第二話
〜翌日〜
「これ全部やるの!?」
朝からルーエは私と一緒に牧場の仕事で牛舎に居た。
「そう。これがみんなのご飯だよ。これが無いと美味しいミルクは出ないからね。ブラッシングも出来るだけやるよ」
「え〜朝からこんなに?無理だよ」
「文句言うなこの若造が!」
「じいちゃん孫に向かってそれは無いよ〜」
「馴れ馴れしく呼ぶな!さっさとやらんか!」
おじいさんはルーエが家に住む事を渋々了承してくれたが、昨日よりルーエに対して当たりがキツくなっている。
「もしかして父さんが来ないから怒ってんの?あの人は仕事で忙しいんだって。許してやってよじいちゃん」
そうルーエが祖父に言うと祖父はますます怒り出し
無言で畑の方へ行ってしまった。
「なあエルシー。俺、変な事言った?」
「さあ」
私はルーエに問われても分からなかった為
知らないふりをした。牛の世話を終えた所で
ドロシー達が迎えに来た。
「なんで貴方がここに居るの!?」
予想通りドロシーはルーエが居る事に対して
怒りを露わにしていた。ミスティは苦笑いを浮かべていた。
私が登校しながら事情を説明してもドロシーは納得がいかない様子だった。
「この人がエルシーと住んで良いならドロシーも住む」
と不貞腐れて私にくっついて離れなくなってしまった。
「相変わらずドロシーはエルシーの事が好きだね。いっその事、僕も住んじゃおうかな」
ミスティもドロシーに同調して冗談混じりにそう話してきた。
ミスティが住んだら私の心臓が持たない…!私はそう思って、二人に「ダメダメダメ!」と答えた。
「ドロシーちゃん、大丈夫!俺ら双子の兄妹だからやましい事は一切無いよ!」
笑顔でルーエがドロシーにそう話しかけるとドロシーは「ほ、本当?」と少し不安そうな表情をしながらルーエに問いかけた。それに対してルーエは「無い無い!」と答えた。
「少し安心したけどまだ油断は出来ない…エルシーを泣かせるかもしれないし」
「なんで!信じてよドロシーちゃん!
あ、そう言えば話変わるけどドロシーちゃんってさ
フランスで虐待事件に遭ったあのドロシーちゃんじゃない?」
ルーエが、私とミスティも知っているドロシーのあの事件に触れるとドロシーの表情が一気に凍り付いた。
「なんでそんな事聞くの?って事は知ってるんでしょ!ドロシーがネットで活動してる事」
「だって有名だもの。ネット活動者ならずっと残るよ。
その天然物の長くて明るい金髪と桃色の瞳、白くて綺麗な肌…
誰もが振り向く美少女ドロシーちゃんじゃん。気づかないとでも思った?」
ルーエがそう言うとドロシーは顔を手で覆い泣きながら先に学校に行ってしまった。
ドロシーは現時点でネットアイドルとして活動している。それは小学生から始まっている。
両親には育児放棄と軟禁をされ学校すらろくに通えず
彼女の手元にはパソコンがあった。ドロシーはそれでネット活動を始めた。
両親は彼女が有名になっていく事を全く知らずに時は過ぎ
虐待は悪化し暴力を振るうようになった時
ドロシーはブログに「助けて欲しい」と書き込んだ。
そしてドロシーの過激なファンが居場所を突き止め彼女の両親を殺してしまった。
当時事件の取材に来たジャーナリスト須藤一花が今後の事を考えドロシーを日本に移住させた。ドロシーが住んでいるのはその須藤ジャーナリストの家だ。
〜昼休み〜
「エルシー、俺ドロシーちゃんに無神経な事言っちゃったかなあ?」
「無神経かと言われたらそこまででは無いけど、ドロシーは触れて欲しくなかったと思う」
私がそう答えると「そうか」とルーエは落ち込んでいた。
「ネットアイドルも芸能人と変わらないと思うんだけど俺の感覚が間違ってるのかなあ」
空を見上げながらルーエはそう呟いた。
〜放課後〜
「ドロシー、大丈夫?一緒に帰ろう」
「うん、今朝はごめんなさい。一緒に帰るって事はあの男も一緒?」
「あの男呼ばわりはやめて貰えませんか。せめて名前で呼んでくれるとありがたいです」
「ルーエって呼べばいいの?」とドロシーが聞くと
「はい」とルーエが返答した。
「ルーエ、今朝の事は許す。だけどあれは言い過ぎ。誰もが振り向く美少女って…」
ドロシーは目を逸らしながらもじもじしている。
「え?だって本当の事じゃん。ドロシーちゃんに惚れない人居ないでしょ」
