ファンタジーな世界
「私、今日、悲しいことがあってね……」
「おれも、すごく悲しいことがあったんだ」
おれたちは、いっつも、こうやって、気持ちを共有しあって、何とか生きている。
気持ちを共有し合えば、悲しさも半分になる。
そして、嬉しいことを共有し合えば、嬉しさは2倍になる。
そうやって、おれたちは、幸せに生きている。
そんな、おれたちの関係。
ずっと、続けばいいな。
そんなふうに、思ってる。
だからこそ。
今日。
彼女の誕生日。
何かをしてあげたい。
そんなふうに、思っている。
おれには、生まれてから誰にも隠していた能力がある。
それは、一生に一度だけ、魔法が使えると言うこと。
どんな魔法かって?
それは、使ってからのお楽しみ。
今日は、おれの、一世一代の日になる。
そんなふうに、思っている。
だって。
今日は。
一生に一度の。
特別な、日だから。
特別な日に、しようと、思っているから。
「優斗も悲しいんだ。一緒だね」
「うん。一緒。おれも、悲しいよ」
「一緒だと、なんか安心できるな。悲しさも、半分こ」
「そうだね」
フフフ、と、2人で、食卓の上で笑い合った。
未希は、ロングの茶髪に赤くて少しオーバーサイズの丈のトレーナーを着ていて、そのオーバーサイズのトレーナーがフラフラと揺れる。
「でもさ、私ね、今日、嬉しいこともあったんだよ」
「そうなの?」
「うん。あのね、仕事でうまく行ってね、褒められたの」
「わあ! よかったじゃん! さすが、未希だね!」
「ありがとう! 優斗が喜んでくれたら、嬉しさも2倍だね!」
「嬉しさも、2倍。今日、未希、誕生日だよね。誕生日、おめでとう!」
「わわわ、ありがとう!」
未希は、一瞬驚いた顔をするも、くしゃっと笑う。
「みてー! 誕生日ケーキ! 今日のために買ってきたんだよー!」
「わ! 美味しそう!」
喜んでる喜んでる!
買ってきてよかったあ!
嬉しいなぁ。
未希と一緒になれて、本当によかった。
心から、そう思っている。
未希には、いつも支えられている。
そんな未希が、少しでも悲しんでたら、おれは、もっと未希を幸せにしたいな、なんて思う。
今日くらいは。
幻想的な世界へ。
未希を。
連れてってあげたい。
それで。
未希に。
笑ってほしい。
そんなことを、思って。
ケーキも買ってきて。
今日の。
魔法のために。
ずーっと。
魔法を使わずに。
取っておいたんだから。
おれの魔法は。
未希を。
幸せに、できる。
はず!
はずだよ!
絶対、未希を幸せにできるはず!
やった!
だから、おれは!
この魔法が、大好きで!
未希のことも、大好きで!
だから!
そのために、この魔法があるんじゃないかって思っても、過言ではないっていうくらい。
それくらい。
未希のことが、大好きだから。
そんな未希に、おれは、魔法が使えて、すごく幸せなの。
本当に。
魔法が使えて、よかった。
まだ、使ったことないんだけどね。
それでも。
これで。
未希に、笑顔になってほしい。
そして。
将来、ずーっと。
未希には、幸せでいてほしい。
そんな思いを込めた、魔法。
それを、今から。
未希とおれに。
かけるよ。
「未希」
「なに、優斗」
「悲しいこととか多いけどさ、でも、おれ、おれ、未希に、今日は、今日だけは、君を、幻想的な世界へ連れて行ってあげたいんだ」
「……幻想的な、世界……?」
おれが指パッチンをすると、そこに、幻想的な空間が広がった!
たくさんの乗り物があるテーマパーク!
「わあ! すごい! なにここ! テーマパーク!? なんで!?」
「おれの、魔法だよ!」
「……すごい! 私たち2人で、楽しめるの?」
「そうだよー!!!」
それも、二人きりで!
おれたちは、ジェットコースターに、コーヒーカップ、観覧車と、楽しんだ!!
