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新魔法?

- 新魔法? -




リーリャカンス近郊での龍出現は普段起きない稀な事件。

1分もあればリーリャカンスを没落させるのは容易なことだろう。

それほどまでの脅威な存在が出現したのに都市の住民は知らぬまま蹂躙される。

それを防ぐためレンとセレナは急いで用事を済ませて帰宅していた。


「目的の現場とクレラ湖が近くて助かりましたね。まさかあんな近くにあるとは思いもよりませんでした」


「そうね、しかし速く戻らないと大変なことになってしまうわ。...ちなみにレイハさんがいる限りは滅ぶことは無いわ。あの方の「雷陣」を前にして立っていたものはいないもの」


「なるほど、あの人への信頼は凄いものですね」


「そうね、あの人は戦闘馬鹿で無愛想で考えなしで娘溺愛者だけど...七聖剣の序列3位の実力を持った最強の一角なのよ」


セレナの表情を見る限りは戦闘力としてのレイハートの評価はとても高いらしい。実際に刃を交えたレンでもわかる。プロレスラーと赤子の勝負みたいなものであり、戦う前から勝敗は決していた。




「ッハァァクシュン!!!」


「リーダー?風邪ですか?」


「冗談がきついよロドル。レイハに限って風邪なんか引くわけないよ」


「んー、噂されているの...ミツヤ今なんて言った?」


「なーんにも!ほら人数少ないんだしレイハも手伝って!」


まだ、幼いミツヤと呼ばれる子ども。

無垢な少年がレイハートとロドルと共にミリアドットのギルドで宴の準備をしていた。

主に料理を盛られた皿を陳列しているだけであり奥にいるアンスレッドが調理担当である。

そしてもう1人、あまり話さない寡黙なリューという人物がいるが席に座っている。


「私もお手伝いします。これ運びます」


「まだ寝てて良いんだぞアリア。何も手伝わなくて良いんだしさ」


「そんなわけには...私のせいでこうなってしまったのも同然。それなのに私が寝ているのも変な話。それに、レン君にはお礼とお祝いしてあげたいと考えておりましたので」


「.....分かったよ」


娘のまっすぐな目線に押し負け、レイハートは折れてしまった。

また折れたとも表現したが成長した姿に感服していたのも事実。

親離れしてしまったことを悟り、子離れすることを覚悟した。


しばらく時間が経つと奥の方から声が聞こえてきた。


「レイハさん!?レイハさん!?」


こちらに問いかけながら向かうのは別行動するために分かれたセレナにレン。

しかし、様子がおかしい。

手足の運びや呼吸法など細かい所作に動揺が見え、落ち着きがない。


「レン君!セレナも無事で何よりです!良かったです」


レンとセレナの無事を確認したアリアは感極まり、涙をこぼす。

レンの胸の中へと飛び込んでいたアリアは歳さながらの少女であった。


「アリアが無事なら良かったよ。宴なんだって?楽しみにしてたんだよ」


何事もなく、ごく自然に振る舞い、レンはセレナへとアイコンタクトを送る。

これはここに来る前から決めていた作戦である。





戦闘現場での事故処理も済ませ、クレラ草の採取に成功し、帰路についていたそのときである。


「何だって!?みんなには龍の存在を伝えないですって!?」


セレナがレンの失言とも取れる言い分に対して勢いあまり胸ぐらを掴んでしまう。

息は上がり、瞳孔が開いている。

いつもの優しそうなイメージとはかけ離れ、とても激昂しているのが見て取れる。


「みんなとは言っても流石にレイハートさんには伝えます。しかし、みんなに伝えるのはデメリットしかありません」


みんなに「龍の存在を伝えない」。

それは別にみんなのことを見殺しにするとか囮にするとかそう言った魂胆ではない可能性を考えていなかった。

早計な判断で感情任せに行動、その後は申し訳なくなり、唇を強く噛む。

レンの「龍の存在を伝えない」選択には別の狙いがあるということだ。


