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第32話 もう遅い

「何故ですか、カーチ・ワーレ様、皇帝陛下は貴殿を皇太子と認め、跡を継ぐ事を望んでおられたのに!!」


「うるせぇ!!、俺を()()()()()したのはお前らだ、俺の〝憎悪〟は、世界をぶっ壊さなきゃ収まらねぇんだよ!!、いまさら戻ってこいと言ってももう遅いんだ!!!」


 俺は護衛の騎士をぶっ飛ばして、逃げようとする貴族を《握潰(デス・クラッシュ)》で殺害していく。


 俺の母親は〝帝国〟に殺された、友達だったアイツは〝野盗〟と〝貴族〟に、そして親友のチンカラは〝差別〟に殺された。

 故に俺が、俺をとりまく世界の全てを〝敵〟だと認識してもそれは仕方の無い事なのだ。

 圧政と支配の行き着く先が革命であるならば、人間に対する迫害と追放の行き着く先が秩序と権力に対する復讐になっても、それは当然の事なのだから。


「貴様、陛下を殺してただで済むとは思うなよっ・・・!!」


 国王の護衛だった騎士が俺の前に立ちはだかる。



 アアサア【騎士】lv50  HP1350 MP1500

 【直感A】【魔力放出A+】【騎乗B】


 ヨリトモ【守護】lv50 HP1192 MP1185

 【剣術A】【騎乗A】【体力A】


 ホウセン【大将軍】lv50 HP1600 MP1539

 【騎乗A】【怪力】【忠誠心D】


「流石王国最強の騎士たちか、全員が【帝王】トータックと互角の強さがある、だが──────────」


「──────────《斬裂(デス・スラッシュ)》!!」


 王国最強の騎士たちの首が、呆気なく宙に舞う。


「・・・お前、躊躇(ちゅうちょ)無く殺人に手を染めたな、罪悪感とか無かったのか」


 俺は騎士達の背後から【神の見えざる刃】を使ったオフリアにそう言った。


「〝進化〟の影響ですかね、人間もこの世界に寄生する害虫の一匹に見えてしまうというか、この〝復讐〟が〝世直し〟だって分かってるから、特に罪悪感とかは無いです」


 〝憎悪〟に染まっている俺ですら殺人には手が震えているというのに、そんな感想しか持たないオフリアは薄情過ぎると思ったが、ロリだからなのだろうか。


「・・・世直しっていうのも俺の勝手な理屈だし、それで殺人を正当化出来るもんでも無いと思うが、・・・ま、こんな世界なら、人類等しく地獄行きが平等って話だからな、どんどん地獄に送ろうぜ」


 例えどれだけ不条理で不平等な世界でも、この瞬間だけは全てが平等なのだ。


「──────────スラムのガキも貴族も、善人も悪人も、能力者(ギフテッド)無能力者(ノーギフテッド)も、この〝瞬間〟だけは〝平等〟なんだ。

 ──────────そうだ、世の中を支配し、格差を生むのも〝力〟だが、人を平等にするのも〝力〟なんだ、だから俺がこの世界を、真っ平らにしてやるんだ」


 俺は心が弱い人間だったので理屈が無ければ殺人を正当化出来なかったが、その言葉を口にして自分に言い聞かせた結果、恐ろしいくらいに軽快に殺人を行えるようになった。


 【見えざる手】によって、次々と人を握り潰していく。


「ん・・・あいつは・・・」

 

 俺は人々を押しのけて逃げ惑う一人の男を見つけた。


 そいつを【見えざる手】で捕まえて、眼前へと引きずり出す。


 ──────────そいつは、俺の住んでいた村の領主だった男だった。




「ひいいいい!!、やめてくれっ!!殺さないで!!殺さないで!!」


「お前は今までそうやって命乞いをする罪のないショタを何人も弄んで来たんだろうがッ!!!、自分だけ助けて貰えるとか甘いんだよッ!!!」


「何故それを!?、しかし、それは私の「全人類が穴兄妹になれば世界は平和になる」という正義だったからだ!!、父も祖父も、そうやって村を統治して来たんだ、だから村を統治する為に必要な事だったんだよ!!」


 俺は【見えざる手】で領主の男を掴む。


「・・・一つだけ質問する、お前、シュウという奴隷の子供を知っているか?」


「シュウ・・・?、いや知らない、年に何人抱いてると思ってるんだ、ガキの名前などいちいち──────────」


 ぐしゃり。


「お前が自分勝手な自分の正義を振りかざすならば、俺も俺の正義を振りかざすだけだ」


 この世界の貴族にはこいつみたいに腐った連中が沢山いる、だからもっともっと殺して、この世界を綺麗にする必要があるのだと、俺はさらに理論武装して、自分を正当化して殺人を続けるのであった。






