表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

ミリアドット

- ミリアドット -




アリアと行動してから1時間が経過した。

彼女の先導、そしてレンの安全路の確保。

そんな共同作業を繰り返していると上から雫がぽつぽつと皮膚を刺激し、服を濡らす。

どうやら急な夕立に遭遇したため、2人は雨宿りが出来そうな近くの洞窟へと入ったのだった。


「あの入り口の大きさなら魔獣が棲家にしてそうなものかと思ったが...もぬけの殻。違和感しかないが雨風を凌ごうとしたらここが最適だな」


周囲を散策して、魔獣が棲家として暮らしていた形跡も無く、濡らした人差し指からも風の感触は得られない。ここで休んでも風邪を引く心配が無いと確証を得られたところで腰を下ろす。


「にしても、アリアはどうしてこんなところまで来てたんだ?」


「私は「奉仕屋」と言った職?とは言いませんが俗に言う「なんでも屋」と言い、ギルドの「依頼として正式に認められなかった依頼」を引き受けてるんです。依頼内容も掃除だったり草刈りや料理、最近なら子どものお守りなど」


「なるほど、そのような仕事は野蛮な人には合わないしギルドとしても全て引き受けるわけにはいかないから断るのも道理だな」


「そこで、私が個人的に流れた依頼を回収して、引き受けているんです。それで今回の依頼は「クレラ草」と言った調合薬を保存するための草の採取でした。森林の奥深くにあるクレラ湖と言う湖の近辺でしか採取出来なかったので」


「...なるほど、そこでしか手に入らないからクレラ湖とまで向かっていたのか。けど、そのような依頼ならギルドも承諾するとは思うが」


「ギルドは承諾しましたよ。しかし、次の問題は引き受け手がいるかなんです」


「今回は依頼規模が小さすぎてではなくて「誰も引き受けてくれなかったから」保留されていたということか」


「はい。しかも薬に用いるものなので速めの方が良いかと思いましたので」


恐らく、医療関係に必要な物資が保存できなくると困る方が沢山出ると見越したアリアは善意でその依頼を受けたのだろう。


「分かった。だが、これから引き返して採取には行けない。まずは君の安全が最優先だ。あの時は上手くいったもののこちらの手の内がバレれば確実に俺は敗ける。そうでなくても実力的にはボロ負けだった」


「そうですかね?力量差が確かに開いていたのは認めますが心理戦においてあなたは秀でておりました。それを含めて実力と私は考えております」


「....慰めか?いいよ。俺はただ自分のできることをしなきゃ存命できない世界にいたので身についただけ。結局の所は空いた穴が塞がったわけでない」


「ふーん、まぁあなたがそう言うのであればそうなんでしょうね」


ぐゥゥゥゥ!


