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第20話 オフリア

「カチワレ様ーーーーーー!!」


「おぶっ!?」


 ギャングのボスとして闇市の視察をしていた俺は、そこで1人の少女に背後から抱きつかれた。


「お久しぶりです、あなたのフィアンセのオフリアです!!」


「な・・・!?、君は、今の俺の姿を見てひとめで俺だと分かったのか!?」


 〝覚醒〟してからの俺は、白髪や筋肉の肥大化による体格の改善だけでなく、闇堕ちにより雰囲気全体が別人のようになっていて、ほぼ全ての人間から別人として見られている、それなのに姿だけで、顔だけで判別されたのは驚かずにはいられない。


「未来の旦那様の事を見間違う訳ないです、でも、随分と逞しくなられましたね、男子三日会わざればなんとやらと言いますが、殿方の成長とはまるで唐竹のよう、とっても素敵になられて、惚れ直してしまいました!!」


 俺に抱きついた少女、オフリア。


 彼女はタクトの妹であり、そして、半年前に実家に連れ戻されたタクトを連れ戻す時に、俺は設定を盛って他国の王子という設定をつくり、そしてそこでの流れで俺は彼女のフィアンセになっていた。

 この設定はタクトが秘宝を見つけて実家に帰った時に俺が戦死したと伝える事で自然消滅する予定だったが、パーティーを抜けた今となってはその設定の存在意義も無いだろう。

 故に俺はオフリアに真実を告げる事にした。


「・・・オフリア、実は俺が王子っていうのも、王位を継承する為に秘宝が必要っていうのも全部、嘘なんだ」


「知ってました!」


「・・・え?」


「だってワーレ帝国は能力者至上主義ですから、無能力者のカチワレ様が王位を継承する事など天地がひっくり返ってもあり得ません、だからカチワレ様は最初からお兄ちゃんを連れ出す為に嘘をついていたと、私もお父様たちも分かってました」


「そんな、じゃあなんで君は・・・、俺のフィアンセになろうとしたんだ」


「それは・・・、カチワレ様はお兄ちゃんがお認めになった人ですから、普通に考えたら〝家族〟と〝仲間〟どちらを取るかなんて明白なのに、お兄ちゃんはあの時、ずっとどちらを取るかを悩んでおられました、大好きなお兄ちゃんにとってそれだけ大切な人なら、私が惹かれるのも道理があるという話です」


「あいつはただ優柔不断なだけだろ、いつもいつも、肝心な事は全部人任せだ、その癖、厄介事だけはなんでも引き受けてくるし」


「そうですね、それがお兄ちゃんの魅力であり、玉に(きず)の部分です、ですからお父様もお母様も、そんなお兄ちゃんを支えられるのはカチワレ様のようなしたたかな人間でなければ出来ないって、私との婚姻も前向きでした」


 まるで俺とタクトが結婚するみたいな言い草だが、一つの集団としての貴族ならば、優秀な人材を囲い込む為に姻戚(いんせき)を結ぶのは普通の事だ。

 ただ、その相手が騎士ですらない平民というのは不自然ではあるが。


「・・・でも、俺は本当は、ただの平民なんだぞ」


「そこはお兄ちゃんと一緒に〝秘宝〟を見つけて叙爵(じょしゃく)されればよろしい話では無いですか、何も問題ありません、それよりカチワレ様、お兄ちゃんのパーティーを抜けたと聞きました、それはどういったお考えなのでしょうか?」


「抜けたも何も、追放されたんだ、俺がパーティーの金を使い込んだから、それで真の仲間じゃないって、まぁ元々俺がパーティーについていけなくなってたってのもあるんだが」


「そうでしたか、ならカチワレ様は今日から私とパーティーを組みませんか!、こう見えてもわたくし、剣術も魔法も結構出来るんですよ、それで私と一緒に秘宝を探しましょう!」


