第9話 甘辛デミソースのラタトゥイユ
「すぅ──────────《握潰》!!」
俺は見えざる手を使って36階層の凶悪モンスター、『キマイラドラゴン』を一撃粉砕する。
それにより俺は経験値を獲得し、レベルも35から36へとレベルアップした。
「わぁ、ぱちぱちぱちぱち、流石カチワレさんです、まさかこの階層の最強モンスターであるキマイラドラゴンすら一撃で倒すなんて・・・」
「・・・ああ、俺も驚いてるよ、こんなのは実力じゃない、ただのチートだ」
敵のHPと同じだけのMPと引替えに敵を倒す技《握潰》、これは倒すと同時に敵のMPを吸収する事で永久機関となる、ぶっ壊れチート技だった。
難点と言えば握り潰してしまう為に魔石などのドロップ品を得られない事だが、しかし経験値稼ぎの効率においては通常の倍以上の効率となり、そしてダンジョンはドロップ品だけでなく採掘資源も金になるので、わざわざドロップ品に拘る必要も無いという話だ。
手を握るだけで敵を倒せてしまう、それは今まで無力な無能力者だった俺からすれば、反則と思うような力だった。
「・・・これでキマイラドラゴンの巣は全滅、かな?、じゃあ今日はここまでにしよう、炊事するから待ってろ」
俺は寝床にする洞穴を見繕うと、そこでリュックに積められた食料を取り出し炊事を始めた。
ダンジョンに入る前に、ユリエトの金で装備一式から食料などの備品まで買い揃えてここまで来た為に、物資には大きな余裕があった。
既にダンジョンに潜り込んでから一週間経過しているが、食料は二週間分買い込んでいるので、今から帰還しても地上に帰還するまでは凌げる算段である。
俺は手際よく乾燥させた肉と野菜を、特性ソースを水で溶かして炒め、簡素ながらも香ばしい匂いを漂わせるラタトゥイユを作り、それに保存の効く乾パンを添えて配膳した。
これは前のパーティーで注文の多いクソ女どもから彩りのある食事を食わせろと言われ必死で勉強した俺が作りあげた至高のダンジョン飯メニューの一つだった。
「わぁ、とっても美味しそうです、頂きます!、はむ、・・・うーん、肉も野菜もパサついてるのに、それでも特性ソースを絡めて焼き上げる事で独特の食感を生み出し、甘辛いソースと野菜の甘み肉の旨みが調和する事でそれぞれの味がケンカする事なく纏まって、一口頬張るだけで満足感を得られるような究極の一皿に仕上がっています!!、今日のご飯も最高に美味しいです!!、おかわり!!」
「・・・食レポせずに食え、っていうかお前は働いてないんだから食う必要無いだろ」
と言いつつも、こんな満面の笑顔で俺の料理を褒めてもらう事は初めての経験であり、そして口では悪態つきつつも俺も満更でも無かったので、俺は自分の分の皿に新しい乾パンを乗せてユリエトに手渡した。
ユリエトも俺が自分の分の食事をおかわりとして差し出すと知りつつも、その図々しい要求をここ数日間繰り返していたのであった。
俺は乾パンを無言で食しながら、ユリエトが楽しそうに食事をする様を見て、かつての苦労を回想したのであった──────────。