「頼む、許してくれ、私はお前のパパだぞ、お前は自分の父親を殺すのか!!」


 俺は命乞いするシーリを【見えざる手】で掴みながら締め付ける。

 これが父と子の最後のやりとりだと思うと、色々と感慨も持っていたが、だが、こいつを許す理由が俺の中に一つも無かったのだ。


「・・・お前は母さんを追放し、母さんを見殺しにしただろう、そして生まれたばかりの俺を殺そうとした、だったら、俺に殺されても仕方ないよな」


「仕方ないだろ!!、お前は無能力者で私は皇太子だ、私が皇帝になる為には、お前の存在は邪魔だったんだよ!!、能力者にあらずんば人にあらず、お前が無能力者で生まれてきたのが悪いんだ!!!」


「・・・優生思想か、強いものが偉くて、弱い者はしぬべき──────────だったら、弱いお前は、ここで死ねって話だ」


 無能力者差別、多分、俺にとっての一番の地雷はそこだったのだろう。

 タクト達との確執も、パーティーを裏切って〝秘薬〟を買ったのも、死ぬ気で〝秘薬〟を飲んだのも、王国と帝国を滅ぼそうと思った情熱も、全部がそこに帰結する。


 〝弱い〟奴が生きてちゃいけない世界だっていうならば、〝進化〟した人類として、神様と同じ視点の生き物として、そんな身勝手な理屈で他者から搾取し、追放する連中を根こそぎぶっ殺してやるのが優生思想に(のっと)った俺の理屈だ。


「やめろ、や、やめ、あ、ああ・・・」


 俺はじわじわと真綿で締めるようにシーリを圧迫していく、その醜悪(しゅうあく)断末魔(だんまつま)は、俺の〝憎悪〟にとっては最高に甘美な音楽であり、殺す感触を味わうように堪能(たんのう)したかったからだ。


「──────────やめて、お父様を殺さないで!!」


 と、そこでシーリの娘らしい少女が俺に体当たりをかましてくる。

 こいつは俺の腹違いの妹に相当するらしいが、俺にとっては完全なる他人だった。


「・・・そうだな、いきなり父親を奪われるのは理不尽だしな、一度だけチャンスをやるよ、お前が俺を殺せたら、こいつの命を助けてやるよ、出来なかったら、・・・一緒に死ね、さぁ、俺を殺してみろ」


「なんで、なんでこんな事を、カーチ様はわたくしのお兄様なのですよね・・・」


「殺されかけて〝追放〟された、な、こいつが俺に殺されるのは、こいつがやった事を考えれば当然の結果なんだよ、死んで当然のクズが自分が生み出した怪物によって殺される、むしろ俺以外にこいつを殺すのに相応しい人間がいるのかって話だ、さあ、どうする、俺を殺すか、父親と一緒に死ぬか、選べ、お前にはその権利がある」


「そんな・・・わたくし・・・」


「逃・・・げ・・・ろ・・・、ハ・・・ナ・・・、こいつは・・・、普通じゃ、ない・・・」


「うぅっ・・・、でも、お父様ぁ・・・」


「ふん、・・・そんな三文芝居を見せられてもな、お前が人間を道具としか見てない最低のクズ野郎だって、俺は分かってんだよ!!!」


「ぐぅっ・・・、息、子よ・・・、すまなかった・・・、私の命で・・・、気が済むならば、殺せ・・・、だが、娘だけは・・・、見逃して、くれ・・・」


「──────────っ、クズのくせに、あさましいんだよっ、そうやって善人ぶって助かろうってか?、はっ、そんなんで許せるほど俺の〝憎悪〟は軽くねぇんだ、お前は、お前みたいなクズは、この世に生きてちゃいけないんだよ──────────っ!!!」


「お父様ぁ!!!!」


「頼・・・む・・・、私の・・・、唯一の・・・、宝物なんだ・・・」


 シーリと目が合う。


 その瞳は嘘をついていなかった、涙を流しながら、死の恐怖に怯え、それでも、最後の最後に娘の助命を、この男は願ったのだ。


「──────────なんで、なんで、その愛情を、俺と母さんには分けてくれなかったんだよおおおおおおおおおおおお!!!!!」


「お父様ああああああああああ──────────!!!!!」









 俺は、シーリを掴むのを離した。


 許した訳では無い。


 ただ、こいつを殺すには、こいつに味わわせる絶望がまだ足りてないと、そう思っただけだ。


 だから決して、俺はこいつを許そうと思った訳では無いのだ。


 それに──────────










「カチワレ・・・君を──────────止めに来た」






「タクト──────────」

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