かけつぎ承ります
顔立ちも要領もいいのに、金回りだけが絶えず、貧窮していた医師のたまごがいました。
大先生は彼になにかの見込みを見いだしたようで、ある日、手術助手として立ち会う許可を与えました。
その日の感情を唇を青くして彼は言いはなったのです。
「観たことのない背の曲がった年寄りが突然聖域に入ってきたかと思ったら、大教授を叱り飛ばした挙げ句、『針と糸をもう一つ用意しろ』と言ってきたんだ」
利き手になった相手は、医療のことが少しわかるのか「パイントで輸血しても患者に見込みは薄れているのに、今さら」
「だろ、なら、チューブ布袋かその物の切除に切り替えなかった教授の甘さが悪かろうものだ、だがばばあは眠っている患者の額に口づけをしてあっという間に出ていきやがったんだ」
「手は見えたのか」
「この俺、程度には見えやしなかった。見えたのは称賛の拍手と教授陣の後処理と、俺の脱力感だけだ」
「へぇ」
「ギザギザに切り裂かれた大動脈をまるで接着剤のように両手で縫い付け、しかもその患者は壊死すらせずに現役に戻った」と、ニュースの記事を指して酒をあおるばかりなのです。
「ま、俺らはまだ彼女らにしたら未熟なガキなんだろうな」と利き手がうなずくものだから「それはどう言うことだ」と、思わず相手の腕を掴んだのです。
相手の方がビックリして「ああ、そうか、きみは、留学生なのか、珍しいな、この国の成り立ちを知らずに留学する医学者だったとは」
「なにを言っているのだ、お前は」
それがこの国の、お話です。