「...ごめんなさい、私の悪い癖だわ。続けてちょうだい」


「まず、大前提として「龍が出現した」と報告もといみんなに発表したとします。すると、みんなはどうしますか?」


「そうね、まずは身の安全の確保かしらね。龍と鉢合わせたら死を覚悟すると言われてるからね。鉢合わせないように逃げるしかないわね」


「どこにですか?」


「...っあ!なるほど、盲点だったわ。ここが危険だとしても外に出ても危険の可能性は変わらず.....どころか高まる一方ね」


「そうです。それだけでなくレイハートさんから離れることが自らを貶めているようなものなんですよ」


「たしかに、龍と対抗できるレイハさんがいなくなるのは死と直轄してるわ。それなら、リーリャカンス内にまとめて管理する方が防衛しやすい。見えてきたわ」


「そう、これはいかに「龍の存在を悟られず又、混乱を与えずに龍から防衛」する。これが大事なのです」




と、セレナはことの転末を隅から隅まで耳打ちしてレイハートに話す。

その様子を不審に思ったアリアは俺の腕を強く握り、覚悟を決めたような顔つきになる。

そして、先ほどまで涙で濡れていた瞳は闘志如く燃え上がり、真っ直ぐこちらを覗く。


「何か隠してないですか?」


「まさか、それに俺もセレナさんの耳打ちが聞こえないんだしお互い様だよ。「聞かれたくない分野」の人の中に俺も混じってるから俺に聞くのは間違ってる気がする」


客観的観測での判断ではセレナとレイハートの2人での内密な話である。

そこに他者は含まれず、アリアとレンもその他者に属する。

「聞かれたくない分野」とはその話を聞くとどちらか、または互いに損を被る可能性があると判断したからだ。

先ほどの他者といのが「聞かれたくない分野」の人である。


「そう...ですか。そういうならそうなのでしょうね」


怖い。とても、怖い。

これが俗に言う闇堕ち女子と呼ばれる部類なのだろうか。

深淵を覗こうとする視線は揺るぎなくこちらを捉え、負のオーラが津波のように襲いかかってきているかのようだ。


「まぁ、それはともかくさ!せっかくのご飯なんだしご飯を食べようよ!」


「ッヒャ///」


レンはアリアの肩を掴みテーブルの方へと誘導する。その背面では奥の方へと消えて行くレイハートとセレナとロドル。

恐らくロドルは頭の回転が速いという点から呼ばれているのだろう。

たしかに、頭のきれる彼の助力があれば百人力になるはずだ。


「お!すっごい美味しそう!」


レンは近くにあった半分に割れている平べったい食べ物に夢中になっていた。


「あ!はい!ここでの地元料理である「ヤキオコ」と呼ばれる食べ物です。近年は、主食がこの「オコ」と呼ばれる食べ物になっております」


断面を想像するに、芋に似た「オコ」と呼ばれる食べ物をすりおろしてそれを溶かし卵や具材を混ぜて焼いた食べ物だろう。

独自の木の実スパイスを用いており、ピリッと刺激的な辛み成分が鼻腔をくすぐり、食欲を掻き立てる。


「なになに?「ヤキオコ」食べたいの?これを食べるにはちょっとした作法があってね...」


横から急に現れたのは年端もいかない少年。

赤色の帽子が目につきやすく、とても目立つ。

金髪に碧眼がまたキャッチさをアピールし、柔和な顔が純真無垢な少年を引き立てる。


「作法?」


「そうそう、まずは...」


「こら!ミツヤ!まだいただきますしてないでしょ!それに一旦、自己紹介が済んでからって話はしていたはずです」


「ほら、また口うるさいアンスレッドがビービー言い始めたよーだ!」


「好きに言ってください、君の作法があるように食事の作法があるんです」


「...っち、いただきます!これでいいだろ?」


「あぁ。...っとすみませんね。見苦しいところを見せてしまって。私はアンスレッド・ストロイア。A級圧力魔法師です。ほとんど料理担当みたいな立ち位置だけど作ることが趣味だから好きなんです」


