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第15話 賭博追放伝

「勝負は一番オーソドックスなチップ10枚を10ラウンドで奪い合う10ラウンドマッチで行うYO、最低ベットは1枚、レイズも1枚、お互いレイズで最大3枚のベットになるYO、相手のチップを全部奪うか、10ラウンド終了時にチップを多く持ってた方が勝ちになるYO、何か質問は?」


「カードは使い回すのか?、それとも新品を使うのか?」


「Meはどっちでも構わないけど、イカサマを疑うのなら1ラウンド毎に新品を使ってもいいYO」


「・・・いや、ディーラーが配るんだったら整頓されてる新品の方が俺は怖いな・・・、カードのシャッフルも配布も、プレイヤー同士で行うのは?」


「うーん、それは時間がかかりそうだけど、OK!いいYO、じゃあ自分が親の時にカードをシャッフルして配る、これでいいかカナ?、カナ?」


「ああ、じゃあそれで勝負しようか、先行後攻はどうする?」


「好きな方を選んでいいYO」


「じゃあ俺は後攻で、始めてくれ」


「HAHA、カードをシャッフルするなんてキッズの頃以来だYO、Meにカードを配らせるなんて、YOUは将来大物になるかもね」


 そう言ってジジイは丁寧にカードをシャッフルして配った。

 その手つきは普通であり、イカサマ出来るほど洗練(せんれん)されているようには見えないが。


「・・・そう言えばあんたは何者なんだ、美少年を侍らせてるって事は貴族なのか?」


「Meはジャギー、君と同じ、ただの冒険者だYO、ただ若い頃にダンジョンで〝秘宝〟を手に入れてね、それでここまで成り上がって来たんだよ、叙爵(じょしゃく)はされて無いけどね」


 叙爵される為には〝秘宝〟を王国に献上する必要がある為に、〝秘宝〟の力を利用する為、自身で所持する者も少なくは無い。


「なるほど・・・、って事はここでギャンブルしてるのも、ダンジョンが最深部まで開拓されて秘宝探しが始まるのを待っているといった所か、なるほどね。

 俺はカチワレだ、まぁ、最近40階層に到達したばかりの、ほぼ駆け出し冒険者だよ」


「Hum…、若いネ、歳はいくつ?、Meは2枚チェンジするYO、YOUは?」


「俺は5枚チェンジだ、今年で17」


「へぇ若いネ!、その若さでもう40階層に行けるのはスーパーなtough guyだね、トキメイちゃうYO、僕はレイズするYO、YOUは?」


「コールだ、オープン」




 ジャギー ♠J ♠A ♠2 ♠K ♡2




 俺 ♣5 ♢3 ♡5 ♣6 ♢4




「WOW!、負けちゃったYO!!、運も強いなんてますます惚れちゃうネ!!」




「さて、次は俺の親番だな、ま、最初だしな、()()()があるかもしれないし許してくれ」


 そう言って俺はジャギーに確認してから、手渡されたカードを全部表向きにして枚数が合っているかを確認し、シャッフルした。


「疑り深いんだネ、YOUのそういう疑り深さ、モテないけど成功すると思うYO、Meがプロデュースしたいナ」


「遠慮するよ、俺は()()の冒険者で満足してるから、俺は5枚チェンジだ」


「5枚・・・?、何か狙いがあるのカナ?、カナ?」


「いや、単純に「悪いカードの後はいいカードが来るかもしれない」っていうオカルトさ、さっきは引きが良かったしな、その分の分母を回すっていうだけのガチャだよ、これで負けたら普通に勝負するさ」


「なるほど、やっぱりYOU、面白いネ、Meは3枚チェンジさせて貰うよ」


「・・・それじゃあ俺はレイズだ」


「Meもコールさせて貰うよ、オープン」



ジャギー ♠J ♡4 ♡5 ♣4 ♣5



俺  ♣8 ♡10 ♠7 ♡6 ♣3 



「Meの勝ちだね、これでイーブン、勝負は振り出しだYO」


「ああ、こっから俺も普通に勝負させてもらうぜ」


 俺はイカサマは〝ある〟と仮定して勝負に集中していたが、ジャギーとの勝負はお互い消極的な戦いとなり、いい手が入ったらレイズ、クズ手ならフォールドと言った具合に、完全に手札だけの戦いとなり、特に波乱もないままに、最終ラウンドまでもつれ込んだ。


