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第8話 入団テスト

「じゃあ先ずは使える魔法教えてよ」


 俺はひとけのない路地裏にユリエトを連れ込んで入団テストを始めた、ここなら騒いでも問題無いだろう。


「ハイっ、使える魔法はヒール全般と蘇生魔法、強化系(エンチャント)全般、攻撃魔法は光、水、雷属性の上級魔法までは一応扱えますが、MPの都合上ヒール以外はあまり使わないです、あと、一応、乙女の嗜みとして、ヒニンの魔法が使えます!!、使った事はありませんが!!!」


 ユリエトはいきなりとんでもない事を言い出すが俺は何も聞かなかったようにスルーした。


「じゃあ次は最高到達階層教えて、結構高ランクパーティーだったんだよね?」


「ハイっ、私はまだ早いといつも注意してたんですけど、リーダーが脳筋だったんで、一応40階層まで行ってます、入り口の所で直ぐに引き返したんですけど」


 40階層は未だに未開拓の領域だ、迷宮化しているだけでなく、1~5の層は採掘される資源のコスパも悪く、そして広大過ぎるが故に開拓の人手が足りない為に開拓に時間がかかるのが通例だからだ。


 だから40階層まで到達するのが冒険者の一つ到達点、目標として存在している訳である。


「ならまぁ、冒険者としてはある程度の経験値があるって事でいいか、一応聞くけど、炊事とか雑用って出来る?」


「・・・いえ、炊事とか雑用はいつも他の人にして貰ってました、ですが!!、これからは奴隷になるので、炊事とかも勉強して頑張ります!!」


「つまり自活能力はゼロか、じゃあ減点5って事で、あ、10点満点ね、及第点は9点、こっからは加点しないときついからね、じゃあ次は心理テストね、自分の他に大切な人っている?」


「いません!!、・・・いえ、強いて挙げるなら、ご主人様です!!」


「え?、いや、普通居るでしょ、家族とか親友とか、そういう人・・・」


「親も友達もいません!!、スラムから孤児院、孤児院から修道所、そこから抜け出して冒険者になりましたが、どこもかしこもクソカスばっかりでした、美しく才能溢れる私を(ねた)んで意地悪する先輩に、下半身で話しかけてくる鬱陶しいカスバエ、私に近付いてくる人間なんてみんなそんなのばっかりで、私に大切な人なんていません、ご主人様以外に!!!」


 急に口が悪くなるが、まぁ、元々上品だった訳でも無いし、語りたくない過去を語らされたら口が悪くなるのも自然な事か。

 むしろ育ちが悪いのは俺も同じなので、そこには親近感が沸いた。


「正直に話してくれたし加点1、まぁ大切な人がいたら話が早かったんだが、じゃあもし、俺とお前、どっちかが死にそうってなった時、お前はどっちを助ける?」


 これは心理テストというより覚悟の確認と言った方が正しいのかもしれない、この先、死ぬような目に遭うことを覚悟して貰わないと何も始まらないのだから。


「──────────えっと、迷わずご主人様を助けます、私は一度ご主人様に助けられました、その恩を返すには、この命を使う以外では叶いませんから、それに、私は、ご主人様と一緒なら地獄でもお供します!!!」


「──────────!!、お前!、この馬鹿野郎!!、お前は【プリースト】なんだから俺が死んでも生き返らせられるだろうが!!、それに俺は【不死】だから死にそうになっても死なないんだよ!!、0点!!!!でも受けた恩義を必ず返す、これは道義を尊ぶ人間としては100点満点だ、俺も嫌いじゃない、だから加点1!!!」


「ありがとうございます!!」


「じゃあ3問目、金持ちの貴族と可哀想な奴隷、ダンジョンで魔物に襲われてるとして、どっちを助ける?」


「貴族を見捨てて持ってる金品を押収した後に、奴隷を助けて恩を高く売りつけます」


「パーフェクト!!100点、お前は人間としてクズだが俺の仲間として100点を言った!!、加点1!!!」


「ありがとうございます!!!」


「どんどん行くぜ4問目、死ぬほど憎いクソ野郎がいた、どうする?」


「どんな手を使ってでも受けた屈辱を100倍にして返し、生き地獄を味わわせた後に地獄に送ります!!!」


「エクセレント!!!、120点、加点1、やるじゃないか、見直したぞ」


「・・・えへへ、嬉しいです」


「じゃあこれが最後のテストだ、お前の全力で、()()()()()()()それが出来れば合格、出来なければ帰れ!!!」


「・・・え、それって何かの謎かけですか?、それとも腹上死させて欲しいとかそういう・・・?」


「違う、そのままの意味だ、俺は【不死】だ、だから死なないが、だがダンジョンでは何が起こるか分からない、もしかしたら俺も()()に寄生される事があるかもしれない、そうなった時にお前が俺を倒せたなら、不死で生き返った時に悪魔だけ殺せる可能性もあるかもしれない、そうなればたとえ足でまといでもお前を仲間にするメリットが俺に生まれる、という話だ」


