第33話 約束
「タクト──────────
それにエリスとリリアも・・・、何故ここに来た、お前たちはこの街から〝追放〟した筈だろうが!!!」
ここにいる筈のない奴らがここにいた事に、俺は動揺していた。
シーリを離したのも、その動揺からの迷いゆえだ。
俺は昨日、気絶した後にタクト、エリス、リリアの三人と話し合い、お前たちとはもう仲間では無い、だから王に即位する記念すべき日に邪魔だから出ていけと街から追放したのだ。
それなのに何故、タクト達が、これから全てを闇に葬ろうという地獄にいるのか、その事に動揺していたのである。
俺の質問に、タクトは確固とした意思を持った瞳で答えた。
「それは──────────」
それは遡る事半日前の話。
タクト達が都市から追放されてくだる道中の話。
「この剣、どうみても〝秘宝〟よね、「いつまでも俺のプレゼントした剣使ってるのは気持ち悪いからこれをやる」とか意味不明な理屈でタクトに押し付けたけど、Sクラスの装備より頑丈で重いし、どう考えても秘宝よね」
「・・・一体何故、カチワレは私たちに秘宝を押し付けて街を追放したのでしょう、何か裏があるとしか思えませんが」
「知らないわよ、てかアイツ、意外とモテるのね、パーティー追放されてまだ1ヶ月くらいなのに、もう新しい女作ってるみたいだし」
「無能力者なのにエリスみたいな最低の事故物件から愛されてる時点でカチワレはモテモテですよ、それが能力者なったんだったら、むしろモテ無い方が不思議って話じゃないですか、そこに王子設定までついたらもう・・・」
「それもそうね・・・って、誰が事故物件よ!!!」
「冗談ですよ冗談、それで、カチワレはなんの考えがあって私たちを〝追放〟したんでしょう、ただの意趣返しなら、秘宝を渡す必要なんてありませんからね」
「カチワレ、僕は・・・」
「あーもう、あんたもいつまでウジウジしてんのよ、自分がした事をやり返されたからってダメージ受けてるワケ?、あんた女々しすぎんでしょ、カチワレがいなくなってからずっと覇気無いし」
「・・・ま、ある意味一番乙女で純粋な気持ちでカチワレを愛していたのがタクトですからね、ゆえに拒絶されて一番傷つくのもタクトという話になるのでしょう、今思えば、1億をふいにした訳だし、1000万は水に流してもよかったのかもしれませんね」
「いや、それとこれとは話が別でしょ、1億は棚からぼたもちの泡銭だったけど、あの時あいつが手をつけたのは長い間コツコツと貯めてたパーティーのホームを買う為のお金だったのよ、ホームがあれば、安宿暮らしも卒業出来るし、あんただって木のベッドはストレスだったでしょう」
「そうですね、そう考えればあの〝追放〟は〝教育〟として正当なもの以外の何者でも無いと思います、タクトなんて妹を籠絡されてた訳ですし、カチワレは謝りませんでしたからね」
「まぁ、嘘じゃなくて本当に皇子だったんだから、そこは今となっては気にしなくていいのかもしれないけど、てか、最初から自分が皇子だと明かしていればあたしだって・・・」
「所詮、私たちは付き合ってた元カレが石油王だと気づけなかった負け犬って事です、そう考えるとオフリアは凄いですね、最初から気づいていたんでしょうか」
「さぁ、子供だし、単純に自分の好きに素直になってただけとかじゃないかしら、はぁ、私も自分に素直になってれば」
「私たちが素直になっても、結ばれようとは思わなかったんじゃないですか、必然的に〝家〟を捨てる事になるし、そこまでの覚悟は持ってないでしょう」
「・・・そうね、〝今〟ならって思うけど、あいつが死んだと思うまで、そこまでの自覚は無かった訳だし」
「つまり、私たちは、カチワレとは結ばれる運命では無かったという訳です、それは環境とか、血筋とか、そういう運命的なしがらみですので、仕方の無い事なのです」
「・・・それでも、〝恋しい〟のよね」
「・・・ええ」
「カチワレ・・・僕は・・・」
と、そこで都市に向かう、すれ違った商人が足を止めた。
「──────────ん、君、今カチワレって言った・・・?」
「え・・・君は、まさか、────────────────シュウ・・・?」
「え、お前まさか、タクトか・・・?」
商人の男は、顔に巻いていたマスクを外して、素顔を晒した。
彼は見る人を惹き付ける、野性味があってみずみずしい美男子だった。
「久しぶりだな、タクト──────────すまなかった、俺はあの日、お前の家の秘宝を借りパクしちまった、俺をさらったギャングのボスに秘宝を借りてくれば自由にしてやると言われたからだ。
〝奴隷〟だった俺は〝自由〟という言葉に抗えなかった、〝秘宝〟の価値も分からなかった、全部言い訳だが、謝らせてくれ、あれから必死で働いて、戦ってボスを倒して、秘宝も取り戻した、それでお前ん家に行ったら、一家揃ってここに来てるっていうからここに来たんだ」
シュウの土下座を見たタクトは、その姿にかつてのカチワレの面影を重ねた。
タクトはずっと、自分は友に裏切られてきたと思っていた、しかしそれが間違いだと知れて、タクトは何よりも──────────嬉しかったのだ。
「──────────シュウ!!!!、ずっと君に、会いたかった、また会えて、本当に嬉しいっ!!!!」
「──────────タクト!!!!、ごめん、本当にごめん、俺のせいで、俺のせいで、お前は、大変な目に遭ったんだよな、俺はっ、なんて詫びたらいいかっ・・・!!!」
「いいんだ!!、謝らなくていいんだ!!むしろ僕の方こそ、君は僕は裏切ったんじゃないかって、君との友情を裏切っていた、君は真っ直ぐで、純粋で、他人を騙せるような人間じゃないって分かってたのに、心の中ではずっと疑ってた、だから僕の方こそ、ごめん!!、君のこと信じてあげられなくて、君との友情を疑って、ごめんっ!!!!」
「タクト!!!」
「シュウ!!!」
二人は熱い抱擁交わした。
ただそれだけの事だけで、二人の長年に及ぶ確執は全て氷解したのであった。
「なぁそれでさ、タクトはカチワレの事、知ってるのか?」
「シュウこそ、なんで君がカチワレの事を」
「ああそれは──────────、歩きながら話そうぜ、長くなるからさ」
「カチワレ、僕は今は奴隷だけど、いつか冒険者になって、そして〝秘宝〟を見つけて、貴族になるんだ!!」
「・・・じゃあその時は、俺がお前の仲間になってやる、無能力者だけど、雑用とか荷物持ちとか、サポートくらいは出来るだろうし」
「ああっ、約束だ──────────!!!」
「それは──────────」
「──────────────────────────────〝〝約束〟〟だからだ!!!」




