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魔術師がいる国  作者: ふしきの
ひとくいとむすめ
7/11

人食いと娘

「おい、人食い、今日は食べないのか」


 赤い服を着た娘はいつも山の奥に住むそいつのことを中傷しています。

 そいつが、町へ古い金を持ってわずかな買い物をしても、子どもらの先頭で、

「人食いは何を買ったのだ?」 

 とか、興味本意で聞いてくるのです。


 うすぎたない、見た感じから子どもでもだませそうなほどのうすのろを大人や商人たちは大袈裟に「良金だ、きちんと支払うよ」と手本を見せつけてくるほどになれた頃、町は戦禍になり、黒煙と消し炭と硝煙で、黒と白の灰色に変わったのです。

「人がごろごろ死に放題だぞ。人食いは人を食わないね」

 娘はまだいうのです。

「わしは人は食わん」

「生きた人なら食うのか」

「わしは……生きた人を食わない」

「たくさん死んでいるのに」

「死んでいても食わん」

 娘は崖の上で人の動いていない町を見下ろしていました。

「私は食う他なかった。土も葉もみんな干からびて、死肉は臭く、ほとんどはその病で死んだ」

 娘は赤い服を着ています。よくよく見れば、靴もなく、ざんばらの髪は毛の油で藁のように固まっているのです。


 そいつにはなにも見えてはいなかったのです。

「うすのろ」といわれるほど笑っていた人々はもういないのに、最初はいぶかしげな人もだんだんかわいそうな人だから優しくしてあげようとしてくれたことがわずらわしかったのに。そのわずらわしさなど、クマバチのように無視してしまえばもう、なんてこともなかった、ということを今になって知るのです。



「人食いは人を食わんという、だが、人は人をすぐに殺す。人だけじゃなくたくさんの回りもついでに殺す。飢餓より恐い」

 娘は面白くないという顔をしていってしまいました。


 

 灰色に汚れた大男はひとりぼっちで町の瓦礫を片付け始めました。動けるものを動かし使えるものを使い、昼夜問わず、光がある限り働き続けました。そしてたくさんの人の手が入って「うすのろ」がいたことを忘れられた頃、山に戻っていったのです。

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