12-2.彼という太陽は、どんなものを通しても、眩しくてまともに見られなかった。
この部分は5000文字を目安として書いています。
(通常5500文字)
始まった午前の授業は何事もなく進んだ。
井原さんの席は誰もいないままで、それを見て不安になったのは今日も一緒だった。
昼休み―――――。
弁当を食べ終わり、笠岡くんの席周辺を確認してから向かったのは、二組の教室だった。
朝の出来事について美夏さんに訊いてみたところ、「ドキュメンタリーの企画についての説明」との事だった。
詳細は言わないように頼まれたそうだが、明日からしばらくの間、瀬戸さんたち四つ子に密着取材をしようという。
この関係で学園内にもカメラマンの方が付いてくるため、私も映るかもしれない、という内容の話をしていた彼女の顔は、どこか嬉しそうだった。
他にも授業について雑談をして、午後の授業が始まる前には一組の自分の席に戻っていた。
その午後の授業が終わってからも、井原さんは教室に姿を見せなかった。
回されていたプリントも、彼女の分だけは机の上に置かれたままだ。
教室を出る前、笠岡くんと二人で、一度その席を心配そうに見つめていた。
少しの時間が経った所で、彼の方から「寄り道をしないか?」と誘われた。
教室を出て、どこに立ち寄るかを話し合っていた所で、玉野さんと合流した。
彼女には六島さんについて確認してみたが、「別の人の方に向かうので一人にさせてほしい」との話だった。
大方察せてしまうのだが、下手に話に付き合うと作戦の存在をほのめかす形にもなってしまいかねないので、なるべく控えめに反応した。
察せてしまうとは言っても、その先が間違いだったら、間違いなく信頼関係にも悪影響が出てくるし……。
校門までは三人で移動のはずだったが……廊下に様々な大人の列?
記者会見があるという事自体は知っていたが、それ関連なのだろうか?
「あれって……?」
「気にしなくてもいいんじゃない?」
そこに一度視線を向けてみたが、玉野さんの言葉を受けて、すぐに元に戻した。
大人たちから振り向かれた気もしたが、気のせいだと信じたい。
それから、雑談をしながら校門前まで歩いたところで、笠岡くんと二人きりになった。
結局どこかに立ち寄ったりはしなかったが、その分長く彼と会話をすることができた。
――――――――――
その中で語ってくれた「他の女子との思い出」は、彼と福山さんの出会いについてのものだった。
学園に入学してから、あまり日の経っていなかった頃、彼女についての噂が出回っていた。
それを聴いた彼はある日の昼休み、数人ほどの中に混じるようにして、わざわざ別のクラスの教室の横の廊下の方に出向いていた。
しかし、そこで見たのは、そんな彼女を挑発するあまり、過激な行動に出ていた当時の三年生たち。
後で訊いたところだと、「描きたい体を見せてあげる」などと、制服を脱いだ姿を見せつけられていたらしい。
そんな様子を見かねた彼が、わざわざそこに押しかけて注意した。
三年生たちが嫌そうに制服を直しながら教室を出ていき、壁越しに見ていた人たちが呆れや戸惑いを見せていた。
その中で自身を見つめる福山さんに対して、彼は一度絵を褒めた上で、対策を提案した。
彼女が勝田くんたちを囲ませるようになったのも、元々はこれがきっかけだったとか。
しばらくの間二人で一緒になって、「サブカル仲間」としてアニメや漫画の好きな同学年の人を探し回っていた事もあったという。
ちなみに、そうして見つけた人の中には、以前から福山さんとの面識自体はあったという人もいたそうだ。
――――――――――
あとは、会長選挙だったり、迫っていたホワイトデーだったり、土日に何をしていたのかだったりと、最近についての情報交換が中心だった。
「日曜に知り合いと出かけていた事」について、相手の情報以外はおおむね言える限り話したつもりだったが、それを聴いていた彼の表情はいつもと変わっていなかった。
家に帰ってからも、ほぼいつも通り。
端末を使って検索していたのが、髪型にまつわる事だった事くらいだ。
翌日―――――。
普段のように朝のバスに乗り込み、車内で通りすがる人たちに挨拶をしていた私。
最近は美佐さんたちと合流すれば、学園前で降りるまで一緒なのが普通になっていた。