「そうなんですか、俺はレンと言います。魔法は使える見たいだけど何が使えるかは不明なんです」


「そうなのですか?聞いた話では魔導武器無しで無詠唱魔法を行使したと聞いていましたが...」


「あー、あれの原理は簡単ですよ。ただの魔素の塊を放出しているだけなんで。圧力魔法師と言いましたよね。圧力が基礎としてあるのでコツを掴むのが容易いと思いますよ」


顔を覗き込むようにこちらを見つめるミツヤ。

幼い童顔に黙って見つめられるとむず痒くなる。苦手というわけではないがあまり経験が無かったためにどう対処すべきか見当がつかない。


「なんで、僕には何も聞かないの?僕の名前はミツヤ・ガルア。暫定A級錬金魔法師。錬金を得意とするガルア一族の生き残りだよ」


さっきまでは作法がどうたらこうたらいってアンスレッドにいちゃもんを付けていたが今では自己紹介について質問しなかったことに怒っているらしい。やはり、幼い少年とはどう接するべきか分からない。


「後は、あの端に座っているのがリュー・バージリー。A級精霊魔法師。寡黙なヤツだが実力もあって頼りになる良いヤツだ。おっと、ちなみに女だから気を付けろよ。...ロドルとセレナは紹介を済ましたんだろ?」


端に目をやると緑色のショートカットの髪に碧眼で女性とも男性とも思える中性的な外見をしている。それは胸囲も例外ではなかった。

慎ましやかな胸は女性的な特徴を排除し、中性的な顔から男性にも見える。そこから気を付けよと注意を促してくれたのだろう。


「はい。ミツヤもお腹をすかしているみたいなんでご飯を食べませんか」


「そうだな、ではいただこうか!」


それから数分経ち、奥の方からレイハートとロドルとセレナが戻ってきて、宴に参加した。

何事もなかったように平然に過ごしてはいるが恐らくは作戦通りに籠城する予定だろう。

下手に混乱を招くよりかは守っているところに誘って対処する方が犠牲を少なくて済むからだ。


宴も終盤に入り、レイハートが何やら一冊の書物を手に持ちこちらに歩いてきた。アリアは深夜なのか疲れが出たのか知らないが眠たくなったために寝室へと入っているらしい。


「アリアから聞いていたろ?これが「受告天使の魔導書」。ありとあらゆる潜在能力を導き出してくれる。試しに使ってみようや」


「はい、ちなみに使い方はどうすれば?」


「簡単だよ。本を任意のページを開けるとそこに書いてあるんだよ。だからすることと言えば本を開けるのみ」


簡単な説明を終えると黒に近い茶色い分厚い書物である「受告天使の魔導書」を受け取る。

パッと見る限りでは分厚く、ページ数が軽く1000を凌駕する量を携えてはいるように見える。しかし、重量はまるっきり感じない。


すると突然、その魔導書が光り始めた。

レンは特に何もしてはいない。

ただその魔導書を受け取っただけである。

もしかしたらこれがこの魔導書のシステムなのかも知れない。

本を開けると書いてあると言っていたのでその前提条件である可能性がある。


一概に、稀な事故が起きていると考えるのは早計である...と周囲を見回たしてみると落ち着きのない表情でこちらを見る。


「速く捨てろ!」


レイハートの常軌を逸した声に呼応するかの如く条件反射で魔導書を投げ捨てる。が、しかし魔導書は落下することなく宙を漂い続け、勝手に開き始めたのだ。


「各自!防御姿勢!」


レイハートがミリアドット特務班の全員に命令を出すとすぐに実行に移し、魔素障壁濃度を上げる。そして、状況を一向に掴めていないレンは何か危ないものが出てくるのではと身構える。


「...あれ?」


迫り来る恐怖に目を閉じ、終焉の来訪を間近に感じた。だが、一向にも恐怖が襲いかかることもなく魔導書は「一番初めのページ」を開け、本来の機能である「潜在能力を書いていたページ」を目にする。