「.....」


洞窟内に響き渡る腹の虫。

出した本人は顔を真っ赤にして俯きながら上目遣いでこちらを睨む。

空腹を表情で誤魔化すことはできてもお腹の「空腹期収縮」は生理現象のためどうにもならない。

また、視界が良好でない暗さの洞窟なら視覚情報は誤魔化しが効くかもしれないが聴覚情報なんて持っての他。しかも、反響するため微細な音を拾う。

まさか、洞窟にこのような欠点があったとはと冷静ながら判断するレン。


「ち!!違います!私ではないですから!そんな憐れそうな目でこちらを見ないでください!」


「安心して。憐れな目で見てないから。俺もお腹空いてたし、俺の音かもしれない。正直言えばどっち鳴ったか分からないしね。取り敢えずもう鳴らないようにご飯食べよう」


「...うん」



俺は歩きながら捕らえた小型動物を取り出して、スクラマサクスを突き立てる。

吹き出す血に蔓延する臭い。そして、あまりにも原型からかけ離れた姿にアリアは嗚咽を催す。


「待ってください!食べるってそれを!?あ〜...その食欲ないかも」


「臭みがあるのは内臓のみ。それを抜き取れば豚とあまり変わらないよ」


「そーゆー問題じゃ....」


口頭で説明しながら小動物の内臓を取り出していくレン。

少し衛生面に欠けた調理法に多大なる紳士の欠落。

これに関して言えば文句の付け所がなく、アリアはドン引きしている。


「よし、血抜きでしばらく置くとして次は火起こしだな」


俺は木の板に木の棒を擦り付けて摩擦熱で発火させようと試みるが...なんの変化もない。

前世界の指南書にはこうすればつくと書いてあったのに。もしかするとその書物に不備があったのでは?と過去の世界に不満をぶつけようしたその時。


「火をつけるのですか?」


隣から気分が悪そうなアリアが声をかける。

気分が優れないのは心配になるがその原因が自分の振る舞いであることに気付いていないレン。


「...あぁ。そうなんたが火がつかない」


「私にお任せください」


「お任せって何するつもり...」


「滅ス、声ニ、呼応セヨ。火炎の息吹!」


アリアが口を窄めて木の板に吹きかけると突如、木の板が燃え出し始めた。

これは俗に言う詠唱魔法。

過去の世界では誰1人として扱ってはいなかった、補足すると扱う必要がなかった代物だ。

何故なら過去の世界では無詠唱魔法が基準として存在していたからだ。

だからといって詠唱魔法は馬鹿にはできない。

無詠唱魔法より安易に習得が可能であるからだ。


「すごい!詠唱魔法か」


「凄いも何も魔導武器無しで無詠唱魔法を扱えるレンの方がよっぽど凄いと思いますけど?」


「魔導武器?」


「はい...って初めて聞いたような顔をしますね。魔導武器とは「天使の遺産」とも呼ばれる武器で、それを用いて扱う魔法は絶大な点に加えて無詠唱で発動できます。今朝の襲ってきた彼の武器もそうです。詳しくは分かりませんが風属性の武器なのは確かです」


「そんなのが必要なのか。やろうと思えばアリアだって出来るはずだ」


「私が?そんなことはありませんよ!神からのご掲示された魔法しか扱えませんし例外はありません。私はおろか他の人も普通は無詠唱魔法が扱えないのです」


ここでの世界ではそんなルールがあるらしい。

神からの掲示された魔法しか扱えず、オリジナルの魔法は作れないらしい。


「私が扱うのは火属性。火炎魔法師と分類されます。ランクでいってもD級なのでギルドでも簡単な採取依頼しか行けません」


「そうなのか、俺は何かの魔法は使えるらしいんだが何の魔法が使えるか分からないんだよな」


「それなら、是非うちに来てください!「受告天使の魔導書」があるのでレン君の潜在魔法などが全て分かります」


潜在魔法とはまだ発現していなくとも未来に発現する可能性を秘めている魔法のことを言う。

過去の世界では親からの遺伝頼りでしか分からない上に確率も曖昧なので当てにはならなかった。

しかし、こちらでは教えてくれる魔導書があるらしい。本当に便利だ。


「そんなのがあるのか!こっちは便利な世の中だな」


「こっち?」


「あ!いや、なんでもない。っとそろそろ焼き上がる頃合いだな」


「.....これを本当に食べるのですか?」


アリアの前には無惨にも切られ焼かれた小動物であっただろう食べ物が。

善意で用意してくれたであろうレンには申し訳ないのだが嫌悪感が隠しきれずに表情に露出する。


「そんなに嫌か?視覚で脳が不味いと思えば不味くなるし美味しいと思えば美味しくなる。結論は目を隠して食べれば問題無し」


「冗談ではありませんよ!食欲がないので...」


グゥゥゥゥググルグゥゥゥゥ!!


「...ないので///」


激しく鳴く腹の虫に羞恥心が込み上がるアリア。偶然ながらタイミング的にはバッチリだ。やはり、どう抗おうともお腹は空いている事実は変わらない。


「.....もう!分かりました!目を隠して食べますからどうぞご自由に口に突っ込んでください!」


自暴自棄になり、やけになる。

そして、遅れて自分の発言がどういった発言をしているのかを理解する。


「あ!ちょっとまっ!」


アリアは突然、口を塞がれて動揺がまさり動けない。逸る鼓動を身体で感じ、呼吸を忘れて固唾を呑む。


「しー、落ち着いて」


レンのあまりにも落ち着いた所作に、動揺している自分が異端なのではと錯覚してしまう。

口を抑えていた手は徐々に上へと昇り、目を隠していく。


「意識を口に集中してごらん?」


アリアは言葉の通りに口に意識を傾ける。

視界を奪われた状態で次に何が来るか分からない恐怖。実際には何が来るかは分かっているが何も見えないと恐怖が倍増する。そのドキドキ感が一種の吊橋効果的余波をもたらす。


