黒騎士の策略
黒霧の森の奥、瘴気に覆われた岩山の頂に俺――黒騎士ガルヴァンは立っていた。
黒い甲冑が月光を吸い込み、闇の剣「ヴォイドブレイカー」が静かに脈動する。眼下では、俺の配下――幻影の騎士団が勇者パーティと激突している。魔王ゼファード様の呪いで自我を失った元人間の騎士たち、10体の鎧が霧の中で蠢き、勇者を追い詰める。
俺の目的は二つ。勇者パーティの戦力を測り、そして彼らを陰で支える「見えない敵」を炙り出すこと。中級幹部バルザックの敗北は、単なる勇者の力ではない。爆発、狙撃、完璧な潜入――人間の小僧どもにできる芸当ではない。
霧の中で、勇者のリーダー――金髪の剣士、カイルが聖剣を振り回す。
「正義の名の下に、ぶっ潰す!」
その叫びは熱いが高々たる。赤髪の魔法戦士、マレクが炎を放ち、「カイル、突っ込むな!」と牽制。金髪の小娘、エリエが回復魔法で傷を癒す。三人とも、バルザック戦より統率が取れている。成長したな、だが…まだ足りん。
幻影の騎士団が襲いかかる。鎧は聖剣の刃を弾き、瘴気が魔法を弱める。勇者たちは善戦するが、押されている。そこへ、突然「ドン!」と爆発音。霧が揺れ、騎士団の3体が崩れる。
「…来たか」
俺は目を細める。爆発の煙、予測通りだ。バルザックの要塞でも同じ手口。見えない敵の仕業だ。
さらに、「パン!」と鋭い音。騎士の膝が砕け、カイルがトドメを刺す。狙撃だ。弓ではない、もっと鋭く、雷のような音。俺の視線が霧の奥を捉える。一瞬、銀色の髪が揺れた気がしたが…消えた。
「ふん、気配を消す術か。だが、視認は防げん」
俺は剣の柄を握り、唇を歪める。勇者パーティの背後にいる影――それが真の脅威だ。
――ー
戦闘が続く中、俺は別働隊――幻影の騎士団の精鋭5体に指示を出していた。彼らは霧の奥で「見えない敵」を追う。やがて、リザードマンの斥候が報告に駆け寄る。
「ガルヴァン様! 別働隊が、銀髪の女を視認! 武器は奇妙な筒、狙撃の主と思われます!」
「…銀髪か。気配は?」
「消えていました! だが、視認されると逃げ、爆発で2体を倒されました!」
俺は頷く。気配を消すスキル、狙撃、爆発――全て繋がった。もう一人、爆発を仕掛ける者がいるはずだ。バルザックの要塞でも、武器庫が爆破された。
戦場では、勇者が騎士団を撃退しつつある。だが、黒髪の女がゴブリンに追い詰められるのが見えた。彼女、爆発の主か? カイルが助けに入り、女は逃げる。ふん、仲間割れか、それとも計算か?
戦闘が終わり、勇者パーティが勝利。幻影の騎士団は全滅したが、勇者たちは疲弊している。俺の目的は達成された。勇者の戦力は、連携と回復魔法で予想以上だが、単体では脆い。そして、見えない敵――銀髪の狙撃手と爆発の仕掛け人――の存在が明確になった。
「斥候、シルバート村の準備はどうだ?」
「ガルヴァン様、魔狼団とリザードマン50体、配置済みです! 勇者を待ち伏せます!」
「よし。だが、今回は俺が動く。見えない敵を炙り出し、勇者を潰す」
――ー
俺は黒霧の塔に戻り、作戦室で地図を広げる。燭台の炎が揺れ、闇の水晶が剣の力を増幅する。勇者パーティはシルバート村へ向かう。そこが決戦の場だ。
まず、勇者の戦力を分析。カイルの聖剣は鋭いが、技術が粗い。マレクの魔法は強力だが、制御が甘い。エリエの回復魔法は厄介だが、戦闘力は皆無。奴らは連携で戦うが、長期戦には弱い。
次に、見えない敵。銀髪の狙撃手――おそらく気配遮断のスキル。武器は、弓ではなく「筒」。人間の技術を超えたものだ。もう一人は、爆発の仕掛け人。バルザックの要塞でも武器庫を爆破し、混乱を誘った。動きは素早く、姿を変えるか、隠れる術を持つ。
「…厄介な連中だ。だが、俺の剣は全てを断つ」
俺は水晶に触れ、ヴォイドブレイカーに瘴気を流す。シルバート村での作戦はこうだ。
1. 魔狼団とリザードマンで勇者を疲弊させる。
2. 幻影の騎士団の残存部隊で、勇者の連携を崩す。
3. 見えない敵を誘い出すため、囮の部隊を配置。視認を重視し、霧を薄くする。
4. 俺が直接出て、狙撃手を仕留め、勇者を叩き潰す。
水晶が鍵だ。俺の剣の力はこれに依存するが、破壊されれば魔力が落ちる。バルザックは水晶を無防備に置いたせいで敗れた。俺は同じ過ちを犯さん。
「斥候、水晶を地下に隠せ。厳重に守れ」
「かしこまりました、ガルヴァン様!」
――ー
俺は魔王城に連絡し、ゼファード様に報告。玉座の間の闇の水晶を通じて、俺の姿が映る。
「魔王様、勇者パーティの戦力を確認しました。奴らは成長していますが、脅威は背後の『見えない敵』です。銀髪の狙撃手と、爆発の仕掛け人。シルバート村で、奴らを炙り出し、殲滅します」
ゼファード様の声が響く。
「ガルヴァン、勇者を侮るな。見えない敵の正体を暴け。それがお前の任務だ」
「承知しました。私の剣に誓い、勇者とその影を葬ります」
シルヴィアの声が割り込む。
「ふふ、ガルヴァン、自信満々ね。でも、失敗したら? 魔王様の右腕がやられたら、軍が笑いものよ?」
俺は剣を握り、答える。
「シルヴィア、余計な口を挟むな。俺の剣は、どんな敵も断つ」
ゼファード様が低く笑う。
「ガルヴァン、期待しているぞ。失敗は許さぬ」
――ー
黒霧の塔で、俺は部下に最終指示を出す。魔狼団50体、リザードマン20体、幻影の騎士団の残存10体をシルバート村に配置。村の周囲に囮部隊を置き、狙撃手を誘い出す。霧を薄くし、視認を容易にする。俺は水晶を地下に隠し、自身で守る。
「勇者パーティ、そしてその影…全て俺の手で潰す」
ヴォイドブレイカーを握り、俺は笑う。勇者カイル、俺の剣の前に跪くがいい。そして、見えない敵――銀髪の女、お前の正体を暴き、首を魔王様に捧げる。
黒霧の森の闇が、俺の野心を飲み込む。シルバート村で、決戦が始まる。
――ー