第一話
ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ!
私は目覚まし音を止め身体を起こす。
「ふぁ〜もう朝か」
私はエルシー・ハンナヴァルト。今年で高校1年になる。
両親は居なく、牧場経営する祖父と祖母に育てられた。
今日もいつも通り飼っている牛や羊の世話をし
中学からの友達ドロシーと近所に住む一つ年上の幼馴染のミスティと登校する…筈だったのだが。
「おはようエルシー」
「おはようございますミスティ先輩」
「何か玄関に知らない子居たんだけど。同じ制服着てた。エルシーの知り合い?」
そうミスティに言われ私は首を傾げた。
ドロシーの事だったらミスティは知っている。
他に誰が居るのだろう。私は気になり玄関の方へ
向かった。すると祖父が男子高校生と何やら
ヒソヒソ話していた。
「どうしたのおじいちゃん」
「ああ、エルシーか。いや、此奴がわしの孫だと言ってるんじゃ。やれやれ、本当に帰ってくるとは思わなかった」
そこには同い年位の私と同じミルクティーベージュの髪色でミスティに負けず劣らずな位の中性的な顔立ちをした男子高校生が居て、必死に私の祖父に訴えていた。
「お父さんに教えられてここに来たんだ。お前の双子の妹はここに居るって。お願いです。会わせてくれませんか?」
「会わせてくれませんかも何も今来たこの子がその妹じゃよ。今日から高校生じゃ」
祖父はそう言うと呆れた様子で仕事しに牧場へ向かった。私には何の説明も無く彼と私だけが取り残された。
「君がエルシー?俺はルーエ。君の双子の兄だよ」
唐突にそう言われ私は現実的にあり得ないと
思ってしまった。こんなイケメンが私の双子の兄?
何かの間違いでは?そう思った。
そして私が何か話しかけようとする前に
ミスティとドロシーがお構い無しに迎えに来た。
「エルシー、遅刻するよ…って誰その人。ドロシー怖い」
ドロシーは来るなりルーエを見てすぐ私の後ろにくっついて隠れた。
「ごめんエルシー。僕、その子との会話聞いてた」
ミスティは会話の一部始終を目撃してたようで
気まずそうな顔をしていた。
「この人達はエルシーの友達?初めまして。エルシーの双子の兄ルーエです」
ルーエは二人に挨拶した。二人とも怪訝そうな表情でルーエを見つめていた。
「僕はミスティ・ルーシッド。エルシーとは幼稚園から一緒。エルシーの後ろに隠れている彼女はドロシー・フルール」
「へえ二人とも外国名なんだ、俺らと一緒だね」
「偶然なんだけどね。僕はイギリス人と日本人のハーフだよ。ドロシーはフランスから移住してきた」
「ドロシーちゃんか。どっかで聞いた事あるな」
ルーエがそう言い考え込んでいるとドロシーが
「そんな事より遅刻する。エルシー早く行こう」
と言ってきた。私は「そうだね」と頷き皆で実家を後にした。
「なんでおじいちゃん私に何も言わなかったんでしょう」
登校中私はミスティに尋ねた。
「分からないな。…ルーエくんだったよね。君は何か知ってるの?」
そうミスティに尋ねられたルーエは私の方を見て
語り出した。
「エルシーは母親について何か聞かされてなかった?俺はお父さんから聞いたんだけどさ。俺達が生まれた時にお母さんは亡くなってしまったんだって。それがショックでお父さんは俺だけ引き取って家を出たんだ。お母さんは日本人でお父さんはドイツ人」
私は祖父祖母から両親は私が幼い頃に亡くなったと
聞いていた。当然一人っ子だと思っていた。
実の父親が生きていると言う事に驚いた。
「でも信じられない。ルーエくんが私と兄妹だなんて。今日初対面だし」
「無理も無いよ。俺も今年知ったんだ。お父さんは娘に会わせる顔が無いって言って来なかった。だけど、これからはもう一人じゃないからね。俺に頼って」
そう言われて少しだけ不安が軽くなった。
ルーエは明るくて頼りになる存在なのかなと思った。そう思った矢先私の側から離れないドロシーが
「ドロシーはまだ信用してないから貴方のこと」
そうポツリとルーエに告げた。
学校につきクラス表を見ると、ドロシーとルーエと
同じクラスだった。
「エルシー、ドロシーおはよう。入学おめでとう。高校でも宜しくね」
「和花先輩おはようございます!」
中学からの友達達が学校で待っていた。
白石和花・荻野司・小鳥遊凛子
・春河琴葉・春河翼の女子生徒達と
咲間陽輝・永井依馬・浅木渉・
真壁蕾・赤松環の男子生徒達。
凛子と翼と蕾と環は私らと同級生だ。それ以外は先輩。
「ねえ、そいつ誰?新入り?」陽輝と依馬がルーエを見て興味のある様子を見せた。
「はい、先輩方!俺…じゃなかった。僕はルーエ・ハンナヴァルトと申します。エルシーの双子の兄です」
そうルーエが告げると友達は驚くし周りがざわざわし始める。
「ルーエくんってあのルーエくん!?モデルの?」
「あ、分かるんですか!ありがとうございます」