唇に何かが触れる。

と、同時にアリアは甘い声を漏らし、身体が小さく丸く跳ねる。


その何かがゆっくりとアリアの口を開けていく。恐らくはレンの指だろう。

こちらは今にも爆発しそうなほどに心臓はバクバクと跳ね上がり、動揺のあまり手足が一つも動かせない。


すると、何かが口の中に入り込む。

そこまで大きくないが程よい大きさの何か。


「咀嚼してみ」


アリアはドキドキ感に脳内が蹂躙され、レンの言う通りに口をゆっくりと閉じて歯を噛み締める。


「...しい..美味しいです!たしかに豚みたいです」


「そうだろ。意外といけるだろ?」


「はい!もっと!もっと私にくらはい!!」


目隠し状態で舌を出しながら鼻息荒く懇願する少女。ただ、食べ物を効率よく与えているだけだったはずなのに....


「ごめん、急に行けないことをしているような気がしてきた。もう普通に食べれる?」


「無理です!私はこの状態ではないと食べれません!遠慮なさらず私の口にどうぞ!」


たかが外れた犬如く鼻息を荒立て、頬を染めるアリア。そして、そんなアリアを覚醒させてしまったレン。


「もう!どうにでもなれ!!」


俺は容赦なくアリアの口の中に突っ込む。

そして、それをなんの迷いもなく咀嚼し、満悦な面持ちを浮かべる。


「あー!タンパク質を感じます!」


「さいですか。俺の分、全部胃の中に収めやがってこんな嬉しそうな顔されちゃ何も言えないよな」


俺は懐に隠していた予備食であった木の実を口に頬張り、雨風激しい洞窟の外を眺める。


そして、数時間後にこんなことになるとは夢にも思わなかった。


「クー?どこー?クー??」


俺よりか多く散策を続けていたアリアはすぐに就寝についたのは良いが、寝癖がとても悪い。

寝言はさほど問題ではなかったのだが1番は寝相の悪さだ。


アリアは異様に抱きついてくるのだ。


しかも、移動したとしてもその移動先にピンポイントにやってくる。

少女から香る甘い匂い、衣服越しでも分かる柔らかな肢体。

主張し始めの膨よかな感触を執拗に感じさせられ、懇切丁寧に語り手として後世に告げるほどには感想を述べれそうだ。


そんな姿を見て安心したのか俺はウトウトと薄れ行く意識の中、今後のことを考えていた。





「キャッ!」


判覚醒の目覚めは甘い少女の声だった。

ぼんやりと開ける視界にはアリアが恥じらいの姿でこちらを睨んでいた。


俺は状況整理するために周囲を確認する。

洞窟の外を見ると雨も上がり、満点の晴天がおはようの朝を告げる。

照りつく日差しが洞窟内に差し込み、不鮮明であった彼女の姿を覚醒した視界で正しく照らす。


「は?なんで脱いでんだ?」


そこには赤子同様、裸のアリアの姿があった。

しかし、何故か律儀にニーソだけは残し、傷跡も何もない、綺麗な姿がそこにあった。


「その...それなら返してください」


アリアは身体を手で隠しながら俺の胸のあたりに手を向ける。


俺は言われている意図を汲み取れないまま胸の方へと目をやると、


「あれ?なんで服...って違うぞ!アリア!これは俺がやったことじゃなくて!つまり..」


なんと、レンの胸辺りにはアリアの服がある。あるだけではなくレンが守るように必死に掴んでいたのだ。

やっと、ことの重大さに気付いたレンは慌てふためき寝起きの働かない思考に動揺も相まり、鈍感な思考力を発揮していた。


「...っと!とりあえずごめん。まずは服を着て!そこから正式に謝るから」


洞窟での目覚めは何とも言えない目覚め方であった。


この寝起き事件から30分は経った。

もちろんレンは誠心誠意、心を込めて謝罪をし、わざとではなかったとアリアも認めてこの事件は終止符を打った。

しかし、余震が少しづつではあるが彼らの溝を広げていく。


すぐに出発の準備を整えて、現在は帰路に着いてはいるが昨日みたいに会話のキャッチボールが少ない。


「そこの下泥濘んでるから危ないよ」


「..ありがとうございます」


...........


