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第25話 『理不尽の秘宝』

「・・・ここが、秘宝の部屋か・・・?」


 そこは地下室作りの、六畳間ほどの小さな一室だった。


「秘宝、この人が持っているのがそれ、なんですかね?」


 部屋の中央には一人の老人の遺体があった。

 そしてその遺体は一振りの剣を抱いて横たわっていた。

 おそらくこの剣が〝秘宝〟になるのだろう。


「多分、そうなんだろう・・・手帳がある、読んでみよう」


 遺体のすぐ側に手帳があったので、俺は興味本位でそれを手に取った。





 このダンジョンを踏破した者に、私からのささやかな賛辞を送る、おめでとう。

 なぜ、ダンジョンの最奥に人間がいるのかと不思議に思うかもしれないが、それは私が君たちより先にこのダンジョンをクリアし、秘宝を手に入れたものだからだ。

 私は昔、一人の魔物に恋をして、そして夫婦(めおと)となった、しかし王国と他の人間たちは私たちを王国から追放し、そして迫害した。

 そんな私たちが辿り着いたのがこのダンジョンだ、入り口を隠蔽し秘匿した事で、私が死没するまでの50年の間、私はここでつかの間の楽園を築いたのだ。

 私の人生は波乱に満ちたものだったが、最後にこの楽園に辿り着けただけでも救いのある人生だった。

 我が妻ルシアスは、同じ時間を生きていけない事を嘆いていたが、私にとっては、彼女が生きている事だけが望みだった。

 心残りがあれば、息子たちの事だろう、魔物と人間の狭間に生まれた彼らは、誰からも認められる事無く、このダンジョンで魔物に食われて命を落とした。

 彼らの彷徨える魂、怨念を死ぬまでに見つける事が出来なかった事が、私の唯一の心残りである。

 恐らく、ここまで来た君たちならば、既にネームドモンスターが落とす〝秘薬〟についても承知の事だろう。

 それはモンスターの持つ〝怨念〟を〝秘宝〟の力で結晶化したものであり、飲めばモンスターの力を手に入れられるというものだ。

 普通の人間が飲めば害は無いが、悪しき人間が飲めば心を狂わされるという代物であり手当り次第に飲むのはおすすめしない。

 そしてまれに〝魂〟が共鳴する事により、人間を上の次元の存在へと進化させる事もあるようだが、そのメカニズムについては、私もよく分からない。

 ただ、我が妻は人間への復讐を求めて薬を飲み過ぎた結果、心を失ってしまったし、私は〝進化〟に至れずに、ここで没する事になった訳だ。

 つまらない身の上話を聞いてくれて、感謝する。


 願わくば妻の亡骸を、私の側に置いてくれる事を何より望む。

 ささやかだが身代の財宝もある、これを褒美として我が願いの成就を求む。



                    ケーツ・ワーレ




「怨念を結晶化する秘宝・・・?、まれに憎悪が共鳴して進化する・・・?


 俺が覚醒してからずっと抱えている満たされない〝憎悪〟それは魔物由来の成分であり、あの時俺の〝憎悪〟と魔物の〝憎悪〟が共鳴する事によって、俺は〝進化〟した事になるのか・・・?。


 しかも、ワーレって・・・」


「ワーレ帝国の関係者、なんですかね・・・」


「じゃ無かったら、わざわざ名乗らないだろうしな・・・」


 俺は部屋の隅にある、ケーツ・ワーレの身代の財宝を確認すると、そこには確かにワーレ帝国の家紋が入っていたものが幾つかあった。


「・・・・・〝進化〟ってなんなんでしょうね?【魔眼】、【不死】、【怪力】、これらを持つ魔物って・・・」


「──────────ドラゴン、だろうな、竜の因子を持つ魔物からのドロップだったか、それとも()()()()の因子を持つ魔物からのドロップだったか、そのどちらかの力で俺たちは、〝進化〟したという話だ」


 その答えを知る方法は簡単だ、ルシアスからドロップした秘薬をユリエトに飲ませれば分かる事だからだ。

 そしてドラゴンは世界で唯一人間の上位に存在する高位の存在だ、進化の答えが竜人化でもおかしくない話だろう。

 【見えざる】のスキルも、ドラゴンは神格化される存在なので、神秘的な力を使えても当然だった。


「え、でも、ルシアスの因子って・・・?」


「魔物に食われた子供がいたと書いてあっただろ、人からも魔物からも拒絶されて、絶望の中で死んだ子供の怨念ならば、きっと食われた後も魔物の中に残り続けた筈だ、多分、兄妹(きょうだい)だったんじゃないか・・・」


「・・・そう言えば、薬を飲んだ時、助けて、お兄ちゃんって、声がしました、あれは精神世界の私じゃなくて、つまり・・・」


「・・・ああ、俺も、この世界への憎しみ、自分を拒絶した世界全てを壊したいっていう破壊衝動が、時々湧き上がる事があるんだ、だからきっと・・・、そういう事なんだと思う」


「・・・つまり私たちは、ルシアスの子供たちの因子を継承して、進化したという事になるんですか・・・、そりゃラスボスの力なんだから、強くて当然ですよね」


「得体の知れないチートだと思っていたが、だがその力には代償という名の怨念が宿っていた訳だ、多分、お前が適合したのは、お前が俺の役に立ちたいという気持ちと、妹の兄の役に立ちたいという気持ちが共鳴したからなんだろう、正気に戻ったルシアスが俺を庇ったのも・・・」


「カチワレ様の中に、死んだ息子の魂を感じたから、なら辻褄が合いますね・・・」


「ま、あくまで全部憶測だけどな、さて、〝秘宝〟は手に入れたんだ、後はこいつらを埋葬すれば、ダンジョンクリアだ」


 俺たちは秘宝の部屋にルシアスの遺体を運び込むと、掘り起こされないようにと入り口を瓦礫で埋めた後に神殿を破壊した。


 そしてワープを使って地上に帰還し、宿へと入ったのである。

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