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第24話 宝探し編3

 そこから更に2日かけて、46、47、48、49階層を攻略した。


 階層を重ねるごとに魔物は知性と凶暴性が上がり、そして『ネームド』の比率も上がっていったが、それでも無尽蔵チート技持ちの俺たちにとっては脅威と呼べるだけの危険は無かった。


 49階層のボス、カタストロフ・ベリアル・ドラゴンだけは、【斬撃無効】【物理無効】のイカレチートモンスターだったが、見えざる手で拘束し、そして【魔眼】で弱点を看破してMP3000超えの豊富な魔力を持つオフリアの魔法攻撃で【不死】を利用した持久戦を繰り広げる事でなんとか攻略した。


 一般的なパーティーならばやはり50〜100人くらいの大軍団でないと安定した攻略は難しいのだろうと、俺はそこでガイドブックにも乗ってないような知見を得たのであった。


「ようやく50階層に辿り着きましたね、秘宝、いったいどんなお宝なんでしょうか」


「ようやくというにはあまりにも早すぎる攻略だったけどな、まぁ冒険者じゃない俺たちが冒険しないのも当然という話ではあるか。

 ・・・一般的に秘宝はそのダンジョンの特性が反映されてるって言われてる、洗脳や催眠術を使う魔物が多いなら洗脳する秘宝、子分を連れているモンスターが多ければ支配する秘宝、飛行モンスターが多ければ空飛ぶ秘宝、とかな」


「じゃあこのダンジョンの特性とは、何になるのでしょうか?」


「・・・そうだな、強いてあげるならば、〝理不尽〟なのかもしれない。

 ・・・先ずダンジョンに潜った冒険者が稀に悪魔に取り憑かれて凶暴化するのが理不尽だし、30階層から毒マップになるのに、その無効化アイテムが40階層からしか手に入らないのも理不尽だ。

 そして今までは階層とレベルがほぼ比例してるのに、45階層から一気に敵が50レベルに跳ね上がってレベル上げする余裕を与えないのも理不尽過ぎる、迷宮化+毒マップというのも全員が【毒無効】か『ブルー・ムーン』を持ってないと攻略出来ない理不尽だしな。

 これだけの厄介ギミックを搭載しておきながら、大人数での攻略が不可欠で、それでいて秘宝は1つしかないのだから、それはこのダンジョンに秘宝を求めに来た人間にとっては、理不尽以外の何者でも無いだろう」



「・・・確かに、お兄ちゃんが普通に秘宝を手に入れようと冒険していたとしたら、それは一生かけても足りないくらいの理不尽な旅路だったかもしれませんね・・・、そう考えたら、ここでお兄ちゃんの〝夢〟を終わらせる事は、幸せな事なのかもしれません」


「・・・そうだな、〝夢〟は〝夢〟のままで終わるのが、きっと、誰にとっても幸せな事なんだ、叶わないと知りつつも、そこに手を伸ばす情熱こそが、何よりも眩しく輝いて見えるんだから」


「・・・いいえ、夢は、叶えてこそ、ですよ、叶わない夢なんて悲しいですから、ですから私は、お兄ちゃんが夢を叶えることも、カチワレ様と結ばれる事も、どちらも叶えたいと思います」