「HUM……、チップはお互いに10枚、次の勝負で決着が着いちゃうネ」


 ここまで俺はいくつかのやり取りで会話からジャギーの真意を探ろうとしていたが、他愛のない会話だけで特に実のあるものは無かった。


「・・・そうだな、ちなみにお互いに役なしで引き分けの時はどうするんだ?」


「延長戦をやるのもいいけど、最終戦だしMeから提案があるYO」


「提案?」


「全部のトランプを裏向きに並べて、そこから1枚ずつ交互に引いていき、5枚揃った時点でオープン、お互い役なしならもう1回カードをシャッフルして引き直す、どうせ運だけで勝負が決まるなら、どっちの運が上かを己の〝ヒキ〟で決めるのも面白くないカナ?、カナ?」


「己の〝ヒキ〟で勝負か、いいぜやってやる」


 俺は丁寧にカードをシャッフルした後に、カードをテーブルに乱雑に広げた。


「それじゃあ俺はこのカードを貰う」


「HUM……、本当にそのカードでいいのかい?、中々のヒキをしてるけど、それだとMeには勝てないかもよ?」


「〝運〟で負けるなら仕方ないさ、ここまで俺の運は特に波乱もなく一進一退だからな、前回負けたなら、今度は勝つさ」


「豪胆だね、YOUは、でも、それじゃあMeには勝てないYO」


 ジャギーは迷う素振りを見せてから、1枚のカードを選び出した。


 そんな調子で俺たちは5枚のカード、自身の勝負手となるデッキを選抜していく。


「それじゃあ勝負にいくまえに、YOU、最終確認させてもらうYO、YOUが負けたら一晩、Meの奴隷になって貰うって事でいいカナ?、カナ?」


「・・・それなんだが、どうせなら掛け金をレイズしてもいいか?」


「レイズ?、何を賭けるんだい?」


「いや、どうせこの勝負に負けたらさ、俺は多分あんたの持ってる〝秘宝〟の力で一晩と言わずに一生奴隷になるんだろ、だったら、たった1億じゃあ命を賭けるには足りないと思ってさ」


「ワオ!、そこに気づくなんてYOUは天才(ジーニアス)だネ!!、でも勝負は勝負、今更条件を変えるなんてフェアじゃないYO」


「確かにな、でも、もし俺の()()()を受け入れてくれないなら、この勝負で仮に負けても、あんたの事をイカサマ師と言って勝負を有耶無耶にするかもな、だって実際あんたは──────────イカサマ師だろ?」


 俺がそう言うとジャギーはかけていたサングラスを外し、眼光のある瞳を露出させる。


「YOUも持っているよネ、それはお互い様だYO」


 スキル【魔眼】、【真眼】の上位スキルであり、その効能は俺も詳しくは知らないが、恐らくその力がジャギーの勝利の秘訣なのだろう。


 俺は自身も【魔眼】を使い、ジャギーのステータスを確認した。




 ▼ジャギー lv50 【調教師】HP931 MP801

 【魔眼】【調教師】【運動○】【音楽○】【収集】【人間(男)特攻】




 一見キテレツな好々爺(こうこうや)と言った見た目からからは想像出来ないくらい、ジャギーは歴戦の猛者(もさ)であり老獪(ろうかい)な怪物だった。

 レベル40になった今の俺のステータスには見劣りするものの、それでも年齢を考えれば十分だろう。

 それにジャギーが侍らせている奴隷たちも洗脳状態とは言え、ジャギーと見劣りしないステータスをしている、迂闊に手を出して容易に勝てる相手では無かった。

 


「Meと〝戦争〟するのは賢くないYO、でも一応聞いておこうカナ、YOUはこの勝負に、何をレイズするというんだい?」


「俺は命を賭けてる訳だしさ、それ以外に釣り合うものをあんたが差し出せる訳もないって話さ、お互い同じモノ(魔眼)を持ってるんだ、寧ろ若い俺の方が命の価値が高いんだし、だったら釣り合ってるって話だろう」


「いいYO、その代わりYOUが負けた時は、とんでもない目にあって貰うけど、覚悟は出来てるカナ?カナ?」


「大丈夫だ、あんたが負けた時はそれよりもっととんでもない目に遭ってもらうから」


「OK、なら、勝負は成立だYO、さぁ、カードを開きなさい・・・、引導を、渡してあげるYO!!」


 そう言ってジャギーはカードを開いていく。


「YOUは最初、♠のKを選んだヨネ、そこからMeは♠のAを選んだ、この時点でYOUはロイヤルストレートフラッシュを喪失し、そしてストレートフラッシュ同士の戦いでもMeに負ける運命だったんだYO、でもYOUはそこから♠2を取ってMeのストレートフラッシュを妨害し、Meはそこから♡のAをとってフォーカードを目指した、ストレートフラッシュを作れなくなった時点で、YOUが作れる最高役はフラッシュ、フォーカードでも十分勝てるからネ、きっとYOUは、♠のカードの事だけしか判別出来なかったんだネ、まだこの〝眼〟の使い方にもなれてないみたいだし」


