第4話 カチワレ
「クルルルルゥ」
鎧の男、カインははこの世ならざるような声をあげてこちらに襲いかかってきた。
悪魔に取り憑かれたその姿のおぞましさ、醜悪さは目を覆いたくなるほどに恐ろしいが、だが、その悪魔を倒そうという気持ちが、今は俺の中から湧き上がっていた。
故に男の突撃を正面から受け止める。
グサリ。
男の突き出した剣を俺は体で受け止めるが、俺が感じた痛みとは頭の奥でヒバナが散る程度のものであり、今更この程度で痛がるような理由は無かった。
胸に突き刺さった剣を俺は右手で掴む、そうして力を込めると、剣は圧壊した。
潜在能力に目覚めた俺は当然の如く怪力を得ていたようだった。
体に重さをを感じないくらいに軽く感じ、そしてその力のままに男を殴り付けると、男は鎧を着ているにも関わらず大きく後方に吹き飛ばされる。
「カカキキクク、ククルルルゥ」
▼カイン(狂化) lv36 HP10/123
その一撃で男は瀕死になっており、俺を自らの手に負えない脅威と認識したのだろう、よろけながら、俺に背を向けて逃げ出そうとした。
「・・・なんだよ、俺の友達を殺した癖に、逃げんじゃねぇよ・・・」
俺は今俺が持っているありったけの魔力、そして悪意と敵意を込めて、逃げる男に向かって手を伸ばし、そして魔力を込めながらゆっくりと手を握り込む。
「ガガガギグルル」
そうすると男は見えない手に握られるように硬直し、メキメキと鋼鉄の鎧が潰れて、体が締め付けられるように圧縮されていく。
「死んでチンカラに詫びろ──────────死ね」
俺は感情のままに、憎悪のままに、ただ憎いというだけの気持ちだけで〝殺意〟を込めて、拳を握りしめた。
「キキィーーーーーーーーーーーーー!!!」
ボンッ。
最低の断末魔を上げて圧死し、男は肉片も残さずに消滅した。
「ハァハァ、・・・やったよ、チンカラ、俺、仇を取ったよ・・・」
その一撃で俺は持てる力の全てを使い果たしてしまったらしい、その場で倒れ込んで気絶した。
初めて復讐を遂げた俺が感じた達成感は、人生で感じた事が無いくらいの甘美であり、官能であり、友達を喪って空っぽの心を、これ以上なく満たしてくれたのであった。
故に俺は、この時から、どうしようもなく、復讐を肯定する人間に変わってしまったのだ。