と、すぐに終了してしまうようになった。

やはり、洞窟内で起きた事件の尾が引いてるのは一目瞭然だ。


しばらくは沈黙が続き、悶々とした空間が広がる。

すると、アリアが覚悟を決めたように振り返り、レンと対面する。


「...私たちには古くから言われている言い伝えがありまして」


「なんだよ、急に」


「異性に寝床で裸を見られた女性はその異性と添い遂げる仲になる....と」


「へ?添い遂げる?へ?え!!!??」


「正式な寝床ではございませんがあそこで私が就寝した時点で寝床として定義されました。そして、私は裸を見られました」


「まてまて!それは本当だったとしても言い伝えの範疇だって!まさか...それで...」


染まる頬に潤む瞳。

可憐な少女の艶やかな姿にたじろぎ、正常な思考が働かず事件のフラッシュバックが脳裏を過ぎる。


「今、思い出しませんでしたか?」


「っな!そんなこと言われても.....」


「私は別にあなたはそんなに悪い人には見えないので別に宜しいかなとは思ってはおります。...別に」


「...って何言ってんだよ。自分を大切にしてくれ。俺がもし悪人だったらどうするつもりだ。偽り、接触して手駒にする予定だったらどうするんだ」


「それならもう昨日の晩のうちに私に手をかけていたはずです。しかし、あなたは私と距離を置き、ふしだらな関係には至らなかった。それが答えだと思いますが?」


「それも演技だと思わないのか?疑う精神を身につけろ」


「はい。手駒にするような人はわざわざこうして教えては下さりません。よって私はあなたを信頼に値する人物だと再定義いたします」


「まぁ、もっと成長するこった。いくつかは知らんが年齢的にどうだか」


「私は14歳です!もう大人の仲間入りを果たしております!」


「大人の仲間入りって...そゆことか。馬鹿かよ自分を大切にしな」


「っな!子ども扱いしましたか!?これでも!...」


その刹那、突風と共に鼻腔を刺激するほのかな薫り。朦朧となる意識の中で自分たちが何らかの攻撃を受けていることを把握する。

アリアは瞬で意識を失い、その場で倒れる。

俺も強い眠気に襲われ、落ちる瞼に脱力感。


...仕方ない。


ガリッ!


レンの口から滴る血液。

自らの唇を噛み、薄れる意識を半ば強制的に覚醒状態へと導く。




「あら、あの子。私の「微粉気流」を防いだわ」


数キロ先からレンとアリアを監視している3人はミリアドット特務班である。

リーダーであるレイハート。魔法をかけたセレナともう1人はロドルという男。


「作戦通り、俺が突っ込む。神ノ怒リ、我ガ脳、身体ヲ強化セヨ。「エレクトロシグナル」」


レイハートは詠唱魔法を唱えると身体に電気が走ったかのように少しの時間、痙攣させると、


「俺が時間を稼ぐからロドルはアリアの救出。セレナはバックアップを頼む」


「分かったわ」 「おう」


「それじゃ作戦開始だ」


そう告げるとその場から突如としていなくなる。地面が捲れて一直線に木が薙ぎ倒されていく。




「っくそ!魔法師はどこだ?こんな小細工しやがって」


レンは唇をかみしめてから数秒経ち、半端な意識を持て余していた時、鬼のような殺気を放つ気配を感じてその方向へと刃を向ける。

すると、甲高い音とともに勢いよく後方へと飛ばされてしまうレン。

何が起きたか理解できない。

見えない攻撃を喰らったのか?と初見では思ったが元いた位置を確認して納得してしまう。

ただ、己の眼が脆弱すぎて視認できていなかっただけであるということに。


「よー!うちの娘が世話になったな。しっかり返却させて貰うぞ」


そして、気配もとい漂うオーラから分かる。

工夫次第でどうこうなる相手ではない現実に。

意識朦朧となる寸前という足枷を背負っていなくとも結果は変わらない。

戦術でどうこうなる相手ではない。

相手は今、物理限界を突破している。


「仲間はいないのか?」


事前情報で、カリアを主犯とした4人グループが誘拐したという情報を入手。

しかし、目の前の人物が主犯であるカリアではないことは分かっているため主犯やその他の仲間がどこにいるか問いただす。


「何を言っているんです?俺は1人ですけど?」


誤魔化しているより質問の意図が読めないと疑問に思っている返し方に疑問を覚えるレイハート。

あらかじめ連絡が取れるようにセレナとレイハートは脳内テレパスを繋げていた。

これはセレナの魔法である精神干渉の応用だ。


[セレナどーゆーこった?主犯である風塵野郎とその取り巻きの3人がいたはずだろ?]