「【不死】・・・?、本当に?、いえ、ご主人様が、そういうのならばそうなのでしょう、分かりました、──────────全力で行きます!!」


「──────────来い!!!」


「星よ、花よ、大地よ、我に力を分け与え給え、奇跡の女神メルクアリスの加護の下に命ずる、命の息吹よ、神聖剣となりて、悪しき魔を祓え、神域の奇跡をここに、顕現せよ《七色の閃光(レーバテイン)》!!!」


 巨大な魔法陣の中から光り輝く剣が飛び出して、俺に突き刺さる。

 それは〝聖剣〟と呼ばれる最強魔法の一つであり、彼女が最高レベルの【女神の加護】を受けている事の証でもあった。


 この世にある全ての命、星の命すらも練りこんだその一撃は、奇跡の女神の加護の下に於いて実現出来る真の奇跡であり、それは理不尽や不条理に抗う力、下克上(げこくじょう)の証明であり、神聖の象徴である一撃は、男の【不死】すらも貫通するような奇跡を起こすポテンシャルを秘めていた。


 グサッ。


 剣が胸を貫いた。

 カインの時とは違い、深く深く剣は俺を穿(うが)った。


「ぎゃああああああああああああああ、痛えええええええええええええ!!!!」


 痛みに慣れた筈の俺すらも、「死」と直接的に繋がるダメージだけは耐えられないのか、思わず俺は悲鳴を上げた、そうしなければ耐えられないような痛みだったからだ。

 ひとしきり悶絶(もんぜつ)した後に、剣は効果時間を超えて消滅する。

 その頃には俺も精も根も尽き果てて、燃えカスのように憔悴(しょうすい)して膝を着いた。


「嘘・・・、本当に生きてる・・・?、流石ご主人様、でも、殺さないと不合格なっちゃうし・・・ようし・・・!!」


 ポコンと、今度は杖で頭を殴られるが、人生が100回終わる位の痛みを受けた俺にそんなものはもはや痛みのうちに入らないが、しかしその一撃で俺は倒れ、うつ伏せになった。


「・・・ええと、死にました?、死んでないなら、これからご主人様が死ぬまで殴り続けます、・・・悲しいですが、ちゃんと生き返らせるのでご容赦を・・・っ!!」


 そう言ってユリエトは倒れた俺の頭を杖で撲殺(ぼくさつ)しようと殴り続ける。

 大したダメージにはならないが、それでも鬱陶(うっとう)しさは感じたので、まだ再生しきってないグチャグチャの内臓で無理矢理声を上げた。


「・・・ぅ、かく、だ・・・」


「わぁ、まだ生きてる、流石【不死】、しぶといです、えい!えい!」


 ユリエトは俺を殴る事で何かに目覚めたのか、さらに勢いを付けて俺を殴りつけてきた。


「・・・うっ、ふぅ、く・・・、ごう、かくだ、もうヤメロ・・・・・・」


 上手く声を上げられない俺が悪いのか、それともユリエトがハイになってるのか分からないが、ユリエトは俺の静止を聞き届けてくれなかった。


「どんどんぱ、どんどんぱ、ヨイショ!、あっ、首のこの辺殴ると体がビクンってなるんですね、人体の神秘を発見しちゃいました!!、そうだ!!お尻から杖を突き刺して爆裂魔法を放てば、ご主人様を殺せてお尻の初めても貰えて一石二鳥なのでは!!」


「ヒィッ!?、ヤメロォ!!、そして合格だ、ゲホッゲホッ、だからもういいから、これ以上殴らなくていいから!!」


「ええ!!?、でもご主人様は死ぬまでやっていいって言ったのに、ここで終わるなんてイケズですよ、最後までヤラしてくださいよ~!!」


「何でだよ、俺に恨みでもあんのか、これ以上やるっていうならこっから先は俺とお前の戦争になるぞ!!」


 ハァハァと俺は息を切らしながら、ほぼ死にかけの状態ながら必死の思いで立ち上がった。

 手鏡を使って自分のステータスを確認すると、HPは残り3そしてMPは0になっていた事から、本当に死にかけていた事が伺えた。

 この状態で戦っても恐らく勝ち目は無いが、でもユリエトが何故本気で俺を殺そうと考えたのかが理解出来なかったのでそれが気になったのだ。


「・・・だって、死んだご主人様なら、蘇生期限の30分間は死体を好き勝手出来る訳じゃないですか!!、丁度よくここは人のこない路地裏ですし、だったら色々イタズラしたくなっても仕方ないですよね!!!」


