出雲鉄と三原鉄
種子島に鉄砲が伝来してから、数年であっという間に国産化どころか、量産普及までしてしまった火縄銃。
その銃身と尾栓は当然のことながら鉄を用いている。だが、用いられている鉄材は多少異なる。
尾栓の雄螺旋には出雲鉄、雌螺旋には三原鉄が用いられている。この出雲と三原はそれぞれ地名であるが、それと同時に鉄の特性を示すものでもある。
出雲は文字通り出雲国によって産したたたら製鉄によるもの、三原は瀬戸内の備後国三原だ。さて、同じ中国地方で同じようにたたら製鉄で砂鉄を用いた鉄製品であるが、両者は全く異なる性質を持っている。
当時の鍛冶職人は、三原鉄に対して「脆さ」を、出雲鉄ついては「粘り強さ」を指摘している。先に示した火縄銃においても、これが用いられる部位に違いを示している。火縄銃の産地の一つである近江国友において、「出雲の鉄は最良」と伝えられていることから、品質的に山陰地区の鉄が望ましいことを示しているわけだが、では、なぜ、三原鉄が用いられているのか?
それは当時の鉄砲鍛冶が、それまで日本になかった「螺旋」という構造に対応するべく、鉄の素材特性と加工特性を上手く用いて部材適性を見いだしていたということになる。
では、同じ中国地方である出雲と三原では何が違うのか?そこは中国山地を境に磁鉄鉱系とチタン鉄鉱系に地層が分かれることによる鉄の特性の違いもあるのではないだろうか?
少し関連する論文や資料を調べてみたのだが、どうも、山陽側のチタン鉄鉱系の砂鉄は不純物が多いことからそれによって鋼の成分的に「脆さ」につながっているのではないだろうか。
たたら製鉄が途絶えた後、現代において再度製鉄実験を行った際に「発見」された事実によると以下のような記載があった。
「砂鉄の選鉱法が伝統的な鉄穴流し(比重選鉱)法から近代的な磁力選鉱法に代わり,砂鉄中のTiO2含有量が減少したことが原因だと考えられる。磁力選鉱法では,TiO2を多く含む非磁着分が逸失するため銑が生成できなくなる」
ここにある銑とは、鉄鉱石を溶かし取り出した鉄で、不純物を含むもの。「ずく」と読む。
出雲の砂鉄、つまりは真砂鉄(磁鉄鉱)を用いるそれでは不純物が少ないため磁力選鉱法とそれほど変わらないため、銑が少ないという。無論、理論上は銑を産しようと思えば出来るらしいが、色々と不都合が出るため実質的に無意味である様だ。
つまり、その砂鉄の素性がこの出雲鉄と三原鉄の違いを生み出しているのだろうと考える。
それを考えると製鉄におけるそれも安易に扱えないものだと改めて思う。