黒霧の罠
黒霧の森は、フォルティスからシルバート村へ向かう道の途中に広がる闇の領域だ。木々は瘴気に覆われ、霧が視界を遮る。
私――アリスは、森の外れの岩場に陣取り、ライフルを構える。気配遮断スキルで存在は消してるが、霧のせいでスコープが曇る。
隣では、リリエルが擬態スキルで苔むした岩に化け、自身の魔力で強化された視力で勇者パーティを監視。
「アリス、勇者さんたち、めっちゃ緊張してるよ! カイル、聖剣振り回して気合入れてるけど、ちょっとビビってる?」
リリエルの声がテレパシー越しに響く。いつも軽いノリだが、今日は少し慎重だ。
ヴィンスの資料で、黒騎士ガルヴァンがこの森で勇者を待ち伏せる計画だと分かってる。
敵は「幻影の騎士団」――魔王の呪いで自我を失った元人間の騎士たち。剣と鎧をまとい、闇の瘴気をまとった不死身とも言われる存在だ。
「…リリエル、集中しろ。ガルヴァンは私たちを炙り出す気だ」
私はスコープで勇者パーティを確認。カイルが聖剣を握り、マレクが魔法剣に炎を宿らせ、エリエが震えながら杖を構える。彼らは中級幹部の要塞戦で成長したが、ガルヴァンの配下は別格だ。
森の奥から、金属の擦れる音と不気味な呻き声が響く。霧の中から、幻影の騎士団が現れる。10体の鎧姿の騎士、目は虚ろで、剣から黒い瘴気が滴る。カイルが叫ぶ。
「敵だ! 正義の名の下に、ぶっ潰す!」
マレクが冷たく言う。
「カイル、突っ込むな! こいつら、普通の魔物じゃねえ!」
エリエが「ひっ…頑張ります…!」と回復魔法を準備。
戦闘開始。カイルの聖剣が騎士の鎧を斬るが、刃が弾かれる。
マレクの炎が騎士を焼き、動きを止めるが、すぐに再生。エリエの回復魔法がカイルの傷を癒すが、騎士団の数は減らない。
「アリス、勇者さんたち、ピンチだよ! 援護する?」
「…動く。リリエル、騎士団の後方を混乱させろ。私は遠距離から削る」
私はライフルを構え、騎士の膝を狙う。「パン!」と一発。
騎士がよろめき、カイルが隙を突いて斬る。私の気配遮断スキルで私の位置を特定するのは困難だ。
リリエルは液化で地面に溶け、騎士団の背後に爆薬を仕掛ける。
「ドン!」と爆発し、霧が揺れる。
――ー
戦場は混乱。カイルが「何!? 爆発!?」と叫び、マレクが「誰だ!?」と周囲を見回す。エリエが「また…あの煙…?」と呟くが、私たちの姿は見えない。
騎士団は爆発で3体が倒れるが、残りが勇者に襲いかかる。私は連続狙撃で騎士の動きを止め、勇者が反撃できる状況を作る。
「リリエル、爆薬の残りは?」
「あと3個! でも、アリス、なんか変! 霧の奥に…別の気配!」
リリエルの声に、私はスコープを霧の奥に向ける。そこには、幻影の騎士団の別働隊――5体の騎士が、静かに進んでくる。
彼らの目は、より強い瘴気を放ち、動きが統率されている。ガルヴァンの直属の精鋭だ。
「…まずい。リリエル、勇者を援護しろ。私は別働隊を足止めする」
「え、アリス、単独!? 危ないよ!」
「…時間が無い。行け」
私は岩場を離れ、霧の中へ移動。気配遮断スキルは完璧だが、視認は防げない。別働隊の騎士が、霧越しに私のシルエットを見つけ、剣を構える。
「…敵、発見。排除」
騎士の声は機械的で、瘴気が剣から溢れる。まずい、囲まれた!