「か...い..ふく?」


レンの辿々しいほどに自信が無く、脆弱な声に

ミリアドット特務班の全員も冷やしていた肝が一気にあったまったようだ。


「かいふく...ってあの回復する魔法のことか?」


「けど回復魔法なら「キュア」とか「ヒール」が有名だし、それに付随した上位回復魔法とかも...それに...レイハさん気が付いてる?」


「あぁ気が付いてから悪寒がして堪らんよ。夢じゃないのか誰か引っ叩いてくれ」


「チェストォォォォォ!!」


それを聞いたセレナは腰の入った渾身のストレートをレイハートの鼻頭に直撃させる。

引っ叩くというオーダーに答えることは出来なかったが夢かどうかの確認は済んだだろう。


「あら、威力が強すぎたかしら?」


「馬鹿だ!俺の「エレクトロシグナル」は常時発動型じゃないから当たるものは当たるんだよ。ってかなんで精神系魔法師なのに体術優れてるんだよ」


「それゃね、いつ何時として襲われるかは分からないからね。人並みにはね」


「ゴリラ並だろ...」


「何か言ったかしら?」


「いや!何でもないです!...ってまぁそんなことより無詠唱の回復魔法で魔法ランクはSと来た」


「そうね。全部でまかせと言いたいほどにふざけてる強さだわ」


「凄さが分からないので説明してもらえますか?」


「まず初めにここに魔法名と詠唱文が記されるの。けど、あるのは魔法名の「回復」のみ。魔導武器も無しで無詠唱魔法を行使することはできない。それなのにここに詠唱文が無いのは無詠唱魔法ということ。それだけならまだ納得したんだけど」


「えぇ、問題は魔法ランクね。魔法ランクとは魔法の純度、規模、改変量を全て込みで演算され、算出されるわ。今回の魔法ランクはS。このランクは人智を超えたランク。けど、私たちが知っている回復魔法の「キュア」や「ヒール」、その上位互換の高純度でもせいぜいBランクが限界。純度以外は低い傾向にあるため回復魔法は魔法ランクが低いのよ」


「なるほど、だいたい納得できました。すなわち、例外な結果が出たということになるんですね」


「そう言うことだ。「回復魔法」ではなく「回復」。その意味は「もとのとおりになること」か。ますます分からないな」


しんと静まり返り、場の緊張感が心身に伝わる。そして、ロドルが提案を持ちかけるかのように手を挙げると、


「それなら、試しに使うのはどうだ?「もとのとおりになる」が本当にそのままの意味なら殺傷性は低いと考えれる。それに対象を人では無く物にすることで危険性をある程度は回避できると考えれる」


アイコンタクトを取るようにレイハートへと視線を送る。向けられたレイハートはしばし悩むと、


「何が起きるか分からない。もしもの場合を想定して全員は魔素障壁を完全障壁に展開。訓練所を使用しよう。レンは俺についてきてくれ」


「分かりました」



魔素障壁。

体内に誰しも持つエネルギー(循環魔素)を身体もとい体外に展開すること。個人差はあれど意図せず常駐して体外に展開しており、そこから追加して行う追加障壁。全魔素を展開させる完全障壁がある。これにより、身体への害を有することは魔素障壁がある程度、肩代わりしてくれる。しかし、魔素障壁が壊れる=循環魔素の枯渇を暗示しており、その時点で気絶する。しかし、呼吸をする上で魔素は取得できるため本質的な枯渇に至るケースは稀である。また、展開効率により影響を受けるため、悪い場合は全魔素ではなく5割しか完全障壁を展開できないケースもある。


「...よし!早速だがぶっつけ本番だ。そこにある壊れた置物に対して「回復」を使用してくれ!」


ギルド「ミリアドット」の建物とはまた別にある訓練所にやってきた。すぐ隣接しており、見る限りは建物内に草原が広がっている。

レンの目の前には壊れた「なにか」の置物が置かれており、レンの背後にはみんなが控えている。


「耐えれるのかしら?」


セレナの周囲には黒く、怨恨を具現化したかのようなオーラが漂っていた。

魔法ランクSが死と隣り合わせにあるということに脳が恐怖し、負のイメージが連想される。

セレナの「精神干渉」の改変量は本人の感性に大きく依存。それだけでなく意図せず暴発もあるため負のイメージの連想は大変、危険である。これは暴発する直前の魔素循環に負のイメージが混ざったからであり、爆薬と思った方が簡潔に済む。