[えぇ、情報通りならそうなんだけど。その情報がデマ?それとも彼のハッタリ?とりあえずアリアちゃんの記憶を探ってみるわ]


「...まぁいい。仲間を吐くまで逃さねーだけだ」


ん?待てよ?思えば先程は萎縮していて逃していたがこの人は「うちの娘」と言ったはずだ。

なら、この人はアリア救出に来たと言うわけであって。それなら俺は昨日戦闘をしたカリアと勘違いされている可能性が高い。...なら危なくね?


「ちょっと!待って!落ち着いて話し合いましょう!」


「ほぅ!なんだ?仲間のことを話す気になったか!?」


「違います!俺は敵では無いです」


「そんなこと信じると思うのかよ」


レイハートは続けざまに正面から刀を振りかざす。もはや、聞く耳を持たない。


レンはやばいと身の危険を感じ、スクラマサクスで受け止めようとしたが何か違和感がした。

受け止めたらその場で人生が詰んでしまうほどの。


咄嗟にレンはステップバックして距離を保つ。

直接の干渉を避ける方が無難だと判断した。


「...へー詰みたくない逸材だなお前。まぁ話してくれるまでは遊んでもいいぞ」


遊ぶ?腑抜けたことを...

避ける判断をしたがそれは総合的判断からだ。

過去の世界では剣術のみで見るとトップクラスの実力を保持していた。

その俺が遊び?馬鹿にしやがって。

と、言いたいが先程の物理限界を無視した行動から察するに人間を辞めている。

さすがに人間を辞めている存在が相手だと話にならない。

結論。速攻逃げたい。


[待って!]


「なぁ!どうしたんだよセレナ!今いいとこなんだよ」


セレナの精神干渉の影響下にないレンにとって突然、声を荒げだしたのだから不思議も当然。


[その人、命の恩人よ!]


「はぁ?...おいそこのガキちょっと待っとけ。説明しろ」


[アリアちゃんの記憶を見た限りはその人がカリアからアリアちゃんを救い出して家まで護送してくれていたのよ。私たちは勘違いしていたのよ]


「.....はぁぁぁぁぁぁ!!!!?」






レイハートという救出班のリーダーにセレナという艶やかな女性。そして、アリアを担ぐロドルという男性。3名が合流し、真っ先にレンに向かって感謝、そして謝罪した。


「遅れながらの紹介申し訳ありません。私は七聖剣序列3位、金騎士のレイハート・ミリアドットです。このたびは娘の命を救っていただきありがとうございました。返礼はギルドにてお持て成しさせていただきます。勘違いだったとはいえ矛を向けたこと謝罪いたします。大変失礼いたしました」


レイハートは平謝りではあるが戦闘中のような

言葉の荒さは消え、誇り高き騎士であるかのように冷静かつ謙虚である。


「いいですよ、娘の一大事でしたので仕方ないですよ。それで無事に合流できたのなら問題はないですし。それより、今後について話しませんか?」


頭を上げてこちらを覗くレイハート。

感謝の意を持って目の前のレンに対して謙譲せずに平等に接する。


「...それはこちらとしてはありがたいが付き合って貰うことになるぞ?」


「それに関していえば俺にもあちらの方へと向かう理由があるので」


レイハートは「ん?」と疑問に溢れた表情を浮かべる。


「...あ!まぁ〜お姉さんはね、そういう子好きよ」


セレナがふと何かを思い出すかのようにニヤニヤしながらレンを見つめる。

レンはバツが悪そうに目を合わせないように違う方を見る。


「精神系の魔法はあなただったんですか?あれ意外と...」


「まぁまぁそんな固いこと言わずにさぁ。...レイハさん?私と彼で事後処理を行うわ。それと彼にはしなければならないことがあるらしいし」


セレナはチラチラと俺の方へと視線を向ける。

やはり、アリアの頭の中を見たと言うことはだいたいの俺のすべきことを理解してくれているはずだ。


レイハとはレイハートと親密になった者が呼ぶ愛称であり、巷でもそう呼ばれることが多くなったとか。最近なんかレイハ・ミリアドットだと思われていたらしい。


「...しなければならないことか。よし分かった。ロドルと俺はアリアを連れて先に帰る。もし、帰るのが無理そうならあれを飛ばしてくれ。俺の「雷陣」ですぐに駆けつけるから」