「こわ、死体性愛者(ネクロフィリア)かよ!!、不合格だ不合格!!お前みたいな変態、仲間にしてられるか!!!」


「ち、違いますよ、私はただ、ご主人様に私の全部をあげて、そしてご主人様の全部が欲しいだけです、別に死体に欲情する特殊性癖を持っている訳でありませんから!!!」


「それでもこれから仲間になる奴を平気で殺せるお前が怖いよ、魔法で殺すのはまぁ分かるよ、でも杖で撲殺するのは別じゃん、人間の顔面にバットをフルスイング出来るのって、完全に()()()()の人間の倫理じゃん、頭おかしいヤツの()()じゃん、正直ダンジョンにいるどんな魔物よりも間違いなくお前の方がヤバいって本能で分かっちゃったよ」


「ご主人様は勘違いしています、私はご主人様が本当に【不死】なんだなって思って、それで撲殺も絞殺も殴殺も刺殺も毒殺も、・・・あと腹上死も、()()()()()()、私だけのモノにしたいって思っただけで、乙女の純粋な気持ちですから!!!」


「いや、何が乙女の純粋な気持ちだよ、完全に屈折して歪んでるじゃねぇか!、なんで仲間になる前からそんな長年片思いした幼なじみよりも重くて歪んだ感情持ってんだよ、せめて俺をご主人様と呼ぶならもっと真っ直ぐでピュアな気持ちで俺を想えよ、なんでそんなにイカレた感情しか俺に抱けないんだよ!!」


 と、俺が本気でキレ気味のツッコミを入れると、ユリエトは泣きそうな目で、捨てられた子犬のような寂しそうな目で、悲しげに俺を見つめた。



「・・・だって、私、人の愛し方とか、分かりませんから」


「・・・え?」


 俯いたその呟きはか細くて、俺は聞き取れずに聞き返すと、ユリエトは拳を握り締めて語った。


「だって、親に捨てられて、孤児院でも修道院でもイジメられて、笑顔で人を騙し、言葉で人を支配して生きて来た()()の私が、普通の、皆が当たり前にやってる恋とか好きとか、何もかも理解出来ませんから、全部嘘だって分かってますから、だから私が、嘘じゃない本当の気持ちを伝えるなら、私の全部を捧げて、そしてご主人様の全部を貰うしか無いってそう思いましたから」


「・・・それが俺の奴隷になって、そして俺を殺して俺の全部を奪う事に繋がるって訳か」


 ──────────きっと、ユリエトも俺と同じなのかもしれない、一人で生きてきいるようで、それと同時に強烈に誰かとの繋がりを求めている。

 この世界にたった一人だけ、自分の理解者で味方がいれば救われると、俺はチンカラを通して知っていた。

 だから、ユリエトが俺に執着したくなる気持ちも分からなくは無い。


 自分を命懸けで助けてくれた王子様、多分、俺が女だとしても、もしそんな相手が目の前に現れたら、その人に惹かれるのは道理だと思うからだ。


「・・・私じゃ、ダメ、ですか、なんでもします、なんでもやります、ご主人様の望む事全部、望む物全部あげます、だから、どうか私を、ご主人様の・・・」


 恋人にしてくれとは言わなかった、それが薄っぺらく空虚な関係だと思っていたからだろう。

 だから彼女は、己が俺の何になりたかったのかを言い表せなかったのだ。

 同性なら友達で十分だっただろう、でも彼女はそれだけでは不十分だったから、それより多くを望んで、言葉に(きゅう)しているのだ。


 ・・・俺は、既に彼女の有用性を見出していたし、彼女の覚悟も理解していた、それに容姿の美しい彼女がそばに居れば、日々の生活も華やかになるだろうと好意的に思っていた。


 ただ、俺が恐れていたのは、地獄に付き添う過程で、彼女が俺を見限る事だった。


 俺の行く道は正気の沙汰では無い、人の道を踏み外した者の進む、暗闇の向こう側だ・・・。


 だからきっと、俺にとっては、多少頭のおかしい人間の方が、きっと仲良くなれるに違いないとそう思い、俺は彼女の想いに応えた。


「恥ずかしいからご主人様はやめろ、カチワレでいい、それともう一つ、お前はこれから死ぬよりも苦しい目や、死ぬかもしれない目に遭うことになるが、それでも耐えられるというなら、 この手を掴め」


 そう言って俺が右手を差し出すと、ユリエトは両手で俺の手を力強く包み込んだ。


「末永く、よろしくお願いします、捨てたら、殺しますから」


「じゃあ何度でも殺していいから、何度でも捨ててやる・・・なんてな」


 俺が照れてそう冗談を言うと、ユリエトは笑ったまま顎に頭突きを食らわせてきた。


 それにより俺の残り3だったHPは全損、俺はそこで1度目の死を迎えたのであった。



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