昨日に話を聴いていた通り、今日の二人には他に二人の姿があった。
左手に黒いビデオカメラを持っていた素朴な服装の女性と、その人とほぼ同じような雰囲気の服装の、右手に光沢のある白と青の紙袋を持った男性だった。
二人に私が近寄ると、合わせるようにこちらへと振り向いた。
カメラを向けられるとこちらも反応に迷い、普段通りに挨拶をする事しかできなかったが、それでも微笑んでいた。
男性からはまず、撮影についての説明を受けた。
私の場合は「普段通りでいい」との事だった。
その後、書類も差し出された。
紙袋の中から出した、同じようなカラーリングで局のロゴなどがデザインされたクリアファイルから取り出されていたそれは出演許可についての書類で、その中には放送予定なども書かれていた。
しかし、保護者がその場にいなかったため、署名については先送りに。
話し合って、後日私の家宛てに郵送してもらい、また別の日の取材中に署名したものを渡す形にしてもらった。
このような対応をするのは、異例の事らしい。
そこからその人たちに二人の瀬戸さんも交えて、いくつかの質問について話し合っていた。
四つ子との関係とか、彼女たちについての印象とか。
姉妹の方からは出来事について補足してもらったりもしたが、若干の楽しさも感じていた。
相手の方も、どこか満足そうだった。
今日もバスを降りてからは、通りすがる人たちに挨拶をしながら教室へと向かった。
途中、カメラの方に不安そうな顔を向けてしまったが、少なくとも数百時間の中の十数分にも満たないと考えれば、またいつものように気にしすぎという事で終わりだろう。
校舎内でも、二人に付いてきていたスタッフさんと、私が定期的にその人たちの方を意識していた事以外に、あまり変わった様子はなかった。
一組教室には……今日は井原さんの姿があった。
しかし、一人で席に座っていた。
よく見ると、両肘が机に置かれていて、頭も両手で抱えるようにしていた。
思い残した事があったのか……はたまた、生徒指導を受けるためだけに登校させられたのか?
いや、流石に後者はない、それはそれで問題になる可能性もある。
「どうしたんですか?」
結局気になって、直接彼女に話しかけてしまった。
それが気持ち悪いから嫌われていたはずなのに。
ただ、和解の事もあったのか、今日の彼女は今までよりかはずっと大人しかった。
「棚橋……さん?」
……とは言っても、一度こちらの顔を見て、こちらの名前をつぶやいただけだった。
こうした反応になるのも、あまり不思議な事ではなかったかもしれない。
不安そうなままでかける言葉にも迷っていると、離れるように言われたので、素直に従って自分の席へと戻った。
それからクラスメイトたちも集まり、午前の授業を終えて、昼休み。
弁当を食べ終えて、食器や箱を片付けてから向かったのは、今日も笠岡くんの席周辺だった。
他には倉敷さんと辻さん、それに井原さんの姿まであった。
四人で一緒に昼食を食べながら話し合っていた所だったようで、反応は様々だったが、どちらかというと「私の意見も聴きたい」という感じの方が強かった。
「それでさ、はっしーとしては、さのりの事はどうしたいの?」
「見捨てないようにはしたいかな、って」
そういった中で、まず倉敷さんからの質問に答えると、また周りの表情が複雑になっていた。
強く反論したりできない井原さんを気にしないまま、対応についての考えを話した。
「復讐のような事はしない」とか、「なるべく取り繕うようにしていきたい」とか。
話している途中に彼女の様子を見てみると、また顔を両手で覆うようにしていた。
何か言ってしまえば、反発されかねないのが分かっていたのだろうか。
それから、昼休みも午後の授業も終わった。
教室を出てからは、取材中の四つ子たちと合流。
そこから校門の前まで、話をしながら一緒になって歩いていた。
この瞬間も、スタッフさんとカメラ周り以外はほぼ普段通りだった。
帰宅後も、特に大した変化は無かった。
ただ、勉強中にも悩んでいた事はあった。
「作戦」についてだ。
より効率的で、かつ周りにも迷惑のかからない方法を思いついた。
私が先に笠岡くんからの好感度を上げておいて、告白の際に六島さんと付き合うように指示して振るというものだ。