「レイハさん?あなたはここの森を消し炭にしたいの?それとも生態系を壊すつもりなの?」


セレナが呆れるようにレイハートを説得するが聞く耳を持たないかの如く鼻で笑う。


「そんな被害出るわけないだろ」


「いや、この前3割だけって言って地図を変えたこともう忘れたんですか?何が軽くなんですか?そもそもの媒介エネルギーが反則なんですよ。自重してください」


アリアを担ぐロドルは呆れるようにそう語りかけると、深く考え始めた。


「ちょっと待ちなさいよ!なんで私は軽くあしらわれてロドルさんの言うことは素直に聞くのよ!」


「いや、そんなつもりは無かったが俺が知っている中で一番頭がキレるのはロドルだからな。セレナだからではなくてロドルだからて言うことだから安心してくれ」


「...苦し紛れにしては一理あるわね。咄嗟に考えたにしてはいい方便だわ。どちらにせよ、「雷陣」の使用は控えて欲しいわ。私の仕事が増えるから」


「...やはりダメか。まぁなるべく速く駆けつけるから生きててくれよセレナ。それに...」


「レンです」


「そうか、レン。無事にいてくれよ...宴の準備はしておくから」


そこから二手に分かれアリアを無事に帰すレイハートとロドルの2人。そして、事後処理に向かうために戦闘現場へと足を運ぶセレナに案内役のレン。しかし、一度頭の中を覗けば必要な情報が入るから現場に行かなくてもと考えるかもしれない。しかし、それはレンが視た中での話であり、戦闘中ということもあり記憶が断片的で曖昧だ。なので、実際に現場へと立ち会う必要がある。

そしてレンには、


「にしても、驚いたわ。昨日の夜にあんな凌辱的な行為に及んで服を盗むなんてレンさんて実は「変態」なのね?」


「ちがっ!...いや知ってて言ってるのでしたらタチが悪すぎますよ!」


「フフ!ごめんなさいね。でもそれ以上に驚いていることは以前の記憶が無い?は違うわね。無いは語弊があるわ。記憶が別の記憶領域に存在して現記憶領域には過去の...いやこれも違う。不思議ねレンさんって。まるでこの世の人では無いみたい。何者かの力によって妨害されているようだわ」


「...へー。それはなんなのでしょうねー」


心当たりがありすぎる!

まず、妨害している何者かは間違いなくあの女神であるスイだろう。

俺をこの世へと誘った力を有していた。なら、記憶の改竄程度は容易にこなすだろう。


「まぁシラを切るならいいわ。鳥たちが騒いできてるわ。先を急ぎしょう」


案内役として同行しているレンは彼女の有能さに寒気がした。

けっして、豊満な胸に露出の極み出るシスターのような服装。明るくピンクのような紫色の長い髪を靡かせ、同色な綺麗な瞳を持つ、容姿端麗な女性...事実であるがそこではない。

問題点は鳥。いや、恐らくだが動物全般に精神魔法をかけることができる。

これが何を示唆するかはおいおい分かるだろう。


「そろそろ、効果力も範囲も薄れてきたわね。もう一回かけるから待っててくれるかしら?」


「はい、かまいません」


「ありがとう。魂ノ解放。魂ノ共有。ソノ閉ザサレシ錠ヲ破レ。「精神干渉」」


セレナは唱え終わると懐からキセルを取り出して一服する。すると、彼女の瞳の色が明るい碧眼へと変わったのだ。その神秘的な情景に心奪われ、瞬きを忘れる。


「これが私の魔導武器である「慈愛のキセル」私の精神魔法を底上げしてくれるの。ってそれより魔導武器の説明をした方がいいわね。アリアの説明に補足として言うと無詠唱で発動する絶大な魔法は私には無いの。前述したのが第二世代の魔導武器で今から話すのが第一世代の魔法強化する魔導武器なの」