 オフリアは俺の手を握りながらそう言った。


 言われて俺はオフリアのステータスを確認する。


 ▼オフリア lv11 【剣士】HP55MP77

 【剣術C】【魔力B】【女神の加護】


 まぁガキにしては結構強めって感じだろうか。

 流石、努力しなくてもそこそこ強い貴族だけあって、基礎ステやスキルは平均以上はある、育てればいずれは一流冒険者になる器だ。

 もしかしたら覚醒前の俺より強いかもしれない。

 だが所詮は子供、冒険者としても、俺の計画のコマとしても、役に立つレベルでは無かった。


「・・・悪いな、俺はもう、冒険者は引退したんだ、だから君との婚約ごっこもおしまい、これからはただの他人として接してくれ」


 俺はそう言ってオフリアを突き放した。

 元々タクトをパーティーに引き留める為の嘘なのだから、パーティーを追放された今、オフリアと仲良くする理由は無かった。

 しかしオフリアは去る俺の腰に抱きついて、離してくれなかった。


「嫌です、離しません、私はあなた様の婚約者で、妻になる女です、誰に止められようと別れるなんて認めません!!」


「・・・俺と君は、ほんの数日話しただけの間柄で、俺が君に見せていた姿だって全部嘘なんだぞ、本当の俺は、醜くて浅ましくて自分勝手な、最低の人間だ、そんな俺の妻になりたいなんて、君は頭がおかしいとしか言えない、何が目的だ?」


「目的など、そばにいたい以外にありません、カチワレ様と出会ってからのお兄ちゃんは変わりました、自然体で魅力的に笑うようになったし、怒ったり皮肉を言ったり悲しんだり、人間らしい感情を見せるようになりました、カチワレ様がお兄ちゃんをそんな風に変えたんだって思ったら、私もカチワレ様に、お兄ちゃんのように変えられたいと、そう思ったんです」


 確かに世間知らずのぼんぼんだったタクトは、俺と出会った事によってこの世の腐った部分に触れ、人間性が(よど)んでいるのは確かだが、元々無感情という訳でも無かったと思うが、どういう変化に惹かれたのだろうか。


「・・・ガキのワガママだな、君は貴族なんだ、だから普通に笑ったり泣いたり、そんな人として当たり前の喜怒哀楽を持つなんて許される訳が無いだろ」


 俺は八つ当たり気味に怒気をはらんだ声で突き放した。


「何故ですか、なぜ私は普通にしていたらダメなのですか」


「・・・お前は知らないだろうが、平民は貴族に搾取されて生きているんだよ、表面上はペコペコと頭を下げて敬っているように見えても、本心では貴族を憎んで生きてんだよ、必死に働いて稼いだ収入の大半を税としてもってかれるにも関わらず、戦争や野盗に襲われても助けてもくれない、口減らしの為に奴隷として売りに出される子供だって大勢いるんだ、俺がこの街に来たのだって、税金の滞納でショタホモの領主に犯されるのが嫌だったから逃げて来たんだよ」


 ──────────この世には、理不尽な事、不条理な事が多過ぎる。

 そしてそのしわ寄せは全部、平民に寄せられるのがこの世界の在り方だった。

 だから俺は表面上タクト達と仲良くしていたが、その裏側ではずっと憎悪を抱いていたのだ、それが八つ当たりだとしても、恨まずにはいられないのだ。

 だから貴族はせめて〝人間〟ではなく、自分たちとは違う価値観、倫理感で生きている化け物として生きていて欲しいのが俺の本心だ。


「・・・・カチワレ様は、貴族がお嫌いなのですか?、だから私を嫌うのですか?」


「・・・ああ、大嫌いだ、特にお前みたいな、人生の苦労を何も知らないような小娘を見てると、地獄に突き落としてみたくなる、来いっ」


 俺はオフリアの手を引いて、この街の暗部、スラムに連れ込んだ。


「ここには暖かい服と食事も与えられる事無く、生まれてから一度も夢を見させて貰うこと無く、他人から虐げられて搾取されて生きてる子供がごまんといるんだ、これが()()()の現実なんだ、なぁ、教えてくれよ、これを見て、こんな残酷な世界を見ても、お前は笑ってられるのか、自分だけ幸せになりたいって、そう思うのか」