「パン!」とライフルを撃つが、騎士の鎧が弾を弾く。記憶消失スキルで私の存在を忘れても、視認された以上、追ってくる。私は木々の間を走り、距離を取るが、騎士団の足音が迫る。マグナムを抜き、近距離で騎士の関節を狙うが、数が多すぎる。
「リリエル、状況は?」
「アリス、ヤバい! 勇者さんたち、なんとか戦ってるけど、私、巻き込まれて…!」
インカムからリリエルの焦った声。彼女、勇者の戦場で爆薬を投げたが、騎士団の反撃で液化を維持できず、人間の姿に戻ってる。ゴブリンが彼女に襲いかかり、離脱に精一杯だ。
――ー
カイルside
俺、勇者カイル、聖剣を握り、霧の中で幻影の騎士団と戦う。こいつら、めっちゃ強い! 鎧は硬えし、斬っても再生する! マレクが炎を放ち、「カイル、集中しろ!」と叫ぶ。エリエが「カイルさん、傷…!」と回復魔法をかけてくれるが、騎士の数は減らない。
突然、爆発が響き、騎士が3体吹っ飛ぶ。またあの煙! 前の要塞戦と同じだ!
「マレク、誰か助けてくれてるぞ!」
「バカ、敵が混乱してる今だ! 突っ込め!」
俺は聖剣を振り、騎士の首を狙う。刃が鎧を貫き、1体が崩れる。マレクの魔法が騎士を焼き、エリエが俺たちの傷を癒す。だが、霧の奥から新たな騎士が現れる。
――ー
アリスside
私は霧の中で別働隊に囲まれる。騎士5体、動きが速く、剣から瘴気が放たれる。「パン!」とライフルを撃つが、鎧が硬すぎる。マグナムで近距離射撃を試みるが、騎士が剣を振り下ろし、木が真っ二つに。
「…くそ、まずい」
気配遮断スキルで逃げようとするが、視認されてる以上、追跡は止まらない。テレパシーでリリエルに連絡。
「リリエル、援護を!」
「アリス、ごめん! 私、勇者の戦いに巻き込まれて…ゴブリンに絡まれてる!」
リリエルの声が焦ってる。彼女、液化で逃げようとしてるが、ゴブリンの数が多く、擬態もバレてる。勇者パーティは奮闘してるが、騎士団の猛攻で手一杯。私もリリエルも、援護し合えない。
私は霧の奥へ走り、騎士を誘導。岩場に隠れ、爆薬を投げる。
「ドン!」と爆発し、騎士2体が崩れるが、残り3体が迫る。マグナムでは威力不足だがライフルを構える暇もない。
「…ちっ、まずいな」
剣が振り下ろされ、肩を掠める。血が滲むが、気配遮断で騎士が一瞬混乱。そこを突いて、私は木々の間へ逃げる。
リリエルは勇者の戦場で、液化でゴブリンを振り切り、森の外へ。
「アリス、ごめん! 私、離脱するしか…!」
「…いい。勇者を守れ。私はなんとかなる」
私は霧の中を走り、別働隊を撒く。騎士の足音が遠ざかり、なんとか逃げ切る。
――ー
勇者パーティは幻影の騎士団を辛うじて撃退。カイルが「正義の勝利だ!」と叫び、マレクが「バカ、ギリギリだったぞ」と息を切らす。
私は森の外でリリエルと合流。肩の傷を押さえ、ライフルをしまう。
「アリスちゃん! 大丈夫!? 血…!」
「…大したことない。ガルヴァンの騎士団、予想以上に強い」
リリエルが目を潤ませる。
私は自身に回復魔法をかけ傷を塞ぐ。
「ごめん、私、援護できなくて…勇者の戦いに巻き込まれて…」
「……リリエルが無事ならいい。ガルヴァンの次の襲撃、シルバート村だ。準備しろ」
勇者パーティは勝利したが、ガルヴァンの本当の狙い――私たちを炙り出すこと――は半分成功した。次は、もっと危険だ。
「リリエル、勇者を守りつつ、ガルヴァンの水晶を壊す。準備はいいな?」
「うん! アリスと一緒なら、絶対勝てるよ!」
リリエルの笑顔に、私は小さく頷く。黒騎士ガルヴァン…お前の策略、必ず潰す。
――ー