臓の場所、詳しく教えてくれ。報酬は払う」
ミランダが扇を閉じ、目を細める。
「ふふ、いいわ。心臓は祭壇の奥、地下よ。けど、魔獣が守ってる。あなたみたいな可愛い子、食われないようにね?」
――ー
ミランダとの会話で、魔獣の心臓の位置とシルヴィアの狡猾さを確認。私は金貨をテントに置き、退出。リリエルが液化で合流。
「アリス、あの女、絶対シルヴィア! めっちゃ探ってくる感じだったよ!」
「…ああ。勇者と私たちの情報を集めてる。心臓の情報は本物だ。瘴気の谷で仕掛ける」
私たちは街の裏路地で情報を整理。勇者パーティは宿屋で休息中。カイルが市場で武器を買い、マレクが魔法書を物色、エリエがポーションを補充。エリエは私たちの存在を「謎の助け」と感じるだけ。私たちがシルヴィアと接触したことは知らない。
「リリエル、勇者が谷に向かう前に、魔獣の偵察だ。準備しろ」
「了解~! シルヴィア、ビックリさせちゃう!」
リリエルの笑顔に、私は小さく頷く。クロスロードの喧騒を背に、私たちは瘴気の谷へ向かう。
――ー
クロスロードの占いテントで、私は扇を振る。ミランダと名乗り、情報を集めた。勇者パーティは予想通り、この街に立ち寄った。金髪の剣士、赤髪の魔法使い、小さなヒーラー。厄介な連中ね。ガルヴァンを倒した彼ら、侮れないわ。
でも、もっと興味深いのは、あの二人。銀髪の女と黒髪の女。銀髪の子は、妙な武器を持って、気配がない。まるで幽霊。黒髪の子は、私のテントの隙間を覗いてたけど、気づかないふりしてあげたわ。ふふ、可愛い子たちね。私好みの子ね。
水晶玉を撫でながら、考える。瘴気の谷で、勇者を魔獣で疲弊させ、影を炙り出す。魔獣の心臓で私の力を増幅すれば、どんな敵も逃げられない。けど…あの二人、ただ倒すのは勿体ない。銀髪の子の鋭い目、黒髪の子の無邪気な笑顔、どっちも私の好み。
「ふふ、勇者と影を倒したら…あなたたち、私のペットにして丁寧に丹念に蠱惑的に壊して堕としてあげるんだから。」
私は笑い、扇を閉じる。瘴気の谷で、決戦が始まる。勇者も、影も、私の掌で踊らせてあげるわ。
――ー