「そんなのがあるんですね」


「えぇ。まずは...と、そこまで理解してるのね。分かったわ。それなら省くとこは省いてメリットとデメリットの説明をするわ。メリットはさっきも伝えた魔法の底上げ、そして詠唱は必要だけど魔素反応が継続的に行われるから持続性があるの。デメリットは詠唱が必要、底上げがあるとはいえ第二に比べると威力の乏しさがあるの」


「なるほどなるほど」


「...とまぁ脱線はしたけど、私の魔法を上書きさせたわ。これで多少の索敵範囲が広がるから最悪なパターンは避けられるわ」


最悪なパターンとはこの辺りに潜んでいるかもしれないカリアに出くわすことだ。逃げたと見せかけてその場でやり過ごしている可能性も捨てずらい。


とその時だ。

重く、轟音鳴り響く鳴き声が脳を刺激する。

その声音は正体が分からずとも恐怖に怯え、足がすくみ、絶望させる。


「...鳥が騒いでる理由が分かりました。嫌な予感はこれだったのですね」


[心の声にお邪魔するわ。聞かれたらやばいからね。これは予想外を遥かに超えているわ。とりあえず「木」になりきりなさい。決して気配を絶ってはいけないわ]


[「木」になりきる?そんなのどうしたら?]


[じれったいわね、もういいわ。マインドコントロールさせて貰うわ]


その、直後である。

俺は無意識に直立不動と化していた。

その行動に疑問は抱かずまたその行動に対して逆らってはいけないと思った。

「人を殴ってはいけない」と行動概念は同じ。

殴ろうと思えば殴れるが殴ることは決して良くない、倫理的な欠如である。

今の「直立不動」は「人を殴ってはいけない」と同じ倫理観を与えたらしい。


疾風、爆風あれ吹雪き、蛇のような丸く長い胴体。体全体を黒光りする鱗で覆われ、鋭い眼光、大きな口に鋭利な歯を持つ生物が現れた。

外見判断では不明だが正面きって争えれる相手では無いのは確かだ。


[絶対に動いちゃダメよ。今はあなた自身に存在意義を「木」と思い込ましてるから「ヤツ」にバレてないの。「ヤツ」らは目が悪いから多少は誤魔化せるはず]


[「ヤツ」とはなんなのですか?]


[ヤツとは「龍」。古代種の生き残りで弱肉強食の最長角に君臨する生き物よ]


[龍?これがそうなのか、初めて見た。ほんと恐怖そのものって感じがする]


[感心してる場合じゃ無いわ。っと、移動するみたいね]


龍と呼ばれる生き物は謎の青く光る魔法陣を描く。

元来、過去の世界では無詠唱魔法とは詠唱魔法の言霊を文字や図形配列に起こし、魔法陣として実行している。この世界では魔導武器が魔法陣としての役割を果たしているため無詠唱魔法が成り立っている。と思っていた。

しかし、目の前の龍は過去の世界のように無詠唱魔法をごく普通の方法で実行している。

これでは前の仮説が否定されることを自らが証明しているようなもの。

感慨に耽り、瞬きをしたその瞬間であった。


その場から龍は消えていなくなっていった。


「...速く要件は済ませて帰りましょう。こんな近くに龍が出たなんて一大事だわ。


「分かりました」


レンとセレナは互いに意図せず恐怖していた。

その恐怖とは未知かつ、絶大。



同時刻の森の中、レンとの距離は10kmは離れているだろうか。そこで黒のロングコートにフードを被り、顔が定かでは無い。そんな謎の人が空を見上げながら口を開く。


「アルファの覚醒はまだか。それを得なければこちらとしては争う意味がない。しかし...様子を見てもいいのかもしれないな」


そう呟いているフードの人の手にある分厚い本がペラペラと自動でめくれてあるページで止まる。すると、瞬く間に光だし、


「裏刻」


龍が消えた時と同じ魔法陣が形成されると、突如として龍が現れた。


「まぁ本実験は成功だな。それにしても七聖剣の序列3位との出会いは幸をもたらすから不幸をもたらすか...観察が必要だな」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