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プロローグ

「どういう事だ、説明してくれ」


 好青年風の男がこの世の終わりみたいな顔で詰問する。

 俺はパーティのリーダーである彼、剣士タクトの質問に淡々として答えた。


「昨日、博打で全財産スった、だからパーティーのホームにする為の部屋は買えなくなった」


 俺はパーティーの雑事を押し付けられていた、それ故に財産の管理もしていた訳だが。


「買えなくなったって、嘘でしょ、そのお金を貯める為に私たちは1年間、ずっと節約して頑張ってきたのに」


 俺の言葉に魔術師の少女エリスはこの世の終わりのように青ざめた顔で俺に非難の声を上げる。


「さ、流石にいつもの冗談ですよね、いくらクズのカチワレだって、流石に博打で全財産するなんて・・・」


「事実だ、昨日友達に誘われてな、それで酔った勢いでカジノに行ったんだが、気づいたら全財産無くなっていた、正直、俺も夢だと思いたいんだが、どうやら現実みたいだ」


「──────────っ」


 俺の言葉に僧侶の少女、リリアはこの世の終わりのような嗚咽を漏らして、その場に崩れ落ちた。


 そんな俺たちを広場に往来する人々は奇異の目で眺めつつ、過ぎ去っていく。


 喧騒の中に居て、この場にだけ、静寂が流れていた。


 こうなってしまったのが俺の責任である以上、やはりこの静寂を打ち破るのは俺の責任なのだろう、俺は刺激しないように注意しながら言葉を紡いだ。


「俺も泣きたい気持ちだが、だが、泣いた所で失ったものは帰ってこないだろう、この街に来た時点で、財布をスられるのは日常茶飯事だった訳だし、だから全財産無くなった事は確かに不幸だけど、今度はもっと早く貯められる筈だし、今日からまた、頑張ろう」


「「「」」」


 俺がそう言うと、それが追い討ちとなったのか、ビキッと亀裂の入るような音がした。


 そして怒りを顕に、エリスが俺に詰め寄り吠えた。


「は、ふざけるなこのクズ野郎、今までだって散々人に節約しろ節約しろって言って窮屈な思いさせられたのに、そのお金が博打で無くなったとかおかしいでしょ、アンタ、自分がどんなお金に手を付けたのか分かってるの!!?」


「分かってる、無くなった分は俺の取り分から返済って事でいい、それに遊興費は節約したが、パーティーに必要な経費はちゃんと出てたんだから、それで窮屈な思いっていうのは少々贅沢志向なんじゃないか」


 パーティーの全員がお揃いの装備をオーダーメイドしようってなった時も、俺は金の無駄だからやるなら自分の金でやれと窘めたが、結局折れて経費から出したのだ。

 そしてパーティー全員が今や上級の武器を整えてる中で、俺一人だけが駆け出しの頃と変わらない格好をしているのである。

 俺が節約を訴えなければ、上級の武器を買うまでに質の悪い繋ぎを何本も買い換える必要があったのは確実だ。

 故に、俺の節約は正当性があり、それは納得の上の話だとは思うのだが、エリスには理解して貰えてなかったようだ。

 ヒステリックに俺の襟首を掴んでガチギレ状態で俺をクズ野郎と罵ってくる。


「・・・割がいいからって下水道で下水スライムなどの汚物モンスターを処理しながら、毎日毎日隙間風やいびきが漏れてくるボロ宿で、硬いパンと苦い卵を食べながら、爪に火を灯すようにして貯めたお金を、カチワレは博打に使う事に、何も思わなかったんですか・・・?」


 リリアはこの1年の苦労を思い出して感極まっているのだろう、嗚咽をもらしながら涙声でそう言った。


「昨日は酔っていたからな、正直言うと、俺も自分が博打で全財産賭けられる人間なんだって、その事実に自分で自分に驚いてる、何を思ったかと言えばそういう感想だ、別に金に綺麗も汚いも無いからな、無くなる時は一瞬なんだって、いい経験になったと思う」


 俺がそう言うとリリアは無言で俺を殴った。


 既にエリスからありえんくらいボコボコにされてる俺だったが、普段温厚で大人しいリリアがそこまでするのは予想外だった。


 そこでタクトが、恐ろしく冷めた声で俺に訊ねた。


「なぁカチワレ、君は一言の謝罪も無いんだが、先ず誠意を見せるなら、謝罪するのが先じゃないのかな?」


 タクトの声にエリスは「土下座しろ土下座」と更に便乗してくるが、俺はエリスにボコボコにされつつも飄々とした態度で返した。


「俺はこのパーティーでは謝罪はいらないモノだと記憶しているのだが、何故俺だけ誠意を見せる必要があるんだ?、エリスが道を間違えて谷底に落ちて拾いに行った時も、リリアが食いしん坊発揮して毒キノコを食って瀕死になった時も、お前が実家に連れ戻されそうになって俺がお前の両親を説得しに行った時も、俺は多大な迷惑を被っている訳だが、その時に謝罪してもらった記憶は無いが?、むしろ金なんてまた稼げばいいだけのモノなんだし、それくらいの事で誠意を見せる必要なんてあるのか?」


「それくらいの事、か、君にとっては、僕達の1年で積み上げた信用も、それくらいの事、でしかないって事かな」


「?、意味が分からない、俺は酒に酔ってて前後不覚だっし、金はまた稼げば済む話だろう、お前はまさか、金と信用がイコールになるとでも言いたいのか」


「・・・・・・」


「・・・っ、ふざっけんなクソ野郎!!」


 俺の言葉にタクトは俯き、そしてエリスは激昂して俺をぶっ飛ばした。


 そしてタクトは俺を見下ろしながら俺に告げる


「今までありがとう、でも僕はもう、君とはやっていけない、だって価値観が違い過ぎるから、僕は木のベッドで寝るのは苦痛だったし、混ぜ物の入ったパンを食べるのも苦痛だったんだ、でも、君がお金は命より重いって言うから、ずっと我慢してた、でも、それが違うっていうなら、それくらいの事で済む話だっていうなら、君を──────────このパーティーから追放する」


 まるで三人は示し合わせていたかのように同調する。

 俺はこのパーティーにいらない存在なんだと言葉にしなくても態度で示していた。

 確かに、戦闘要員では無く、アイテムの管理や依頼の受注をこなす雑用係の俺などは、三人にとっては本当の仲間にはならないのかもしれない。

 でも俺は悔しかった、一年間も苦楽を共にしたのに、ただ一度の過ち、「金」だけで捨てられた事が悔しかった。


 だから俺は、絶対奴らを見返してやるって決めたんだ。


 絶対アイツらよりも上位のパーティーに入って、俺の方が上なんだって見返してやる。

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