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魔術師がいる国  作者: ふしきの
贄の娘(むすめご)
4/11

月と子

 わたしといとこは年も同じで、おじさんの家は中庭の向かいで、おじさんとお父さんはいつもパーコラでお茶を飲むほど仲が良かったのです。

 私たちは背丈もよく似ていて、後ろ髪だけだど誰だか使用人すらわからないほどでした。

 けれども、決定的に違ったのは、彼女はよく笑い、踊り、歌い、そして、とても美しい服が似合っていたということです。


『全くの古い、依り代踊りを場違いな場所でしていると思って、降りてはみたが、この様は、これで良かったのか?』

 と、大きな翼をもつ人が私に喋て来たのです。

 私とその方以外の周りは、業火の火でぐるりと回っています。

 やがて、黒いすすが、空気を追い求め、天井が崩落するでしょう。

 なのに、この方は、涼しげな顔で、私を見つめるのです。

「舞を途中でやめてしまいました、つづきを始めてもよろしいでしょうか」

『いや、それは要らんよ。私を呼ぶ笛の音ではないし、先ほども言ったように、古い依り代踊りに興味が出た程度だから。…で。お前はこの先どうするか』

 選べ。

 業火の煙にいぶされて死ぬるか、この恐ろし気な風体の人のいうことを素直に聞くか。

「私には決めかねています。神よ、私は懺悔します。私は贄を変わりました」ボロボロと涙が出て、呼吸もおぼつかなくなる薄い酸素の中で、喉の奥から血の味がしてきます。それでも言うしかありませんでした。「私は、この美しい着物を着たいがために、贄の代行を引き受けたのです。それは重い重罪ですか?」

『理由を説こう』

「わたくしは、貧しく、顔も白い塗と黒い墨で重厚に隠していますが、姿見同様、貧しい顔立ちです。心も同じように貧しく醜いのです。けれども、贄に変わった時に一変しました。今の今まで、私は、私は、とても楽しかったのです。読み書きはできませんが、歌も踊りも、弾きも笛も何もかも、はだしで踊り、心の中でだけ、笑い続けるほど幸せだったのです。ですから、私は贄に変わったあの子のことを消して恨みません。ですから身を十時に切り裂かれようとも構いません。どうか、慈悲なく私にのみ罰をおあたえください」

『三度も同じことを言わせるな、私はお前の神とやらでも何でもない、私は立ち寄ったに過ぎない。無意味に人を焼き殺すことも食うこともない。私が降りたのは一つのみ、お前に興味があったのだ。魅せて見ろ、その顔を、何が醜いというのだ、醜悪で良く燃える服を着ている者たちはすべて墨になっておる。この火は我が身や其方に向かうことは決してない、で、それからどうしたい』



 私と変わったあの子の行く末など気にはならなかった。少しだけは心残りであったのは澱だ。手にもたらされた火傷と同じようにこの身が死ぬまで持っていこう。

「御名をどう及びすればいいのでしょうか」

『…さあ、長いこと忘れたな、私は人にあまり呼ばれたことはない。お前はどうなのだ』

「そういえば、私は名は誰だっけ、月のように笑うのは、あの子、土のように泥を耕し水をまくのは私…だったか」泣きながら笑い、心に大きな風が吹き込んだのです。その風に私は乗って空高く舞いました。






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