「すごーい……」
「すごいでしょー! 今日は、悲しいことを全て忘れて、未希の好きなことだけ、そんな、楽しい世界で、幸せになってほしいんだ。ほら、夜空を見てみて」
夜空を見上げて。
2人で。
そしたら。
そこは。
満天の星空が、広がっていた。
本当に、最高。
もう一度、おれが指パッチンをすると、そこは、夜空が綺麗な海の上の空を浮かぶ、魔法の絨毯の上!
「わあ、綺麗! すごい!!!」
魔法の絨毯は、おれたちの街の上を飛んで、海の方に高速でビューンって、飛んで行った。
星がキラキラと、輝いている。
未希の目からは、涙があふれた。
「なんで、こんなことができるの?」
「おれは、一生に一日だけ、いろんな異世界に行ける魔法が使える魔法使いなんだ。」
「そうだったんだ、知らなかった……」
「フフフ、未希には秘密にしていたからね。だって、今日みたいな大切な日に、未希に、見せたかったから。この世界を。この景色を」
未希には、今までたくさんの幸せをもらった。
たくさんの、思い出をもらった。
たくさんの、希望をもらった。
おれが、高校のころ。
レギュラーに入れなくて、落ち込んだ時も。
励ましてくれたのは、未希で。
大学に落ちて、泣いてる時、涙を拭いてくれたのは、未希で。
大学の時、好きなアーティストのライブに落ちて泣いているところを救ってくれたのも、未希で。
未希が、まさかの2枚持ってるって言ったから、おれは、ライブに行けた。
他にも、大学の頃、就職活動で落ちまくって病んじゃった時も、未希が支えてくれて。
大学の卒業がかかった卒業論文も、未希と一緒にやっていたからどんどん進んで。
社会人になって、覚えることが多すぎてとっても困っていた時も、未希が、いつも、大丈夫だよって言ってくれて。
お弁当まで作ってくれて。
本当に、幸せで。
会社で理不尽に怒られた時も、未希が、大丈夫だよーって、言ってくれて。
いっつも、未希に励まされて。
悲しみは、2人だから半分こしよ、って言ってくれて。
それで、おれの悲しみも、いつも半分になっていて。
未希がいてくれたから、今のおれがいて。
未希がいなかったら、今のおれはいなくって。
だから、未希は、おれにとってとっても大切な存在で。
ずーっとそばにいる、大切な存在で。
だからこそ、おれは未希のことをずーっと大切にしたくって。
そんな存在が、今おれのそばにいるってだけで、とても愛おしくて、幸せで。
だから、ずーっと一緒にいたくて。
ずーっと、一緒にいたくて。
今日は。
そんな思いを、伝えたくて。
今日のために、用意した、魔法。
この、魔法の絨毯の上で、思いは、伝わるかな。
伝えられるかな。
思いよ。
届け!!
届いてくれ!
2人、夜空を見上げると、とても綺麗で。
海の上を走る魔法の絨毯に見とれながら。
おれは、言った。
「僕と、結婚してください」
未希は、ブワッと、たくさん泣いた。
そして、ニコッと笑った。
それで、言った。
「はい、喜んで」
流れ星が見える。
「最高の、夜だね」
おれは、そう呟いた。
「うん。2人だから、最高も、2倍だね」
「最高も、2倍だね」
フフフ、と笑って、2人、手を繋いだ。
おれは、もう一度指パッチンをした。
すると、おれの手のひらの上に、指輪が現れた。
「わあ、すごい」
それを、未希の指にはめた。
「ぴったりだ! すごい! ありがとう! めちゃくちゃ嬉しい!」
魔法の絨毯は、そのまま海の上を進んでいく。
横を見ると、ドーンって、幻想的な花火が上がっている。
「すごい! 綺麗」
「綺麗だねー」
「未希がいるから、おれは幸せなんだよ」
「私も。幸せ。ありがとう、こんな幻想的な世界に連れてきてくれて。私、本当に、夢を見ているみたい」
「おれも、本当に、夢を見ているみたいだ……」
「ずーっと、夢の中にいようね」
「ああ。ずーっと、2人で、夢を見ていよう」
恐れ入りますが、
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