「俺が何としても守ってやる...もし、心臓が止まっても俺の「エレクトロシグナル」で人工的に動かしてやるから」


それを理解しているレイハートは守るように告げ、安心するように宥める。また、最悪の事態が起きたとしても対処すると締結させることにより更なる心の平穏を取り戻すようにする。


「冗談言わないでよ!...でも本当にそうなったらよろしくね」


冗談とも取れる発言に自然と笑みが溢れて心が軽くなり、周囲に漂っていた黒いオーラも、消えていた。


「ここで一番怪しいのはセレナに...リューもかな?セレナは俺が守るとしてリューは精霊は降ろした方がいいのでは?」


口を開けることなく首を横に振る。

どうやら精霊を降臨させることはできないらしい。降臨条件や契約内容に反しているのか?

リューは口を開けたことが無いため、仲間であるレイハートたちでさえ知らない。


「...まぁ俺に次いでの循環魔素量だから魔素障壁が破られても最悪なケースにはならないだろう。他は各自、自己防衛で」


「「「了解!」」」


その発声と共に魔素障壁を完全展開させる。

それを確認したレイハートがレンに視線で合図を送る。

レンも頷き、了承の意図を伝えて、右の腕を目の前に伸ばして手のひらを広げると、


「回復」


そう告げた瞬間であった。

壊れた置物がいきなり形を取り、熊らしき生き物の置物へと変化?もとい入れ替わるようにそこに現れた。


他のみんなは怪我といった外傷は何事もなく、とりあえずは安心できる。その不可能であることが可能になり、呆気に取られる。


「とりあえずはみんな無事だよな?何も無いな?」


「私は大丈夫ですよ」


「僕も!」


「....」


「わ!私も大丈夫よ!」


「俺は大丈夫だ。しかし、本当に「もとのとおりになること」がその言葉のまんまとはな」


アンドレット、ミツヤ、リュー、セレナ、ロドルは順に安否を告げる。

しかし、答えた当の4人。聞いた本人でもあるレイハート含め5人は身内の心配をするより目の前の未知の体験にとても興味が湧いた。

よりにもよってただの回復と侮っていた能力だがつい先程の映像が目に焼き付き、フラッシュバックされるか如くリピートされる。

厳密には魔法ではなく、無詠唱での発動も可能。そして「もとのととりになること」がどこまでの純度、規模、改変量を潜ましているか。みんなの思っているななめ上へ行きそうだ。