 叶わない夢はあるだろう、だが叶えられない夢は無いのだと、オフリアの言いたい事は俺にも理解出来た。


「・・・さて、それじゃあ行くか、俺は〝夢〟を終わらせる為に、君は〝夢〟を叶える為に」


 50階層は神殿のような場所だった。


 そこにいる魔物は全てがネームドモンスターであり、そして、個体として完全体としての強さを持っていた。


 俺の《握潰》とオフリアの《斬裂》を回避、無効化する相手もそこそこいて、戦闘も一筋縄でいかなくなったが、じっくりと攻略する事でなんとか進む。


 そしてその最奥にて一人の魔物と遭遇した。

 そいつは人の、若い女の姿をしていて、一瞬魔物ではなく人間と見間違える程に人に酷似(こくじ)していた。

 俺は女のステータスを確認する。


 ▼ルシアス(狂化) lv75 HP10056 MP8023

 【強靭】【神速】【魔眼】【毒無効】【ダンジョンの加護】【巨人力】【見えざる槍】【不死】【吸血】【人間特攻】


「・・・こいつ!、俺たちと同じ覚醒者か?」


 角と鱗を持っている事から、種族は竜人族だと思われる。

 覚醒薬がモンスタードロップ品である以上、共食いをした魔物が覚醒する事もあるだろう。

 特筆すべきはそのステータスだ、人間以外の種族は稀にレベル上限が解放されているものもいるし、人間よりも遥かに上位の種族である竜種であればlv100を超える個体もまれにいるが。

 だが竜人族にしろ、HPを10000を超えるのは異常な事でありそれは49階層のボスであるカタストロフ・ベリアル・ドラゴンlv80よりも上のステータスだった。


「・・・強いですね、勝てるでしょうか?」


「どうだろうな、正直厳しいと思う」


 俺のステータスが

 ▼カチワレ lv50【?????ノ王】HP2345MP2796

 スキル【魔眼】【毒無効】【ダンジョンの加護】【怪力】【王の手】【不死】【神聖耐性】【激運】【調教王の権能】


 オフリアが

 ▼オフリア lv50【剣鬼】HP2674 MP3377

 【魔眼】【毒無効】【ダンジョンの加護】【鬼馬力】【神の見えざる刃】【不死】【吸血】【悪魔特攻】


 である。

 二人合わせてもステータスは全く及んでいないが、だが、連携を使えば勝ち目は生まれるだろうか。


「とりあえず遠くから観察してみよう、俺たちの目的は秘宝だから、戦闘回避出来るなら、秘宝を持ち逃げすればいい訳だし・・・」


 そう思って俺は気配を殺しながらゆっくりと進んでいくが、だがバトルが強制フラグになっているとでも言うように、ルシアスの背後にあった扉に触れた瞬間に俺たちは不可視の雷によって攻撃される。