「分かるも何も雑誌の表紙飾ってたじゃない!」
ルーエは動揺せずにこやかに対応していた。
私は何が何だかさっぱり分からなかった。
え?芸能人?モデルって言われてたよな。
雑誌に出てたって?私は少し嫌な予感がした。
「エルシーにはバレると良くないと思ってたんだけど芸能活動してるんだよね俺。まだそんなに知名度無いけど」
いやそんなのすぐバレるよと思ったけど、
心の奥にしまい込み騒がしい登校初日を終えた。
入学式でも黄色い悲鳴が聞こえ校長が注意してた。
ルーエはただでさえイケメンなのに芸能人だとは。
これからの生活が不安だ…。
帰ってくると祖母が出迎えてくれた。
「今日は朝から大変だったわね。おじいさんから聞きましたよ。ルーエがこっちに戻ってきたって」
「おばあちゃん、ただいま。おばあちゃんも知ってたの?ルーエくんのこと」
祖母は頷き、物置小屋から一つのアルバムを持って
私に見せてくれた。
「これが貴方のお父さんとお母さんよ。病院で撮った双子の写真もあるわ。今まで隠しててごめんなさい」
「お母さんはなんで亡くなったの?」
私がそう聞くと、祖母はすぐ答えた。
祖母が言うには元々母は身体が弱く出産後に容体が急変したそうだ。
祖父は祖母と父とで協力して双子を育てようと
持ちかけたが父が仕事の都合であちこち飛び回る為
無理だと言いその代わり二人は難しいが双子の内一人は頑張って
育てると言ったそう。それがルーエだった。
「二人とも2歳位までは一緒に居たんだけどね。憶えてないよね二人とも」
私は「うん」と答え写真をまじまじと見た。
幼い頃の私とルーエはどっちがどっちだか
分からない程似ていた。
「そう言えばルーエはお父さんと暮らしてるの?」
「いいえ。一人暮らしだっておじいさんが言ってたわ。一人でここに来たらしいわ」
お父さんに会えるかもと期待していたが現実はそんなに甘くなかった。ルーエは一人で私に会いに来てくれたのかと思うと嬉しいと同時に複雑な気持ちになった。
「せっかくだから家で暮らせば良いのにね」
ポツリと祖母がそう呟いた。そうだねと頷こうとした時、ちょうど家のインターフォンが鳴った。
「すみませーん」と言われ「はーい」と出ていくと
そこにはルーエが立っていた。
「え?なんで家に?」と私が尋ねるとルーエは「晩ご飯作れなくて来ちゃった」と頭を抱えて話した。
「晩ご飯作れないから来たってどういう事?貴方一人暮らししてるんでしょ?」
実家を訪ねてきたルーエに私がそう聞くと彼は
「いやあいつも宅配とかで頼んでて。だけど今お金無くってさ」
と答えた。私は言葉を失った。祖母が後ろから来て
「あらルーエいらっしゃい。晩ご飯食べてく?」と
尋ねたのでルーエはすぐに頷き「食べてく食べてく」と連呼した。
「お邪魔しまーす!」
「その代わり料理手伝って貰うわよルーエ」
元気よく家に来たルーエにすかさず祖母がそう言うと
さっきの元気はどこかに消えルーエは「えー!」と嫌そうな表情をした。
「家では自給自足の生活なのよ。ねえエルシー」
そうにこやかに祖母が微笑むと私も頷いてルーエに
「そういう事だから、今のうちに料理覚えちゃいなよ」
と告げた。
数時間後、ルーエは料理に悪戦苦闘したが何とか
晩ご飯が完成し皆でその料理を食べる事にした。
「いただきます!上手く出来てるかな?…美味っ!」
「自分で作った料理が美味しいと嬉しいでしょ」
そう祖母が微笑みながら言うとルーエは「うんうん」と頷いた。
「そう言えばじいさんはどこへ行ったんだ?」
ルーエがそう聞くと祖母は「まだ仕事よ」と答えた。そして「牧場の仕事は毎日忙しいからね」と続けた。
「朝はエルシーが手伝ってくれて助かってるのよ」
「へえ、俺も手伝おうかな。住み込みで」
「本当?是非お願いしたいわねえ。それならおじいさんに許可取らないとねえ」
ルーエと祖母が話を進めていくので私は焦った。
「待って待って、今日来たばっかりなのにもうそんな感じなの?ルーエ、ここに住むの?」
そう尋ねるとルーエは「うん」と即答した。
正直、私は心の準備が間に合っていなかった。
「あらエルシー反対なの?さっきは家で暮らせば良いのにねって言ったら頷きかけてたじゃない」
「そうなの?ばあさん」
「いや、それはそうだけど!おじいさんが何て言うか分からないし」
祖父は頑固な所があるので到底OKするとは思えない。
ドロシーとミスティに何て思われるかも想像するだけで恐ろしい。
「おじいさんの事は私が説得するから!エルシーは心配しなくていいのよ?」
祖母はにこやかにそう答えご飯を食べ終わり片付けを始めた。
「エルシーは嫌か?俺と暮らすの?」
同じく晩ご飯を食べ終わったルーエが私に聞いてくる。私は「嫌じゃ無いけど…」と答えた。
「なら決まり!俺、今住んでるアパート出て今日からここで暮らす!宜しくなエルシー!」
ルーエにそう言われ、私はこの先が不安だと思ってしまった。