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第5話 新生

 俺は夢を見ていた。


 それは走馬灯(そうまとう)なのだろう。


 貧しい平民の家に生まれ、無能力者として生まれついた俺は、口減らし同然に村から出て、この冒険都市ダイナモンシティへとやって来た。


 ここでの仕事も苦労の連続だった。


 無能力者の俺は当然の如く冒険者パーティーに加入する事は出来ない、故に下積みとして13歳からの3年間を居酒屋で住み込みで働いた。

 生活費に天引きされた後の僅かな貯蓄でダンジョンのガイドブック買い、居酒屋で冒険者や炊事などの知識を蓄えて、そしてようやく、ダイナモンシティに来た世間知らずの若者達をスカウトして自らパーティーを作る事で、俺は冒険者としてダンジョンに入る事が出来るようになった訳だ。


 村を出てから今までの4年間は苦労の連続だった。


 理不尽に怒鳴られ、罵倒され、虐げられた俺は、自分という人間の存在価値を嫌というほど思い知らされたし、自尊心やプライドというものも粉微塵(こなみじん)に無くなった。


 その結果たまに、俺はなんで生きてるのか、分からなくなるくらいに俺は病んでいた。


 そんな俺の真っ暗闇の人生で初めて生きがいをくれた存在が、チンカラだった。


 ちんけで空っぽの存在、俺が初めて見た時のチンカラは、都市の橋の隅っこの方で、息を潜めるように物乞いをしている小汚い子供だった。


 その姿を見た時、俺はそれを「別の世界の自分」のように見えて、他人事には思えなかった。


 無慈悲に通り過ぎていく人々に軽蔑の目で見られて、見て見ぬふりをされて、誰からも救いの手を差し伸べられず、世間に絶望しているその姿が、俺には他人事には思えなかったのだ。


 だから俺は、こいつに手を差し伸べられるのは俺しかいないと、放置してはいけないと思い、手を差し伸べたのだ。


 チンカラは要領は悪かったが努力家で、俺が教えた「人から信用を得る術」と「役に立つ知識」をどんどん吸収していき、俺と同時期にはチンカラも新参パーティーの雑用係として認められていた。


 人からすれば、無能力者同士、傷を舐め合ってるような浅ましい関係に思うのかも知れない、底辺同士の馴れ合いに見えるのかもしれない、でも、俺の人生に於いて、チンカラの存在が唯一の救いだったのは確かだった。



「──────────君に会えて、僕は幸せだった・・・っ」


 チンカラの声が、言葉が、笑顔が、胸の奥を締め付けて息が詰まる。

 この苦しみは、俺が大切な物を永遠に失ったから故だろう。


「ああ、俺も、お前に会えて、──────────最高に幸せだったよ」


 俺は、俺の〝友達〟の事を一生忘れない。


 一生忘れないという事はつまり、この瞬間に俺の〝生き様〟は決まったという話なのである。

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