熊がマスコット化された置物をレイハートはずっと見続け、引っかかる何かが胸の内から拭えない。


「にしても、この置物...見覚えが.....ってこれ俺がお土産で買ってきたクマノコじゃん!なんで壊れてたんだ?」


「どうせリーダーが酔っ払って壊したんでしょ?」


発言した方向へと向くと呆れるようにこちらを見つめるセレナの姿が。

しかし、セレナがレイハートを呼ぶときはレイハさん。けっしてリーダーとは呼ばないことは周囲のみんなの共通認識だ。

よって、何か訳ありなのだろう。


「...っていつもなら言うわよねミツヤ?今日は大人しいけど何かあったの?」


「僕は壊してないよ!」


「...ふーん。大人しい理由を聞いたのに「壊してない」か」


「あ!騙したな!セレ姉さんなんか嫌いだよ」


「っておいおい。まだ誤魔化せたろうに自白してどうする...それに」


「嫌い...私嫌われた?嘘...好きと思っていたのは私だけ。また私は1人なのね」


地雷を踏んだかの如くセレナは我を失い悲観し、恐怖混じりの笑みを浮かべる。

彼女はとても魅力的なのだが「独り身なのには訳がある」としても有名なのだ。

その一端がこれである。


「おいおい、セレナのいつもの「あれ」が起きないように慰めてやってくれアンスレッド」


「あ、「あれ」?」


レンはレイハートの発言内にある「あれ」に対して疑問を抱き、首を傾げる。


「人使いが荒いですね〜。まぁ良いですよ...大丈夫、私はあなたの味方。あなたを決して1人にはさせません」


「わぁぁぁぁぁ!どうせみんなに言ってるんでしょ?常套句みたいな反射的応答でしょ?聞き飽きたわよそんな安い台詞!」


「...い、言いたい放題だね。でも、本心からあなたの味方だと思っておりますよ。これからもずっと」


セレナの頭を撫でながら笑顔でそう告げるアンスレッド。


「...アンスレッドは誰にでもするからよく刺される」


「この前なんか3人の女性に囲まれてたからね。ほんと、それが無自覚なのが怖いよね」


ロドルが横から説明し、ミツヤが捕捉する。

アンスレッドの言動や周囲の説明によると生粋の女垂らしであることが理解できた。

しかも、無自覚であると言う罪状付きだ。

女性のオアシスでもあり、敵でもある彼は薔薇の棘に近いのだろう。


「そんなイメージが無いのに...なんかしらの彼の力なんですかね」


「ん?いやあれはアンスレッドの性格だよ。彼の魔法は「圧力」。手合わしたらわかるけどいやらしいよ?」


ニヤニヤとこちらを見ながら話すレイハート。

しかし、彼の口ぶりからして仲間同士で本気の戦いをしたかのようだ。

そして、あの怪物だと思っていたレイハートにここまで言わすのだから腕は相当な者なのだろう。


「「圧力」は食事前に聞きましたよ。それではなくて「真智」といった...ってここには無いんですか?」


「「真智」?聞いたことないな。お前らは聞いたことあるか?」


「俺はありませんよ」


「...え!?私もよ!」


「僕もだね」


「...「真智」か」


レイハートの質問に対して他2人及び平常に戻ったセレナ。並びに無言での応答をしたリューを含め知らなかったがアンスレッドだけ違う反応を見せた。


「なんだアンスレッド聞いたことあるのか?」


「え?あ!いやいやけっこう本を読んでいる私でも分からない知識があるとは思わなくて驚いただけですよ」


「そっか、そうだよな。まぁそんなことはどうでも良い。レンの「回復」は有能ってことが分かったってことでいいじゃねーかよ」


「そうですね。あれだけのことになると時間遡行をも行なっていますので改変量だけでもSランクは頷けるかと。そして、現物を見たことなくても再現させる純度も、ものすごく高いでしょう。規模は未知数ですね」


有能。

その一言で俺は嬉しい。

もう無能と罵られることが無い。

ただそれだけのことなのに肩の荷が降りたかの如く気持ちが軽い。


「回復...ねー。いや、どうなのかな」


「どしたんですか?」


「いやね。少し前に隣にあるシンセロリアフリード王国とその東にあるスーラマ・ニア諸国連合軍が戦争を起こした。現在は王国側が優勢なんだけど衛生兵不足が問題視され、ここリーリャカンスにも回復魔法の使い手の募集が来てた。俺らよりそこの方が専門的な知識を持ってる人がいると思うし聞いてみれば?...と思ったから」


「でも片方に肩入れしても良いんですか?そのスーラマ・ニアがこちらに攻め込む可能性だって出てくるとは思いますが」


「それはここが貿易地であるからどこの国もここを失うわけにはいかない。よってここは攻められることが無い中立の国なんだよ」


貿易は国と国とを繋ぐパイプライン。

もしも、そこの中継国であるリーリャカンスを落とそうものなら全他国から袋叩きにされる。

よって、誰も手が出せないのである。


「なるほど、それじゃ行けるなら行ってみようかな。自分の能力なら把握しないといけないし」


「それなら、許可証が必要になるから明日渡すよ。紹介状も添えておくし...もしもミーナの嬢ちゃんに会ったら宜しく言っといてくれ」


「ミーナの嬢ちゃん?」


「七聖剣の序列6位。「豪熖の戦姫」とも呼ばれる炎属性最強の使い手。ミーナ・シンセロリアフリード。シンセロリアフリード王国のお姫様だよ」

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