「・・・これが【見えざる槍】の効果か、ちっ、強制バトルなら仕方ないな、俺が拘束する、お前が攻撃しろ」


 いつも通り、簡潔な指示を送ってオフリアに【神の見えざる刃】、《斬裂(デス・スラッシュ)》を使わせる。


 だが【魔眼】持ちのルシアスにはその攻撃が見えているのか、首を狙ったその攻撃は簡単に回避された。


 【魔眼】は魔力を消費する行動なので俺も常時使用は控えたい所だったが、相手が〝見えざる〟の使い手ならばこちらも使わざるを得なかった。


 【見えざる槍】、不可視の雷の一撃が反撃としてオフリアに放たれるのを確認する。

 俺は見えざる手を使いそれを防いだ。


「俺がお前を守る、だからお前は攻撃に集中して【魔眼】の使用は控えて魔力を節約しろ、長期戦になるぞ!!」


 今まではステータスの暴力があったからこそ出し惜しみの必要のない戦闘ばかりだったが、格上相手ならば流石に長期戦を見据えて戦わなければ勝ち目はなかった。

 幸い、敵は〝狂化〟の影響か知性を失っているようであり、こちらの連携を崩すみたいな小細工は使ってこなかった。

 圧倒的に不利な戦局だったが、相手の知性の裏をかく事が出来るという一点に、こちらの勝機があった。


「滅龍の剣よ、逆巻く邪龍を断ち切れ、英雄の一撃をここに──────────《審判の大剣(バルムンク)》」


 ズドン。


 爆裂的な一撃がルシアスを襲った。


 竜特攻のある〝魔剣〟、〝聖剣〟に匹敵するような高位魔法をオフリアが使えた事には驚かされたが、まぁ紛争地域育ちの貴族だしこれくらいは出来て当然なのかもしれない。

 俺はルシアスのステータスを確認する。


 ▼ルシアス(狂化) lv75 HP8912/10056 MP7582/8023


 今の一撃はかなりクリティカルに食らったようであり、1割以上の体力を削っているが、しかしこんな大技がぽんぽんと当たるような相手でも無い。


 それに【不死】スキルも持っているので、MPを全損させるまでは肉体は再生してしまうし、先にMPを削るのが先決か。


 俺はいかにして相手に自分に的を絞らせ、攻撃を無駄打ちさせられるかを考えた。


「・・・やはり、接近するしかねぇな、俺が前衛になる、お前は俺の視界の中から俺を援護しろ!!」


 【魔眼】を節約しているオフリアに攻撃されては、こちらも防御と回避に専念する必要が出来てジリ貧になる、故に、俺が前に出て注意を引き付けつつ、オフリアに外から攻撃してもらうしか無かった。


「──────────ッ《繧ケ?繝》!!」


「くっ──────────《正拳(ストレート・フィスト)》」


 ルシアスが雷の槍で攻撃してくるのを俺は見えざる手の拳で相殺しようとするが、練り上げた魔力、火力で圧倒されているのかその反動で吹き飛ばされた。


 ズド、ズドドドドドドドドドドドドドド!!!。


 吹き飛ばされて無防備になった俺に、無双の雷槍による追撃が容赦なく襲いかかる。


「くっ、ガハッ・・・強ぇ・・・」


 この一連の攻撃で俺のHPは半分持ってかれて、手足は槍に縫いとめられて身動きが取れない。


 俺は見えざる手を使い槍を抜いて体を引き起こし、ポーションを飲んで回復するものの、この一度の判断ミスだけで、状況はかなり劣悪になっていた。


 オフリアは〝魔剣〟と《斬裂》を使って背後からルシアスを攻撃しているものの、【魔眼】を持つルシアスにとってそれは致命傷にはならなかった。


 そのままジリジリと追い詰められるように、俺たちはルシアスとの消耗戦を繰り広げていく。


「はぁはぁ、反則(チート)と戦うのってこういう気持ちなんだな、理不尽過ぎる、こっちが小細工や知略を駆使して少し出し抜いても、圧倒的なステータスの差の前には覆らない現実だけがのしかかる、・・・なんて絶望的なんだ、こんなのは、あまりにも理不尽過ぎるッ・・・!!」


「カチワレ様、もう魔力も持ちません、体力だって残りわずか、どうしましょう」


 こちらの余力は残り1割と言った所、ポーションも使い切ったし、残ってるのは覚醒薬くらいだが、覚醒済みの俺たちに効果が無いことは実証済みだった。


 それに対して


 ▼ルシアス(狂化) lv75 HP4096/10056 MP2036/8023


 ルシアスには半分近くの余力があった。


 削った体力の量ではこちらが圧倒的に多い事から、こちらに覚醒者がもう一人、ユリエトを覚醒させて連れて来ていたならば互角の勝負が出来たかもしれない、だから今回は圧倒的に準備不足だった。