「・・・そうだな、あんたの言う通りだ、俺は♠のカードにだけダメージを与え()()()()()()()()()()()()()()()()()()、あんたの言う通り俺の手役はフラッシュ、だが♠のカード以外には〝違い〟が無い以上、あんたがフォーカードを作れている保証なんて無い筈だ」


「残念だったネ、Meの眼は特別性でネ、人間なら使用済みか否を、カードなら耐久値だけじゃなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだYO!!、Meはこの展開を見越して、Aのカードに自分の体液を付着させておいたんだよYO」


「体液・・・?、うわっ汚ねぇ!!、いつの間にそんなばっちいのつけてんだよ!!」


 俺は慌ててハンカチで自分の手を拭くがそんなものは気休めなので、早くお手洗いに駆け込みたい所だった。


「心配しなくてもこれからYOUはMeの手垢と体液に塗れるんだYO、そしてこれが結果であり、MeとYOUの格の違いで、結果なんだYO!!!」


 そう言ってジャギーは勢いよくカードをオープンする。


 俺の手役、フラッシュ。



 ジャギーのカード。






 ──────────♠A ♠7 ♡A ♡5 ♡3!!!!。




「What!!?、どうなってるんだYO!?、イカサマ、こんなのイカサマだYO!!!」


「フラッシュとワンペアか、俺の勝ちだな──────────人を呪わば穴二つ、他人のA7A(アナ)を弄んだお前には、相応しい結末という事だろう」


 ──────────強いてジャギーの敗因を挙げるなら、AのフラッシュとKのフラッシュで戦ってれば、俺はジャギーに〝イカサマ〟があると気づかずにそのまま戦ってしまっていたかもしれなかった事だ。

 しかしジャギーは格の違いを見せつけるという〝欲〟をかいた、故に俺も堂々と〝見えざる手〟を使って〝イカサマ〟をしたという話である。

 強欲は身を滅ぼすという、ただそれだけの話だ。


「全然上手くない上に意味が分かんないYO!!」


「さて、ジャギー、金は当然貰うが、ついでにお前の命も貰っていくぞ・・・!!」


「YOU、やめるんだYO!!、話せば分かるYO」


 俺がジャギーに近づくとジャギーは護衛の美少年達を使って壁を作るが、俺はそれらを無視してジャギーのサングラスを見えざる手で破壊した。


「オーノー!!、Meのシークレット・トレジャーが!!」


 恐らく、それがジャギーの〝秘宝〟であり、美少年たちを奴隷化していた力の源だったのだろう、サングラスを破壊すると、美少年達は正気に返ったようだった。



「ハッ・・・、やっと正気に戻れた、このクソジジイ!!一晩だけって約束だったのに騙しやがって、しかもイカサマまでしてやがったのかよ!!」


「許せねぇ、袋にしてなぶり殺しだ!!、カモンカモン気持ち悪いんだよクソジジイ!!」


「ガッデム!!、MeとYOU達はパートナーとしてWIN-WINの関係だった筈だよ、恨むなんて門違いだYO」


 ジャギーは正気に戻った美少年達によって見るも無惨な形になるまでボコボコにされた、生きてはいるようだが、秘宝も失った今、再起する事は無いだろう。


 そこで一人の美少年が俺に話しかけてきた。


「僕達の洗脳を解いてくれてありがとうございました、貴方が助けてくれなければ、僕達は死ぬまで一生奴隷として、あの男に屈辱的な奉仕をさせられていた事でしょう、この恩は必ず返します、手始めにあの男が溜め込んでいる資産、全部で10億はあるでしょう、全て貴方が受け取ってください」


「・・・気持ちは嬉しいが、俺は別に金とかそこまで欲しい訳じゃないし、賭け金以上の報酬を貰うつもりは無いんだ、だからその金はお前たちが慰謝料として持っていけ、そして俺に感謝する気持ちがあるなら、ジャギーの被害者全てに分け与えてやって欲しい」


 自分で言っててとてつもない綺麗事を言っている自覚があるのだが、だがここで大金を手に入れて目立つのもマイナスになる、と言った具合なのだ。

 拾った金なら100億でも1000億でもネコババしたほうが〝得〟になる、だが受け取った金は、人の手についた金は、所持すれば災厄や波乱を呼び込む事になるだろう。

 だからジャギーの金は、受け取るに相応しい人達で分配する、これが正しい使い道だと思っただけだ。


 俺の言葉を受けて美少年たちは、まるで聖人を崇めるかのように手を合わせその場に(ひざま)ずいた。


 俺はそんな彼らを無視して、次の勝負へとしゃれこんだのであった。

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