第31話 布告
「国王様のおなああああああありいいいいいいいいいいいいい!!!!」
「皇帝陛下のおなあああああああああありいいいいいいいいいい!!!!」
けたたましいラッパと太鼓を鳴らして、式典の最高VIPである国王と皇帝が、同時に来場する。
ここの入場はどちらを遅らせても不敬となり国際問題となる故に、ならばと前日から宿で歓待した上で、買収した重臣たちにとりなしをして時刻を合わせて入場するように調整していたのであった。
2人はそれぞれ、最低限の騎士、護衛だけを引き連れて、主賓席のある壇上へと登って行った。
「・・・護衛、結構強いな、予想以上だ」
流石、王国最強の護衛だけあって、その強さは〝進化〟した俺に匹敵する強さをしていた。
二人が壇上まで到達するとそこで辺りが静まり返る。
犬猿の中である王国と帝国の君主が一堂に会する機会など、それだけ珍しい事であり、皆が緊張していたからだ。
俺は二人に一礼してから言葉を発した。
「・・・本日ははるばるお越しいただきありがとうございます、さて、本来ならばもっと歓待し、祭りを堪能なされてから即位の儀を行うところですが、お忙しいお二人の時間をこれ以上頂くのも不敬と存じ、ここで執り行わさせて頂きます。
──────────国王陛下、私をこの土地の王と認め、ここに中立国家ダンジョン合衆国の建国を認めて頂けるでしょうか」
「・・・一つ、聞かせてもらいたい、この二色に染まった世界で独立しようとは、一体君はこの世界に何を望む、金か?、地位か?名声か?、何を望んで君は、この世界に新しい〝色〟を作ろうというのか」
国王は初老の老人であり温厚そうな見た目をしていたが、その実腹の黒いタヌキようであり、穏やかな見た目とは裏腹に、その眼力には相手を平伏させる威厳が備わっていた。
俺はこれがこの国の国王なのだとその存在感に圧倒されつつも、観衆たちに聞こえる声で言い放った。
「──────────この世界には〝追放〟されるもの達が多過ぎます、肌の色、信じる神の違い、貧富、様々な要因によって、追放されるもの達がこの世には多くいるでしょう。
私は、ワーレ帝国の皇子でありながら、生まれつき魔力を持たなかったが故に追放された人間です。
──────────だからこそ、追放されたもの達の楽園を、この世界に築き上げようと、そう思ったのです」
「・・・なるほど、追放されたもの達の〝楽園〟か、ふっ、面白い。
──────────国王、キンダムは、貴殿の建国を認めるッッッッッッ!!!!」
おおおおおおおと、歓声と拍手が上がるが、俺はそれを手をかざして鎮めた。
続いて皇帝に確認する。
「──────────皇帝陛下、私をこの土地の王と認め、ここに中立国家ダンジョン合衆国の建国を認めて頂けるでしょうか」
「・・・・・・」
皇帝は値踏みするように俺を見つめた。
俺の父であるシーリ・ワーレがもう中老に達するにも関わらずに未だに皇太子である事からも分かるように、俺の祖父である皇帝は院政を敷かずに長期政権を続ける傑出した老皇帝だった。
俺は初めて対面した自身の肉親に僅かばかりの感慨を感じながら、老人の視線を受け止めていた。
「──────────シーリの子か」
皇帝がそう言うと、帝国側の来賓席がざわっとどよめいた。
俺は今更父親と和解する気もないので、返答をぼかした。
「・・・母は帝国の城務めだった者ですので、もしかしたら父が皇太子殿下である可能性も否定出来ませんが、ただ、私が私の血筋を証明出来る物は、これだけです」
そう言って、俺はケーツ・ワーレの持っていた指輪を見せる。
「これは、兄上の・・・、そうか、ならば君は・・・。
」
年齢からしても、ケーツ・ワーレと皇帝が兄弟なのは確定だろう、帝国から追放された兄の遺品を見て、皇帝は感慨に耽っていた。
そして皇帝は驚くべき事を口にする。