 今回の反省、それは己の〝力〟を過信し、〝計画〟の為になんの準備もせずにラスボスに挑んだ事なのだろう。


 次に出直して来れば、今度は難無く突破出来るのかもしれない、だが。


「・・・ふぅ、勇退が無い以上、死なばもろとも、だな、ここで死ねるなら、俺の復讐はここで終わりでもいい」


 もう止まれないのだ、だから俺は、ここで引き返すという選択肢だけは選べなかった。


「オフリア、死にたくなかったら逃げろ、こっから先は、守ってやれない」


「愚問ですよ、未来の旦那様、私はここで死んでも、あなたと死ねるなら本望ですから、だから私が死んでも、カチワレ様を守りますから」


 この絶体絶命のピンチでも全く絶望を感じていないオフリアは、この世界でもかなり頭のおかしい側にいる奇人なのだと俺は思ったが、それが頼もしくもあった。


「じゃあ最後の一撃だ、敵の体力を削り切るならば、スーパークリティカルを出すしかねぇ、失敗したら死だ、覚悟はいいか」


「はい、必ず成功させます、必ず秘宝を手に入れて、私は私()()の夢を叶えてみせます」


「ああ、俺は、俺の夢を叶えて見せる、その為に、力を貸してくれ」


 俺はルシアスとの距離を詰めて接近する。


 やはり【見えざる槍】も手を使って操作するスキルであり、裏を返せば近距離ではまともに機能しないスキルという事がここまでの戦闘で分析出来た。

 しかし、こちらは敵に無駄打ちさせて消耗させる事を優先していたし、そして近距離では《斬裂》の効果範囲に巻き込まれる事を理由に、密着するような接近戦(インファイト)での戦闘はしていなかった。

 しかし、今は勝つか負けるかの二択の状況であり、博打でなければ勝ち目が無い、故に、敵の【見えざる槍】を封じ、一方的に攻撃を加えられる近距離(ショートレンジ)で博打に出るしか無いと言った次第だ。


 俺は【魔眼】を使いながら敵の攻撃を避けると、近距離に入った時点で魔眼を解除し、魔力を節約しながら一撃を入れる。


 一度攻撃のリズムを作ってからは畳み掛けるようにして、敵の反撃を躱しながら拳を連打する。


「加速しろインパルス、マッハ・バースト・ストリームッ!!!うららららららららららららららららら!!!」


 退路を捨てた不退転(ふたいてん)の覚悟が思考を洗練させたのだろう、「避ける」と「殴る」という二つの動作だけを交互に行う事により、俺の体はさらに加速していく。


「・・・!!?、残像が、カチワレ様の体が分身して、2人、3人、信じられません、まだ増えていきます!!!」


 その数分に及ぶ一連のラッシュは間違いなくルシアスを消耗させた、その毎分数百発に及ぶ流星の拳は一発一発が確実なダメージとなってルシアスに突き刺さった。


「はぁはぁ、今だ、俺ごと撃て!!!」


「そんな、それではカチワレ様が・・・!!」


「いいから撃て、勝機を零すな!!!」


「・・・っ!!、──────────《斬裂》!!!!」


 オフリアのありったけをかき集めて放たれた、最大の《斬裂》、それは空間ごと切り裂くような大質量で、カチワレに回避する余裕さえも与えない無慈悲さで放たれる。


 これを食らえば、ルシアスも、そしてカチワレも間違いなく死ぬだろう。

 しかし、カチワレは死なば諸共で戦っていた、故に、ここで死ぬ事すらもいとわなかったのだ。


 オフリアはカチワレに言われて撃ち込んだ瞬間に、この一撃は確実にカチワレを殺すと理解して、取り返しのつかない後悔をしたが止められなかった。


 ここにはポーションもなければヒーラーもいない、故に、死んだカチワレを30分以内に蘇生する事は適わず、死んだカチワレは生き返らないからだ。


 だが、カチワレは死ななかった。



「──────────え?」


「魔物が、カチワレ様を庇った・・・?、何故・・・」


「クルルルゥ、マ・・・ル・・・ス・・・」


 俺は残った僅かな魔力で【魔眼】を使った。

 消耗により頭痛がするが、朦朧とする視界でルシアスを確認するとそこには変化があった。


「はぁはぁ、ぐっ、──────────狂化が、切れた、のか?」


「狂化が切れたとしても、それで、なんでカチワレ様を助けたのでしょうか・・・?」


「・・・さぁな、でも、おかげで助かった、ハイになってて調子に乗ったが、あのままだとヤバかったし」


「・・・っ、本当ですよ、私、死んじゃうかと思って、うわあああああああああん」


「はぁはぁ、・・・取り敢えずこれで、ダンジョンクリアだな、さぁ、後は秘宝を見つけるだけだ」


 ルシアスもまた覚醒薬をドロップし俺はそれを拾う。

 なぜ魔物が人間を庇ったのか、後味の悪い疑念を抱えながら、俺たちはダンジョンの最後の部屋の扉を開けたのだった。

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