「は!?何それ!からかってるの?」
「いやからかってない。少なくとも俺は惚れてる」
「そんなの見た目で判断してるだけじゃない!ドロシーにはエルシーが居るの!!」
そう言うとドロシーはまた朝と同じように私にくっついてきた。ルーエは困り果てていた。
〜帰宅後〜
部屋に居るとルーエがドアをノックして入ってきた。彼は神妙な面持ちで私に尋ねてきた。
「あのさ、ドロシーちゃんって女の子が好きなの?」
「違うけど、男性に対して不信感は持ってる」
そう答えるとルーエはうずくまり「そっか、うーん」と悩んでるそぶりを見せた。
「仲良くなるのは時間がかかりそうだな」
「ドロシーは男友達少ないからな〜永井先輩だったら仲良いんだけど」
永井依馬は女装家として有名な高校二年生。
いつも咲間陽輝とつるんでいる。
依馬は、エメラルドブルーグリーンの髪色と
ハーフアップロングの髪型が特徴で制服もスカートを着用している。
ドロシーと似てる濃い桃色の瞳も特徴の一つ。
「永井先輩とドロシーちゃんか、可愛過ぎる組み合わせだね」
「まあ、明日見てみなよ」
〜翌日の昼休み〜
二年生の教室の廊下に私達は立っていた。
「うちの白兎学園ってスカートとかパンツとか選べるんだね」
「永井先輩は例外らしいよ。私もズボン履きたかったけど無理だって言われたから」
依馬の居る教室を眺めながらルーエと話してると
後ろからミスティに声をかけられた。
「二人とも、ここで何してるの?」
「ミスティ先輩!永井先輩がドロシーちゃんと仲良しだと言う情報を掴みまして!」
「それでここに来た訳か」
ミスティが納得していると依馬の所にドロシーが来て話をし始めた。
「何話してるんだろう」
「おっまえら何してんだあ〜?」
突然の声かけに驚き後ろを振り向く。
そこには校則を破りまくり私服で登校して来ているユーマ・リデルが居た。
ミスティの同級生で私達の先輩だ。
「ユーマ、お前また私服で来たのか」
呆れるミスティをよそに私達の方へユーマは向かう。
「あー、依馬とドロシーか。あいつら先輩に敬語使えないんだよなあ。似た者同士なんだよなあ。またゲームの誘いか何かかな」
私達の肩に手を置きながらユーマはそう話した。
ゲームの誘いなら私も受けた事がある。
動画にするからと言って私は映さずに一般人の友達として参加した。
「なんで俺じゃ無いんですか!俺ならモデルだから話題性充分あるじゃないですか!」
納得のいかないルーエはユーマに詰め寄った。
突然の事にも関わらずユーマは気にせず続けた。
「依馬はファッション関係の仕事に就きたいんだよ。ドロシーの配信衣装も依馬が選んだ服らしいぜ。そういう打ち合わせも兼ねてるんじゃないか?」
そう言われるとルーエは依馬の所に駆け寄り
「すみません!俺にも服選んで下さい!」と
土下座し始めた。
「え?何こいつ。入学の時のエルシーの兄妹じゃない。ドロシー、こいつ何でここに居るの?」
「知らない…ルーエもえまの選ぶ服に興味あるんじゃない?」
「確かルーエってモデルやってたね、雑誌の仕事が俺にも来るって事?」
「え?いやそんな予定は無いですけど…ドロシーちゃんと一緒に配信やりたくて」
ルーエがそう言うと教室がざわざわし始めた。
ドロシーは「ちょっとルーエ!」と大声で呼び土下座してたルーエを引っ張り起こして教室を後にした。
その時丁度昼休みが終わり鐘が鳴った。
私はそそくさとその場を後にした。
〜放課後〜
「どういうつもり?ドロシーとコラボしたいの?」
そうドロシーがルーエに聞くとルーエは「はい」と
即答した。
「ドロシーが実況するゲームは育成とか着せ替えとかシミュレーションゲームだけど大丈夫?」
そう聞かれたがルーエはまたもや「はい」と即答した。
「変なの。ゲームならアクションも出来るエルシーとやった方が楽しいのに」
「ドロシーちゃんとやる事に意味があるんです。勿論、後でエルシーともゲームするけどね」
「え?そうなの?初耳なんだけど」
変な配慮をされ私は戸惑ってそう答えた。
「配信部屋にルーエと二人きりとか本当無理。エルシーも来て」
「私も?」
「うん、勿論泊まりだよ。牧場仕事はゲームでやってね」
そんなこんなでドロシーの家に泊まる事になった。
土曜日一日がかりで配信に挑むらしい。
私は帰宅し祖父に事情を伝え、荷物の準備をした。