 タクトたちも、この街には〝闇〟があると知りつつも、それに触れようとしなかった。

 そもそもこの街がギャングのトータックが牛耳(ぎゅうじ)る治外法権である以上、一個人に出来る事なんて何も無いし、俺だって〝力〟を得るまでは、見過ごしてきたものだ。


 だがこんなのはあくまで社会の縮図に過ぎない。


 光があれば闇がある、ダンジョンとカジノという光が、この街の闇をより深くしているというだけの話なのだから。




「──────────お兄ちゃんには昔、平民の友達がいたと言ってました」


「え?」


 ぽつりと、オフリアは独白するように語る。


「お兄ちゃんにとってその友達は、初めての友達で、ずっと一緒に遊んでいられるくらい、とてもとても大切な友達だって、言ってました、でも」


「・・・・・」


 初耳の話だ。

 タクトは平民を表面上は対等に扱う人間だとは知っていたが、昔からそうだったとは知らなかった。


「その子はある日、我が家の持つ〝秘宝〟を盗んで、消えました、なんで盗んだのか、初めからそういう目的でお兄ちゃんに近づいたのか、それは分かりませんでしたが、その時からお兄ちゃんは〝秘宝〟に執着(しゅうちゃく)するようになり、秘宝を失った我が家は秘宝という武力を喪失した事で治安を維持する力を失い、領土は荒れ果てました、今でこそ平穏になりましたが、実はお兄ちゃんが冒険に来る少し前までは、ずっと紛争状態だったんです」


 知らなかった、俺はタクトを世間知らずでお人好しのぼんぼんだと思っていたが、そんな経験をしていたならば、人間不信になってもおかしくないくらいだ。


「その紛争で、我が家は多くの〝家族〟を失いました、地位も財産も、殆ど無くなってしまいました、その未来の無い現状に耐えかねてお兄ちゃんは、全てを背負って一人で、冒険に旅立って行ったんです」


 ・・・その〝物語〟は俺のタクトに対する見る目を大きく変えた。

 優柔不断でなんでも背負い込むお人好しというのは、タクト自身が傷を抱えていて、他人に対して大きな壁を作っているから、そして自罰的な試練を己に課しているから、だったのだろう。


 優柔不断でお人好しのタクトが俺を〝追放〟するという選択をした事は、裏を返せばタクトの俺に対する特別な親愛の現れとも言える。

 自分が傷つく前に他人を遠ざけるのも、人として当然の心理なのだから。


「・・・だから私は、お兄ちゃんが連れ戻された時に、今までと違う顔をするようになったのに気付いた時に、これが本当のお兄ちゃんなんだって、辛くて苦しい道でも一緒に歩いてくれる仲間がいるんだって、そう思ったんです。

 ・・・私は、カチワレ様と、お兄ちゃんと、3人でなら、どこまでだっていけるって、そう思ったんです、だからこの手は、絶対に離しません」


 俺はタクトの事を何の苦労もしらない貴族のお坊ちゃんだと思っていたが、その認識自体が浅はかだったのかもしれない。

 あいつも本当は、平民の俺に心を開こうとして、心を許そうとしていたのかもしれない。


 だからこそタクトは、俺の裏切りに心を痛め、追放するという選択肢をとったのかもしれない。


 でもそれは全部憶測だった。


 そして俺は、既に引き返せない道へと進んでいたのだ。


「・・・俺が行くのは、復讐の修羅の道だ、全てを〝闇〟に葬るだけの、誰も幸せにならない自己満足の修羅の道、だから君は・・・」


「それでも、この手は離しません!!」


「・・・何故だ」


「だって私は、カチワレ様に本気で惚れてますから、家族になりたいって思ってますから、ずっとお世話してあげたいって、そう思ってますから、今日までの半年間、ずっと一日千秋(いちじつせんしゅう)の想いでした、毎日毎日、カチワレ様の事だけを考えてました、だから、もし私を捨てたら、私は死にます・・・っ!」


 オフリアは真っ直ぐに俺を見つめる。

 その瞳には純粋で、偽りの無い覚悟が宿っていた。

 彼女が軽々しく〝死ぬ〟と言葉にしたのでは無いと、俺を納得させるだけの力があったのだ。


「・・・なら、俺の為に死んで見せろ、()()()()()だ、それが出来たら、お前も仲間に入れてやる」

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