今からだと彼だけでなく六島さんにも迷惑がかかってしまうし、二人はもちろん、私への心理的な負担や負荷だって、今進めているものよりもずっと大きくなってしまうかもしれない。
……でも、『今のうちにやっておかないと』、とも考えていた。
先に伝えておけば、普通ならそれを踏まえた上で考えてくれるだろうし。
結局、その日が終わるまで、ずっと迷い続けた。
こうした時に周りの誰かに言えないのも、どうかとは思った。
翌日―――――。
今日も登校して教室に入るまで、普段通りに過ごしていた。
その中で一人になっていた笠岡くんに近寄った。
これ自体はよくある事の範疇だ。
挨拶をして、軽い話をして、授業前には席に戻って。
でも、今日の違いは……私自身が緊張していた事だ。
告白のための予定を取り付けたいが、今から言ってしまえば予定調和のようになってしまう。
「どうしたの?」
「なんでもない……です」
緊張を気にして声をかけた彼にも、ちゃんと返事ができなかった。
席に戻っても、彼がこちらに振り向くと、目を合わせまいと視線を逸らしてしまっていた。
もし、これであちらから『恋』などと解釈されていたら……一体どうすればいいのだろうか?
それから午前の授業が終わって、昼休みに弁当を食べ終わり、片付けてからの事。
「棚橋だ! どこ向かってるの?」
福山さんの所に向かうつもりで廊下に出ていたが、四組の手前まで来た所で、後ろから女子二人に呼び止められた。
登下校時に挨拶を徹底するようになった事もあってか、最近はクラス間の移動中に声をかけられたりする機会も多くなってきていたが、大体その声のした方に片手を軽く振る程度で対応していた。
実際、大体は知っているから声をかけたというだけだったし、近寄ったら近寄ったで怖がらせてしまうとすら思っていた。
「五組にいる友達の所で話でも……」
「そうなの? 一緒に三組行ってみる?」
彼女たちが歩み寄ってきたところで片方に返事をすると、もう片方から提案を受けた。
三組の人たちとは、面識があるとは思っていなかった。
前に行った時は、服部さんと少し話をしたくらいだったか。
ただ、決めた事を簡単に変えるわけにもいかなかった。
「ああ……はい」
軽く悩んだ後、彼女たちについていくと決めた。
その彼女たちとも軽く雑談をしながら移動した。
場所は分かっていたので、案内をしてもらうまでもなかった。
黒板の見えていた方の戸から入っていったのだが、存在に気付いた人たちの中には、何人か驚いたり笑ったりしていた人もいた。
これもまた、登校時に挨拶する事を徹底するようになったおかげ……とするのは、都合の良すぎる解釈になるのだろうか?
二人からは、クラス内での関係性について教えられた。
本間さんに仲田さんなど、知らなかった人の名前がいくつも出てきたのが気になって、その人の事も教えてもらっていた。
その間にも、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴っていた。
クラスの中の何人かは、過去に気になるあまり声をかけた事のあった人もいたか。
服部さんについても触れられていたが、二人とも辻さんと仲が良い事以外はよく分からないらしい。
教えられなかった分は明日以降、昼休みの三組に来たら教えてくれるという。
もうすぐ進級するし、一組の人たちについても笠岡くん関連以外はあまり分かっていないというのに―――――。
三分遅れで始まった午後の授業も、それ以外の混乱はないままで進み、放課後。
いつものように家に帰っては、すぐに私服に着替えて、最寄りの百円均一に出かけてレターセットを買ってきた。
抵抗もあった、笠岡くんへの『告白』のための準備の一環だ。
宿題のプリントではなく封筒に入れる紙に、鉛筆ではなくボールペンで書いたのは、回答ではなく「放課後に校舎四階の階段辺りに来てほしい」という旨の文章と、自分の署名だけだった。
場所は何も考えないで書いたわけではなく、端末で近所の地図を調べて、迷いに迷って最適と判断した。
こうしている間でさえも、『本当にこれでいいのか?』と迷ったのだが……これも、これさえも、『他人の夢のため』と割り切った。