「──────────ならば君は、皇帝になる資格のあるものだ。
──────────これは、王家の皇太子だけが継承する神器、君がこれを持ったという事は、運命の女神は君を皇帝にする事を望んだという事だ、シーリが身につけているものはただのレプリカに過ぎない。
──────────君が望むのであれば、君には皇帝の位を授けよう」
そこで一人の男が立ち上がった。
ガタッ。
「父上!!、それではあまりにも!!、それでは私はなんの為に今日まで苦労を忍んで皇太子をしていたのですか!!!」
「黙れ馬鹿者!!!、貴様は自分が〝恩恵〟を授かった子供を一人得る為に一体何人の罪の無い赤子を殺したと思っておる!!!、しかも貴様の嫡子は女児、男系を維持出来ぬのであれば、貴様に皇帝の資格は無いッッッッッッ!!!!!!」
皇帝は老齢とは思えない迫力でシーリを一喝する。
だがシーリは、自分の人生を懸けた数十年に及ぶ苦労を考えれば簡単に引き下がれる話では無いのだろう、苦し紛れにも食い下がった。
「男系の嫡子ならそこにいる!!!、そいつは、その男は間違いなく俺の子だ!!、そうだろカーチ・ワーレ、俺がお前のパパだ、お前の母親はアーナだろう、お前の母親のアーナは俺の専属メイドで俺が孕ませたんだ!!、だから息子よ、親父に俺はパパの子供だと言ってくれ!!!」
そのあまりにも見苦しさに、俺は目を覆いたくなったが。
それが自分の父親だと思うとさらにいたたまれなくなったのであった。
俺は壇上からシーリの前に降りた。
シーリは無理矢理作った笑顔で俺を抱き締めようと近づいてくるが。
「・・・母さんが、どんな思いで帝国を〝追放〟されたのか、あんたは知ってるのか」
「──────────え」
シーリの顔面を渾身の力でぶん殴る。
シーリは空中までぶっとばされて、そのまま気絶して護衛の兵士によって外へと連れ出された。
「──────────これは母さんの分だ」
本当は一発じゃ足りないが、だが儀式の最中なので手短に済ませたかったのであった。
そして壇上に戻って再び皇帝と対面する。
「・・・すまないな、あやつもまた、取り憑かれておるのだ、権力という、〝力〟にな」
「・・・いつの世も、人の世とは〝力〟が正義になるものですから、それもまた道理となるものなのでしょう。
──────────では皇帝陛下、合衆国の建国を認め、そして私をワーレ帝国の正当なる後継者として、認めて頂けるでしょうか」
「──────────認める、ワーレ帝国皇帝、マータ・ワーレは、貴殿の建国と、皇太子の就任を認めるものとする」
「──────────有難うございます。
──────────では、ここに布告します」
そう言って俺は【見えざる手】を発動し、国王と皇帝を掴んだ。
「むうっ!?」「何を!?」
「──────────当国、ダンジョン合衆国は、王国、帝国、両国に向けて、宣戦布告します・・・!!」
俺は《握潰》を発動し、国王と皇帝を一瞬で握り潰した。
血液のジュースが来賓席まで飛び散るが、突然の事に皆が唖然としていた。
それと同時に会場の裏手にあるカジノが開かれ、そこから〝秘薬〟によって〝悪魔に憑依〟された冒険者達が、ゾンビのようになだれ込んで、来賓達に襲い掛かる。
会場は悲鳴の狂騒に包まれた。
これが、俺の〝計画〟だ。
ここに集まった人間達を全員殺せば、俺は両国からした借金約10兆を踏み倒し、そして両国の政治の中枢に甚大なダメージを与える事が出来る。
そうなれば当然両国の国政は乱れ、借金の踏み倒しにより多額の資産を失った両国は金融恐慌を起こし、多くの人間がリストラ、〝追放〟を受ける事になるだろう。
そうして追放されたもの達をこの合衆国で受け入れる事により、追放されたもの達の真の楽園が誕生するという訳である。
これが、俺たちを否定し、受け入れなかった人類全てに対する──────────俺たちの復讐だった。